総力戦
ズゴンッ、ズゴォンッと足音を立て、巨人が歩く。
ボミラスは、動く魔王城に魔眼を向け、その深淵を覗いた。
「……即席の城ではないのう。これだけの<創造建築>を使う魔力を積みながら、どうやって隠れておった?」
瓦礫に埋もれていたとはいえ、それだけでボミラスの魔眼を欺けるものでもない。
エミリアや生徒たちは、魔力をその魔王城に注ぎながらも、奴に悟られぬようにずっとその場所に潜んでいたのだ。
「どうやってだぁ? くだらねえこと訊くんじゃねえよ。こちとら、端から化け物と戦うことになるってわかってんだから、逃げるための魔法を重点的に鍛えるに決まってんだろうがっ」
堂々と生徒の一人が言った。
「アノス様の<理創像>に教えてもらった俺の得意魔法<幻影擬態>。放課後、八時間みっちり特訓したからよ」
「俺は<秘匿魔力>を八時間だ。地底から帰って以来、俺のカリキュラムは、朝<秘匿魔力>、昼<秘匿魔力>、夜<秘匿魔力>よ」
「アノシュみたいに透明にゃなれねえし、魔力も完全に消せねえけど、魔石の瓦礫ん中に隠れてりゃ、なんとかやりすごすぐらいはできるってことよ」
「なんたって俺たちは、元の魔力が少ないからよっ! 魔石の魔力と混ざってよくわかんねえってことだ」
「「はっはっはーっ!」」
やけくそに近い笑い声だった。
<秘匿魔力>は魔力が乏しい者にほど、より効果を発揮する。
彼らは魔力の少なさを逆手に取り、魔導王にバレないように少しずつ魔王城を建築していたのだ。
おまけに魔石の瓦礫に埋もれていたため、ますます彼らの存在は希薄となった。
まだまだ未熟とはいえ、<秘匿魔力>が使えると思わなかった奴は、自分の魔眼を過信し、それを見過ごしたというわけだ。
「その木偶の坊でなにができる? 忘れてくれるな? 余は魔導王ボミラス、二千年前、ミッドヘイズを支配した男ぞ」
魔法陣を一門描き、ボミラスは<獄炎殲滅砲>を射出した。
紅い太陽が彗星の如く、炎の尾を引き、巨人兵へと押し迫る。
「魔法障壁を展開をしてくださいっ!」
エミリアの指示が飛ぶと、すぐさま生徒たちは魔法を行使する。
「了解、第一層展開します」
「展開完了」
巨人兵の目の前に、巨大な黒鉛の板が現れる。
「第二層展開します」
その後ろ側に、黒鉛の正六角柱が無数に現れ、それが隙間なく敷きつめられる。
まるで、ハチの巣のような構造だった。
「第三層展開」
「展開完了」
最後に後ろ側にも巨大な一枚の黒鉛板を当て、蓋をする。
「真空層展開」
「展開完了」
構築された黒鉛の板の中身、ハチの巣構造の空洞に、真空の反魔法を展開する。
「「「<黒鉛蜂巣魔壁>ッ!!」」」
それぞれが各術式の部分部分を担当し、結果、一連の魔法行使が瞬時に行われる。
二千年前の魔族並の術式形成速度であった。
魔王城の前に構築されたのは多重構造の魔法障壁、<黒鉛蜂巣魔壁>だ。
ゴオオオォォォと勢いよく迫る紅い太陽が、その黒鉛の魔壁に衝突する。
魔導王が至高と自負する<獄炎殲滅砲>は、しかし<黒鉛蜂巣魔壁>を燃やすことも、破壊することもできず、阻まれた。
多重構造のその魔法障壁は、耐火、耐衝撃に優れている。
すなわち、魔導王の攻撃手段に特化させた盾だ。
しかし、防いだだけでは<獄炎殲滅砲>の勢いは収まらない。
じりじりと<黒鉛蜂巣魔壁>は押し込まれていく。
「ずらしてくださいっ!」
エミリアの指示で、<黒鉛蜂巣魔壁>が斜めにずれる。その障壁面に沿い、紅い太陽は進路を逸らされ、巨人兵の後ろの壁に着弾した。
「……小賢しい真似を……」
宙に浮かぶ魔導王が、眼下のファンユニオンの少女たちに視線をやった。
そこには、魔王学院の生徒たちが三人ほどおり、彼女たちに回復魔法をかけている。
「おい、気がつかれたぞ」
「行け、ラモン」
二人に肩を叩かれ、やけくそとばかりにラモンは猛ダッシュした。
「はっーはーっ、魔導王ボミラス様も情けねえもんだぜぇっ! 魔王城の大きさにびびっちまって、中にいない俺たちを見過ごすんだからよぉぉっ!」
「ヒヒヒ、愚かなものよのう。そのような挑発に乗る余と思うてか」
戦力的にはファンユニオンの少女たちを片付けるのが先決だろう。
軍勢魔法<魔王軍>は、集団での魔法効果を底上げする。彼女たちがあの魔王城の中に入れば、ボミラスにとってまた一段と手強い敵と化すであろう。
ラモンには取り合わず、ボミラスは少女たちめがけ、魔法陣を描く。
「見ろよ、この首輪? 俺は魔王の犬、駄犬だぜぇぇっ! 犬畜生に出し抜かれた気分はどうよ? ほーら、魔導王、お尻ぺんぺん!」
ラモンは走りながらも器用に尻を出し、手で叩く。
ボミラスの顔色が変わった。
その形相は、まるで逆鱗に触れたと言わんばかりだ。
「滅びよ、ゴミが」
標的を変え、<獄炎殲滅砲>がラモンへ向かって撃ち出された。
「……頼むぞぉぉ、ネドネリィィィッ……!!」
ラモンは<契約>の魔法を使った。
内容は、この攻撃を避けられなければ、再びレジスタンスとして皇族派の復活に取り組むというものだ。
ラモンの首についた<羈束首輪夢現>から魔力が溢れ、奴は一瞬、夢の世界へ誘われる。
あの<羈束首輪夢現>は、レジスタンスだったラモンにつけたもの。
皇族派を改心させるにあたって、誤った道を歩もうとしたときに、その効力を発動し、夢を見せる。正しき道を選ばぬ限り、目覚めることはない。
ラモンが<契約>を使った今、<羈束首輪夢現>が見せるのは、この状況とまったく同じ、ボミラスが<獄炎殲滅砲>を放つ夢だ。
現実を完全に再現した夢の中で、<獄炎殲滅砲>を避けるという正しき道を選ばぬ限り、ラモンは何度でも夢を見る。
一瞬の間に、無数の死を繰り返し、ラモンは目を覚ました。
「うっぎゃああぁぁぁぁぁっ!!」
<獄炎殲滅砲>をラモンはかろうじて回避した。
それは数百回に一回の出来事だっただろう。
しかし、夢の中で完璧に予習を済ませたラモンは、その数百回に一回を見事につかんだ。
「……なんだと……? ゴミ屑の分際で……!」
ボミラスは続いて<獄炎殲滅砲>を撃ち放つも、ラモンは悲鳴を上げながらも、それを回避し続ける。
「おのれ……なぜ、当たらぬ……!!」
「へっへー、お尻ぺんぺんっ!」
ボミラスが怒り狂ったように、体中に大小無数の魔法陣を描き、<獄炎殲滅砲>を乱射した。
さすがに、逃げ場はない。
「「「<黒鉛蜂巣魔壁>ッッッ!!!」」」
魔法障壁が張り巡らされ、ラモンを狙った<獄炎殲滅砲>を阻む。
彼はやられる寸前のところで、かろうじて魔王城の中へ入っていった。
「そんなんじゃ、だめだめっ」
エレンの声が響く。
ラモンが囮になった隙に回復したファンユニオンの少女たちが、巨人兵の肩の辺りに乗っていた。
「この魔王巨兵アノゲードは、そんなんじゃ倒せないよっ!」
「あたしたち魔王学院の力を結集した、軍勢魔法だからねっ」
「受けだけじゃなくて、攻めも得意なところを見せてあげるよっ!」
少女たちは近くにあった扉を開け、魔王巨兵アノゲードの中に入っていく。
「「「<狂愛域>」」」
粘つく黒い光が、魔王巨兵の前に現れ、それは一本の槍と化した。
「いきますよっ!」
エミリアが声を発すると、魔王巨兵が<狂愛域>の槍をつかむ。
その巨人の足が地響きを立てながら、ボミラスへ向かっていった。
「エミリア先生っ、かけ声は、『なんちゃってベブズド』ですよっ」
エレンが言う。
「……わたしは、<狂愛域>に関係ないはずですけどっ……」
「そうだけど、一応想いを一つにしないとっ」
「<狂愛域>は思い込みが大事だから」
「……わかりませんけど、わかりましたっ。言えばいいんですよね、言えばっ!」
<狂愛域>の槍が思いきり突き出された。
「な……なんちゃって――」
「「「――ベブズドォォォォッッ!!!」」」
ズゴオォォォォッと黒き巨大な槍が、空を裂く。
寸前のところでそれを躱したボミラスは、再び炎体に大小様々な魔法陣を浮かべた。
「暴虐の魔王が開発した小癪な軍勢魔法めが。弱者は力を合わせるなどとほざくが、矮小な者どもが束になってかかろうと、この魔導王の足元にも及びはせん」
無数の<獄炎殲滅砲>が炎体から四方八方に撃ち出される。
第一層展開、第二層展開、第三層展開……と魔王巨兵の中で声が飛び交った。
「「「<黒鉛蜂巣魔壁>ッ!!」」」
アノゲードの前に現れた魔法障壁がやはり、その<獄炎殲滅砲>を悉く受け流した。
「無駄無駄っ」
「馬鹿の一つ覚えよのう。余が何度も同じ手を使うと思うたか?」
四方八方に撃ち出された<獄炎殲滅砲>が弧を描き、ボミラスの元へ戻ってくる。
その紅い太陽は次々と奴に着弾していく。
「<火加延焼獄炎体>」
紅い太陽が着弾する毎に、魔導王の体がそれを飲み込み、膨張する。
それはさながら、炎が燃え広がるが如く、いくつもの<獄炎殲滅砲>を浴びたボミラスはみるみる巨大に膨張し、魔王巨兵より一回り大きくなった。
「ヒヒヒヒ、図体がでかいのが取り柄のようだがのう。それぐらいで粋がっているとは、所詮は脆弱な現代の魔族よ」
「このっ……!!」
エミリアが叫ぶ。
槍を振るおうとする魔王巨兵アノゲードの腕を、巨大化したボミラスの手が押さえつける。
ボミラスは反対の手を伸ばし、アノゲードを襲った。
それを防ぐため、魔王学院は<黒鉛蜂巣魔壁>を展開する。
「<焦死焼滅燦火焚炎>」
頭上から熱線が降り注ぎ、ボミラスの巨体が輝く紅い炎と化す。
その右腕が容易く<黒鉛蜂巣魔壁>を燃やしては貫き、魔王巨兵の肩口をつかんだ。
ゴオオオオオオオォォォォッと真紅の炎がアノゲードを焼く。
中にいる築城主の生徒たちが必死で焼けた部分を再構築し、魔導士が反魔法にて消火を試みるも、その炎は広がる一方だ。
ボロボロと、魔王巨兵の外壁が焼け落ちていく。
「ヒヒヒヒ、これで終わりよのう」
「先生、今っ!」
「わかってます」
エミリアの声とともに、魔王巨兵アノゲードはそのままボミラスに突っ込んだ。
その巨体に纏っているのは、粘つく黒い光、<狂愛域>であった。
「このおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
アノゲードの両腕が焼けて、ドゴォォンと音を立てて崩れ落ちた。
構わず、エミリアは魔王巨兵を体ごと突進させた。
<狂愛域>の粘光が、<焦死焼滅燦火焚炎>と化したボミラスと衝突し、ザアアアアアアアアアァァァァッと魔力の火花を散らした。
「みんな、全力でぇぇっ!!」
「「「うあああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!」
最後の力を振り絞るかのように、アノゲードはボミラスをそのまま押しやり、ドゴォォォンと壁にめり込ませた。
瞬く間にその壁は、ボミラスの炎体によって溶かされていく。
「それが全力か。決死の特攻も空しく、余には毛ほどの傷もつけることはできんようだ。その<狂愛域>も長くは続くまい。魔法が途切れたときが、うぬらの最後よ」
ボミラスの言う通りだった。
<狂愛域>が、僅かに弱まり、紅く輝く炎に飲み込まれ始める。
「ナーヤちゃんっ、お願いっ!」
ボミラスが訝しげに炎の顔を歪ませる。
魔王巨兵の頭に、生身の魔王学院の生徒、ナーヤが姿を現した。
『のるか、そるか、そるか、そるかだ。どうする、居残り?』
ドクロがカタカタと顎を鳴らし、<知識の杖>がそんなことを口にした。
「私は、トモを助けたい」
彼女は盟珠の指輪を掲げ、言った。
「<使役召喚>」
パッと神々しい光が辺りを照らし、そこに現れたのは四体の番神。
二本の杖を手にした異様に長い髪の幼女。
再生の番神ヌテラ・ド・ヒアナ。
翼を持つ人馬の淑女。
空の番神レーズ・ナ・イール。
巨大な盾を背中に背負う屈強な大男。
守護の番神ゼオ・ラ・オプト
槍、斧、剣、矢、鎌など十数種類の刃を持った黒い影。
死の番神アトロ・ゼ・シスターヴァ。
「なにかと思えば、地底の竜人たちが使う<使役召喚>か」
魔導王がヒヒヒ、と火の粉を撒き散らして笑った。
「しかし、うぬは制御できておらぬようだ。その番神たちを見れば、うぬに従う気がないのはよくわかる。よしんば従ったところで、四体の番神程度ならば、造作もない。そんなものが切り札とは、この魔導王も甘く見られたものだ」
先に魔王巨兵を片付けようと、ボミラスは<焦死焼滅燦火焚炎>の手を伸ばす。
<狂愛域>が一瞬それを食いとめるも、しかし、黒き光は炎に焼かれていき、アノゲードの土手っ腹に火がついた。
「うぬらの負けだ。一人ずつあの世へ送ってやろう。魔王が交渉に応じるまでのう」
ガグンッと魔王巨兵が足をつき、外壁がバラバラと崩れ落ちる。
魔導王が生徒たちを交渉に使う気がなければ、とうに、まとめて全員焼き滅ぼしている頃だろう。
「……助けるんだ……トモを……助ける……」
ナーヤが呟く
「みんなを、助けるっ……! 助けるんだっ!!」
『では、命をかけたまえ、居残り』
盟珠を左手で包み込み、ナーヤは祈るように言った。
「<憑依召喚>・<再生ノ番神>!」
再生の番神が光と化し、ナーヤに憑依する。
「ヒヒヒ、<憑依召喚>はできるようだが、それでどうする? 再生する間もなく滅ぼしてくれるぞ」
「<憑依召喚>・<守護ノ番神>!」
一瞬、魔導王が絶句する。
「……な………………?」
その炎の顔が、唖然とする。
理解を超えたといった表情だった。
「……なん……だ、と……? 神を二つ同時に降ろすなど、できるわけが……」
「<憑依召喚>・<空ノ番神>!」
ボミラスの炎の顔が驚愕に染まる。
「……三体……同時憑依……? 馬鹿な……なにをしているのだ……? 神を憑依させるというのは、自らの根源を器として水を注ぎ込むようなもの……いかに番神とはいえ、この世の秩序と呼ばれるほどの力が、三つも入るわけが……」
「<憑依召喚>・<死ノ番神>!!」
「……ぬあああぁぁぁぁっ………!?!? な、な…………な……四体、同時……だと………!?」
ボミラスの驚きとともに、<知識の杖>がカタカタと笑う。
『カッカッカ! そうそう、その通りっ! 普通の者ならば神を憑依させるのは一体が限度だ。それだけの器があるだけでも、驚嘆に値する才能ではないか。しかしだ! 居残りのナーヤは、そんなちっぽけな器など比べものにならないっ! 彼女の根源は、カカカカーッ!!』
愉快そうにドクロはカタカタと笑う。
『空っぽだ、空っぽ、空っぽだーーっ!!!』
ナーヤが足場を蹴り、宙を飛んだ。
「得体の知れぬ奴め。うぬも二千年前の魔族だったかっ!?」
「……私は、この時代の、ちっぽけで、弱くて、なんの役にも立たない落ちこぼれ……」
<焦死焼滅燦火焚炎>の手を、ナーヤは宙を歩くようにしながら、容易くかいくぐる。
「だけど、友達ぐらいは助けたいからっ!」
まっすぐナーヤはボミラスの体に突撃していく。
「馬鹿めっ!」
その炎体の胸から炎の手が生えて、飛び込んできたナーヤをわしづかみにした。
「神を四体憑依させようと、戦い方も知れぬようで、は――?」
ボミラスの体がなにかに押しつけられるように、頭が下がった。
「……な、なんだ……? 体――ごおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
途方もなく強い力にぺしゃんと潰され、ボミラスは膝を折り、その炎の頭を地面に擦りつける。
「……なんだ……この魔法は……この秩序は……?」
混乱するようにボミラスが言う。
「……憑依させた、どの番神も、こんな権能を持ってはいないはず、それも余を力尽くで押し潰すほどのぉぉぉぉっ……ごほぉっ……こ、こ、ん、な力がぁぁ……」
『カッカッカ、魔導王。オマエが自分で言ったのではないか。神を憑依させるというのは、根源を器として水を注ぎ込むようなもの。同じ器に違う色の水をそれぞれ入れたとしよう。答えは』
更にぐしゃり、とボミラスが小さくなり、その体が見えない力に折り畳まれるように小さくなっていく。
『コ・レ・だぁ!』
カタカタカタ、とドクロは上機嫌に笑う。
「馬鹿、な……馬鹿なぁぁぁっ!! 余は魔導王ボミラス……二千年前ミッドヘイズを支配した、魔族の王ぞ……!」
最早、石ころ程度の大きさに潰されたボミラスの上に、ナーヤが立っていた。
奴は、屈辱と絶望に染まった表情を浮かべた。
「この時代の、それも戦い方もろくに知らぬ、落ちこぼれなんぞにぃ……」
「……みんなを……助ける……」
虚ろな瞳で、ナーヤはボミラスを見た。
しかし、それが限界だった。
さすがに力を使い果たしたか、彼女の体がふらりと揺れる。
そうして、音を立てて、前のめりに倒れた。
地面にひれ伏し、動く気配のないナーヤを見て、魔導王は恐怖の表情を緩ませた。
「……ヒ、ヒヒヒ……そうだ、余は魔導王。どれ、今とどめ……を……?」
ある影が魔導王を覆った。
錆びついた魔法人形のように、ぎこちなく、ボミラスは後ろを振り向く。
そこに、火傷を負い、ボロボロになったトモグイがいた。
小さな竜だが、しかし、今のボミラスにとっては十分に大きい。
その竜が、あんぐりと口を開ける。
「まっ……待――ぐじゅ……っ!!」
パクッ、パクンッとトモグイは魔導王を飲み込む。
すると、火傷を負った傷が癒えていき、口から紅い炎を、息のように吐き出した。
トモグイがクゥルルー、と声を上げ、ナーヤの頬を舐める。
うっすらと彼女は目を開いている。
「………………トモ……よかった……やっぱり……無事だったんだ……」
よろよろとその手を伸ばし、ナーヤはトモグイに触れる。
「……竜以外は……食わず嫌いだったの…………?」
クゥルルー、とトモグイは鳴いた。
魔導王、撃破――
皆様のおかげで、『魔王学院の不適合者』重版が決定いたしました。
本当にありがとうございます。