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過去の門番


 創星に魔眼を向けながらも、俺はジステとともに歩いていく。

 エティルトヘーヴェの細い道を抜ければ、人通りが少なくなった辺りで、遺跡神殿が見えた。


 円形に組まれた石は、太古の魔力を宿しており、厳かな柱が並んでいる。

 そのいくつかは崩れ、あるいは折れて横たわっていた。


 屋根はない。元々なかったのか、それとも長い年月で風化してしまったのかはわからぬ。


 遺跡神殿の中央に足を向ければ、そこに縦穴が空いていた。

 螺旋を描く石の階段が、延々と下層に続いている。


 イージェスが待ち受ける遺跡都市三〇番目の縦穴だ。

 俺とジステはその石段をゆるりと下りていく。


 <思念通信リークス>が頭に響く。


『んー、創星の記憶は今ので終わりなのかな?』


『まだわからない。調べてみる』


 エレオノールとアルカナが話している。


『アノシュが……いました……!』


 ゼシアが言うと、『うんうん』とエレオノールが同意する。


『セリスも出てきたけど、やっぱり言葉遣いと性格が、この間と全然違うみたいだぞ』


『……改竄……されてますか……?』


『んー、どうなのかな? なんか口は悪いけど、一応アノス君に魔法を教えてくれてたみたいだよね?』


 すると、アルカナが言った。


『創星が記憶を映し出すとき、創造神以外の秩序が見えた。痕跡の書のときと同じ。狂乱神のものかもしれない』


『じゃ、やっぱり改竄されちゃったんだ』


「そう容易くできるとは思えぬがな。ミリティアの結界はまだ生きていた。改竄できるようなら、とっとと創星を奪い去っていればよかったはずだ」


 俺が言うと、エレオノールは「んー」と考えているようで考えていないような声を発する。


『改竄したように見せかけたのだろうか?』


 アルカナが言う。


「そう考えるのが妥当か。創星エリアルの中身には手を出せずとも、その記憶が映し出されたとき、別の秩序が同時に働いたように見せかけることぐらいはできたのかもしれぬ」


 改竄したように見せかけた苦肉の策というわけだ。


『改竄……されてませんっ……!』


 ゼシアが意気揚々と声を上げた。


「しかし、セリスが関わっていることだ。断言はできぬ。過去は改竄された。そして、それを本物の過去だと俺に信じさせるため、狂乱神はあえてそうしたといったことも考えられよう」


『難しいのは……嫌い……です……!』


 ゼシアは音を上げた。


 十中八九、改竄はされていまい。

 あくまで万が一の話だ。


 それが頭にちらつくのは、あの男の置き土産だからか。


「まあ、結論を急ぐことはない。残りの創星を確認してから、判断するとしよう」


『改竄の痕跡が残っていないか、探してみようと思う』


 アルカナがそう提案した。


「任せた」


「そういえば、魔王様。言ってなかったんだけど」


 後ろからついてくるジステが口を開く。


「冥王様は八神選定者の一人、求道者よ。水葬神すいそうしんアフラシアータに選ばれたの。選定の盟珠を持っているところも見たわ」


 選定者?


「それは妙なことだな」


 予想外の返事だったか、一拍遅れてジステが訊いた。


「どうして?」


「八神選定者は、名が表す通り八人。アヒデ、ガゼル、ゴルロアナ、ディードリッヒ、ヴィアフレア、セリス、俺を含めれば、これだけでもう七人」


 不思議そうにジステは言った。


「最後の一人が冥王様じゃないの?」


「つい先程、シンが地底でギリシリスを見つけた。奴も選定者だ。魔眼神ジャネルドフォックに選ばれた、な」


 これまでの選定者については、ほぼ疑いようがない。


 唯一セリスの神と選定の盟珠は確認できていないが、仮にセリスが口にしたことが嘘で、代わりに冥王が選定者だとすれば、狂乱神アガンゾンと盟約を交わしたのは誰だ?


 無論、選定神としてでなくとも、神が人に力を貸すことはある。

 二千年前、魔族と人間が争った大戦でもそうだった。


 あるいは、狂乱神が天父神のように自らの秩序に従い、行動を起こしているといったことも考えられよう。


 だが、どうも腑に落ちぬ。

 あのとき、セリスに自分が選定者だと嘘をつく意味が、さほどあったか?


 ゴルロアナも、はっきりとは覚えていなかったとはいえ、痕跡神の力でセリスを選定者だと確認したはずだ。


 最初に提示された事実が、後から塗り替えられているような、そんな居心地の悪さを覚える。


「……どういうことなのかしら?」


「わからぬ。が、一つずつ確かめていけば自ずと答えは出よう」


 しばらく下った後、螺旋階段の途中に、横へ入る通路を見つけた。

 ジステはそちらに視線をやり、こくりとうなずく。


 魔眼を凝らしてみれば、強い魔力がそこから溢れ出していた。

 まるでこちらを威嚇するかのように。


「ふむ。気がついているようだな」


 俺はゆるりと足を踏み出し、その通路を進んで行く。

 やがて、ぱっと視界が開けた場所に辿り着いた。


 周囲には様々な壁画があり、高い天井まで、びっしりと描き込まれている。

 中央には広い石の階段があり、その上には遺跡神殿があった。


 そして、階段の途中で、大きな眼帯をつけた魔族が槍を携え、立っていた。 

 冥王イージェスである。


「カイヒラムが寝ている隙に、魔王を呼んでくるとはな。呆れた女よ」


 その隻眼を、奴はジステへ向けた。


「お願い。話を聞いて、冥王様っ。どんな理由があるのか知らないけど、意地を張らなくてもいいでしょ。冥王様が滅ぼしたい亡霊だって、きっと魔王様がなんとかしてくれるわ」


 すると、イージェスは言った。


「亡霊を屠るのは亡霊の役目よ。生者の出る幕ではない」


 奴は俺に、鋭い視線を飛ばす。


「ここから先は、甘いそなたには立ち入りできぬ領域ぞ」


「イージェス」


 まっすぐ俺は奴のいる石段へ向かった。


「なぜヴィアフレアをさらった?」


「知れたこと。余の目的に必要だったまでよ」


「亡霊を滅ぼすためにか?」


「答える義務はなかろう」


 とりつく島もなく、奴は言った。


「亡霊とは、誰のことだ?」


「そなたには関係のないことよ。これは余の問題だ。帰って、ディルヘイドの平和でも心配しておればよい。ときが来れば、勇議会の者はガイラディーテへ帰そう」


「俺に関係ない?」


 足を止め、石段の一番下で俺はイージェスを見上げた。


「ならば、なぜお前は創星エリアルを守っている?」


「問えば答えが返ってくるとは思わぬことだ」


 イージェスの返答には構わず、俺は言葉を続ける。


「亡霊を倒すためか? お前は目的のためには、非情になれる。だが、俺が出会う前のお前は違った。痕跡の書で見たお前も、創星エリアルで見たお前も、情に厚く、ときに流される、あの過酷な時代において、それでもなお優しさを忘れぬ強き魔族だった」


 口を閉ざしたまま、イージェスはその隻眼で俺をじっと睨みつける。


「二千年前、お前を変えた出来事があった。そして、それは俺と関係している。つまり、創星エリアルが封じた過去に、お前と、俺と、その亡霊の関係が示されているのではないか?」


 俺の問いに、しかしイージェスは答えない。


「お前はそれを俺に知られないように、そこを守っている。目的のためでもあるのかもしれぬが、お前の信念と一致しているからこその行動だ」


 目的が一致すれば、立場が違う相手とも協力する。

 冥王イージェスは何者の敵でも、味方でもなく、ただ己の信念に従って行動している。


「想像するのは勝手なことよ。だが、忠告しようぞ、魔王アノス。余がそなたの味方だという甘い考えでこの槍を越えようとするならば、ただ滅ぶのみだ」


 紅血魔槍ディヒッドアテムを、イージェスは石段の上で構えた。

 問答は、無用というわけだ。


「お前の槍が、俺の歩みを止められると思うか?」


「できる、できぬは頭の外よ。そこにこだわるならば、魔王よ。余は生涯をかけて磨き上げたこの亡霊の槍を貫くだろう」


 刃のように研ぎ澄まされていく心が、こちらから見てもよくわかる。


 冥王の意識が、握った魔槍と、眼下の俺だけに集中していく。

 迷いも気負いもない。自らの命すら度外視し、奴はただ一本の槍と化す。


 さながら、それは役目を全うするだけの亡霊の如く。


 鍛錬を重ね、技を練り続けた、冥王イージェスが辿り着いた境地。

 そこに至った魔槍は、さぞ想像を絶する冴えを見せるだろう。


「俺を前にし、末路を想像せぬとは大したものだ。だが、忘れたならば何度でも思い出させてやるぞ」


 全身から魔力を放ち、俺はイージェスを視線で貫く。


「二千年前、お前が誰に負けたのかを」




両雄激突す――



【発売4日前カウントダウン寸劇】



サーシャ 「わたし一人じゃ、直談判しても絶対無理よね……。

      誰か協力者が――エミリア先生っ!!」


エミリア 「どうしたんですか、サーシャさん。そんなに慌てて」


サーシャ 「あのっ、知ってるかしら? <魔黒雷帝ジラスド>文庫の<魔王学院の不適合者アンヴィ・リ・ヴァーヴォ>のことっ?」


エミリア 「魔王が今度作る簡単な自伝でしたか?

      まずは遠い国で販売されると聞きましたが、それがなにか?」


サーシャ 「大変なのっ! 簡単な自伝どころか、わたしたちの言葉が、

      一言一句正確に載せられてるわっ!」


エミリア 「え……それは、わたしのも、ということですか……?」


サーシャ 「先生が意地も性格も悪いクズ教師だったことが、

      世界中に広まるわっ!」


エミリア 「……そう率直に言われると、

      穴に入って消えたい気分になりますが……」


サーシャ 「落ち込んでる場合じゃないわっ! 止めないとっ!

      エミリア先生も知られたら困る人の一人や二人いるでしょ?」


エミリア 「……別にそんな人は……わたしがだめな先生だってのはとっくに……。

      ……!? アノシュ君って、日本語読めるんでしたか?」


サーシャ 「え、アノシュ? 読めるに決まってるわ。

      だって、そもそも……あ」


エミリア 「……なんですか?」


サーシャ 「なんでもないわっ! とにかく読めるから、

      そうしたら、エミリア先生に幻滅だわっ!」


エミリア 「幻……滅……!?」


サーシャ 「え、ちょっと、エミリア先生?

      どうし――て、いきなり恐い顔して、ど、どうしたのよ……?」


エミリア 「いいえ、それはそれは……教育上よくありませんね……。

      どうやって止めればいいんですか?」


サーシャ 「エールドメード先生に言うしかないんだけど、

      もう一人ぐらい、同じ立場の協力者を捜さなきゃ……」


エミリア 「他に誰かいましたか……?」


サーシャ 「あっ、ちょうどいたわっ! レイッ、協力しなさいよっ!

      あなたが骨と融合して、結果的に大失敗した杜撰な計画の序章が

      世界中に広まるわよっ!!」





【店舗特典情報】


店舗特典が決まりました。

以下になります。


活動報告にサンプルやそれについてのお話も載せているので、

よかったらご覧になってくださいませ。


◆アニメイト様

アノスのキャラデザイン画&SS『戦火の記憶』

二千年前のアノスが戦場で思っていたことを書きました。


◆ゲーマーズ様

ミーシャのキャラデザイン画&SS『始祖が運んだ奇跡』

一章にてアノスと初めて出会う直前のミーシャの心境を書きました。


◆とらのあな様

サーシャのキャラデザイン画&SS『鏡の牢獄』

幼いサーシャが<破滅の魔眼>を制御できず、

閉じ込められていた頃のエピソードです。


◆メロンブックス様

SS『二千年前の岩盤浴 炎赤害殲効果えんせきがいせんこうかと漆黒の針治療』

一章にてダンジョン試験を終えたアノスたち、

しかしミーシャとサーシャが時酔いを発症してしまい……!?


◆WonderGOO様

カバーイラストの絵柄のポストカード。



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― 新着の感想 ―
[一言] ガゼルは石碑解読の片手間に屠ったジオルダルのおっさん 持ってた選定神たちはアヒデがアルカナに食わせた 内訳は覚えてないけどアルカナが光の速度で動けるようになったのはコイツのおかげだった
[一言] 登場人物が多いィ……! ガゼルって誰だ…?
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