根源に巣くう竜
ぱらぱらと覇竜の灰がそこに降り注ぐ。
分割できぬほど細切れにされたその根源は滅び、蘇ることはない。
「ああ……」
悲痛な声を上げながら、ヴィアフレアは両手を伸ばし、僅かなその灰を受けとめる。
「可哀相に」
ヴィアフレアは呟き、ぐっと灰を握り締める。
そうして、俺を睨んだ。
「アノス、あなたはなにをしたかわかっているの?」
「躾の悪い竜を撫でてやったことか?」
ゆっくりとヴィアフレアは首を左右に振った。
「あなたは自らの弟を滅ぼしたのよ」
また頭のおかしなことを言い出したな。
「話が見えぬな」
「覇竜はね、わたしの赤ちゃん。わたしの子供なの」
俺に言い聞かせるように、ヴィアフレアは説明を始めた。
「ボルディノスが教えてくれたのよ。暴食神ガルヴァドリオンを飲み込み、わたしのお腹の中で転生させる魔法をね。そうして、神を食らう竜、この国の子供たちが生まれた。わたしとボルディノスの、二人の子が」
ヴィアフレアを指先をそっと自らの腹に当てる。
そこにも、覇竜が潜んでいるのだろう。
「ねえ、アノス」
ねっとりとした口調で、ヴィアフレアは叱りつけてくる。
「あなたはお兄ちゃんなんだから、弟を虐めちゃだめでしょ」
「あいにく妹はいるが、弟を持った覚えはない。道理もわからぬ、化け物の弟はな」
「見た目で判断するのね。化け物なんかじゃないわ。あなただって、会ってきたでしょう。このガデイシオラの民たちと、一緒に歌っていたじゃない。あれはみんな、わたしの可愛い覇竜、わたしの子供たちよ」
イージェスが言っていたことだが、自ら口にするとは思わなかったな。
「ふむ。自らの民を覇竜に寄生させ、なにがしたい?」
「そうすれば、みんな、わたしの子供たちになるじゃない。わたしとボルディノスの子供にね。言ったでしょ。この国は自由の国、そして家族の国なの」
さも当たり前の理屈のように、ヴィアフレアは答えた。
「自由の国とはよく言ったものだ。いざとなれば、覇竜を寄生させたガデイシオラの民たちは操り人形と化すだろう。ゴルロアナのようにな」
「子供が親の言うことを聞くのは当たり前のことでしょう? それに、わたしに逆らわなければ、彼らは自由よ」
「百歩譲ってそれを自由としよう。ならばなぜ、<四界牆壁>の檻の中に民を閉じ込めている?」
「外の世界は危険なの。悪い神やそれを信じる悪い大人から、わたしは子供たちを守る義務があるのよ」
大真面目な顔で、ヴィアフレアは言った。
「外に出れば手に入る食料を制限し、民の記憶を改竄してまで、わざわざ配給制にしているのはなぜだ?」
「家族は食卓をともにするものでしょ。貧しくても食料を分け合って、お互いに支え合って生きていく。ガデイシオラは昔からそうなの。ボルディノスが父親で、民は家族のように、手を取り合い、生きていたわ」
嬉しそうにヴィアフレアは思い出を語る。
「この国はいつまでも変わらず、ボルディノスが作ったときのまま。わたしはそれを守り続けるためなら、なんでもするわ。記憶なんて些末なことよ。だって、みんな幸せそうだったでしょ?」
「呆れてものも言えぬ。神に反逆する者たちが国を作った。だが、心は常に変わるものだ。この国で生まれた、真っ新な心を持った者もいよう。すべての民が同じ想いでいられるわけもない」
俺の言葉が、まるで響かぬといった様子でヴィアフレアはただ漫然とこちらを眺めている。
「神を信じぬ子とて、成長すれば親の庇護などいらぬ。最早、この国を必要とはしなくなった民を、お前はどうした?」
「ここはボルディノスの作った理想郷。信念に殉じた彼の想いを否定する者がいれば、
なんであれ、ガデイシオラは許すことはないでしょう。この国を必要としない?」
あはっ、とヴィアフレアは嗜虐的に笑った。
「そんなの冗談じゃない」
「ふむ。これは予想だがな、ヴィアフレア。初代覇王が国を建てたとき、彼の理念は間違ってはいなかった。確かに神を信じられなくなった者が集ったのだからな。外に出られぬのは危険が大きかったゆえに、配給制だったのは単純に食料がなかったからだ。だが、国を取り巻く情勢は常に変わる。そこで生きる民の心もまた変わるだろう」
突きつけるように、ヴィアフレアへ言葉を飛ばす。
「いったいどれだけの時が経ったと思っている? 代行者と成り果てたボルディノスの心が変わらぬままでは、やがて民は離れていく」
「いいえ、誰も離れてはいないわ。この国は、ボルディノスが作ったときのまま、変わらず笑顔と幸せに溢れている。わたしはこれを、守らなければいけないの。彼の心が元に戻るまで。あの人の時間が動き出すまで。わたしたちは、変わらぬ姿であの人を待つわ。だって、ここは彼の国なのですから」
「ヴィアフレア」
声とともに、抑えきれぬ怒りがこぼれる。
「彼の国などない。あるのは彼らの国だけだ」
「同じことだわ。ここは彼の、そしてわたしたち家族の国。彼の心が戻ってくるまで、わたしたちは、いつまでも待ち続ける」
「愚かな」
ヴィアフレアの思想を、唾棄するよう俺は言う。
「入ることはできても出ることは適わぬ。ここで生まれた者は、生涯外の世界を知らずに暮らすことになるだろう。根源に竜を埋め込まれ、記憶を弄られ、逆らえば無理矢理に言うことを聞かされる。王は民を見ておらず、考えるのは男のことばかり。民を飢えさせ、外は危険と宣いながら、震雨の対策さえろくにしようとはしない」
今日来たばかりで、これだけの惨状がわかったのだ。
それさえ、氷山の一角にすぎぬだろう。
実態は、どれほどのものか。
想像するだけでも怒りが湧く。
「ここには自由もなければ、家族などありはしない。この国は檻だ。帰らぬ男を待ち続ける、哀れな女が作りあげた、お仕着せの牢獄にすぎぬ」
魔法陣を描き、そこから全能者の剣リヴァインギルマを引き抜く。
「ガデイシオラは今日で終わりだ。いや、とうの昔に終わっていたのだ」
鞘に納めたままの剣を構え、柄に手をやった。
「滅ぼしてやる」
はあ、と彼女は気怠げにため息をつく。
「あの人の子だというのに、アノス、あなたはあの人を悲しみを少しも理解しようとしないのね」
ヴィアフレアが床に魔法陣を描く。
そこに現れたのは、覇竜の翼を生やした教皇ゴルロアナだ。
寄生され、最早正気もないか。声も発さず、虚ろな目をしている。
「彼の中にいるのは、一番多く神を食らった覇竜よ。痕跡神と福音神の力を得て、その根源は神よりも強く、そして無限に近い量を持っているの」
「それがどうかしたか?」
「今から、あなたの根源に、この子を巣くわせるわ。そうすれば、わたしと本当の親子になれる。ボルディノスと、わたしと、本当の家族になれるわ。この国の素晴らしさも、きっと理解できることでしょう」
俺の記憶を改竄する、ということか。
「ふむ。何匹神を食らっていようと、俺に届くと思ったか?」
あはっ、とヴィアフレアは嗜虐的に笑う。
「あなたが強いのは知っているわ。ボルディノスの子だものね。だけど、わたしとボルディノスの子、覇竜には敵わない。あなたが滅ぼしたのは、ほんの一部だけ。この国中にどれだけの覇竜がいると思ってるの? いざとなれば、その子たちがみんな、あなたの敵になるのよ」
それに、とヴィアフレアは言った。
「アノスは教皇と、枢機卿を助けにきたのでしょ?」
「ついでだがな」
「だったら、わかるでしょ? 寄生した覇竜は、今、ゴルロアナの根源深くに食らいついているの。無理矢理引き剥がそうとすれば、彼の根源は滅ぼされるわ」
人質というわけか。
「覇竜がゴルロアナの根源を滅ぼすより早く、引き剥がせばよい」
「だから、アヒデはここにいないの。もしも、それができたとしても、彼の根源を滅ぼすわ」
「アヒデに用があってさらったのではないのか?」
「そうね。彼を連れ去れば、ディードリッヒと未来神ナフタを誘き寄せることができるわ。もう役目は済んだの」
いつ滅ぼしても構わぬ、か。
アヒデがいなくなれば、王竜の生贄はいなくなる。
リカルドが、自ら命を捧げる未来が訪れるだろう。
「ねえ、おわかり、アノス?」
勝ち誇ったように、ヴィアフレアは言う。
「自ら覇竜をその根源に受け入れなさい。そうすれば、ゴルロアナの根源に巣くう竜は、あなたのもとへ移る。彼を解放することができるわ」
そうして、彼女は俺を見下すように笑った。
「それとも、いくらあなたでも、根源に覇竜を受け入れて無事に済む自信はないかしら?」
「くはは。なかなかどうして、安い挑発だ。いいだろう」
全能者の剣リヴァインギルマを魔法陣に納め、俺は棒立ちになって身を曝した。
「乗ってやる。だが、後悔することになるぞ。この根源に寄生すれば、ただではすまぬ。お前は可愛い我が子を自らその手にかけることになるのだ」
「どうかしら?」
思惑通りというように、ヴィアフレアが微笑む。
「巣くいなさい、可愛い我が子。お兄ちゃんを、わたしの本当の子供にしてあげましょうね」
覇王が覇竜に命令を発する。
すると、寄生されたゴルロアナが足を踏み出し、俺に手を突き出す。
右腕が黒く染まったかと思うと、紫の竜に変わった。
腕から巨大な竜頭がにゅるにゅると出現し、俺の胸に容赦なく牙を突き立てる。
鮮血が噴きだし、空いた穴から、覇竜が俺の体に入っていく。
反対にゴルロアナの腕からは次々と覇竜が抜け出してきていた。
「あら? 辛抱強いのね。かなりの苦痛なはずなのだけれど?」
「なに、くすぐったいぐらいだ」
「あはっ。いつまで、その減らず口が叩けるかしらね」
覇竜の全身が俺の根源の中に収まった。
途端に、俺の中にいる竜が、苦しむように暴れ始めた。
ゴルロアナは、僅かに表情を険しくした。
「なにを焦っている? 警告したぞ。俺の体の中に、ましてや根源の中に入り込もうなど自殺行為だ。魔王の血にどっぷりと浸かり、のたうち回ってやがては滅びる」
「……ええ。わかっていたわ。あなたの根源は特別。覇竜でも寄生する前に滅びてしまう。だけど、その子は覇竜の中でも特別なの」
ゴルロアナは右手の甲を見せ、選定の盟珠を輝かせる。
「覇王ヴィアフレアが命ずる。寄生神エンネテロトン、秩序に従い、不適合者アノスに巣くえ」
命令とともに、俺の根源に神の秩序が溢れかえる。
それは魔王の血さえも退け、みるみる俺の深奥を目指し、浸食を始めた。
ゆっくりと、ゆっくりと、俺の中に覇竜が満ちる。
「ほうら、ご覧なさい。あなたの根源にわたしの子が巣くっていくわ」
「……ふむ。なるほど。俺に寄生させる覇竜に、更に寄生神とやらが寄生していたというわけだ」
「そうよ、アノス。ガデイシオラがまつろわぬ神を信仰する国だからって、神を使えないと勘違いしたのがあなたの間違い。わたしたちにとって、神は利用するもの。信じることはなくとも、命令することは容易いわ」
得意気にヴィアフレアは笑う。
体を支配したと言わんばかりに、俺の頭から、覇竜の角がぬっと生えてくる。
「あらあら、どうしたのかしら? さっきまであんなに大口を叩いていたのに、もう寄生されそうじゃない? 情けないのねっ」
魔王の血を根源に満たしてやるも、それに適応したかの如く、覇竜を腐食させることはできない。
「あはっ、そんなに抵抗しても無駄よ? 一度そこまで根源に入れたエンネトロトンは、秩序に従い必ず寄生するの。止めるには根源を滅ぼすしかないわ」
彼女はすっと盟珠の指輪を掲げる。
「あなたの根源をねっ。そんなこと、できるわけないわよねっ」
とどめとばかりにヴィアフレアは盟珠に魔力を送った。
寄生神エンネテロトン、そして覇竜に寄生された根源が、俺の体を造り替えていく。
竜の角と尻尾、それから翼が現れていた。
「あはっ! ふふふっ、あはははははっ! うまくいった。うまくいったわ。きっと、ボルディノスも褒めてくれるわね」
満足そうな表情で、ヴィアフレアは俺の姿を見つめる。
そうして、彼女は俺のそばまで歩み寄り、にっこりと微笑んだ。
「さあ、アノス。可愛い我が子。わたしの足を舐めなさい。わたしがあなたの母親だということを、その身に教えてあげるわ」
「ふむ。足を舐めるというのは――」
俺は手の平をヴィアフレアの足へ向ける。
彼女はご満悦といった風に笑った。
「――こういうことか?」
瞬間、俺の手の平は魔法陣を描く。
そこから飛び出した覇竜の頭が勢いよくヴィアフレアの足に食らいついた。
「ぎゃっ、ぎゃ、ああああああああああああああああああああぁぁぁっっ!!!」
俺の角も翼も尻尾もすべてが引っ込み、代わりに魔法陣から現れたのは一匹の巨大な覇竜である。
そいつはヴィアフレアの下半身を咥えたまま、首を大きく振り回している。
「……なっ、なにをしているのっ!? 放しなさいっ……!!」
ヴィアフレアは口を開くと、そこから紫のブレスを吐き出した。
超高熱の火炎が覇竜を焼き、彼女はその牙からかろうじて抜け出す。
背中から竜の翼を生やし、覇王は空を飛んだ。
「はぁ……はぁ…………どうして……? 確かに寄生したはずだわ……」
「ふむ。ボルディノスに聞いてなかったか、ヴィアフレア。地上に寄生虫の類は山ほどいるが、決して魔族には寄生せぬ」
彼女は初耳といった表情を浮かべている。
「なぜだか、わかるか?」
ヴィアフレアは答えず、回復魔法で傷を癒すのに集中している。
「魔族に寄生すれば最後、その寄生虫は免疫によって逆に支配されてしまうからだ。強い魔力と免疫力を有する魔族に寄生すれば、竜だろうと神だろうとそうなる」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!」
覇竜が唸り声を上げ、牙を剥いてヴィアフレアに襲いかかる。
彼女は宙を飛びながら、幾度となく振るわれた竜頭の突進を、かろうじて躱していた。
「……やめてっ……やめてちょうだいっ、可愛い我が子っ……なにをしているかわかっているのっ? わたしのあなたの母親っ! わたしがこのお腹を痛めて、生んだ子でしょうっ! わたしの子が、わたしに逆らおうというのっ!?」
「あまり魔族を舐めるな、ヴィアフレア。俺に寄生した以上は俺の一部だ」
キッとヴィアフレアが俺に視線を飛ばす。
「やめさせなさい、アノスッ! ゴルロアナがどうなってもいいの?」
「ほう。今のお前にそんな余裕があるとは思えぬが?」
「残念だったわね。うまく出し抜いたと思っているかもしれないけれど、あなたに寄生した覇竜は、半分だけっ。ゴルロアナの根源にはまだ半分の覇竜が残っているわっ!」
ヴィアフレアの言った言葉を裏づけるように、教皇ゴルロアナからずぷっと竜の角が生え、翼が現れた。
「ふむ。では、残り半分を引き剥がそう」
「あはっ! なにを馬鹿なことを言うのかしら? そんなことをすれば、ゴルロアナの根源が滅びると言った――」
ヴィアフレアが一瞬、絶句していた。
「――は、ず……どう……して……?」
彼女は驚愕の表情で、教皇を見据えていた。
なんの命も発していないにもかかわらず、その右腕から竜の頭がにゅるにゅると出てきているのだ。
その覇竜が牙を剥き出しにしたかと思うと、唸り声を上げ、翼をはためかせた。
風を切るように、そいつはヴィアフレアに突っ込んだ。
「……なっ……ぎゃっ、あっ、あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ……!!!」
覇竜に翼を食いちぎられ、ヴィアフレアが落下し、地面に叩きつけられた。
追撃するように二匹の覇竜が、彼女に襲いかかった。
魔法障壁を張り巡らせながら、ヴィアフレアは牙と爪をかろうじて防いだ。
「ど……どうして……!? そんなはずないわっ、そんなはずっ! だって、ゴルロアナに残った覇竜は、あなたに寄生すらしていないっ……!?」
「なにを言っている。覇竜の根源は群体だろう? 複数で一つの根源という竜だ。つまり、俺に寄生した覇竜と、他の覇竜は根源的なつながりを持っている。寄生という攻撃を受けた俺の免疫が、そのつながりを辿り、なにをするかは明白だろう」
気がついたように、彼女は顔を真っ青にした。
「魔王の免疫は凶暴だ。群体すべてを浸食し尽くすまで、決して止まらぬ」
「……嘘……そんな……ありえない……ありえないでしょっ! 近くにいたゴルロアナの覇竜にまで……体が分離していた覇竜の根源さえも、支配したというのっ!?」
「まずは、な」
回復魔法で翼を治し、再び彼女は二体の覇竜と距離を取る。
そうしながらも覇王は信じられないといった表情を浮かべた。
「……まず、は…………?」
「この国の民全員が覇竜に寄生されているのだったな。それは元々一つの群体が、分かれたものだろう」
肯定するように、彼女は言葉を失った。
「さっさと俺の免疫を滅ぼさなければ、この国の民すべてが俺の支配下に落ちるぞ」
ヴィアフレアの表情が絶望に染まる。
彼女はぐっと歯を食いしばり、目に涙を浮かべながら、向かってくる覇竜二匹に魔法を唱えた。
「<自食自殺>」
瞬間、その覇竜はぴたりと動きを止め、大きな音を立てて床に倒れた。
その根源が、自らの根源によって食いつぶされたのだ。
覇竜の制御が利かなくなった際の首輪――自爆魔法だろう。
ヴィアフレアは、その竜にそっと手を触れ、涙をこぼした。
「……可愛い我が子……」
「群体の一部を手にかけた程度で、そんなに胸が痛むか、ヴィアフレア」
「……当たり前でしょう……許さない、許さないわ……アノス……わたしに、こんなことを……わたしに、ボルディノスとの子供に手をかけさせたあなたを、わたしは絶対に許さないっ! 普通のお仕置きで、済むと思わないでちょうだいっ!!」
「最後の問いだ、ヴィアフレア。その慈悲を、僅かたりとも民へ向ける気はないのか?」
その問いには答えず、ただ憤怒の形相で睨みつけてくるヴィアフレアの視線に、俺はそれ以上の怒りでもって応じた。
「よくわかった。心して聞け、ヴィアフレア。寄生虫の如き愚かな女が巣くう、この病みきった国につける薬が一つある。それはな――」
俺の手に全能者の剣リヴァインギルマが現れる。
直後、<波身蓋然顕現>の切っ先で、奴の胸を突き刺した。
「きゃああああああああああああああああああああああぁぁぁっっっ!!!」
悲鳴を上げるヴィアフレアを冷めた魔眼で見つめ、そのまま可能性の刃で壁に磔にする。
「――覇王の死だ」
恐ろしき魔王の免疫――