竜騎士団推参
「ところで――」
心の声には触れず、俺はリカルドに訪ねた。
「ディードリッヒには会えるか?」
「ええ。もちろんです。しかし、今日は大事な客人を迎えるということで、外に出ております。日が暮れるまでにはお戻りになると思いますが、それまでお待ちいただけますでしょうか?」
リカルドが生贄になるのは一週間後、まだ猶予はある。
この国の文化も、よく知らぬことだしな。今はなにも言えぬ。
「では、また夜に来よう」
リカルドは丁重に頭を下げ、言った。
「承知いたしました」
「話は変わるが、先程お前が言っていた王竜というのは、アガハではどんな意味を持つのだ?」
尋ねると、リカルドは真剣な表情で答えた。
「王竜とは、アガハの預言にて伝わる教えの一つ。かの竜に、多くの竜人を生贄に捧げることで、その根源を一つとし、国を救う英雄、子竜を産み落とすのです」
「生贄とは、あまり穏やかではないな」
同意するように、リカルドはうなずく。
「おっしゃる通りかと。されど、王竜の生贄は、未来なき者への希望なのです。私のような短命の者、あるいは不治の病を患った病人、または償えぬ罪を犯した罪人が、王竜の生贄となる資格を得ます。王竜を優先し、いたずらに人々の命を奪うものではありませぬ」
「王竜から生まれる子竜が、国を救う英雄になると言ったが、それは竜騎士の称号を持つ者のことか?」
ベッドに眠るシルヴィアに視線をやった。
「ええ。アガハの竜騎士は、国を支える決して折れぬ剣。やがて訪れる災厄の日に、彼女たちはその不屈の力を持って、国を守護すると言われております」
「アガハの預言ということは、ディードリッヒがそう言ったのか?」
「いえ、ディードリッヒ王より以前、アガハを建国された最初の剣帝がその預言を口にし、代々受け継がれてきたものです。それはこの国の民、我ら騎士の規範となる教えなのです」
ゆっくりとリカルドがベッドへ歩いていき、そこで眠る娘に視線を落とす。
「英雄が国を守護するならば、騎士たる我らは、その英雄を守らなければなりませぬ。それをなすことができれば、アガハは安泰でしょう」
「災厄の日というのは?」
「それもアガハの預言にて、言い伝えられているものです。これといった日を指すのではなく、国家の危機すべてを指すとも言われています。あるいは、ディードリッヒ王にはその日が見えているのかもしれませんが、私共にはわかりませぬ」
彼はぐっと拳を握り、強い瞳で俺を見た。
「しかし、太平の世では決してないゆえ、我らアガハの騎士は、常にその心構えをしなければなりませぬ。いかなる苦難、いかなる試練が、この身に、そしてこの国を襲いかかろうとも、命剣一願となりて、それを払いのける」
そうはっきりと述べるリカルドは、確かな信念を全身に滲ませる。
「騎士として、この国の剣として、私たちはなすべきことをなす。その教えの一つが、王竜が産み落とす、アガハの竜騎士なのです」
リカルドは、そっと眠り続けるシルヴィアの頭を撫でる。
「そのため、娘には、少々厳しく接しすぎたかもしれませぬが……この子も、幼い頃にはよく不満を漏らしたものです。あるいは、英雄になど、なりたくなかったのかもしれませぬ」
はっと気がついたように、リカルドは頭を下げた。
「……余計なことを申しました。お忘れください」
「後悔しているか?」
しばし考え、リカルドが首を横に振った。
「彼女を立派な騎士に育てることが私の役目ゆえ。そうでなければ、この子の親になることさえ、叶わなかったでしょう。後悔はありませぬ。ただ……」
娘の顔をじっと見つめ、彼は言葉をこぼした。
「娘の気持ちはわかりませぬ」
「死んでしまってはなんにもならぬ。強くあれと厳しく育てたお前の愛は間違ってはいまい。機会があれば、ゆるりと話し合うことだ」
「……ええ。そうですね。機会があれば、そうしたいものです……」
どこか力なくリカルドは言った。
まるで、その機会が来ないことを、知っているかのように。
「病み上がりだ。無理をせず休め」
「はい。重ね重ね、感謝いたします」
深くリカルドは頭を下げる。
踵を返し、俺たちは剣帝王宮を後にした。
来た道をそのまま引き返し、竜着き場を目指して歩いていく。
「気になる?」
ミーシャが俺の顔を覗き、そう言った。
「多少な。<思念領域>を解除する直前に、リカルドの心の声が聞こえてきた。『これで、王竜の生贄になることができる』とのことだ」
「はぁっ!?」
と、サーシャが驚きの声を発する。
「だって、王竜の生贄になれるのって、未来がない人だけって言ってたじゃない。老衰病が治ったのに、生贄になる必要ないわよね?」
「なにか部外者には言えぬ事情があるのやもしれぬ。今アガハに竜騎士は二人だったか。あるいはもう一人、竜騎士が必要ということも考えられよう」
そう口にすると、アルカナが言った。
「預言があったのかもしれない」
「それって、つまり、あのリカルドって人が生贄になることで、他の多くの人が助かるとか、そういうこと?」
「そう。命剣一願、彼は救いたいもののために、命をかけようとしている。その未来が見えているのなら、生贄となる価値はあるのだろう」
ミーシャが小首をかしげた。
「剣帝にはそれもわかる?」
「未来神ナフタならば、見えているだろうな。だからこそ、少々腑に落ちぬ。覆らぬ預言に意味はないとディードリッヒは言っていたからな」
小を殺して大を生かす。
理屈としては正しいが、未来のない者しか生贄にしないという決まりを破ってまで、それを行うというのは、突きつめればろくでもない国になりそうだがな。
「リカルドは生贄になりたがっているが、ディードリッヒがそれをさせぬということも考えられよう」
「なんだか、アノスの口振りだと、アガハの剣帝はまともな人みたいに聞こえるわね」
サーシャが言う。
まあ、アヒデはアゼシオンの王族を誑かし、ゴルロアナは地上を消滅させようとしていたぐらいだ。地底の竜人にあまり良い印象はないだろう。
「一度会っただけで、すべてがわかるわけではないが、なかなかどうして、立派な王だった」
「ふーん。あなたが言うなら、そうなんでしょうね。じゃ、リカルドのことはなにか事情があるのかしら?」
「さてな。まだ肝心なことはなにもわからぬ。実際に聞いてみるのが早いだろう」
ディードリッヒも夜になれば、王宮に戻ってくることだしな。
結論を急ぐ必要もあるまい。
「思ったことがある」
アルカナが気がついたように言った。
「預言者は魔王聖歌隊の子を気に入っていた。大事な客人に会うというのは、そのことかもしれない」
「確かに未来がわかるんなら、ファンユニオンがどこにいるかも簡単にわかるでしょうけど、でも、それなら、絶対先にアノスに会いに来ると思うわ。一国の王様なんだし、そんな礼儀を欠くこと――なに?」
ミーシャがすっと指をさしていた。
サーシャがその方向を振り向くと、円形の舞台があった。
同じ道を通っているが、来たときには確かになかった。
微かに耳に、聞き覚えのある音楽が響いた。
「ねえ……嫌な予感がするんだけど……」
その伴奏は、魔王賛美歌第六番『隣人』。荘厳な調べとともに、魔王学院の生徒たちが一斉に舞台上に上がった。
「な……なにしてるのよ、あの子たち……?」
往来を行き交う竜人たちが、何事かと舞台に視線を向け始めている。
「これは……なんの催しだ?」
「道のど真ん中に、あんな邪魔なものを作って……」
「音楽っていうことは、まさかジオルダルの連中かっ?」
「やれやれ。あいつら、ここがどこかわかっていないようだな。アガハの首都にまで、布教に来て、ただで済ませるわけがないだろうに。すぐに王宮の騎士たちがここへ駆けつけるはずだ」
さすがに悪目立ちしすぎのようで、アガハの民は皆、不愉快そうに舞台上を睨んでいる。
ちょうど、そのときだ。
竜鳴が響き、空に三〇体ほどの白い竜の群れが現れた。
背には紅い騎士服と鎧を纏った騎士たちが乗っている。
「噂をすれば、だ」
「ようしっ、ネイト様率いる竜騎士団だっ! ジオルダルめ、痛い目見やがれってんだっ!」
白い竜の群れが往来を低空飛行すると、そこから騎士たちが飛び降りた。
全員で三○名。
一糸乱れぬ隊列で、歩行さえも揃えている。
「全隊、止まれ!」
前を歩いていた男がすっと手を上げると、竜騎士団がぴたりと足を揃えて停止した。
彼がネイトか。
髪をオールバックに整え、鋭い目をしている。
「魔力が強い……」
ミーシャが呟く。
抑えてはいるが、一見してわかるほどの力だ。
「……魔力だけじゃないわ……なんなの、これ? これだけ離れてるのに、今にも斬られそうな気がするもの……」
竜騎士団を率いるということは、彼がもう一人の子竜、つまり竜騎士なのだろう。
「本日、往来にて催し物の許可は出ているか?」
「は! 催し物の許可はありませんっ! 申請もなかったようです!」
ネイトの質問に、副官らしき男が答えた。
「ただちに取り押さえましょうか?」
「焦るな。聖歌はジオルダルの教え、奴らが教団の者ならば、なにを狙っているか知れたものではない。まずは出方を窺う。奴らを監視しつつ待機せよっ! 耳をすませっ! 歌のみならず、一挙手一投足を見逃すな!」
「はっ!」
竜騎士団が魔王聖歌隊を監視する。
そんなことはつゆ知らず、彼女たちは歌い始めた。
「あー、神様♪ こ・ん・な、世界があるなんて、知・ら・な・かったよ~~~っ♪♪♪」
「「「ク・イック、ク・イック、ク・イックウッウー♪」」」
ぴくり、とネイトの眉毛が上下した。
「開けないでっ♪」
「「うっうー♪」」
聖歌隊の歌に合わせ、魔王学院生徒一同、一糸乱れぬ完璧な振り付け。
「開けないでっ♪」
「「うっうー♪」」
練習の成果が十二分に発揮されており、「「「せっ!」」」と愛情溢れる正拳突きが繰り出されている。
「開けないでっ、それは禁断の門っ♪」
竜騎士団は、まさに度肝を抜かれたといったような表情で、聖歌隊の歌に耳を傾け、生徒たちが繰り出す振り付けに、目を釘付けにされている。
「見たところは魔力は感じない。ただの歌と舞いか。どうやら、ジオルダルの布教活動ではなく、ただの旅芸人たちか。そうならば、厳重注意で済ませよう」
ネイトがそう分析する。
しばらく彼らは魔王聖歌隊の歌を聞き入っていた。
完璧なまでの統率。
ただ待機するだけというのに、隊列は決して崩さず、騎士一人とて微動にしない。
しかし、やがて、そんな彼らに異変が起きた。
「貴様……」
ネイトが振り向き、部下たちを見る。
「今声を発したのは誰だ?」
鋭い問いに、しかし、申し出るものはいない。
「シラを切るつもりか。今確かに、『うっうー♪』と言ったものがいただろう。騎士たるものが、『うっうー♪』だと? そんなことで有事のときに、国を守れるのかっ!?」
憤怒の形相でネイトは騎士たちを見やる。
「騎士の誇りがあるなら名乗り出るがいい」
すると、一人の男が手を上げた。
先程の副官だった。
「貴様か、ゴルドー」
「……も、申し訳ございません、ネイト団長」
「なぜそんな真似をした?」
副官ゴルドーは口を噤み、返事に躊躇っている。
「なぜ『うっうー♪』と口にしたのだと聞いている? 答えろ」
「わ、わたしにもわかりませぬ。なにやら体がおかしく……。あの歌を、ずんずんと体を突き上げるようなメロディを聞いていましたら、自然と口ずさんでいたのです」
「たわけ。なにが、ずんずんと体を突き上げるようなメロディだ。騎士の誉れが地に落ちるぞ」
「はっ! 申し訳ございませんっ!」
ネイトはぐっと拳を握る。
「歯を食いしばれ。粛正してやる」
「はっ! よろしくお願いします!」
副官はピッと直立不動になった。
ちょうどそのときだ――
「あー、神様♪ こ・ん・な、世界があるなんて、知・ら・な・かったよ~~~っ♪♪♪」
「「「ク・イック、ク・イック、ク・イックウッウー♪」」」
魔王学院の生徒たちと、ネイトの拳が同時に繰り出される。
かの竜騎士は言った。
「せっ!」
副官の頬がネイトの拳に打たれる。
粛正された副官、粛正したネイト。並びに、そこにいた騎士団一同。
誰もが皆、信じられないといった表情を浮かべていた。
「団長、今……」
「『せっ!』と、おっしゃいましたか……?」
わなわなとネイトは強面の顔を振るわせた。
「馬鹿な……私はいったいなにを…………」
手を後ろにやり、ネイトは直立不動の姿勢を取る。
「私を粛正しろっ!」
「はっ!」
副官はネイトを殴りつけた。
すぐさま彼は、魔王聖歌隊の方へ視線をやる。
「なぜだ……?」
うずうずとネイトの体が震える。
いや、彼だけではない。騎士団全員が直立不動の姿勢をたもてず、うずうずと体を揺らし始めていた。
「私は竜騎士、災厄の日にアガハを守る英雄ぞっ! だのに、この湧き上がる衝動はいったいっ!? この歌はなんなのだっ!? 自制しようと思えば思うほど、逆に涙が止まらぬっ……!!」
気がつけば、ネイトはわけもわからず感涙していた。
「ええいっ、奇っ怪な歌を歌う者どもめっ。魔力がないと思っていたが、これは我らが騎士団の士気を削ぐための悪魔の歌。あの者どもを引っ捕らえるぞっ! 騎士たる我らがあのような歌に屈するわけにいかないっ!」
竜騎士団たちは全員、歩行を揃え、まっすぐ舞台へ向かっていく。
「ちょっ、ちょっと、あれ、どう考えても、やばいわよっ!? 早く止めて謝らないと、騒ぎになるどころじゃないわっ!」
慌てて走り出そうとしたサーシャを、俺は手で制する。
「ふむ。読めぬ男だ」
「読めぬって、なんの話よっ……? それより早く止めないとっ!?」
「その心配はない」
サーシャがきょとんとした。
「え、と……どうして?」
「見るがいい――」
音楽に合わせ、魔王聖歌隊が二手に分かれると、その間から、一人の男が颯爽と歩いていくる。
真紅の騎士服と鎧。
長めの髪と、整えられた立派なひげが印象的だ。
その佇まいからは、悠久の時を生きてきた者特有の重みを感じさせる。
彼は、両足を開き、丹田に力を込めるように、大きく口を開いた。
そうして、渋めの声で、朗々と歌い上げる。
「あー、神様♪ こ・ん・な、世界があるなんて、知・ら・な・かったよ~~~っ♪♪♪」
「「「ク・イック、ク・イック、ク・イックウッウー♪」」」
魔王聖歌隊と魔王学院の生徒たちが、ク・イックの合いの手を入れる。
「あれが、アガハの剣帝――」
途端にディードリッヒが拳を突き出す。
「入れないで♪」
『『『せっ!』』』
右を引くと同時に左。
大地に響き渡るような凄まじい正拳突きが、渋い歌声とともに放たれる。
「入れないで♪」
『『『せっ!』』』
両拳を重ね合わせ、まるで獲物に食らいつく獣の如く、剣帝はそれを突きだした。
「入れないで、それは禁忌の鍵♪」
『『『せっ、せっ、せっーっ!!!』』』
ニヤリと奴は渋みを感じる剛胆な笑みを浮かべ、民たちを、そして直属の配下である竜騎士団を見据える。
「――預言者ディードリッヒ・クレイツェン・アガハだ」
「こいつは、たまらんぜ」
足を踏みならし、ディードリッヒは力強くポージングを決めた。
「……あれが…………本当に、あのへんた……あれが……???」
サーシャがオリジナルの振り付けで熱唱するディードリッヒに、困惑の視線を注いでいる。
「……立派な……王…………???」
サーシャの瞳に、制御しきれるようになったはずの<破滅の魔眼>が浮かぶ。
それほどの疑心、それほどの疑惑であった。
「あれは、ディードリッヒ王……」
驚愕の眼差しで、竜騎士ネイトが呟く。
「本当だ……間違いないぞ、ディードリッヒ様だ……」
「では、これは、剣帝の催しものなのかっ!?」
「あの御方も人が悪い……我らに伝えておいてくれればいいものを……」
「しかし、いったいどういう意図が……?」
騎士たちは腰に提げた剣を鞘ごと外し、敬意を示すかのように、その場で頭を下げた。
「聞けいっ! アガハの民よっ!」
間奏の最中、ディードリッヒは剛胆な声を発した。
「この者たちは、地上から参った。ディルヘイドの魔王が俺との約言を守り、使わしてくれた聖歌隊だ。率直に言おう」
大きく一歩を踏み込み、ディードリッヒは親指で後ろの聖歌隊を指す。
「この歌は、たまらんぜ」
魔王聖歌隊の歌が始まり、『それは魔の手でっ♪』『あー♪ そこは不浄のっ♪』などといった歌詞の数々が、アガロフィオネに響き渡っている。
そして、それに合わせ、ディードリッヒは完璧なまでの正拳突きを繰り出していた。
魔王学院の生徒たちより、遙かに練度が高い。
未来を見ながら、この日のために、相当な稽古を積んだに違いなかった。
「そうか……そうなのか……」
ネイトが言った。
「敵の懐にこそ生きる道ありっ! 歌を恐れるのではなく、飲まれるのでもなく、我がものとする。それを剣帝は教えようとしているのか」
くわっと竜騎士ネイトは眼光を鋭くした。
「あれこそ、騎士の誉れっ! さすがはディードリッヒ剣帝、このアガハの真の騎士よっ!」
「……い、いえ、ネイト団長。それはどうかと……」
副官が言いづらそうに苦言を呈する。
「馬鹿者っ! 剣帝のすることを疑う気かっ!? ディードリッヒ王は預言者なれば、その一挙手一投足に、いささかの無駄すらあるわけがないっ! 真意を見抜けず、我らが主君をただの道化にするつもりかっ!?」
「はっ、は……! も、申し訳ございません……私としたことが……」
ネイトが大声で号令を上げる。
「全隊、私に続けっ! ディードリッヒ剣帝がここに道を示された。彼こそが真の騎士であり、彼のなすことがすなわち騎士道、騎士の誉れへとつながるのだっ! 踊れ、歌えぇぇっ!! 我らが騎士道はここにありぃぃっ!!」
生真面目な顔で舞台へ突っ込んでいくネイトを見て、部下たちが仕方がないといった表情を浮かべた。
「……ディードリッヒ王の悪ふざけと、ネイト団長のクソ真面目さには、頭が下がるが、まあ、団長にだけ恥をかかせるわけにはいかんだろう」
「ははっ、違いない。たまにはこういう騎士道もいいもんだ」
「それに、ジオルダルの歌とは違うな。神に祈るだけではなく、自ら手を伸ばし、そして隣人とわかり合おうという歌か……」
「ああ、心に染み入る。こんな世界があるなんて知らなかった。我らの教えと同じ。預言だけを真実とするのではなく、いつか預言を乗り越える。そういう歌であるな」
「がははっ、一言で言えばディードリッヒ王の言う通り。こいつはたまらん! 騎士である我々に、これほど相応しい歌と振り付けはないだろうなぁっ!」
竜騎士団は一致団結し、即興で振り付けを行っては、魔王聖歌隊の歌声に酔いしれる。
その楽しげな声に惹かれ、次々と往来に竜人たちが集まってくる。
「アガハの民よ、今日は無礼講と洒落込もうやっ。剣を置き、拳を握れ。心の赴くまま、突いて、突いて、突きまくろうぞぉぉっ!!」
まるで開戦の合図の如く、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ、と騎士らしい声がアガロフィオネの空に響いたのだった。
統率のとれた精鋭揃いの竜騎士団。強いんでしょうねぇ。