表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/791

神の力と魔族の力


 審判の篝火が、轟々と燃えている。

 セリスたち三人と、シン、エールドメードは対峙したまま、睨み合いを続けている。


 静寂を打ち破るように、熾死王は言った。


「カカカ、どうした、セリス・ヴォルディゴード。<契約ゼクト>しないのならば、早々にこの口を封じてくれ。それともなにか? また魔王が蹂躙するだけのつまらぬ戦いにしたいのか? ん?」


 自然体を崩さず、平然と自分を見据えるセリスに、エールドメードは続けて言った。


「あるいは、今ここで、オレがあのことをぶちまけることさえ、オマエの計画の内というわけか?」


「言ってごらんよ。それでわかるんじゃないかい?」


 動じぬセリスの言葉に、カッカッカとエールドメードが笑う。


「そう、そう、それが正解だ。慌てふためき、<契約ゼクト>に応じるようならば、心当たりがあると言わんばかりだからな。さすがは魔王の敵となろうという男、そうこなくてはなっ! では、遠慮なく言ってやるぞ。オマエは――がふぅっ……!!」


 エールドメードの喉に、真紅の魔槍が突き刺さっていた。


「相も変わらず、油断の多い男よ。そなたの考えは、あの魔王よりも理解に遠いぞ」


 次元を越え、離れた距離から冥王はディヒッドアテムを押し出す。

 勢いよく、その穂先は熾死王の喉を貫通した。


 しかし、血まみれになりながらも、エールドメードは笑みを見せる。


「オレが油断したから刺したのか、それとも喋られてはまずいから刺したのか?」


「戯れ言を」


 イージェスがそのまま槍を振り下ろそうとするも、熾死王はその先端の柄をぐっとつかみ上げる。


「俺様の矢に、射抜かれ果てろ」


 カイヒラムが、魔弓ネテロアウヴスから三本の矢を放つ。

 ディヒッドアテムに貫かれたままの熾死王には逃れる術もなく、脳天、心臓、腹部を矢に串刺しにされた。


「その身を呪え、ネテロアウヴス」


 カイヒラムの言葉とともに、矢の刺さった傷口に黒い靄が立ちこめる。

 それは、体を蝕む呪い。魔力と筋力にかけられる、魔弓の重りだ。


「ぬんっ!」


 イージェスの槍に押され、熾死王の体からまた鮮血が散った。


「良いのか、千剣。団長殿を警戒するばかりでは、仲間が死ぬというものぞ」


 イージェスの言葉に、しかし、シンは泰然と構え、セリスを見据えたまま動こうとしない。


「どうぞ、そのままとどめを。今は同じ配下とはいえ、熾死王はいずれ我が君に仇なす輩。ここで始末できるのならば、私としても幸いです」


 冷たくシンが言い放つ。

 機先を制するようなその鋭い殺気を前に、セリスも不用意には動こうとしない。


 熾死王が倒れれば、三対一、待ちに徹するだけで戦況が有利になると考えたか。


「しかし、冥王、あなたこそ油断なきように。無策で刃に身を曝すような愚か者ならば、彼はとうの昔に我が君に屠られております」


 シンの言葉に、ニヤリと熾死王が笑う。


「天に唾を吐く愚か者よ。秩序に背いた罰を受けろ。神の姿を仰ぎ見よ」


 奇跡を起こす神の言葉がエールドメードの口からこぼれる。

 その体が光に包まれ、魔力が桁外れに膨れあがった。


「カカカカッ!!」


 エールドメードの体が変化していく。

 髪は黄金に、魔眼は燃えるような赤い輝きを、その背には魔力の粒子が集い、光の翼を象っていく。


 けたたましい地響きを立て、エーベラストアンゼッタが震撼する。

 膨大な魔力が有した真なる神の存在が、空気を爆ぜさせ、世界をも揺るがす。


 その神体が放つ圧倒的な反魔法と魔法障壁の前に、ディヒッドアテムが折れ、ネテロアウヴスの矢が砕け散った。


「……むうっ……貴様……」


 すぐさま冥王は自らの左胸を手で突き刺し、血を使って魔槍を作る。

 その隻眼の魔眼で、じっと熾死王の深淵を覗いた。


「カカカ、わかるか、イージェス。二千年前から狙っていたものをようやく手に入れたのだ」


 シルクハットを外し、熾死王はそれをお手玉する。

 手の中で弾む度に、その数が増えていく。


「しかし、実のところ、神体にまだあまり慣れていないのだ。どの神が出るかは、サイコロの目次第。さてさて、なにが出るのやら?」


 一〇に増えたシルクハットをエールドメードは宙へ投げる。

 

「天父神の秩序に従い、熾死王エールドメードが命ずる。産まれたまえ、一〇の秩序、理を守護せし番神よ」


 一〇個のシルクハットから、紙吹雪とリボンのような光がキラキラと大量に降り注ぐ。

 まるで手品の如く、それらが番神の体を象り始めた。

 

 それは白い手袋をはめ、真っ白なフード付のローブを纏った、顔の見えぬ番神。

 <時神の大鎌>を携えた、一〇名のエウゴ・ラ・ラヴィアズがそこに顕現していた。


「これはこれは、まさかまさかっ! 時間を稼ぎたいこのときに、時の番神が一〇体とは。まるでイカサマでもしているようではないかっ!」


 ナーヤと盟約を交わし、彼女が召喚することで、エールドメードはいつでも神体を現せられるようになった。


 俺に気取られぬよう、秩序の使い方を試行錯誤していたのだろうな。 


「さてさて。では、時神の庭へ行こうではないか」


 途端に世界が白く染め上げられる。

 床も天井も壁も、審判の篝火さえも真っ白に変わった。


 時神の庭――エウゴ・ラ・ラヴィアズが時間の秩序を調整するため、異分子を排除する際に構築する異空間。


「オマエたちならば、知っているだろう。世界の時から隔離したこの庭からは、エウゴ・ラ・ラヴィアズを倒してしまえば、元の時間に戻ることはできない。数時間先に着いてしまうだろうな。その頃にはすべてが終わっているとは思うが、どうだ?」


 エールドメードが、セリスに問う。


「そろそろ<契約ゼクト>を交わす気になったのではないか? 大人しく一〇分待てば、このオレの口を封じるのみならず、ここから出してやってもいいぞ。出血大サービスとは思わないか? どうする?」


「やれやれ。秩序に背くガデイシオラが、番神如きに屈すると思ったかい?」


 球体の魔法陣にセリスは片手をかざす。

 そこから、紫電が無数に溢れ出し、天地双方に落雷する。


「<紫電雷光ガヴェスト>」


 純白に染まった世界に、紫の雷が無数に走り、更に数倍に膨れあがった。


 時が停止している時神の庭を、無理矢理叩き動かすが如く、禍々しき雷鳴を轟かせ、それは白の世界を、暗紫に染める。


 床が、壁が、天井が雷によって裂かれ、時神の庭が消し飛んでいく。

 世界は色を取り戻し、エウゴ・ラ・ラヴィアズを倒さぬまま、彼らは元の世界に戻ってきた。


「ご覧の通りだよ」


「素晴らしいではないか!」


 時の番神の秩序を容易く一蹴したセリスを、恐れるどころか熾死王は愉快そうに唇を吊り上げる。


「だが、秩序に背けばそのツケは回ってくるものだ。完全に元の時間に戻れてはいない。先程よりも一分経ってしまったぞ」


 時の番神たちは、再びその場に真っ白な空間を作りあげていく。


「それが限界ではないのはわかっているぞ。本気を出せ、セリス・ヴォルディゴード。さもなくば、<契約ゼクト>に応じたまえっ!」


 セリスは即座に<紫電雷光ガヴェスト>を放ち、時神の庭を破壊する。


「これで二分だ。<契約ゼクト>ならたった一〇分で済むが、さてさて、このままいけば、どこまで時間を稼げるのやら?」


「二分で仕舞いよ」


 冥王の言葉と同時、一〇体のエウゴ・ラ・ラヴィアズが真紅の槍に貫かれた。


「紅血魔槍、秘奥が壱――」


 イージェスが、静かに呟く。


「<次元衝じげんしょう>」


 一〇体の番神に穴が穿たれる。

 その穴の中に、エウゴ・ラ・ラヴィアズは吸い込まれ、消滅した。


 体の時が止まり、傷つくことのない時の番神はしかし、イージェスの秘奥によって、時空の彼方に飛ばされたのだ。


「神の力を手に入れたからといって、あまり調子に乗らぬことよ」


「冥王、オマエには、神剣ロードユイエの審判を下そうではないか」


 熾死王の手から、黄金の炎が噴出する。

 それは黄金の剣となりて、イージェスへ射出された。


「ぬんっ!!」


 神剣ロードユイエをディヒッドアテムが打ち払うも、しかし、その剣はひとりでに宙を舞い、冥王に斬りかかる。


 かつて、シンの剣をもってすら劣勢に追い込んだその黄金の剣が、怒濤の如く眼帯の魔族を襲う。


「紅血魔槍、秘奥が弐――<次元閃じげんせん>」


 紅き槍閃そうせんが走り、神剣ロードユイエが、時空の彼方へ飛んでいった。


「カッカッカ、さすがは冥王。なかなかやるものだ。ならば、こちらもアンコールにお応えしようではないかっ!」


 周囲には黄金の炎の柱がいくつもでき、その半数がロードユイエに変わる。

 数十本もの神剣は、勢いよく冥王に射出された。


 身構えるイージェスの目の前に、黒い靄が漂う。

 ロードユイエがそれを貫通する。


「が……ぅ……」


 その黄金の剣が貫いたのは、詛王カイヒラムの体だった。

 一本の剣が彼に突き刺さると、すべての神剣は誘導されるように、カイヒラムの体を次々と貫いていく。


「……ぁ…………ぁぁ…………!!」


 血は流れず、傷口は黒い靄と化している。

 それは禍々しい呪いのように、ロードユイエを包み込む。


「……俺様を……傷つけたな、熾死王……許さんぞぉぉ……」


 怨嗟の声が響き渡る。

 それと同時に黒い靄が魔法陣を象り、魔法が行使された。


 <自傷呪縛デグデド>。

 魔力で受けた傷を媒介に、その魔力の持ち主を呪い、魔法を自らに引き寄せる呪い。

 

「カッカッカ、相変わらずのマゾヒストではないか、カイヒラム。構わん、構わん、構わんぞっ。この熾死王が、貴様のプレイにつき合ってやろうっ!」


 エールドメードが杖で円を描く。

 そこから放出された黄金の炎が、更に神剣ロードユイエを作り出す。


 それらは磁石のように引き寄せられ、次々とカイヒラムに突き刺さる。


 穿てば、傷口は黒い靄に変わる。

 カイヒラムの体は、その殆どが真っ黒になっていた。


「知っているぞ、カイヒラム。全身が靄になれば、<自傷呪縛デグデド>は解ける、と魔王が言っていたものでな」


「それまで待つと思うたか、熾死王」


 刹那、夥しい鮮血が散った。

 エールドメードの内部から、無数の紅い魔槍が突きだされていた。

 

 奴の体を内側から貫いたのだ。


「紅血魔槍、秘奥がさん――<身中牙衝しんちゅうがしょう>」


 穂先のないディヒッドアテムを、イージェスが回転させる。


 体内から突き出されたその槍が、エールドメードの体を食い破るが如く、ズタズタに引き裂いていく。


 魔力を込めたあらゆる攻撃魔法、回復魔法は、<自傷呪縛デグデド>の呪いにより、すべてカイヒラムのもとへ引き寄せられる。


 回復することも、反撃することも今の熾死王には不可能――そう、冥王は思ったことだろう。


「これで、終わりよ――」


 とどめとばかりに勢いよく回転させたディヒッドアテムが、しかし、イージェスの手からこぼれ落ち、あさっての方向へ飛んでいく。


「……かっ…………!?」


 全身が脱力するが如く、イージェスが膝をつく。


「………………こ、れ、は…………」


 最後の気力を振り絞るように、冥王はその隻眼で、周囲を見つめた。


 エールドメードが撒き散らした黄金の炎によって、床が燃えている。

 そこに紛れ、<熾死の砂時計>が四四個置いてあった。


 内部の砂は、すべて落ちきっている。

 呪いが発動し、冥王の命を奪い去ったのだ。


「カッカッカ、天父神の秩序は簒奪したもの。カイヒラムに呪われたのは、そちらの方だけで、このオレの魔力は自由に使える」


 エールドメードは自らの魔力で、<総魔完全治癒エイ・シェアル>を使い、傷を癒していく。

 それができることを悟られぬよう、彼は呪いが発動するまで無防備に冥王の秘奥を受け続けたのだ。


「……不覚…………」


 イージェスがその場に崩れ落ちる。


 <蘇生インガル>の魔法を使ってはいるが、<熾死の砂時計>が発動している限り、蘇生は完了しない。


 コツン、と杖をつき、熾死王は笑う。


「神族を甘く見るなと口を酸っぱくしてオマエは言うが、この熾死王の力を甘く見過ぎたのではないか、なあ、冥王」


熾死王さん、冥王もう死んでます――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
半神半魔とも言うべき状態の熾死王先生、強い。 その場に応じた秩序を持つ番神の召喚、オート攻撃の神剣を使いこなし、元々持つ呪いの砂時計と魔族の魔法を組み合わせることで戦闘力・対応力が激しく高くなってい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ