福音、来たれ
跪き、祈りを捧げたまま、教皇ゴルロアナは言う。
「あなたと私はともに選定者なれば、聖戦をお望みでしたら、お相手はいたしましょう。しかしながら、あなたの口車に乗ることはないと知りなさい。たとえ、力で敗れようとも、祈りを捧げるこの心を折ることはできかねます」
清廉なその表情から、揺るぎのない意志が感じとれる。
「あなたが教典に、痕跡神リーバルシュネッドに辿り着くことは決してございません」
「悪いが、そう言われると是が非でも聞き出したくなるタチでな」
奴を見下ろし、俺は言葉を返す。
「それで? いつまで祈っているつもりだ? 座したまま、俺と戦うつもりではあるまい」
「なにか不都合でもおありでしょうか?」
あくまで祈りの姿勢を崩さず、ゴルロアナは歌い上げるように言う。
「ほう」
「私はこのジオルダルの教皇、ゴルロアナ・デロ・ジオルダル。選定の神より救済者の称号を賜りし者。この国に、地底に救済が訪れるその日まで、神への祈りを欠かすことは決してございません」
跪いたまま、奴は俺を睨みつける。
「どうぞ、ご遠慮なくいらしてください。この身は神の奇跡に護られ、あらゆる苦難を討ち滅ぼすでしょう」
「面白い。ならば、遠慮無くやらせてもらうぞ」
言葉と同時、床に巨大な魔法陣が構築される。
出現したのは漆黒の炎、それが鎖となりて、跪くゴルロアナの体を縛りつける。
「<獄炎鎖縛魔法陣>」
獄炎鎖が黒く燃え上がると、それは大魔法を行使するための魔法陣を構築していく。
「汝、恐れを知りなさい。神を縛ることは、何人たりともできかねます」
ゴルロアナの選定の盟珠に、神々しい光が集う。
その中心に火が灯ったかと思えば、盟珠に立体魔法陣が描かれる。
それは幾重にも重なり、積層されていく。
みるみる膨張する魔力は、瞬く間に神の域に達した。
不思議な音色が響き、音叉の柱が反響する。
その音はみるみる音量を増していき、ロォン、ロォン、と聞き覚えのない調べを奏でた。
教皇の背後を覆うように、神が顕現する。
「福音、来たれ。<神座天門選定召喚>」
ロォンと音が響き、姿を現したのは蒼いコートを纏った長髪の神である。
「<憑依召喚>・<選定神>」
顕現した神が、吸い込まれるようにゴルロアナの体に降りる。
教皇の魔力が膨れあがり、<獄炎鎖縛魔法陣>に縛られたその体が蜃気楼のように揺らめき、消えた。
ロォン、という調べとともに、ゴルロアナの体が、俺の背後、十メートルほど先に現れる。
「福音神ドルディレッド」
アルカナがそう言い、俺の隣に並ぶ。
「教皇ゴルロアナの選定神。音を司るドルディレッドの姿は、音そのもの」
「ふむ。道理でな。鎖でも炎でも縛れぬというわけか。ところで」
アルカナに視線を落とす。
「ディードリッヒにやられた傷はどうだ?」
「回復した」
「ならば、二人でとっとと片付けるぞ」
魔法陣を描き、<真空地帯>の魔法を放つ。
室内は真空と化し、音の届かぬ静寂が辺りを包んだ。
しかし、それを打ち破るように、ロォンと福音が響く。
その調べが音叉の柱に次々と反響、共鳴されれば、室内に魔力が充満する。
福音神ドルディレッドは音の神。そのためか、あの音叉の柱で反響、共鳴されると、その度に魔力が倍増していくようだな。
「復活の日、滅びた信徒たちは、福音とともに、仮初めの命を得るでしょう。おお、偉大なる神よ、あなたの奇跡に感謝いたします」
祈るように、ゴルロアナが歌い上げる。
「福音の書、第一楽章<信徒再誕>」
ロォン、ロォンと音が響く毎、眼前にはゴルロアナと同じ蒼い法衣と音叉に似た剣を持った者たちが姿を現す。
合計で三三人だ。
「真空でも、福音は響く。あの音が鳴る限り、ドルディレッドは不滅」
アルカナが言う。
「なるほど。しかし、珍しいな。音韻魔法陣か」
福音の変化により、音の魔法陣を描き、魔法を発動しているのだろう。
音の高低、発音、調子などによって発動するそれは、一般的な魔法陣に比べれば、使い勝手が悪い。
音韻魔法陣を構築する。すなわち、詠唱を終えなければ、魔法が行使されないからだ。
しかし、どうやら福音神の秩序で、その詠唱を一瞬で行っているようだな。
「ご覧になるとよろしいでしょう、不適合者。彼らは、このジオルダルで神に祈りを捧げ続けた信徒にして、歴代の教皇でございます。神の奇跡の前に、あなたはただただひれ伏すことでございましょう」
ザッと地面を蹴り、<信徒再誕>により蘇った死者たちが、音叉の剣を振るい、俺へ突っ込んできた。
「吹雪きの夜に、すべては凍る」
アルカナが周囲に雪月花を吹雪かせ、襲いかかる死者たちの下半身を冷気で凍てつかせた。
「ふむ。歴代の教皇が黄泉の国より戻ってきたというのならば、礼を尽くして問おう」
動きを封じられた死者たちに、俺は言葉を投げかける。
「この国が目指すのは、ディルヘイドとの和睦か否か。各々の考えを述べよ」
その答えと言わんばかりに、<信徒再誕>の死者たちは、音叉の剣を響かせ、聖歌を歌う。
音韻魔法陣が強力な反魔法を響かせ、凍てついた氷を粉々に割った。
なおも吹き荒ぶ吹雪の中、死者たちは、音叉の剣を振り上げ、突き進んでくる。
「自明のことを問うべからず。死者である彼らを縛るのは、今際の際の悲願のみ。神への祈りと聖歌を捧ぐこと以外、この国を思う教皇が願うわけもないでしょう」
「悲願を果たすだけの亡霊か」
漆黒の稲妻が俺の右手に纏う。
それが膨れあがり、室内を満たすかのように周囲に飛来した。
起源魔法<魔黒雷帝>に撃ち抜かれ、三三人の死者たちは骨も残らず、消滅する。
「滅びた者は、すなわち不滅なり。彼らを再度滅ぼすことは、何人たりともできかねます」
ロォン、ロォンと福音が響き、再び<信徒再誕>の死者たちが蘇る。
「二度目の再誕にて、滅びた信徒たちは、その身に神を降ろす。数多の神がここに顕現し、暗闇を払い、世界は光に満ちるでしょう」
歴代の教皇たちが魔法陣を描くと、彼らは<憑依召喚>を使う。
魔力が桁違いに上昇した。
「音の番神ミラヒ・イデ・ジズム」
三三人の教皇は、音叉の剣を俺たちに向ける。
魔力を伴う音の塊が一斉に放たれた。
「雪は舞い降り、地上を照らす」
降り注ぐ雪月花が俺たちを護る結界となり、音の塊を遮断した。
「三三人の教皇と、三三名の神の前に、あらゆるものは膝を折り、そして頭を垂れるでしょう。信じなさい、異端の民よ。信じなさい、神の御業を。ただ、ただ祈れば、救われるでしょう」
ゴルロアナが歌い上げると、教皇たちの音叉の剣が更に強く響き、共鳴した。
福音神ドルディレッドの力で、その音韻魔法陣が強化されているのだ。
「福音の書、第二楽章<聖音竜吐>」
音の塊が竜の咆吼が如く激しく劈き、ミシミシと雪月花の結界を押し破ろうとする。
「なかなか敬虔な教皇たちのようだがな。しかし、果たして本当に神にすべてを捧げていたか?」
「自明のことを問うべからず。国を思う教皇に、私利私欲などございません」
教皇ゴルロアナが言葉を返す。
「ならば、賭けるか? 今から教皇の私利私欲を暴いてやろう。俺が勝てば、痕跡神の何処を話してもらう。負けたならば、アルカナをくれてやろう」
「あなたの口車には乗らないと申し上げたはずでございます」
「俺にかすり傷一つでもつければ、お前の勝ちで構わぬ。ついでにディルヘイドもくれてやろう」
俺は<契約>の魔法陣を描いた。
小さく教皇は息を吐き、こちらを見た。
もう一押しか。
「歌には自信があるようだな。ならば、こちらも賛美歌にまつわる戦いのみで応じるとしよう。この結界も即座に消してやる」
すると、教皇は言った。
「<全能なる煌輝>の名にかけて、ここに宣誓いたしましょう」
その言葉で<契約>の調印が成立する。
同時に、アルカナは雪月花の結界を消した。
<聖音竜吐>が猛威を振るい、襲いかかったが、しかし、すでに俺の右手には<創造建築>で創造した魔笛があった。
「<魔笛相殺>」
魔力を込めれば、そこから賛美歌の曲が溢れ出す。
魔笛から奏でられた調べが、<聖音竜吐>を相殺するが如く、音と音が衝突し、消滅させていく。
「ふむ。急ごしらえのわりにはなかなかの効果だ。やはり、音には音をぶつけるに限る」
言いながら、その魔笛をアルカナに渡す。
「使え」
アルカナは魔笛を手に取ると、それに口つけ、賛美歌の曲を奏で始める。
<聖音竜吐>を阻む結界が、一段と強化された。
彼女に光を当てるかのように、アーティエルトノアが輝き、照らす。
白銀の輝きは、天井をすり抜け、天蓋から地上へ光の橋がかけられた。
ゆっくりと<創造の月>が降りてくる。
半月の光がみるみる迫ると、それは魔笛を包み込む。
「月に飲まれて雪解けを待ち、新たな姿が現れいずる」
アーティエルトノアと魔笛は混ざり合い、そして、<創造の月>の力を持った、神の魔笛がそこに誕生する。
ふっとアルカナが息を吹き込むと、創造されし音楽が、三三本の音叉の剣が放つ<聖音竜吐>をあっという間にかき消す。
なおも調べの勢いは止まらず、神の魔笛が放つ音の塊は、教皇たちを飲み込んで、消滅させた。
「次はドルディレッドだ、覚悟せよ」
アルカナが魔笛を吹く。
神々しくも恐ろしげな調べが響き渡り、それが福音に襲いかかる。
ロォンと響く音に、魔笛の調べが干渉し、その福音が先程よりも僅かに小さくなった。
「……く…………」
福音神を憑依しているゴルロアナが表情を歪める。
「ふむ。どうやら、これは効いているようだな。まさか我が身可愛さに祈りをやめることを、私利私欲に走っておらぬとは言うまいな」
歯を食いしばり、ゴルロアナはあくまで祈りを続けている。
「……滅びた者は、不滅だと申し上げたはずです……」
ロォン、ロォンと福音が響き、再び<信徒再誕>の死者たちが、音の番神とともに蘇る。
「三度目の再誕にて、滅びた信徒たちは、神に聖歌を捧げる。受け継がれし、神聖なる調べは、災いを燃やし尽くす神の業火となるでしょう」
神を降ろした三三人の教皇たちは、清浄な声を響かせ、高らかに聖歌を歌い上げる。それらが共鳴し、幾重にも重なる音韻魔法陣を構築した。
俺たちの周囲を覆うように、神々しい炎の柱が立つ。
それはアルカナの魔笛の響きを押しやるように、少しずつ範囲を狭めてくる。
「汝は言った。なぜそれほどまでに祈り続けられるのか。救済者は答えた。私は一人で祈っているわけではなく、これまで神を信じてきた者たち、神のもとへ赴いた彼らの祈りがここにあるのでございます。おお、救済者は歌う。かつての死者たちとともに。その神の調べがこそが救済であり、神に逆らうすべてを燃やす、唱炎となると」
朗々とゴルロアナは歌い上げる。
そうすることで、唱炎は勢いを増し、魔笛の響きを押し潰しては、俺たちを燃やし尽くそうとする。
「ふむ。やはり音楽というのは皆で歌い、奏でるのがよい。それにはまったく俺も同感だ、ゴルロアナ」
つなげた魔法線を辿り、<思念通信>を飛ばす。
「聞こえているか、魔王聖歌隊。ちょうどいい機会が来た。愛がどれだけ神に通用するのか、ここで一つ試すとしよう」
『『『はいっ!! アノス様っ!!』』』
魔王城に待機させておいたエレンたちの声が響く。
「歌え。お前たちの愛を俺によこすがよい」
『『『はぁいぃっ!! アノス様っ!!』』』
「<狂愛域>」
エレンたちの愛の深淵に沈み、その想いを余さず魔力に変換する魔法、それが<狂愛域>。
魔王聖歌隊の狂気に迫るほどの愛が姿を変え、溢れ出す漆黒の光が、粘性を帯びたかの如く、俺にねっとりと絡みつき、渦を巻く。
「福音の書、第三楽章<聖歌唱炎>」
「ならば、こちらは」
祈りを捧げる教皇ゴルロアナに言う。
「魔王賛美歌第六番『隣人』」
アルカナが即座に隣人の伴奏を魔笛で演奏する。
<創造の月>の力を持つその笛は、あらゆる音楽を創り出せるだろう。
「祈りの前にすべては儚く、神の前に、すべてはひれ伏す。この唱炎があなたを燃やし、あなたの罪をぬぐい去ってくれるでしょう」
燃え盛る唱炎が俺とアルカナを飲み込んだ。
激しく炎は天へ上り、天井を突き破っては、天蓋にさえ達する。
まさにそれは神の炎。
この世の一切をぬぐい去り、灰さえも残さぬ、浄化の火であった。
「おお、咎人よ。あなたの罪は唱炎とともに燃え去り――な…………!?」
ゴルロアナが目を見開く。
炎の中、<思念通信>を辿って届けられた声が、聞こえたのだろう。
泥のような<狂愛域>の光が膨張し、炎を腐らせた。
俺は火傷の一つさえ負っていなかった。
『あー、神様♪ こ・ん・な、世界があるなんて、知・ら・な・かったよ~~~っ♪♪♪』
「ぐあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
これまで聖歌を歌うことに集中していた教皇たちが、ただ今際の際の悲願を叶えようとするだけの亡霊たちが、悲鳴を上げて、吹き飛んだ。
彼らは粘つく黒き光に侵され、腐っていく。
その光景にゴルロアナは、ただただ目を見張り、耳を疑う。
炎や死者さえも腐食する、恐るべきは<狂愛域>の腐力だ。
それは愛ゆえか、目標だけを腐らせる。
単純な腐食の力だけで言えば、魔王の血にも迫るかもしれぬ。
果たして、どちらが上か?
「……先代たちが……死者が……祈りと聖歌を忘れるほどの、歌……!?」
「納得したか?」
「……まだ、断定は……。反射的に、悲鳴を上げたに過ぎません……私利私欲とは……」
「ならば、思い知らせてやろう」
『ク・イック、ク・イック、ク・イックウッウー♪』
「ぐうううううううううぅぅぅぅ、神よぉぉぉぉっっっ!!!」
さすがは現教皇といったところか。
ゴルロアナは祈りの姿勢のまま、暴虐に襲いかかる<狂愛域>の光に耐え忍ぶ。
そうして、唱炎で対抗すべく、聖歌を歌った。
歴代の教皇たちも次々と祈りを捧げては聖歌を共鳴させ、再び<聖歌唱炎>を俺とアルカナにぶつける。
「お前たちの聖歌も悪くはない。だが、祈るだけではもの足りぬ。盛り上がりにかけるというもの――」
アルカナが演奏する魔笛に合わせ、今、魔王賛美歌が響き渡る。
「こちらは振り付きだぞっ!」
音楽に乗るように地面を蹴る。
『開けないでっ♪』
「せっ!!!」
<狂愛域>を纏う俺の正拳突きが、神の唱炎を吹き飛ばす。
『開けないでっ♪』
「せっ!!!」
右を引くと同時に左、繰り出した正拳突きは、漆黒の<狂愛域>を束ね上げ、<信徒再誕>の死者たちを吹き飛ばす。
「ぐああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!」
「がああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!」
『開けないでっ、それは禁断の門っ♪』
「せっ!! せっ!! せえいっ!!!」
更に三撃。
魔王賛美歌の前に、彼らの聖歌が弾け飛ぶ。
「……ばっ、馬鹿なぁぁっ、神の聖歌がぁぁっ……」
「こんなぁっ、こんな、禁断の歌にぃぃぃっ……!!?」
悲鳴を上げる死者たちを見て、ゴルロアナは驚愕の表情を浮かべている。
「お……恐るるなかれ……先代たちよ。なにを恐れる必要がありましょうか。一度滅びた者は滅びることはございません。神のもとへ招かれたあなた方は最早、不滅の――」
完全に腐り果て、消え去った一人の死者を見て、ゴルロアナは絶句する。
「……蘇らない……なぜ…………?」
「わからぬか」
あくまで祈るゴルロアナの前に、俺とアルカナが立っていた。
魔王聖歌隊の歌が響いている。
「ク・イック、ク・イック、ク・イックウッウーだ」
「…………わかりません…………」
「すなわち、わけがわからないけど楽しいからいいじゃん。その歌が、今際の際に彼らが抱いた真なる想いを呼び覚ました。成仏したのだ」
「……成……仏……」
「教皇よ。国のためだけに、人は生きられぬ。誰しも心がある。楽しさを忘れて、ただ祈り続けるだけの存在となり、なにが人生か」
「まさか――」
「彼らの禁断の門を、彼女たちがこじ開けたのだ」
右拳を思いきり振り上げる。
「覚悟せよ。次はお前の心に、禁忌の鍵を入れてやる」
『入れないで♪』
「ぜあっ!」
魔笛が響き、<狂愛域>が拳に纏う。
突き出された正拳突きが、福音神ドルディレッドを吹き飛ばす。
「がはぁっ……」
音そのものであるはずのゴルロアナの鳩尾に、俺の右拳が突き刺さり、奴の体を強引に持ち上げる。
音には音を、神には愛を。
<狂愛域>と魔笛、そして『隣人』の振り付けが、攻撃の通じぬ福音神を、確かに腐食する。
『入れないで♪』
「……やめ……なさ……福音に、そんな音を――お、おお、神が腐って……!?」
「ぜあっ!」
左拳が再度、教皇の腹部を叩き、奴の体がくの字に折れる。
『入れないで、それは禁忌の鍵♪』
「……福音が、消え…………」
「ぜあっ! ぜあぁっっ!! ぜああああああぁぁぁっっっ!!!」
両拳に纏った<狂愛域>を教皇の顔面に叩きつける。
弾けるように教皇は後ろへ吹き飛び、柱を数本をへし折り、壁にぶち当たって、ようやく止まった。
「福音だかなんだか知らぬがな」
福音神ドルディレッドが腐り果て、滅ぶ。
神の力を失った教皇に俺は言った。
「振り付けもない歌が、俺に響くと思ったか」
神をも腐食す、狂気の愛――