王竜
王宮の地下鍾乳洞に、<思念通信>が響く。
『敬虔なる信徒リシウス』
「おお……」
その声を神託とばかりに、リシウス王はうやうやしく跪き、祈りを捧げた。
『今こそ神託を示すときです。力に溺れた勇者から、霊神人剣を、神を取り戻すのです』
それはアヒデの言葉だった。
「<全能なる煌輝>エクエスの御心のままに。必ずや、霊神人剣を取り戻し、我らが神アルカナに捧げましょう」
リシウスはそう言って立ち上がると、竜の粘液に縛られたレイと、霧にまとわりつかれたミサを睨む。
「勇者カノンよ、心は決まったか?」
盟珠の指輪がかかげられ、ミサにまとわりついた霧が淡く光った。
想いの番神エヌス・ネ・メスは、その神体の殆どをミサの頭の中へと侵入させている。
残るは一割ほどだろう。
「この娘もずいぶん抵抗したようだが、神の秩序に敵うべくもない。エヌス・ネ・メスが完全に体内に入り込めば、心は完全に失われる。その前に霊神人剣を抜くがよい」
レイは一瞬、ミサに視線をやる。
想いの番神の支配に、彼女は必死に抵抗していた。
「勇者よ。そなたの役目はもう終わったのだ。霊神人剣は、新たな主人を求めておる。神の御意志に従いなさい。さもなくば、どうなるか。わかっているであろう?」
脅すように言ったリシウスに、レイは爽やかな微笑みを返した。
「何度でも言ってあげるけどね。たとえ想いを司る神が相手でも、僕たちの愛を奪うことはできやしないよ」
「カノン」
冷たい口調でリシウスが言う。
その表情には、神を侮蔑されたことに対する怒りが、ありありと浮かんでいた。
「僕たちの愛だと? 自惚れにも、ほどがあるぞっ。この心はあまさず神のもの。その愛をお与えになったのが、想いの番神エヌス・ネ・メスぞっ!!」
盟珠の指輪に魔力がこもり、リシウスは番神に命を下す。
「……う、あぁ……!」
「神よ。傲慢なこの者たちから、与えし愛を取り返したまえ」
その霧が激しく光ったかと思うと、ミサの頭の中にすうっと消えていった。
すると、ミサの右腕に霧の籠手が現れる。続いて左腕に籠手が、兜が、胸当てや、すね当てなどが現れる。
まるで想いの番神エヌス・ネ・メスにその体を支配されたかのように、かの神の霧の鎧を、ミサが纏わされていた。
「さあ、我が神エヌス・ネ・メスよ。そのお力で、神を裏切りし勇者カノンに、裁きを下したまえ」
竜の粘液に縛られたレイに、霧の全身鎧を纏ったミサが、顔を向けた。
「愚か者とはお前のことを言うのだ、カノン。お前が頑なに霊神人剣を返さぬせいで、恋人の心が失われたのだ。お前の因果が彼女に報いを与えることになったのだ。その罪を償うがよい」
ミサはまるで操られるが如くゆっくりと歩いていき、その手をレイの頬にそっと沿わせる。
彼女は言った。
「ねえ、レイ。あなたは変わり果てたわたくしを愛することができまして?」
「……ミ、サ…………?」
レイの表情が驚きに染まる。
「くくく、ようやく理解しおったか、カノン。二千年前の英雄とはいえ、霊神人剣の導きがなければ、ただの能なしであったか」
ミサが顔を近づけ、兜のバイザー部分を上げる。
「ほら、答えなさいな。わたくしはもうミサではありませんわ。こんなわたくしを、愛することなんて、できないでしょう?」
ミサの言葉に満足そうに、リシウスがうなずく。
「勇者カノンよ。これが現実である。愛の力で神の御心に逆らおうなど、蟻が象に挑むようなもの。すべてを受け入れ、そして霊神人剣を神へ返すがよい」
「いいや」
レイは言う。
「君はミサだよ。言ったはずだ。見た目や、言葉遣いなんかじゃ、僕の気持ちは変えられない。君が君である限り、僕は君のことを愛している」
兜の隙間からミサの瞳を覗き、レイは言った。
「初めて見せてくれたね。真体の君も、とても可愛らしい」
リシウス王はレイの言葉に、怪訝そうにまゆをひそめる。
「…………なにを意味のわからぬことを。どうやら、とうとう血迷ったか……」
「合格ですわ」
「そう、合か……く……? なんと……?」
黒き雷がミサの手の平から溢れ出し、レイを縛る竜の粘液をズタズタに引き裂いていく。
起源魔法<魔黒雷帝>が、彼を完全に解放した。
「……か、神よっ。想いの番神エヌス・ネ・メスよっ! いったいなにをっ!?」
ミサはゆるりと振り向き、その視線でリシウスを射抜く。
彼女は自らの指先を優雅に胸元へ当てる。
「その番神でしたら、わたくしが掌握してますわ。いくら想いを司る番神だからといって、わたくしの体の中ではわたくしに敵うわけがないでしょう?」
信じられないといった表情で、リシウスはミサを見つめる。
「………エヌス・ネ・メスは……想いの秩序を司る、神であるのだぞ……」
「不思議ですわね。確かに怒りも悲しみ、喜びも楽しみも、この神は司っています。けれども、優しさと愛だけはとても脆弱のようですわ」
「なにを馬鹿な……。エヌス・ネ・メスは全ての想いを司る神であるのだ……脆弱などということが……」
「仮にそうだとしても、それがなんだとおっしゃるのでしょうか?」
ふわりと微笑んだ彼女に、リシウスはわけもわからず体を震わせる。
「リシウス王。あなたは、魔王再臨の式典をご覧にならなかったのですか? それとも、わたくしの存在が、ディルヘイドをよくするための方便だとでもお思いになりまして?」
ミサは兜を手にし、それを外す。
長く伸びた、深海の如き髪がふわっと揺れた。
「わたくしはアヴォス・ディルヘヴィア。神を滅ぼす、偽物の魔王ですわ」
彼女が兜を地面に転がし、それを足で思いきり踏みつける。
ぐしゃり、といとも容易くそれは潰れ、辺りに霧散する。
「もっとも転生した今は、ただの恋する少女ですけれど」
怯えたようにリシウスが飛び退く。
「くっ。も、戻りたまえっ。エヌス・ネ・メスッ! その化け物から離れるのだっ!」
ミサが纏っていた鎧が霧と化して離れていく。
あらわになったのは檳榔子黒のドレス。束縛から解かれたように、六枚の精霊の羽がその背に現れる。
遠ざかる霧はリシウスの前に集まって、再び全身鎧を構築した。
破壊された兜も、元に戻っている。
「……どうやら貴様らには、もっと強い罰を与えねばならぬようだな……」
盟珠をかざし、リシウスは唱える。
「我が神エヌス・ネ・メスよ。今こそ、余に王竜の力を与えたまえ」
想いの番神が光る霧と化して、リシウスにまとわりつく。
その全身鎧が今度は彼に装着された。
「<全能なる煌輝>の御心のままに!」
彼が祈りを捧げた瞬間、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!」
異竜の雄叫びと共に、その牙がリシウスに食らいついていた。
「……か、はっ…………!」
血を滴らせながら、彼は狂気に満ちた瞳を向けて、唇を歪めた。
「……神よ……まもなく……御身のもとへ……」
その呟きと同時であった。
エヌス・ネ・メスを纏ったリシウスを異竜は食らい、ごくりと、その体内へ飲み込んでいく。
「グ・オ・オ・オ・オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッッッ!!!」
けたたましい咆吼が二人の耳を劈き、白き異竜の体から神の魔力が溢れ出す。
その巨大な体躯にうっすらと霧が現れ、それらが異竜を覆う鎧と化す。
「へえ」
「そういうことでしたの」
白き異竜の魔眼が、ギラギラと狂気に満ちた輝きを放つ。
その場に、<思念通信>が響いた。
「……ククク、この神々しさに、ひれ伏すがよい、カノン。これは神の導きによるもの。余の根源は異竜に飲み込まれた。しかし、エヌス・ネ・メスの力で、余は竜となったのだ。これこそ、神の奇跡。王竜と呼ばれる姿である。アゼシオンの民をこの身で食らい、そして、神のもとへと誘う。やがて、凝縮された根源は新たな生命、一人の子竜を産み出すであろう」
王竜が大きく翼を広げれば、鍾乳洞に満ちた聖水がその巨躯に集い、吸い込まれていく。
あっという間に、鍾乳洞の地底湖は干からびてしまった。
「その子竜こそが、神より王権を賜りし偉大なる王。それが余、リシウス・エンゲロ・ガイラディーテである」
霧の鎧を纏った王竜リシウスが、レイとミサをぎろりと睨む。
だが、二人とも、僅かにすら怯まなかった
そのとき――
『……助けて…………』
声が響いた。
『…………助けてください……勇者様…………お父様は、狂っています……』
異竜の内側から、<思念通信>が届いた。
「わかるか? カノン、この声は余の娘、異竜にその身を捧げた王族の一人のものである」
レイは険しい視線を王竜へ向けた。
「根源を竜に食われれば、意識は残らぬもの。だが、エヌス・ネ・メスの力であえて一人だけ残しておいた。なぜだと思う?」
「……彼女を助けたければ、霊神人剣でその宿命を断ちきるしかない」
竜に食われたものは元には戻らぬ。
だが、意識が残っているのならば、霊神人剣でその宿命を断ちきれるやもしれぬ。
「その通りである。さあ、どうするのだ? 勇者カノン。先程同様、霊神人剣を抜かずに、哀れなこの娘を見捨てるか? そこの化け物女とは違い、この娘はそれほど強くはないぞ?」
ふう、とレイはため息をつく。
そうして、覚悟を決めたような表情を浮かべ、右手に魔力を集めた。
光と共に召喚されたのは霊神人剣エヴァンスマナである。
「ククク……そうだ。それでいい。ようやく神を返す決心がついたか。さあ、くるがいい、カノンよ」
王竜から不気味な笑い声が漏れる。それは鍾乳洞全体に響き渡っていた。
「罠だと思いますわ」
ミサが言った。
「そうかもしれない」
「助けたところで、後悔なさるかもしれませんわ」
「それもわかっている」
ふわり、とミサは微笑する。
「でしたら、存分に。後始末はわたくしにお任せくださいな」
キィィィィンッと竜鳴が鳴り響く。
「どうした、カノン? 来ぬのならば、こちらから行くぞっ!!」
霊神人剣を食らおうと、王竜の首が突っ込んできた。
レイが飛び退いてそれをかわすと、ズガァァンッと足場に巨大な穴が空いた。
二人はそのまま<飛行>で浮かび上がる。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッッ!!!」
けたたましい咆吼と共に、王竜から吐き出されたのは真っ白な光のブレスである。
エヌス・ネ・メスの持つ想いの秩序を、<聖域>で魔力に変換し、<聖域熾光砲>を放っているのだ。
「まあまあですわ」
構わずブレスに突っ込んだレイに、ミサは<四界牆壁>を纏わせる。
ゴオオオオオオオオオオオオオオォォと魔力と魔力が衝突する激しい音を奏でながらも、レイは竜の頭へ突っ込んだ。
「霊神人剣、秘奥が一――」
振りかぶったレイが、七つの根源から溢れる魔力を無にしていく。
「――<天牙刃断>ッ!!」
レイが口にした頃にはすでに、無数の光の剣閃が、巨大な王竜を斬り裂いていた。
宿命を断ち斬る、その聖なる刃は、神々しい光で竜を包み込む。
その光から、現れたのは一人の女性の姿である。
彼女はまだ王竜と体を共有している。
「つかまって」
レイが彼女に向かって手を差し出す。
その王族は必死に手を伸ばし、彼の手をつかんだ。
「君のこの悲劇の宿命を断ちきる。大丈夫だ。僕を信じてほしい」
こくりと、彼女はうなずく。
霊神人剣の剣身が光と化し、レイはそれを彼女の胸に突き刺した。
「……ありがとうございます……」
にっこりとその女性は笑った。
本当に嬉しそうに。
「これで、私も、ようやく神のもとへ行くことができます」
霊神人剣がその女性の体に飲み込まれていく。
「くっ……!」
「さようなら、勇者カノン。いいえ、聖剣なき今、あなたは何者でもない、ただの魔族でしたね」
女性の爪が鋭く伸びる。
それは竜のかぎ爪を彷彿させた。
「あなたも神のもとへ送ってあげましょう」
閃光のようにかぎ爪が振るわれる。
だが、レイの頭に突き刺さる寸前、その娘の腕は細い指先につかまれていた。
「あなたたち人間は、何度彼を裏切れば、気が済みますの?」
真っ黒な指先が女性の胸を穿つ。
「かはっ……!」
ミサはぐっと力を込め、女性の体を王竜から無理矢理引きはがしていく。
「やっ……やめなさいっ! 離しなさい! わたしは王竜と一体になり……神のもとへと旅立つのです……!!」
「あなたの行き先は神のもとではなく、地獄ですわ」
<根源死殺>の手で、ミサはぐしゃりとその根源を滅ぼす。
光と化して、王族の娘は飛び散った。
「ガアアアアアアアアァァァァッッッ!!」
王竜の爪が勢いよく振り下ろされ、レイとミサは空中を退いた。
「ククク……返してもらったぞ。霊神人剣を、アゼシオンの神を……」
突き刺さった霊神人剣を、王竜はその身に完全に取り込んだ。
ぽぉっとその白い体躯が輝き始める。
「ガ・ガ・ガ・ガアァァァァァァァッァッッッ!!!」
王竜の頭部が真っ二つに裂ける。
そこからゆっくりと生えてきたのは、一本の巨大な角。
金属のような煌めきを放つ、その剣角はまさしく、聖なる光を有した巨大な霊神人剣エヴァンスマナだった。
「……いつまで経っても、僕は馬鹿なんだろうね……」
「あら? そんなことはありませんわ」
悲しい表情を浮かべるレイに、ミサは微笑んでみせた。
「たかだか棒きれ一本と引き換えに、救うべき人間がここにはいないことがわかりましたわ。これで存分に戦えるでしょう?」
レイは一瞬目を見開き、それから、こくりとうなずく。
「そうだね……」
彼は笑顔を浮かべ、王竜に向かって言った。
「元々もらい物だからね。返せというのなら、返してあげるよ。だけど、竜の力を借りても、エヌス・ネ・メスの力を借りても、エヴァンスマナの力を借りても、僕は君をアゼシオンの王だとは認めない、リシウス」
ククク、とリシウスは笑声をこぼす。
「愚か者め。霊神人剣を持たぬただの魔族の言葉に、今更、余が耳を貸すわけがなかろう。聖剣に選ばれたからこそ、カノン、お前は勇者だったのだ。神の加護のないお前に認めてもらわずともよい。余は偉大なる神より、王権を賜るのだ。永遠の命とともに、霊神人剣を手にし、この地上を、アゼシオンを治める真の勇者となるっ!」
王竜が突っ込んできて、その剣角エヴァンスマナでレイとミサを襲う。
魔法陣から一意剣を抜いたレイが、それを斬り払おうと刃を交えた瞬間、いとも容易く魔剣が切断された。
咄嗟に飛んでレイが回避すると、鍾乳洞の壁に剣角が突き刺さる。
王竜がぐるんと身を捻れば、まるでバターを斬るかのように、鍾乳洞の壁が崩れ落ちて、ガラァンッと激しい音を立てる。
「エヌス・ネ・メスと<聖域>、聖水、異竜、そして取り込んだ根源により、カノン、このエヴァンスマナは貴様が使っていたときよりも、遙かに偉大な権能を持っているのだ。これこそ、真の聖剣ぞっ!!」
王竜が翼をはためかせ、鍾乳洞に浮かび上がる。
そのまま滑空するかの如く、レイに突っ込んできた。
「真の聖剣の力を思い知り、神にひれ伏すがいいっ!!」
巨大な剣角エヴァンスマナが光を纏い、レイに迫る。
彼はその魔眼を向けると、折れた一意剣イグシェスタで迎え打った。
「ククク、馬鹿めがっ! 先程、叩き斬られたのを忘れたかっ!」
「ふっ……!!」
バチィッと激しい光の粒子が飛び散った。
勢いよく飛行した王竜の勢いが、レイに受けとめられるかのように停止した。
「……な……ん……だと…………!?」
折れた一意剣シグシェスタは、しかし、<聖愛域>の光に覆われ、剣身が作られていた。
その切っ先で、王竜の剣角の先端を寸分違わず狙い、受けとめたのである。
「真の聖剣とはよくいったものですわ」
声と同時に、<幻影擬態>と<秘匿魔力>で姿を消していたミサが王竜の目の前に現れた。
彼女は、レイの右手にそっと手を携え、<聖愛域>の剣を一緒に握っている。
「わたくしたちの愛には敵いもしませんのに」
言葉にした瞬間、黒き稲妻が彼女の周囲に膨れあがる。
起源魔法<魔黒雷帝>が、王竜の全身に落雷した。
「グエエェェェェェェェェェェェッッッ!!!」
激しい黒雷に撃たれ、王竜が怯む。
その瞬間、<獄炎鎖縛魔法陣>がその巨躯を縛りつけた。
「ミサ。僕の動きに」
「慣れていますわ」
二人は呼吸を合わせ、一本の<聖愛域>の剣を握り締めながら、同時に振り上げた。
その光の剣は長く長く、長大な刃を構築する。
魔法でつながったミサは、レイのやろうとしていることを瞬時に理解した。
<聖愛剣爆裂>は、二人の愛を一つに重ねる剣。
だが、長い勇者の歴史には、その先がある。
心も体も一つにして、敵を屠る愛魔法の極地。
寸分違わず、互いの動きに同調にしなければ、その剣は成らぬ。
想いだけでは届かぬその深奥に、暴虐の魔王の伝承を持つミサとならば、辿り着くことができると彼は思った。
今、二人の愛が激しく燃え上がる。
「「<双掌聖愛剣爆裂>」」
王竜の巨躯に、二人が手にした光の剣が降り注ぐ。
その剣閃を辿るかの如く、無数の爆発が巻き起こった。
それは王竜の纏う霧の鎧の内側から、否、その巨躯の更に内、体内に飲み込まれた根源という根源を爆発させていく――
「……ばっ……馬鹿なぁっ……こんな馬鹿なっ……真の勇者となる余が……この王竜がぁぁ……なぜ、聖剣ももたぬただの魔族なんぞにぃ…………!!?」
「簡単なことですわ」
膨大な爆発に飲み込まれていく王竜に、ミサとレイは視線を向ける。
「勇者の真の聖剣は、そんな棒きれなんかではなく、彼の心にある愛ですの」
とどめとばかりに、二人は<双掌聖愛剣爆裂>を王竜に突きだした。
「グガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!」
膨大な光の剣が、リシウス王の根源に突き刺さる。
「人の恋路を邪魔する神は」
「愛に切られて爆発なさい」
ドッガアアアァァァンッと一際大きい爆発が起き、崩落した鍾乳洞の瓦礫に王竜がみるみる埋められていった――
恥ずかしがって真体を見せられなかったミサとの、これが初めての共同作業……。