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二千年前の魔族たち


 ミーシャが小さく手を挙げる。


「神の子を探す方法は?」


 すると、エレオノールが「あ」と声を上げた。

 全員の視線が彼女に集中する。


「あ、ごめんね。違うぞ。ちょっと<思念通信リークス>が来て、いいかな?」


「問題ない」


「すぐ戻ってくるぞ」


 エレオノールが俺たちの輪から少し外れる。


「お待たせ。レドリアーノ君、どうかしたの?」


 エレオノールの<思念通信リークス>から、そんな言葉が漏れた。

 勇者学院からの連絡だろうが、なにか問題でも起きたか?


「アノスの魔眼でも神の子は見つけられないかな?」


 レイが言う。


「直接対峙し、深淵を覗けば、あるいはといったところか。だが、神の子の片鱗さえないなら無理だろう。ないものは見えぬ」


「それだと無駄足かもしれないし、生徒や教師の経歴から調べた方がいいんじゃないかしら? 神族がなにかしたっていうなら、どこかでつながるはずでしょ?」


「時間はかかるが、まあ妥当なところか」


 この学院にいるかどうかもまだ不確定だが、手がかりがない以上、虱潰しに探すしかあるまい。


 と、そのとき、こちらを見つめる視線を感じた。


 振り向けば、そこに黒服の男子生徒が立っていた。

 校章は六芒星。押さえてはいるが、強い魔力を有している。


 いや、この時代の魔族にしては、少々強すぎるか?


 くせっ毛の髪を持ち、利発そうな佇まいをしている。

 知らぬ顔だ。このクラスの生徒ではあるまい。


呪盾じゅじゅんの牙」


 ミーシャが呟く。


「混沌の世代の一人が、アノスになにか用かしら、ゲラド?」


 サーシャが俺の前に出て、そう尋ねた。


「お気に障ったのでしたら、失礼。用があるのは彼ではなく、彼女です」


 ゲラドと呼ばれた少年は、丁寧な所作でミサの前に跪く。


「ミサ・イリオローグ様、あなた様の父君に仕えるゲラド・アズレマと申します。本日は、主の命で参りました」


「え…………?」


 驚いたように彼女は目を丸くした。


「この場で続きをお話ししてもよろしいでしょうか?」


 ミサは戸惑いながらも、こくりとうなずく。


「ようやく、ときが来ました。父君はあなた様に迎えを出したのです。もしも、あなた様に父君にお会いする気持ちがあれば、私とともに来てくださいますよう、お願いいたします」


「……どこへでしょうか?」


「今、申し上げるわけにはいきません。我が主には、父君には敵がおります。あなたが、娘だということを知られるわけにはいかないのです」


 ミサが俺を振り向く。

 許可を求めているような眼差しだ。


「ゲラドと言ったか。お前はいつ転生した?」


 その言葉に、男子生徒は油断のない視線を返す。

 警戒しているようでもあった。


「いくら押さえていても、お前の魔力はこの時代の魔族のレベルをゆうに超えている。隠し通せるつもりか?」


「……さすがは、暴虐の魔王。お見それいたしました……」


 ゲラドは跪きながら、俺に頭を下げた。


「私の転生が完了したのは先のアゼシオンとディルヘイドの戦争が終わった後のこと。この体にようやく記憶と力が戻りました……」


 なるほど。


「魔王様を謀ろうとしたわけではないことは、ご承知いただければと……」


「主は誰だ?」


「申し上げられません」


「俺の前で黙秘が通じると思うか?」


「……滅ぶのも覚悟の上でございます……」


 ふむ。そこまで忠誠を尽くせる者が主か。

 

「アノス様……」


 訴えるようにミサが俺を見てくる。

 彼女の気持ちは、聞くまでもあるまい。


「ようやく念願が叶おうとする配下を働かせるほど、俺は無体ではない。行ってくるがいい。後のことは任せておけ」


「ありがとうございますっ!」


 ゲラドはすっと立ち上がり、ミサに言う。


「それでは、案内いたします」


 ゲラドは踵を返し、入り口の方へ歩いていく。


「ああ、待て、ゲラド。俺の配下を預かるのだ。わかっているだろうな?」


 振り返り、彼は丁寧にお辞儀をした。


「もちろんでございます」


「ならば、もう一人つれていけ。正体も明かせぬというのだから、そのぐらいの要求は飲んでもらうぞ」


 一瞬の沈黙の後、ゲラドは言った。


「かしこまりました」


 俺は振り向き、レイと目を合わせた。

 

「恩に着るよ」


「では、帰ったら土産話でも聞かせろ」


 彼はミサを守るように前に出る。


「邪魔しない方がよかったかな?」


 ふふっ、とミサは声を漏らした。


「心強いですよー。けっこう、あたし緊張しちゃってますから」


 二人は笑顔を交わす。


「参りましょう」


 ゲラドにつれられ、ミサとレイは教室を出ていった。


「あれ? ミサちゃんとカノン、どこへ行ったの? デート?」


 <思念通信リークス>を終え、エレオノールが戻ってきた。


「ミサの父親が会いたいそうでな」


 すると、エレオノールはびっくりしたように声を上げた。


「わお……ご挨拶だ……」


「ちょっとアノス、その言い方誤解するわ」


 そうサーシャが口を挟む。


「気になるなら、帰ってきてからレイに聞くことだ」


「うん、そうするぞ」


 その様子をサーシャは呆れたように眺めていた。


「それで、勇者学院でなにかあったのか?」


「あ、うん。レドリアーノ君たちから連絡があって、ジェルガが遺していった厄介な魔法具が見つかったんだって。もしかしたら、前の<聖域アスク>みたいな効果があるかもしれないから、処分したいんだけど、できないって」


 ジェルガの遺産か。

 万が一、自らが滅びたときに備えていたか?


「壊せばいいのか?」


「それがいいと思う。ミッドヘイズに来てるみたいだから、まずボクとゼシアで行ってくるぞ。どうしてもだめだったら、アノス君に頼んでもいいかな?」


「ふむ。今のお前に壊せない魔法具はそうそうないと思うが、だめだったら遠慮なく呼べ」


「ありがと。あー、でも、神の子の後の方がいいかな?」


「なに、最悪、神の子が目覚めたところで、狙われるのは俺だ。先にそっちの魔法具を壊しておけ」


「そっか。そうだね。じゃ、大急ぎで行ってくるぞ。ゼシア、ほら」


 黙って俺たちの話を聞いていたゼシアに、エレオノールが声をかける。


「……ばいばい……行ってきます……」


 手を振るゼシアに、ミーシャが手を振り返していた。

 二人が去ると、彼女は俺を見上げた。


「ユニオン塔へ行く?」


 今日はメルヘイスに戦後処理の状況などを詳しく聞き、今後の予定を決めるつもりだった。すでにユニオン塔にいるだろう。


 ついでに、魔王学院に所属している魔族の情報も集めさせ、それからエールドメードが教員になった経緯も聞いておくか。


「そうしよう」


 サーシャ、ミーシャと並んで歩き、教室を後にする。

 メノウにノウスガリアの件を伝えておこうと、<思念通信リークス>を発する。


 だが、つながらない。


「どうかした?」


「メノウに<思念通信リークス>が通じぬ」


 魔眼で学院を一望するも、メノウの魔力は感じられない。

 だが、不自然な箇所があった。


 メノウが担当している3回生クラスの教室だ。

 うまく隠してあるが、魔力の流れが微妙におかしい。


「手を出せ」


 俺が両手を伸ばすと、サーシャとミーシャはそれを握った。

 <転移ガトム>の魔法で転移し、3回生の教室前へやってくる。


 ミーシャがドアを開ける。

 が、そこは誰もいない。がらんどうの教室だ。


「……<次元牢獄アゼイシス>……」


 ミーシャが魔眼を向ける。

 外から入れぬように隔離された魔法の部屋が別次元に構築されている。


「アノスッ、これ、壊すわよ?」


「許す」


 サーシャが破滅の魔眼でキッと<次元牢獄アゼイシス>を睨む。

 ガラスがちりぢりに砕けたように、魔力の破片を辺りに撒き散らせ、<次元牢獄アゼイシス>の魔法が崩壊していく。


 別次元を維持できなくなると、そこに倒れ込んでいる3回生の生徒たちの姿が現れた。


「……あ…………アノス…………」


 かろうじて、そう声を発したのはリーベストだ。

 回復魔法をかけながら、彼に近寄っていく。


「……メノウ先生が、さらわれました……」


「何者だ?」


「1年生。混沌の世代の一人、剛剣リンカ・セオウルネス……です」


 リーベストが魔法陣をそこに描く。


「<追跡エノイ>の魔法を仕掛けました。まだ気がつかれてはいないはず……」

 

 <追跡エノイ>はしかけた相手の居場所を追跡する魔法だ。

 魔眼を向ければ、メノウをさらった魔族がここから遠ざかっているのがわかる。


 空を飛んでいるか。それも、かなりの速度だな。

 

「捕まえるのは容易いが、妙な話だな」


 ミサの父親の使者が訪れ、勇者学院がジェルガの遺した魔法具を発見し、そしてメノウがさらわれた。

 これらが同時に起こったのは、偶然か?


「……リンカが、神の子……じゃないわよね……?」


「陽動……?」


「アノスが魔王学院から目を離した隙に、ノウスガリアがなにかするつもりってこと?」


 魔族が奴に協力したか。

 それとも、熾死王エールドメードの体でうまく騙したか。


「ありえないことではないな」


「わたしたちが行くわ」


 その言葉に、ミーシャがうなずく。


「気をつけろ。リーベストを含む3回生の生徒を一蹴し、メノウをさらうほどの手練れ。神の子でないのなら、恐らく、二千年前の魔族だ」


「大丈夫」


 ミーシャが言った。


「わたしたちが誰に鍛えられたと思ってるの?」


 サーシャはそう微笑する。

 二人は手をつなぎ、<追跡エノイ>で特定した位置へ<転移ガトム>を使った。


事件が同時発生した模様ですが、果たして偶然なのか?

それとも、レイとミサだけ違う緊張感のご挨拶を繰り広げるのか?

こうご期待です。




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