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適性検査


「次はそこの部屋に行けばいいのか?」


 ミーシャはこくりとうなずく。

 適性検査が行われている部屋に入ると、石像の上にいたフクロウが口を開いた。


「魔法陣の中心に入り、適性検査を受けてください」


 床にはいくつもの魔法陣が描かれており、すでに適性検査を受けている生徒たちはその中心に立っていた。


「……じゃ……」


「おう。後でな」


 ミーシャは空いている魔法陣の中心まで歩いていった。

 俺も適当な魔法陣を見つけ、その中心に立ってみる。


 すると、頭の中に声が響いてきた。


『適性検査では、暴虐の魔王を基準とした思考適性を計ります。また暴虐の魔王に対する知識の簡単な確認を行います。思念を読み取るため、不正はできません』


 ふむ。<思念通信リークス>の応用か。

 思念の読み取りでは嘘をつけないというのは未熟な使い手の話で、別段不正をするのはさほど難しいわけではない。

 もっとも、特に不正をする理由もないわけだが。


『では最初に、魔王の始祖は名前を呼ぶことさえ恐れ多いとされていますが、その本名をお答えください』


 迷うまでもない。アノス・ヴォルディゴードだ。


『神話の時代。始祖はディルヘイドを壊滅させる、<獄炎殲滅砲ジオ・グレイズ>の魔法を使いました。これにより、ディルヘイド全てが焦土と化し、多くの魔族の命が失われました。なぜこのような暴挙を行ったのか、このときの始祖の気持ちを答えなさい』


 ふむ。懐かしい話だ。

 なぜディルヘイドを<獄炎殲滅砲ジオ・グレイズ>で焼き尽くしたのかと言えば、寝ぼけていたのである。

 あのときは勇者カノンとの長い戦いの最中だった。

 寝ても覚めても考えるのは奴のことばかり、いつ何時も気を抜かないように、常に臨戦態勢を維持していた。

 おかげで夢でまでカノンと戦う羽目になったのだが、それでついついうっかり魔法が暴発してしまったというわけだ。


 しかし、この質問、微妙に間違っているな。確かにディルヘイドは焦土と化したが、魔族は一人も死んではいない。

 寝ぼけていたとはいえ、咄嗟に魔法を制御して、誰も殺さないように絶妙な力加減でうまく国を焼いたのだ。

 それぐらいのことができなければ、魔王とは言えまい。


『逆らう者は皆殺し。というのが始祖の信条であったと言われていますが、これが魔王として正しい理由を、あなたの考えで述べなさい』


 引っかけ問題か。逆らう者は皆殺し、などと言った覚えは一度もない。殺す必要がなければ、殺さないというのが俺のやり方だ。ただあの時代では、殺した方がより多くを助けられた。それだけのことにすぎない。


『では、続いての問題ですが――』


 などと、適性検査は続く。

 とはいえ、すべては俺に関する質問ばかりだ。当然答えられないわけがなく、特に迷うことなくスラスラと回答をした。


 それから三○分後――


 適正検査が終了し、俺はその部屋を後にする。

 帰り際になにやら入学について説明していたフクロウの言葉を軽く聞き流して、大鏡の間を抜ける。


 すると、外にミーシャが立っていた。

 なにをするわけでもなく、ぼんやりと虚空を見つめている。


「なにしてるんだ?」


 声をかけると、ミーシャは顔をこっちに向けた。

 相変わらず無表情だ。


「……待ってた……」


「俺を?」


 こくりとミーシャがうなずく。


「後でって言ったから」


 そういえば、言ったな。


「悪い。適性検査で今日はもう終わりだったんだよな」


「……ん……」


 しかし、わざわざ待っていてもらったというのに、このまま、じゃあまたな、と帰すのは気まずいな。そんな度量のないことをするわけにはいかない。


「なら、合格祝いに、遊んで行かないか?」


 ミーシャは無表情のまま、ほんの少し首をかしげる。


「わたしと?」


「おう」


「いいの?」


「俺が誘ってるんだ」


 なにを考えているのか、ミーシャは俯いて黙ったままだ。


「用事があるなら別にいいぞ」


「……行く……」


「そうか。じゃ、とりあえず家に来ないか? たぶん、母さんがご馳走作って待ってるだろうからな」


 ミーシャはこくりとうなずく。


「よし。つかまりな」


 手を差し出すと、ミーシャはそこにすっと手を置いた。


「こう?」


「それじゃ、置いてかれるぞ」


「<飛行フレス>なら使える」


 <飛行フレス>というのは空を飛ぶ魔法のことである。

 なかなか使い勝手はいいのだが、移動するならもっと適した魔法がある。


「いいから、もっとつかまってみろ」


「わかった」


 ミーシャは素直に俺の手をぎゅっと握った。

 地面に魔法陣が浮かび上がり、目の前の風景が真っ白に染まる。


 次の瞬間、目の前には鍛冶・鑑定屋『太陽の風』の看板が見えた。

 木造で、二階部分が住居になっている。


「ついたぞ。俺の家だ」


 そう口にするが、ミーシャはじーっと目の前の看板を見つめたままだ。

 表情に変化はないのだが、なんとなく気配で驚いているというのがわかる。


「……魔法……?」


「おう。<転移ガトム>だ、簡単に言えば、空間と空間をつなげて一瞬で移動する魔法だな」


 一瞬、ミーシャは口を閉ざす。

 それから、呟くように言葉を漏らした。


「……失われた魔法……」


 ふむ。聞き覚えがないな。


「なんだそれ?」


「使い手がいなくなった魔法のこと。主に神話の時代に失われた」


 なるほど。二千年の間にずいぶんと魔法術式は退化しているようだし、存在は知られているものの、使い手がいなくなった魔法もあるのだろう。

 特に<転移ガトム>は俺が開発した魔法で、元々神話の時代でも使い手は少なかった。


「……アノスは天才……?」


 はは、と思わず笑ってしまう。


「……本気……」


「いやいや、悪い。これぐらいで天才って言われるのがこそばゆくてな」


 天才だというのを否定するわけではないが、どうせなら、誰にも真似できない魔法を見せたときに言われたいものだ。


「……アノスは何者……?」


「魔王の始祖だ」


 ずっと無表情だったミーシャが目を丸くして驚いた。


「……転生した……?」


「信じるか?」


 ミーシャはじっと考え、訊いた。


「……証拠は、ある……?」


 やはり、そこが気になるだろうな。


「俺が証拠だ。この俺の魔力がな。もっとも、この時代の連中は魔眼が弱すぎて、俺の力の深淵を見ることさえできないようだが」


 困ったようにミーシャが黙り込む。


 本来、魔王というのは力で証明するものなのだ。

 しかし、純血だの、皇族だのと表面的なことばかりを気にするこの時代では、少々俺の考えとは違うのかもしれないな。


「アノスの魔力は膨大。わたしにも底が見えない」


 ミーシャに見えないなら、殆どの連中にはわからないだろう。

 これ以上、困らせても仕方あるまい。


「まあ、そのうちわかる。行こうぜ」


「……ん……」


 俺は家のドアを開けた。


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