星海鉄道
青に覆われている大地。どこまでも続く青。ここはこの星系一の果てしない水の星。
隣の星はエメラルド色の空に浮かび星系の列を作っている。
青の真ん中にポツリと駅のホーム、その周りには水平線の彼方まで一面が静かなる水面。ホームに続く見渡すかぎりどこを見ても真っ青な、まるで鏡のような湖面。
ホームに続く水面に浮かぶ線路が一筋。今は静かな線路は水面に光っている。
線路の行く先はエメラルド色の空に浮かぶ遥か遠くの大きな赤い星。この水の星はひとつ前の駅。
星海鉄道。
一日一本、星と星をつなぎ、宇宙をひた走る星海列車。
ただひたすら水の上に線路。
暫く向こう轟轟と音を立ててこちらのホームにめがけて列車が走ってくる。徐々に水面を揺らし、それまで鏡面のような湖面が列車が走った後はさざ波立って列車の通った後を賑わしている。
この湖の星の駅はホームだけが湖面に立っており、駅舎はない。星海列車はこの星唯一の駅に停車するため、ブレーキをかけ始めた。徐々に停止に近づく。蒸気機関の星海列車は5両編成。ホームに入ると列車は歩みを止める。シューと列車が止まった後の一息をつく。
星海列車から降りてきたのは小さな「ヒト」と大きな「ヒマワリ」
二人は会話をしながらホームに降り立つ。
「やあ、やっとついた。」
と、ヒトは言った。
「ずっと座りっぱなしだから葉が萎れてしまったよ。」
と、ヒマワリは言う。ヒトは懐かしそうに辺りを見回す。
「相変わらず水のきれいな星だね。遠くに見える月も大きく綺麗だ。」
「そりゃあこの星は僕の生まれ育った所だからね。いい水にいい景色。これだけで僕たちは元気になれるのさ。」
と、ヒマワリは自慢げに花びらの一つを撫でている。では早速、とヒマワリはホームから階段を降り、ちゃぷんと水に浸かる。ああ生き返ると萎れていた葉をスン伸ばし全身に水と太陽の光を補給する。
ヒトはその光景を眺めうらやましそうに言う。
「僕もそうやって水を吸収できたらどれだけ気持ちいいんだろうか。」
「ニンゲンは直接体に入れれないなんて不憫だなあ。」
「だってしょうがないじゃない。こんな機械仕掛けの体では水に入れれないのだよ。」
「やれやれ、自分たちが招いたこととはいえ、不憫でかわいそうだなあ。」
ヒマワリはそう言って故郷の水を存分に味わっている。ホームから降りて水を吸っているヒマワリの根本から数メートル。ひたひたと表面上はただ広がる水の星に見えるが、水の中は違う。
ホームから数メートル行ったところで深く深く落ちていく底。水の中奥深く、かつて繁栄していたであろう遠い街の記憶と廃墟の数々。ビルや建物が底に建っている。すべては漁礁となり、魚の安寧を与えているだけの存在。
星海鉄道のホームはとりわけ高いビルの上の頂上に作られ、水の星と宇宙をつなぐ。
ポーと汽笛を鳴らし、列車は走りだす。
それを見送るヒトとヒマワリ。
じゃぶじゃぶと線路を進み、残った泡が列車がいたことを告げる。徐々に早くなっていく列車。大きな赤い月に向かって真っすぐすすむ。
そして列車の前方より空にあがっていく。列車全体が浮いたころには後ろにホームが見えなくなっていた。蒸気をひたすらあげながら、徐々に宙へと上がっていく。
星々の思いを乗っけて。次の星に向かっていく。
星海鉄道は今日も明日も進んでいく。