七夕の日の再会
わたし、中川 美波はお風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かし終えたあと、自宅の日めくりカレンダーをめくる。
表示された日付は七夕である7月7日。
「……はぁ……」
わたしは1回溜め息をつく。
その日は通っていた高校の同窓会。
しかし、わたしはその日が待ち遠しいというか、逆に行きたくなかった。
なぜならば、高校時代は楽しい思い出なんかない。
別にいじめられていた訳でもなんでもないけど……。
同窓会に行っても、わたしの存在感というものはない。
そもそも、わたしのことを忘れられているのかもしれないと思ったから。
「同窓会、行きたくないな……」
わたしはそう言うと、ベッドにごろんと横になり、知らないうちに眠りについてしまった。
*
次の日。
「うわぁ! 知らない間に寝てたんだ!」
わたしはスマートフォンの画面を見て飛び起きた。
表示されていた時間は『9:30』。
同窓会が始まるのは12時。
急いで支度して家を出れば、ギリギリで間に合う。
「目覚まし、セットしておけばよかった……」
ぼやきながらバタバタと支度を始めるわたし。
服、ヘア、メイクをし、ポシェットに貴重品を入れる。
あとは何をすべきだったっけ?
数分間考えても、何も思い浮かばなかったので、鍵を掛けて家を出た。
*
私はフラッと近くの保育園を通りかかると、子供達がキャッキャッと楽しそうに笹の葉に短冊をつけている。
「みんなー、飾り終わったかなぁ?」
「「ハーイ!」」
無邪気な子供達の声が耳に飛び込んできた。
そして、七夕にちなんだ歌を歌っている。
「こんなことしてる場合じゃないや!」
わたしは急いで会場へ向かった。
*
途中で迷子になりながらもなんとかギリギリで会場に着き、受付を済ませた。
「もしかして、1組の中川?」
突然、後ろから私の名前を呼ぶ男性の声。
「……えっ……」
わたしはハンカチで汗を拭きながら反応する。
どうせ、他のクラスの中川くんか中川さんだろうと思っていたが、1組でその名前はわたしだけだった。
「やっぱり! 僕のこと、覚えてる?」
「……同じクラスだった……倉木くん?」
「そうだよ」
倉木くんが私にニコッと笑いかける。
彼が笑いかけてくると思わず私も笑顔になった。
「わたしのこと……覚えてくれてたの?」
わたしが彼に問いかける。
倉木くんは「まぁ……うん……」と答えた。
「曖昧な答えだね。なんで?」
「な、中川?」
「何?」
彼は周囲を見回すと、他の同級生は昔話に花を咲かせていたため、安堵の表情を浮かべる。
「実は僕、中川のこと、入学した時から好きだったんだ……」
「えっ!?」
わたしは倉木くんが言ったことに対して、素っ頓狂な声を上げた。
「驚いた?」
「うん」
突然、告白するからびっくりするよ。
「なんで、わたしなの?」
「中川のおっとりしてるところが可愛くて……」
「単純な理由だね」
倉木くんも可愛いところあるじゃん。
「それなのに、中川は僕がずっとアプローチしまくったのに華麗にスルーするというか、避けられてるというか……」
「ごめんね? 当時は警戒してて」
「いや、いいんだ」
「分かった。「今は今、昔は昔」という感じかな?」
「そうかもしれない」
いつの間にかわたし達は笑いあっていた。
「なんか、倉木くんといっぱい話したのはじめて」
「僕も。返事はあとででもいいよ。ここに携帯の番号とメールアドレス、lineのIDを書いておいたから、登録するなりしてほしい」
彼から渡されたのは連絡先が書かれたメモ。
わたしはなくさないように、ポシェットの中にしまう。
「うん、ありがとう」
「みんなのところに行った?」
「いや、きたばかりだから……」
「中川は引っ込み思案なところがあるからなぁ」
「バレた?」
「バレバレ」
「さて、行くか」
「うん」
わたし達は他の同級生がいるところに向かった。
みんな、わたしのことを忘れていなかったことが大きな救い。
わたしが引っ込み思案だったせいで心配してた人が多かったから。
最初は行きたくなかった同窓会ではあったが、まさかのドッキリがついてきたけど、参加してよかったと思う。
*
同窓会が終わり……。
「倉木くん!」
「何?」
「さっきの告白のことだけど……」
「…………」
「……嬉しかった……いいよ……」
「ありがとな」
「……うん……どういたしまして」
「途中まで送るよ」
「ありがとう」
私たちは会場から途中まで、手を繋いで一緒に帰った。
「じゃあ、あとでメールするね」
「分かった!」
「じゃあね」
私たちの七夕の同窓会の再会のお話でした。