第四頁 赤ずきんと楔のアリス〜魔剣と紫の縞猫 にぼし風味〜
クリスタルガーデン領エメラルドフォレスト。
夜は魔獣が侵入してくるこの森も、日がある間は平和そのものでした。
ここの「守護者」のイージスも日が沈むまでは暇なので、いつもは自宅でりんごのパイを焼いたり、武器の手入れをしたりしていました。
しかし、いつもはひとりの家に、最近は客人が来ています。
魔王ラーヴァ。オオカミの姿をしたその魔物は、尻尾を振りながらオーブンが鳴るのをわくわく待っていました。
「イージス、まだですかね」
「もう少し待ってくれ。焼きたては確かにおいしいが、焼きが甘いと台無しだからな」
ラーヴァは先日アップルパイを一口で気に入り、それからというもの一日1回のティータイムが楽しみで仕方がありませんでした。
オーブンのガラス面に映る時間が1ずつ減っていき、とうとうチンッ!と響きのいい音を立てました。
ようやくできた!とばかりに彼がガタッと立ち上がった瞬間。
こんこん!
と、ノックの音が聞こえました。
どうやら客人のようです。イージスがドアを開けに向かいます。ラーヴァは出鼻をくじかれて少しだけ不満げでした。
なんの疑いもなくイージスがドアを開けると、そこには毛先を青に染めた、つけまつげばっちり、メイク完璧な女の子がいました。
「やっほ、イージス。ありすが遊びに来たしー」
「む、ウェッジか。今ちょうどアップルパイが焼けたところだよ。ぜひ食べていくといい」
「まじで?タイミング良いわー。あとイージス、あたしはもうウェッジって名前じゃないの。ありすをせしゅう?したんだって」
るんるんとありすは室内に入っていきます。
部屋の中はアップルパイのかおりでいっぱいでした。時間的にもちょうどおやつです。
「そういえばそうだったな。今は君の他に客人がいるが構わないか?」
「全然おっけー。狼公でしょ?ちぇしゃが言ってたんだよねー」
ラーヴァがイージスの元に来たことは、すでにありすには伝わっていました。
それもそのはず。このギャル感満載な少女はこう見えて、この世界を管理する一族のひとり。少し前に母親から「ありす」の名を継いだ彼女は、飼い猫からその情報を聞いていたのでした。
「狼公ーやっほー。ありすが来たし。こないだはちぇしゃににぼしをありがとねー」
「ありすでしたか。貴女でしたら問題ないですね。アップルパイをどうぞ」
「ラーヴァ、それは私が焼いた物だが」
「イージスのアップルパイはほんとおいしいよね。あ、ありすミルクたっぷりの紅茶ー」
「私はコーヒーをいただきますね。イージスはどうします?」
「ではりんごジュースを出してくれ」
焼きたてのアップルパイをおやつに、3人で今日のティータイムが始まりました。