第三頁 変わり者二人、街をゆく〜ビスケットの家には粉砂糖〜②
おばさまがいいから行ってらっしゃい、と言ったので、シュクレはうるさい王子と街へ繰り出すことになりました。きっと彼には庶民の気持ちなんてわからないのです。仕方ありません。
王子のあれを買ってやろうこれを買ってやろう攻撃はガン無視で、シュクレはどんどん道を進みます。はやく店に戻って仕事の続きをしたいですからね。
そんなシュクレの態度を見ても王子はめげません。ひっつき虫もびっくりのしつこさでシュクレについて回ります。
「シュクレ、あの首飾りはどうだ?」
「仕事に必要無いのでいりません」
「あそこの店のカスタードプディングは?城の召使い達が美味しいと噂していたぞ?」
「うっ、カスタードプディング…いえ、今は勤務の間であって休日では無いので」
そんなやりとりをしつつ二人でとことこと歩いていると、どこからか急に、がっしゃーん!とガラスが割れる音と悲鳴が聞こえました。
人々が音源から一目散に逃げてきます。
「おいお前、向こうで何があった?」
王子が逃げてくる人を捕まえて聞きました。
「あっ、王子!?先ほどそこにある宝石店に魔獣が飛び込んできて!王子もお逃げください!」
どうやら街に魔獣が侵入したそうです。しっかり警備をされている筈なのに、なぜでしょうか。なんにせよ一大事です。
「なんだと!衛兵は何をしている!行くぞシュクレ!」
有無を言わさず王子はシュクレの腕を引いて走ります。
さすがは王子と言うべきでしょうか、国民のピンチには敏感です。しかし女の子の腕をぐいぐい引っ張るのはどうなんでしょうね。
王子の全力の駆け足の甲斐あって、すぐに宝石店に着きました。ひどいことにショーケースのガラスは跡形も無いほど粉々です。大きな一枚ガラスを作るのはお金と手間がとてもかかりますが、魔獣にはお構いなしだったようです。弁償ものです。
ガラスは魔獣が『店の中から外へ出た』かのように、店の前に散らばっていました。
「くそっ、逃げた後か?!しかし、このガラスの散り方…魔獣が人に化けることなんてあるのか?……よしシュクレ、逃げた魔獣を探せ」
考え込んでいたと思ったらこの無茶振りです。シュクレはため息をつきましたが、協力することにしました。
仕方ありません。王子は誰かに命令する時、その人が『できること』しか言わないのです。
「仕方ないですね…あんまりやりたく無いんですけど…」
シュクレはしぶしぶある言葉を叫びました。
「変身!」
その瞬間、辺りが光に包まれました。もしアニメーションなら軽快な音楽が流れているところです。残念ながらそんなオプションはありません。
光が収まるとシュクレの姿はまるで変わっていました。
ドレスのようにツヤのある生地で作られたチュチュ・スカート。同じ生地でできたベストの下にはベルスリーブの長袖。髪には花の髪飾り。普段質素な格好ばかりしている彼女とは全く違いました。
「魔法少女、サンドリヨン!参上!」
…性格もおかしなことになっていましたが。気が乗らなかったのもわからないでもないですね。
シュクレ…もといサンドリヨンは手に持ったスタンドマイクを掲げます。魔法のステッキでは無いのはつっこんではいけません。
「くらえー!あいしんぐ☆まーち!」
サンドリヨンのスタンドマイクから、パステルピンクの光があふれ出ます。
甘そうな名前に騙されてはいけません。その光は一気に凝縮し
レーザービームとなって野次馬の中に放たれました。
驚いたのは野次馬をしていた街の人達です。
まさかこちらに攻撃が飛んでくるとは思わなかったので、急いで散り散りになりました。
ちなみにこの間王子はずっとニヤニヤしていました。はたから見たら危ない人です。
街の人たちが去ったところには、狐型の魔獣が倒れていました。魔法少女サンドリヨンは、魔獣を倒すのに成功したようです。
被害はガラス一枚で済んだ今回の魔獣騒ぎ。
シュクレは気がついていませんでした。
お店に戻る時間はとっくに過ぎていることに。