第三頁 変わり者二人、街をゆく〜ビスケットの家には粉砂糖〜
とある国の街の中。
行列のできている店の中では、一人の少女がせっせと布を縫っていました。
「これでどう!?あなたにぴったりなドレスだと思うんだけど」
「ええ、とっても素敵なドレスだわ。次の舞踏会はこれで参加するわね。さすがはシュクレ。相変わらず魔法のような仕事ね。」
ローズゴールドの髪を後ろでまとめている、シュクレと呼ばれた少女はこの街一番の針子。
その腕前は「魔法使い」と呼ばれるほどで、どんな複雑なデザインでも簡単に仕上げてしまい、修復不可能だと思われる服だって、あっという間に直してしまいます。
その技を求め、ほかの国からはるばる彼女の元へやってくる人々が後をたちません。
しかも今は、国家クリスタルガーデンの舞踏会が行われる2週ほど前。月が満ち始めたこの時期は、その準備のために女性がこぞってこの店にやってきます。
そのため彼女は毎月大忙しなのです。
「シュクレ、毎月ありがとうね!あんたのおかげでうちは大繁盛だよ!」
「いいんですよおばさま。好きでやっていることですし、うちに帰ると血の繋がっていない母や姉達がうるさいので」
こんなに忙しいと家に帰る暇もありませんが、シュクレはまったく気にしていませんでした。ろくに働きもせず、金使いも荒く、無駄に態度ばかりでかい女達の世話なんか、死んでもしたくなかったからです。
彼女にとって、そんな女達のことなんかどうでもいいのでしょう。一度きりの人生を台無しにされてはたまりませんからね。
店の店主であるふくよかなおばさまとおしゃべりをしながらミシンを超高速でかけていると、少年の声が聞こえてきました。
「シュクレ!いるか?!」
この声を聞くと若干イラッとするのですが、無視してミシンをかけ続けます。
たったかたったったー、と、ミシンの音が響きます。
声のことなど忘れよう。そう思っていた矢先、部屋の扉がばんっ!と開きました。店主のおばさまは苦笑いです。開いた扉の向こうには、ふわふわのマントを羽織った少年が立っていました。
「シュクレ、俺の声を無視するとは随分な態度だな」
「ビスキュイ王子、今の時期は忙しいので、早々にお帰りになってください。邪魔です」
「むうう、少しくらいは良いだろう?!この俺が外出に誘っているのだ、貴様の好きな『ぱっちわーく』とやら用の布の市に連れて行ってやってもいい!」
この変に横暴な少年はビスキュイ。この国の王子なのですが、どうもシュクレのことを気に入っているらしく、ことあるごとにお誘いと言う名の仕事の邪魔をしてきます。
もう慣れてしまったのか、店主のおばさまは二人のやりとりを眺めつつ、型紙に合わせて布を切っていたのでした。