第二頁 過保護な黒の奮闘記 〜2種の氷菓は幸福を歌う〜②
さくさくと、土を踏む音が森に響きます。
外に出て数時間。黒の女王はそろそろうんざりしてきました。
自分は何をやっているのだろう。赤ん坊なんて、誰かに始末させればいいじゃない。
そんな考えがよぎりましたが今更です。せっかく外に出たのだから、見つけるまで帰るわけにはいきません。
小人にだいたいでいいから場所を聞いておくべきだった、という後悔も今では遅いのです。
「自分で言うのもなんだけど、この森広すぎないかしら…」
城を囲う黒の森を作ったのはもちろん彼女のため、過去の自分をひっぱたきたくなったのは、心の中の秘密です。
もの好きな小人以外には動物の一匹もいないこの森で、生き物を見つけるのは簡単だと思ったのに。
そんな感じでぐだぐだ考える彼女の姿は、とても闇の魔法使いと恐れられているようには見えませんでした。
しばらく歩いたところで、ようやく彼女は気付きました。
魔法使えばいいじゃない。
天然が入っているのか、少々遅い気付きでした。
さっそく魔法を使ってみると、黒い煌めきと共に白い布に包まれた赤ん坊が、腕の中に現れました。最初から使えばよかったのに。
テレポートで城に戻り、さあ、どうやって始末してやろうかしらと、女王は腕の中にいる赤ん坊をのぞき、
ぴたっと固まりました。
真っ白だとは聞いていました。
ええ、その子は確かに真っ白の髪に真っ白の肌を持っていました。
しかし、たまたま目を覚ましていたのか、じっとこちらを見る瞳だけは、溢れ出たばかりの血液のように真っ赤だったのです。
魔女は息を飲みました。
この世で1番美しいのは、当然自分だと思っていた彼女。
自分より美しいものが現れた時は、殺して仕舞えばいいとばかり思っていた彼女。
そんな彼女の作ってきた心の城壁は、たった一人の何も知らない真っ白な赤ちゃんによって陥落したのでした。
「もう…なによ…こんなのって、反則じゃない…」
闇に飲まれたはずの、彼女の優しかった心。
それが再び光を浴びた時、彼女は崩れ落ちました。
そして再び腕の中の光を抱きしめ、決意したのです。
「私が雹だから、あなたは雪。…あなたは絶対、私が守る!」
時は経ち、あの時黒の女王に拾われた赤子は、それはもう美しい少女に成長していました。
が。
「まったく、どこぞの馬の骨とも知れない男に、私の大切な娘をあげるわけないじゃない!少し金持ちだからとか、貴族の血筋だからとかで言い寄ってくる人間が多すぎよ!」
「お、おかあさん、そんなにピリピリしなくても…」
「あなたも危機感が足りないわスノウ。男は基本的に魔獣と同じだと思いなさい。何をされるかわからないんだから」
「でもミドリさんは優しいよ」
「あいつは別の生き物レベルだからよ。安全性は私が保証するわ。ああもう!あの国の舞踏会が近づく度にこうなんだもの。」
「おかあさん、私、舞踏会行ってみたいな。美味しいご飯とかもたくさん出るみたいだよ」
「あなたが望むなら行きましょう!ペアがいないと城に入れないというルールはないわ。私と一緒に行けばいいのよ!我ながら名案ね!」
黒の女王として恐れられていた魔女ヘイル。
彼女もまた、過保護に成長していたのでした。