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少年と巨人

郊外の森の近くにあるトンネル。

オレンジ色の光に満たされた空間の中。

そこに真っ黒な服装に真っ黒なサングラスをかけた、坊主頭の大男がいた。

男の名前は『和泉坂いずみざか 火勢かせい』。

彼もまた、能力者エボルバーである。

彼の能力は加熱パイロキネシス、全身を数万度まで加熱し、熱した拳で戦うが故に、『灼熱の拳インフィニティバーニング』と呼ばれている。

闇の世界において、『悪魔』、『死神』、『不死鳥』、『道化師』などと並び『炎の巨人』として恐れられる彼が、なぜここにいるのか。

しかも、部下を一人も連れずに、だ。

そこには、最近、闇の世界を賑わす一人の男が関係する。

その男は、『闇斬りダークブレード』と名乗る能力者エボルバー

夜な夜な能力者エボルバーを斬って歩く、闇の世界の厄介者である。

火勢も自分の部下の多くを闇斬りダークブレードによって失っていた。

今回は、そんな闇斬りダークブレードが火勢に直接連絡を取り、決闘を申し込んだのだ。

流石に多対一では分が悪いと思ったのだろう……だが、一対一でも我には勝てぬ。あのような戦い方ではな……



真っ黒のサングラスの奥から見つめる虚空の闇。

そこに、ゆらり、ゆらりと人影が現れる。

しわ一つないが、よく見ると継ぎ接ぎだらけの学生服。

学生としての風貌に全くそぐわない、その腰に差した一振りの日本刀ーー修羅極地刀アンリミテッドデビルーー

ナトリウムランプが照らし出した予想外の人物に、火勢は眉をひそめた。

「学生……まさか、お前が『闇斬りダークブレード』だと言うのか!?」

学生服の少年は氷のように冷たいその瞳で、火勢を睨む。

「その通りだぜ、『灼熱の拳インフィニティバーニング』、『炎の巨人』さん」

口を歪ませ、凄惨に笑う少年ーー闇斬りダークブレード

小柄な少年ではあるが、発している殺気は一流のそれだった。

「ふん、少年だったとは……『死神』を殺したのもお前なのか?」

加勢の疑問に少年は、口をニヤリと歪ませる。

「なるほど……そして、その刀が『死神』の首を撥ねた、お前の武器(エモノ)か……」

少年が脇に差している刀を指差して尋ねた。

「その通り」

素直にうなずく少年。

「お前の武器(エモノ)はその拳だそうだな」

柄に手をかけながら問う少年に、火勢は無言でうなずき、羽織っていたジャケットを脱ぎ捨て上半身裸になった。

臨戦態勢に入った二人の戦士。

「お前の言う通りだ。いわゆる『能力兵器エボルブウエポン』などというものは、全くもって信用にならんからな」

「自分の体が最大の武器だってか? 笑えるね」

「ふん、『能力者エボルバー』が何を言っているのだ。自らの能力と体こそが最大の武器であろうが」

火勢は不満そうに鼻を鳴らす。

「その能力を最大に生かす為の『能力兵器エボルブウエポン』だろ……」

「ふん、御託はもういい」

少年との会話に何も見出せないと思った火勢は、少年の言葉を遮った。

「我の首が欲しいのだろう? ならば……」

指と首を鳴らすポキポキという音がトンネル内に響く。

「ならば、力ずくで取りに来い!」



その言葉を合図に、少年は抜刀しながら飛び出し、火勢は加熱を始めた。

加速アクセラレートはせず、反応を見る為の攻撃をする。

顔面に向かって真下に切り下ろされる刀ーー

「甘いな」

言って、火勢は軽く体をひねって斬撃の軌跡を避けるとともに、修羅極地刀アンリミテッドデビルを素手でつかんだ。

「なっ!!」

思わず声を上げた少年を無視しながら、火勢はつかんだ手を急激に加熱させる。

万を超える高熱の前では、たとえ修羅極地刀アンリミテッドデビルと言えどもひとたまりも無く、融解を始めた。

「我に融かせぬ物はこの世に一つとして無いのだよ」

柄にまで及んだ熱に思わず刀を手放した少年に、火勢は言い放つ。

「ふーん、面白いじゃねーか」

己の武器を失ったにも関わらず、相変わらず高圧的な態度で挑む少年。

「他に武器があるとでも言うのか?」

その態度に火勢は思わず尋ねるが、少年はあっさりと否定した。

「ない、そんなもの無いぜ。まさか修羅極地刀アンリミテッドデビルが奪われるとは、考えたことも無かったからな」

「代替不能の武器は圧倒的弱点になる、そんなこともわからないやつが、闇斬りダークブレードだったとはな……」

呆れた声で言い放ち、火勢は修羅極地刀アンリミテッドデビルをトンネルの奥へと投げ捨てた。

「ちなみにだ。逃げれるなどとは思うんじゃないぞ」

火勢がそう言い放つと同時に、トンネルの両端は閉鎖された。

「我のように、政界、財界とのつながりもあれば、このようなことも出来るのだよ」

口元を歪めながら語る火勢。

ーーこれで加速アクセラレートして逃げるって言う選択肢が消えた訳か……

火勢の取った策に驚いていた少年に更なる驚きが訪れる。

いつの間にか、黒服の男達に取り囲まれていたのだ。

「ふーん、卑怯だね」

「はっ、この世界に卑怯も何もある訳が無かろう、勝った者だけが正義だ」

この男達は、明らかに火勢の部下であった。

彼らの手には拳銃、圧倒的な数の銃口。

火勢の冷酷な声が響く。

「やれ」

発砲音ーー



が、加速能力アクセラレーションの前に拳銃などは無力としか言いようが無い。

緑の閃光とともに黒服の男はバラバラと崩れ落ちる。

あたかも、何もしていないかのように少年は同じ場所にいるが、胸の前に突き出された右手は固く握られていた。

「な、なにが起きたのだ!?」

「巨人さんよー、あんた、ちゃんと俺の能力エボルブ確認してないだろ」

少年は、最大に口を歪ませながら言い放つ。

「俺は加速能力者アクセラレータだ!」

右手を開き、大量の銃弾をあらわにした少年。

バラバラと落ちる銃弾の音。

次の瞬間、少年は緑の閃光となり駆けた。

ーー目視不能の刹那

圧倒的速度のまま、倒した黒服の一人から銃を奪い取る。

そして、射出。

どんな人間でも銃弾を受ければ死ぬという判断。

しかし、銃弾をさけられる能力者エボルバーがいる時点で、そんな憶測は無意味なのだが……

銃弾は火勢に近づいただけで融けてしまった。

あっさりと蒸発してしまった。

「ふん、効かぬよ。銃弾など我が体の前では紙くずに等しい……」

仁王立ちのまま言葉を続ける火勢。

「確かに、能力エボルブを確認しなかったのは我の落ち度であろうが、いくら加速アクセラレートしようが我の敵ではないのだ」

そして、ゆっくりと体をねじると、ゴムのように体を使い、少年に向けて跳んだ。

数万度の熱そのものが飛来する恐怖。

それを感じない少年では無かったが、やはりスピードのことを思えば、十分対処できると少年は確信していた。

案の定、常人ならいざ知らず、加速能力者アクセラレータの前ではカタツムリのようなのろさに見えた。

これなら背後をとることも容易そうだと、そう思いもした。

ーーのだが……

ーー熱い!

少年は近づくことすら困難なその熱量に初めて気がついた。

ーーこれが、『炎の巨人』の『炎の王国ムスペルヘイム』……やばいな……

そうして、ずんずんと近づく火勢にだんだんと隅に追いやられていく少年。


「もう一ついいことを教えてやろう。我は、熱波を飛ばすことも出来るのだよ」

言って手を振りかざす火勢。

「熱っ!!」

突然体をかすった熱に、思わず声を上げる。

「……やるじゃねーか」

「ふん、窮地において強気であるのは、若さ故の『痛さ』だな」

火勢は、少年の強気な言葉をものともせず、さらに歩みを進める。

「焼け死ぬが良い!」

火勢の腕から放たれた熱は、加速(アクセラレート)を解いていた少年の左腕をとらえ、学生服を溶かすとともに、大きな火傷をもたらした。

「くはっ……!」

その痛みに少年の動きが止まる。

「はっ!……痛てーよ、巨人のおじさんよー」

「そうか、ならば、すぐに楽にしてやろう。『闇斬りダークブレード』よ、安らかに眠るが良い」

と、火勢は、最大熱量を少年に向けて放った。


迫る熱波に少年は顔をしかめながらも、その熱に向かって飛びかかった。

当然、一瞬にして燃え尽きるかと思われたーーが、少年は超高速で熱波を通り抜けたーー

「熱が伝わる前に通り抜ければいいだけだろ?」

と、加速(アクセラレート)された世界で呟く少年ーー


そして、学生服のポケットから一つの銀色のリングを取り出した。

髑髏があしらわれたその指輪は、修羅極地刀(アンリミテッドデビル)と同じ、能力兵器(エボルブウエポン)ーー能力粒子(エボルブパーティクル)が「乗りやすい」素材でできている。

そして、少年はその指輪を親指で弾き加速(アクセラレート)させた。

能力粒子(エボルブパーティクル)が指輪を包み込むことでその速度は、加勢が纏う熱すらもその熱が伝わる前に通り抜けることのできる程になっていた。


ーー轟音と破壊

指輪は、圧倒的な運動エネルギーでもって加勢を貫き、トンネルに大穴を開けて止まった。


「初めからこうすりゃよかったな」

と、加速(アクセラレート)を辞めて独り呟く少年。


瓦礫と化しつつあるトンネルの中、焼け爛れた制服を身に纏った少年は、吹き抜けた風に目をつぶった。


だが、


「……まだだ」


大穴の中心からバラバラと落ちる石屑、真っ赤に輝き始める巨人の身体ーー


「ーーまだ、終わっていないと言っている!!」


体幹のひねりを利かして迫る巨体ーー


「おもしれえ。あれでまだ生きてるのかよ」

シニカルに、けれど楽しそうに笑う少年。


火勢の身体を見ると確かに腹を貫く傷はあるのだが、その圧倒的速度が災いして致死的な傷という程ではなかった。


「お前は、我に『最大フルパワー』を出させる、最初で最後の能力者エボルバーかもしれん……」


トンネルの真ん中で立ち止まり、火勢が身体の前で十字を切ると、トンネル内の空気が振動を始める。


「トンネル内の空気をプラズマ化してやろう……」


「どういうことだ……空気が熱されている!?」


周囲の空気がビリビリと震える異常事態に動揺する少年。


「その通り、トンネルをお前を灰にする釜戸にしてやろう」

傷口から血を垂らしながらも立ち続ける火勢に、少年も危機を理解した。


「ふっ……その前にお前を殺す!!」


制服の袖から二十数個の指輪をジャラリと取り出す少年。

それぞれの図柄は、全て禍々しく死を暗示させる。


その全ての指輪を、手首のスナップとともに空中に放り投げるーー



ーー『加速アクセラレート』ーー


空中に止まる煌めく指輪、それを全て……親指で弾くーー



全部で二十数個のライフル弾と化した指輪が、一瞬のうちに火勢を貫く。


「ぬっ……」

血に濡れた身体のまま気合いでトンネル内の加熱を続ける火勢。

だが、少年の加速アクセラレートは、止まらない。

動けない火勢を尻目に、飛ばされた修羅極地刀アンリミテッドデビルを拾い上げる。


「最後はこいつで決めてやるさ……極限加速フルブースト!」

届かぬ速度の声で呟き、最大速度で斬り掛かる少年ーー








すっかり夜も更け、静かな空に星が微笑む。

崩壊したトンネルの瓦礫の上で、少年は凄惨に笑い、月を見上げた。

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