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魔物の旅路  作者: 椚屋
魔物と少女
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ウィナ

 目覚めたウィナは自分が祠の中から見たことを、すべて村人に語った。

 先に出たウィナを追ってきたリートが、掌のような魔物に殺された事。森から飛び出してきた“魔物”がそれと戦った事。赤い光で怪我をしたウィナを、“魔物”が抱きかかえてくれていた事。

 それに墓地で見つかった小さな魔物の死体がウィナの言葉を裏付けた。

 “魔物”は今、村長の家の中で村人に囲まれている。と言っても武器は向けられていない。誤解を解くために自らここに来たのだ。

 尻尾が邪魔で椅子に座れない“魔物”の横では、ウィナが“魔物”の腕をしっかりと掴んでいた。

 彼女は“魔物”の姿を見ても気を失うことはなかった。それどころか真っ直ぐ“魔物”の眼を見て話をする。子供ながらも肝の据わり具合は姉以上だった。

 誤解が解けた所で、“魔物”は掌のような魔物の事を、ウィナを通して伝えた。村人達へ直に心を飛ばさなかったのは、“魔物”の心を受け止め慣れている相手の方が、余計な手間がかからないと践んでいたからだ。

 心を受け止めるのは慣れていないと正確な意味を掴みにくい。こう言う時は自分の喉が人の言葉が話せればと痛感する。

 てっきり危難は去ったと思い込んでいた村人達は、最悪の状況に皆、口数が少なくなった。

 “魔物”はウィナに心を飛ばして、ここに来たときから考えていた案を伝えた。少女は“魔物”を見上げて眼を二三度しばたたかせた後、口を開いた。

「ねえ。あいつらをここで押さとくから、村の人みんな、河を下ってくれって言ってるよ」

 即座に幾つもの反対意見が上がった。

 危険すぎる。船が足りない。村はどうなるんだなどと、異口同音にまくしたてる。

 こうなるだろうと思っていた“魔物”はウィナに心を飛ばす。

「いかだを作ればいいって。木はぜんぶ、用意してくれるって」

 そこまで言ってもなお、村人達は逡巡した。

 彼等がここに留まるのは、増水した河を下るより危険が多い。生まれたばかりの魔物達は、成長するために大量の餌を必要とするだろう。獲物であり産卵場所である人間がかたまってる場所を見逃すほど、奴等は寛大じゃない。

 今頃は森の生き物達を襲って“魔物”と戦うために力をつけているはず。

 先の戦いは村人の身を守るという視点からすれば正解だった。

 普通の狩猟生物と魔物の差違は、弱いものから狙って確実に餌を獲とろうとするか、より大量の餌を獲ろうと全力で強いものを殺しにかかるかだ。

 奴等は“魔物”を殺しさえすれば、あとは好きに出来るのを知っている。どうにかして“魔物”に隙をつくろうとするだろう。

 幸い奴等は空を飛べないようだ。下流の街までは大きく曲がった箇所は無いから、河を下れば振り切れる。街と言える大きさなら自衛のために少なくとも一人や二人ではない《魔物狩人》が雇われていても不思議ではない。

 それでも全員無事に生き残れるとは思ってない。何人かは犠牲になるだろうが、皆殺しになるよりは遙かにましだ。

 “魔物”はウィナを見下ろした。

 リートとの約束は半分以上破ってしまうが、残り半分――せめてウィナだけは守ってやりたい。

 ウィナが“魔物”の眼をじっと見つめる。何を考えているのか小さな唇は固く結ばれていた。

「流れが速いうちに行かないと、追いつかれちゃうんだって。夜のうちに支度しないと絶対逃げられなくなっちゃうから、どうするかすぐに決めてって言ってるよ」

 言葉に嘘はないが、“魔物”はそんな事を伝えてない。煮え切らない村人を焚き付ける為に、ウィナが一人で考えて言ったことだ。

 わき起こったざわめきの中、ウィナは目を丸くする“魔物”を見上げて片目を瞑る。これでいいんでしょ、と表情は物語っていた。

 “魔物”はゆっくりうなずく。

 そしてウィナの話に従って、村人達はすぐに結論を出した。

 一人の反対もなく、全員村を離れることに決まった。

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