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魔物の旅路  作者: 椚屋
魔物と老婆
20/24

棄てられた街

“魔物”は屋根がごっそりと落ちた見張り塔に降り立ち、辺りを眺めた。

 雪の季節が近い低い丘裾に広がった街は、人々が去ってかなりの季節が巡っているようだった。石畳のそこかしこからは草木が生え、廃墟となった街は半ば周囲の木々に取り込まれている。

 かつて畑であったらしい場所も、耕す人がいなくなってはただの草原と変わりない。

 遠目に見ても荒れ果てた街だと思ったが、こうして街中に入ってみると、かつてここで行われた戦いの酷さが良く分かる。

 幾つもの崩れた建物、焼けて朽ちた屋根。街路の石畳は捲れ上がり、遠目にも分かる野晒しのままになった骨は十や二十ではない。

 ただ、人が去っただけではこうはならない。

 人ではない、魔物と思われる骨も見える。これも十や二十ではなく、魔物の群れに襲われたにしても、大きさや形が不揃いすぎた。

 魔物を操るような魔法使いがこの街を襲ったにしても、この数は異常であった。

 そして街を襲った魔物達を倒すべく、この街で星喚びの魔法が使われた事も明らかだった。街の到る所に地面が円形に抉れた場所があり、その近くには魔物の骨が散らばっている。

 星喚びの魔法は街中で使うには大きな危険を伴う。それも数を呼ぶとなれば、当たっても外れても街に甚大な被害を及ぼす。

 それでも使わざるを得ない程に追い詰められていたのか、それとも誰かが血気に逸って使ってしまったのかは、廃墟となった街からはうかがい知る事は出来ない。

 “魔物”は翼を広げて街路に飛び降り、首を巡らせて見回した。

 野晒しのまま朽ちていった人の骨が、そこかしこにあった。

 子供と思しき骨と寄り添った大人の骨。錆びて穴の開いた鎧を着たままの骨の傍らには、剣を突き立てられ横たわった魔物の骨。

 街の人も兵士も、誰も彼もが朽ち果てた骨となり、墓すらなく草木の影に横たわっていた。

 墓を作るとしても、この数では冬になってしまうだろう。

 だが、“魔物”には先を急く用もない。

 この街で芽吹きの季節まで過ごすのも良いだろうと考えていた“魔物”の耳にかすかな、だが確かに人の声と馬の(いなな)きが届いた。

 今の場所からはさほど離れていない――“魔物”は四つの翼を羽ばたかせて飛び上がると、目を凝らして辺りを見回す。

 すると、街を貫く大通りの先、朽ちた門の辺りに大きな荷物を括り付けられた馬が倒れ、その脇には一人の人間が腰を抜かしている。

 そしてそれを見下ろすのは、ゆうに人の三倍はありそうな大熊だった。大熊はその爪で倒れている馬の頭を殴りつけて止めを刺すと、四つん這いのまま次の獲物として腰を抜かしたままの人に近づく。

 “魔物”は左掌を強く握り込み、溢れる血を触媒に雷の槍を顕現させると、狙いをつける間もなく投げつけた。雷の槍はただ雷を撃ち出すよりは遅いが、指先から繋がった紐のような雷を介して手を離れた後も操れ、狙い撃てる。

 雷の槍は爪を振り上げた大熊の頭を過たず貫き、落雷の威力を持って首から上を四散させた。

 崩れ落ちる大熊の体から、腰を抜かしたままの人間が慌てて身を躱すのを見て、“魔物”は息をついた。

 あまり人前に姿を現したくはないが、もし怪我をしているのなら手当も必要だ。それに馬が殺されてしまっては他の街へと旅立つにも難儀するはずだ。

 “魔物”は翼を羽ばたかせてゆっくりと近づき、へたり込んだままの人間の傍へと降り立った。

 草生す石畳の上に座っていたのは真っ白い髪の老婆だった。裾のすり切れた浅黄色のゆったりとした外套を羽織り、腰には革袋や鉄瓶、文字の掘られた骨を下げている。すり減った木靴は老婆が長い旅をしてきた事を物語っていた。

 “魔物”は老婆の前に膝を突いて翼を畳むと、心を飛ばして害意がない事を伝えた。もし“魔物”の顔が笑う事の出来る作りをしていたら、笑いかけていたであろう。

 しかし老婆は唇を震わせ、早口に言い立てた。

「なんてことしてくれたんだい! あたしゃここで死ぬはずだったんだよ!」

 老婆から浴びせられた思ってもみない言葉に、“魔物”は牙の生えた口を開いて唖然とし、その意味を尋ねる事すら数瞬出来なかった。

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