表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物の旅路  作者: 椚屋
魔物と少年
13/24

魔物と少年

「あの人達、全員兵隊さんに連れてかれたよ。怪我はしてたけど、誰も死んじゃった人はいないから……」

 セッドは隣で穴を掘る“魔物”に言った。

 あの夜から六日が経った。“魔物”の傷はまだ塞がりきっていないが、胴に三つも穴が開いたにしては治りが早い方であった。

 セッドは沈んだ声で言葉を継いだ。。

「それで……村の近くに魔物がいるからって、討伐隊……出すんだって……《魔物狩人》を呼んで、ってお父さんが……」

 “魔物”は心を飛ばし、セッドと名乗る魔物を宥めた。

 人に追われるのはいつもの事だ。野盗が四翼鬼と言う名を知っていたのであれば《魔物狩人》達も知っているだろう。そうなればこぞってここへ来るはずだ。彼等にとって、“魔物”は金貨の山に等しい。

「でも、みんなを守ってくれたし、お父さんだって助けてくれたのに……」

 セッドの手が掬い鍬を強く握りしめる。

 “魔物”は自分がしたい事をしただけだと心で伝えると、手の土を拭ってセッドの頭を撫でた。

 小さく頷くセッドは黙って穴を掘り続ける。やがて、人一人が入れるくらいの穴が出来ると、“魔物”は崖下の墓から本当のセッドの骨を移し替えた。

 今度の墓は本当のセッドが落ちた崖からも離れた、見晴らしの良い岩陰に作った。一抱えもある岩が墓石の代わりだ。

 土を埋め戻し花を添えると、“魔物”とセッドは瞑目した。

「言わなきゃいけないこと、あるんだ……」

 ぽつりと、セッドと名乗る魔物は沈黙を破った。そして、前に言えなかった事を“魔物”に伝える。

 殺されるかも知れなかったが、隠し続ける事はしたくなかった。

 潤む声で全てを話し終えたセッドの肩に“魔物”は手を置く。小さく震えながら見上げるセッドを見つめ返し、ゆっくりと首を横に振る。

 本当のセッドを殺した事を悔やみ、償いの気持ちをもった魔物に、“魔物”は何をするつもりもなかった。

「そうだ、これ……お礼、全然出来ないけど……」

 セッドは肩にかけた鞄から包みを出すと“魔物”に渡した。

「結構上手く焼けてると思うから、良かったら……持って来れたの一個しかないけど……」

 香ばしい匂いに包みを開けると大きなパンが一つ入っていた。

 おそらく自分の昼食として持ってきたのだろう。“魔物”はパンを三つにちぎると、その一つをセッドに返した。

 そしてもう一つは本当のセッドの墓に捧げ、残った一つを口にする。

 あっさりとした塩の味がするパンは柔らかく、よく焼けていた。

 セッドも“魔物”に倣ってパンを食べ始める。

「んぐ……うんっ、よかった。上手く焼けてる」

 心を飛ばして礼を言うと、セッドはパンを口にしながら満面の笑顔を浮かべる。

 “魔物”とセッドはパンを食べ終わると、言葉もなく見つめ合う。

 季節一巡りは棲んでいたい場所ではあったし、セッドのこれからも気に掛かるが、村人達に存在を知られてしまってはここを去るしか無い。

 村人達が“魔物”に怯えながら暮らすことは避けたかった。

 “魔物”は四つの翼を広げながら心を飛ばして別れを告げ、最後に自分の願いを伝える。“魔物”を真っ直ぐに見つめたままセッドは強く頷く。

「うん。僕は最後までセダト・ユールとして生きたい。もう会えるか分からないけど……元気でね」

 答えを聞いた“魔物”は頷き返し、翼を羽ばたかせて空へと舞い上がる。

 また“魔物”の旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=826174504&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ