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魔物の旅路  作者: 椚屋
魔物と少年
12/24

よばれしもの

 静まった夜陰を割くように“魔物”の耳に届いたのは、かすかな破裂音。

 一度聞けば忘れられない火筒の音であった。囓りかけの茸を放り出し、一息に翼をはためかせて飛び上がる。

 木々の枝葉を弾いて空へ舞い上がった“魔物”は両掌に爪を立てて、流れる血を触媒に目を顕現させ、四つの目で周囲を見回す。

 もう殆ど日は沈んでいるが“魔物”の目は光の有無に左右されず遙か遠くまで見渡せる。

 火筒は戦争くらいでしか使われていない、まだ新しい武器だ。時が経てば広まっていくだろうが、それにはしばらくかかるだろう。少なくとも魔物を獲物としない狩人が持っている物ではなく、戦争も終わったこの地域で聞こえてくる音では無かった。

 “魔物”の目は村の中で揺らめく幾多の明かりを捉える。もうこの暗さでは羊は小屋に入れてあるはずだ。それなのに明かりは揺らめき動き回っている。

 “魔物”は高度を上げながら、村の上空へと急ぐ。

 近づくにつれ、明かりを持っているのは村人とは思えない者達で、しかもそれぞれに何かしらの武器を持っているのが分かった。野盗の類にしては装備が整っているし、馬に乗っている者も多い。

 まさか空飛ぶ“魔物”がいるとは思っていないのか、村の真上に来ても気付いた者はいなかった。

 広場に集められた村人達を囲む男達は、槍や弓だけでなく長火筒までも携えて、ほぼ全員が革を鉄で補強した鎧か、鎖を編んだ鎧を着込んでいる。

 まるで戦拵えをした兵士だ。

 村人の中にセッドの姿を探すと、横たわった、父親と思われる男に覆い被さっていた。その横では母親らしき女が男達の一人に引きはがされていた。

 そこに槍を持った男が近づき、手に持つ物を振り上げる。

 “魔物”は胸に沸き立つ怒りを山々に響く叫びに変えながら急降下。

 突然の、人でないものの叫びに羊や犬は騒ぎ立て、馬は暴れて乗り手を振り落とし、槍を構えていた男の手も止まる。

 “魔物”は槍を構えていた男の背後に地響きを立てて降り立つと、その男を睨みつけた。声すら上げられずに“魔物”を見つめる男の顔は、目の前に何がいるのかも分かっていないようだった。

 槍を取り落とす男の手を掴んで無造作に後ろへと投げ捨てる。

 村人も男達も、松明に浮かび上がる“魔物”の姿を見て悲鳴をあげるが、今は気にする余裕はなかった。

 “魔物”は跪くと涙目でを見上げるセッドの頭を撫でながら、逆の手を握り込み、溢れ出る血を父親と思われる男の腹に空いた傷へと垂らす。

 体を撃ち射貫いた傷が“魔物”の血を触媒に塞がっていき、荒く上下していた胸が穏やかになっていく。この傷なら明日の朝には動けるようになるだろう。

「危ない!」

 セッドの叫びと同時に“魔物”の頭を何かが打ち据えた。恐らくは戦鎚を叩きつけられたのだと感じたが、“魔物”は振り返る事なく尻尾を振ると、背後でまた悲鳴が上がった。

 “魔物”の、鱗混じりの肌は人の振るう武器程度ではかすり傷もつかない。立ち上がった“魔物”はまだ母親らしき女の手を掴んだままの男を指さしてゆっくりと口を開く。息と共に吐き出される炎を見た男は、手を離すと慌てて仲間達の所へ駆け戻った。

 周囲を見回した“魔物”は男達がどこかの軍隊崩れである事を見抜いた。徽章は外されているが装備が整っているし、何より“魔物”に相対しても士気が大きく崩れていない。

 戦中戦後においては一部の軍隊がそのまま野盗となる事はあるが、総勢20人を超えているとなればそれなりの規模だ。しかも長火筒まで持っている。

 ゆっくりと“魔物”が翼を広げると、男の一人が口を開いた。

「四翼鬼……!」

 懐かしい呼び名に“魔物”は少し目を見開いた。どれほど前か忘れてしまったが、一時そんな名で《魔物狩人》達に呼ばれ追われた事がある。男達の殆どはその名を知っていたのかざわめきが走る。

 だが“魔物”にとって呼び名はどうでも良かった。どんな名で呼ばれようが、ここで全員を捕まえる事に変わりは無い。

「四翼鬼の鱗は煎じて飲めば万病に効き、翼は一片が金貨の山を作り出すと言う……者共、それを確かめるは今ぞ!」

 昔は羽一片が銀貨一枚という話だったのだが、話という物は山を登る雲のように膨らむ物だ。

 だが相手が逃げずにいてくれるなら都合が良かった。

 “魔物”は村人を巻き込まぬよう、翼を広げたまま真っ直ぐに男達の直中へと突き進む。打ちかけられる矢を全て受けても“魔物”の歩みは止まらない。振り下ろされる剣を爪で切り折り、戦鎚の頭を握り砕いて、怒号の中“魔物”は殺さぬように男達を一人一人打ち据える。

 長火筒の弾が腹に当たるが、鱗を破る事もない。血を触媒に何かを顕現させるまでもなく、尾を一振り、腕を一振りするだけで戦拵えの男達は動けなくなっていく。遠くから弓を射かける者や逃げようとする者には倒れた男を投げつけた。

 20を超える野盗達は“魔物”の歩みを止める事も出来ず倒れていき、見る見るうちに立っているのはあと一人となった。

 最初に“魔物”の名を呼んだ男が倒れた男達に罵声を浴びせるが、殺しはしないまでもすぐに起き上がれる程には加減していない。

 戦慄き後退りしながら男は腰の袋に手を入れると、卵のような物を取り出し握り潰すと中に入っていた粉を振りまいた。

 途端、“魔物”は猛烈な臭気を感じて思わず顔を押さえる。

 この臭いを“魔物”は忘れた事はない。

 唸りを上げる喉から漏れる吐息に炎が混じる。


 悪魔を呼び出す香の臭いだ。


 鈎爪の生えた足が地を蹴り、“魔物”は香を使った男へと飛びかかるが、伸ばした手が男を捉える寸前、“魔物”は腹に大きな衝撃を受けて空に打ち上げられた。

 炎混じりの息をつき、翼を広げて止まると男の前には先ほどまでいなかったものがいた。

 それはまるで城仕えの侍女のような飾りの少ない黒い服を纏い、細い手を真っ直ぐに“魔物”へと伸ばしている。顔には表情どころか口も鼻も無く、瞼の無い灰色の瞳がその殆どを占めていた。突き上げられた手には何も持っていないが、“魔物”の突進を止めたのは確かにこれの仕業であった。

 鼻につく、火口に近づいたときのような臭いは、悪魔が顕れる時に特有のものだ。

 悪魔は、羽ばたく“魔物”から視線を逸らし、自分の手を見つめて首を傾げた。指を一本一本握っては広げてまた首を傾げ、その度に黒く艶やかな髪が揺れている。

 魔物と悪魔は似ていても大きく違う点がある。

 魔物は殺せば死ぬが、悪魔は決して死なず滅びない。

 破れる事はあれどそれは死に繋がらず、元いたところに還るだけだ。儀式を用いて喚べばこの世に在り続ける為に命を求め、香で喚べば一昼夜だけ在り続け、喚んだ者に従い災いを為す。

 “魔物”は知っていた。

 悪魔を喚ぶには、どの様な手段であれ必ず人の命が失われる。儀式の供物として失われるか、香を作る時に失われるかだ。

 どちらで喚んだにしても悪魔は恐怖を撒き、命を奪う事を尊ぶ。

 村人達はちりぢりに逃げ出している。だが一度悪魔が暴れ出せば、どれだけ離れれば安全か“魔物”にも分からない。今まで四度、悪魔を打ち破った“魔物”は相手が見かけでは量れない事が身に染みている。

 “魔物”は両手を握りこむと、流れ出る血を混ぜるように掌を強く打ち合わせる。

 ゆっくりと手を離すと、掌の間に血を触媒とした雷が顕現し、悪魔を呼び出した男は慌てて悪魔から離れるが、当の悪魔は手首を捻り、肩を回しては首を傾げて“魔物”の事など忘れているかのようだ。

 “魔物”は大きく吼えながら両手を振り下ろし、雷を悪魔へと叩き込む。しかし凄まじい雷鳴が収まった時、悪魔は焦げ跡一つなく変わらずに右に左にと首を傾げていた。

 悪魔は盛んに自分の体を確かめるように動かしていたが、ふと“魔物”を見上げると両手を上げて、どこからか分からないが声をあげた。

「私、貴方と戦う理由ないのですけれど?」

 甲高い女の声だった。

 悪魔を喚んだ男はそれを聞いて慌てて言う。

「おい、そいつを殺せ! その為に喚んだのだぞ!?」

 背後からかけられた声に、悪魔は首だけを後ろに回して言う。

「私は戦場で人を殺す契約です? ここは戦場ではありませんし、あれは人ではありませんから殺す理由もないのですが? 喚ばれた以上、身を守る手伝いはしますが人を殺せないのでしたら還りますが?」

 物騒な話をしているが、“魔物”に話が終わるのを待つ理由も無い。四つの翼を一つ大きく羽ばたかせ、落ちる勢いを加えて大振りに爪を振り下ろす。

 だが悪魔は振り返る事すらなく爪を受け止めると、手首を掴んで流れるように“魔物”を地面へと叩きつけ、跳ね返った所を踵で“魔物”の腹を強く踏みつけた。まるで大岩でも叩きつけられたような重みに“魔物”は溜まらず血を吐くが、その血を混ぜた炎を悪魔へと吐きかけた。

 血を触媒にした炎は当たった物に絡みついて燃え続ける。だが悪魔は炎に巻かれながら平然と言った。

「話しの邪魔はしないでくれます?」

 血を混ぜた炎は鉄鎧でも飴のように溶かすが、悪魔は服すら燃えていない。男から炎の上げる音に負けじと怒声が飛んだ。

「いいからそいつを殺せ! この村の奴等は全員殺して構わんから、そいつも殺せ!」

 それを聞いた悪魔は、埃を落とすように炎を手で払いながら小さな笑い声を漏らした。

「最初からそう言ってくれればいいんですよ?」

 言いつつ踏みつけた足を更に踏み込み、小さな足が“魔物”の体にめり込んでいく。体躯こそ小柄な人間の女と変わらないが、そこらの魔物とは比べものにならない力だ。

 ――このままでは腹を踏み破られかねない。

 “魔物”は悪魔の足を切り落とす勢いで爪を振るうが、鋼に爪を立てたように火花が散り、脛に傷をつけるのがやっとだった。それでも一瞬力が緩んだ所で尻尾を振るい、足を払うと悪魔の下から転がり出た。

 炎混じりの荒い息をついて立ち上がる“魔物”を、首を一回転させて見据える悪魔は、足を払われ座り込んだまま楽しげに言う。

「と言う事ですから殺しますね?」

 嬉しそうに手を叩き、発条仕掛けのように立ち上がる悪魔を、息を整えながら睨みつける。

 雷も炎も効かないが傷をつけられない相手ではない。年経た竜亀の甲羅を打ち破るよりは楽だろう。

 見かけを大きく上回る膂力も悪魔ならあり得る範囲だ。

 “魔物”は四肢に力を込め低く唸り声をあげる。しかし悪魔はさして警戒もせず、散歩でもするようにのんびりと“魔物”の周りを回り始める。

「久々です? 楽しみです?」

 緊張感のない楽しげな声を上げながら、幼子がはしゃぐように両手を大きく振る。

 “魔物”は一息に悪魔へ駆け寄ると喉笛めがけて爪を突き出すが、悪魔は腕を大きく振ってそれを弾く。初撃をいなされた“魔物”は勢いを殺さずに体を捻り、巨木をへし折る威力を持った尾を叩きつける。

 悪魔は片手を勢い良く突きだして尾を打ち返し、肉のぶつかり合う音が夜闇に響く。勢いと重さで“魔物”は構わず尾を振り抜き悪魔を跳ねとばすが、当の悪魔は何事もなかったようにふわりと着地した。

「強いですね? とても良いです?」

 “魔物”の尾と打ち合った手を軽く振り、調子を確かめるように手を握っては開く。尾の鱗で肌が削れたくらいでは何の痛痒も感じていないようだ。

 対して、打ち合った“魔物”の尾は痺れるように痛む。だがちぎれていなければ問題はない。

 “魔物”は炎の混じる息をつきながら、次なる一撃のために身を屈ませる。

「四翼鬼! 動くなっ!」

 割って入る怒声を横目に見ると、“魔物”は歯を軋らせた。

 悪魔を呼んだ男がセッドの髪を掴み、喉元に(いびつ)な形をしたナイフを当てている。セッドの父親も母親も、男に組み付き子供を助けようとするが、男は傷が塞がったばかりで満足に動けない父親を蹴り飛ばし、母親を乱暴に振り払った。

「やめろっ、離せよ!」

 セッドは男の手を振り払おうと藻掻くが力では大人に敵わない。ひっかき傷を作った所で余計に男を怒らせるだけだ。

「人質? 殺せるならいいですけど? それはやめた方がいいです?」

 呆れた調子で悪魔は言うが、即座に怒鳴り返される。

「うるさい、さっさと殺せ!」

 “魔物”はゆっくりと手を下ろし、翼を畳む。悪魔を前にしたまま、血を触媒にして何かを顕現させ、男だけを倒すのは無理があった。

 子供の姿をしていても、セッドの正体は魔物だ。諸共に雷の網に巻き込んでも無傷でいられるかも知れないし、もしセッドが魔物として力を使えば、男の手から逃れられるかも知れないが“魔物”はそれを試すつもりは無かった。

 悪魔は両手を下ろした“魔物”に近づきながら肩をすくめる。

「何で言う事を聞くのです? 人質? じゃないです?」

 “魔物”を見つめる大きなの一つ目は、セッドの正体を見抜いているようだった。それでも召喚者に明確に言わないのが悪魔が悪魔たる由縁だ。召喚者がどうなろうと――人が死ぬならそれが誰であれ――喜ばしい事だった。

 前髪をかき上げながら悪魔は“魔物”の顔を覗き込む。

「変わりませんね? 昔から?」

 不意の言葉の意図を考える間も無く、胸に強い衝撃。悪魔の手は“魔物”の体を貫き、胸の脈動にあわせて大量の血が溢れ、喉からこみ上げる血に大きく咽せた。

 血を浴びながら悪魔は瞬き一つせず“魔物”を見上げる。

「でもおしまい? 少し残念です?」

 セッドは“魔物”に手を伸ばし悲鳴のような声をあげるが、髪を掴む手が緩む事はない。このままではあの悪魔に父親も母親も、大事な人達が殺されてしまう。

 一つ、セッドには男の手から抜け出る策はあった。だがそれは、自分がセッドでない事が皆に知られてしまう上に、もう二度とこの姿になれなくなる。

 一つの姿はたった一度だけ。誰かを取り込めば、本来の水飴のような姿にはなれても、以前取り込んだ姿には戻れない。

 それでも大事な人達が死ぬくらいなら――意を決し、今の姿を崩して男を取り込む為にセッドは男の手を両手でしっかりと掴んだ。

 その途端、怒るような強い心が伝わり、セッドは動きを止めた。

 “魔物”が牙を食いしばりながらセッドを見つめ、首を横に振った。

「でも…でもっ!」

 セッドの叫びに、“魔物”は再び首を横に振る。

「まだ生きてますね? 嬉しいです?」

 悪魔は逆の手を掲げ、四指を揃えると“魔物”の腹に突き入れた。矢弾を弾く鱗も悪魔の一撃を止めるには到らない。

「そろそろさようなら? もう逢えません?」

 悪魔は“魔物”の体を貫く腕をじわじわと左右に広げ、“魔物”の体を引き裂こうとする。“魔物”は尻尾を悪魔の腰に巻き付け、血まみれの両腕を抑え込むように掴んだ。

 それでも細腕の悪魔の力は、大量の血を失った“魔物”の力で抑え込むには厳しい。力を入れれば入れるほど傷口からは鮮血が吹きだし、単眼の悪魔を濡らしていく。

 覚えている限りにおいて最も強い悪魔を相手に、“魔物”は牙の生えた口で笑おうとした。

「何をしよ……!?」

 悪魔は訝しむように左右に首を傾げるが、言い終える前に気が付いた。

 “魔物”は血を触媒とし、流れ出る血の全てを使って夜空より流れ星を喚んだ。“魔物”の意図に気付いた悪魔は腕を引き抜き逃れようとするが、“魔物”は渾身の力で抑えつける。

 “魔物”の血が溢れる端から蒸発し、濃い魔力となって夜空の果てより流れ星を引き寄せる。後は流れ星が落ちるまで、悪魔を押さえ込めるかどうかだ。

 悪魔は体を振って“魔物”を投げ飛ばそうとするが、腰に尾が巻き付いている上に“魔物”は鷹のような足の爪で悪魔の足首を掴んで必死に食らいつく。

「おい何をしてる!」

 逃れようとする悪魔にただならぬ事態を悟った男が叫び、そのほんの一瞬だけ力が緩んだ。

 その一瞬でセッドは父親から譲られたナイフを抜き、男の手首を切りつける。良く研がれたナイフは手の筋を切り裂き、思わぬ事に男はセッドから手を離してしまう。

「このガキっ!」

 鉄で補強された靴先がセッドの背に叩き込まれるが、セッドは痛みに耐えよろめきながら必死に男から距離を取った。

「離――」

 悪魔の言葉は遮られた。

 “魔物”に喚ばれた星の欠片は炎を纏ったまま悪魔の頭を打ち砕き、そのまま“魔物”の体を貫くと地響きを立てて地面にめり込んだ。

 空より落ちる星はあらゆる魔を滅ぼす。如何なる魔物も悪魔も流れ星を受けては無事ではない。

 首から上が四散した悪魔の手から力が抜け、砂山が崩れるように砕けていく。体も服も何もかもが“魔物”に破れた事で形を為さなくなっていった。

「……また、逢いましょう……?」

 小さく、それでも確かに耳に届いた声に、“魔物”は尻尾を振るって悪魔の残骸を砕き散らした。

「きっ、貴様……!」

 “魔物”を睨みつける男は踵を返して逃げようとするが、“魔物”の手から放たれた雷に打たれて倒れ伏す。死なない程に加減はしたが当分は動けないだろう。

 悪魔に開けられた穴はゆっくりとだか血を触媒として塞がろうとしている。しかし星の欠片が穿った所は逆に肉を溶かすように広がっていく。

 これが流れ星に打たれた傷だ。

 如何なる魔物も悪魔も流れ星に打たれた場所は治らず、放っておけば死に到る。《魔物狩人》達が流れ星を鋳溶かして剣や矢尻に使うのはその為だ。

 “魔物”は傷を周りの肉ごと爪で抉り取って投げ捨てた。傷は大きいが、こうでもしないと治りはしない。

 ぐるりと辺りを見回すと、野盗達はうめき声を上げたまま誰も立ち上がる事が出来ず、村人は物陰から“魔物”の様子を伺っている。

 闇を見通す“魔物”の目には村人達の怯えが見て取れた。

 仕方の無い事だと“魔物”は大きく息をつく。耳に届く声を聞く限り、大きな怪我をした村人はもういないようだ。

 “魔物”はセッドに心を飛ばし、自分を追わないように念を押すと、翼を広げると村から飛び去った。

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