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圧倒的敗北を前に、笑え part1

◇◇◇

 あれだけの騒ぎを起こせば、先生に何か小言を言われかねない。今の教室でそんなことになれば、美羽の負担になると考えた翔桜は、保健室に行くことにした。

 いつもの通り何も言わず受け入れてくれた沙耶は、翔桜と美羽を座らせた。


「二人とも、顔色が悪いわね……とりあえず、ハーブティーでも入れましょうか」


 柔らかくそう言うと、奥にある戸棚に向かう。


「あ、手伝います」


 朝一から来るのはこれで二度目だ。なんとなく申し訳ない気持ちになり、沙耶の後を追う。


「いいから、座ってて? あんまりこっちは見られたくないのよ」


 気恥ずかしそうに笑い、翔桜を押しとどめた。ちらりと見えた戸棚の中がごちゃごちゃとしていたのを見て、納得する。


「分かりました。ありがとうございます」


 机の上は綺麗なのに、意外と戸棚の中は整理されていなかったことに少し驚く。人間誰しも、欠点の一つや二つはあるということか。

 お茶の準備は沙耶に任せ、美羽の隣に座る。

 いつもよりも美羽の体が小さく感じた。


「……翔桜のばか」


 消え入るような声。罵倒の言葉に、覇気はなかった。


「なんか悪いことしたかな」

「大丈夫って、言った」

「そうだったな」

「翔桜の隣にいられればそれでいいって、言った」

「覚えてるよ」

「なのに何で……」


 さらさらとした髪が美羽の横顔を隠す。


「何であんなことしたのよ……」

「もう自分で答え、言ってるけどな」


 今日のことが噂で広まれば、あの気分の悪い視線は少なからず翔桜の身にも降り注ぐ。クラスでの居心地も悪くなるだろう。友達も減るかもしれない。


「え……?」

「隣にいようと思ってさ」


 それでも翔桜は構わない。美羽さえいれば、独りでも戦える。

 孤高の推理劇を、演じる事は出来る。


「……ありがとうじゃ、足りないよね……」

「じゃぁまた、肉まん半分くれ」

「なにそれ」


 笑いながら、ようやく美羽が顔を上げた。


「わたしの感謝の言葉は、肉まん以下ってこと?」

「どうかな?」


 そうだ、そうやって笑っていてくれ。それだけで自分は、頑張れるのだから。

 会話に一区切りついたところで、沙耶がハーブティーを持ってきてくれた。もしかしたら、待っていてくれていたのかもしれない。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。ハーブティーを飲むとね、とってもリラックスできるのよ」

「とってもいい匂い……」


 邪魔な感情を洗い流してくれるような、仄かなハーブの香りと温かな紅茶の味が気分を落ち着けてくれた。一息ついたところで、翔桜は美羽に問いかける。


「……美羽、森部先生には、これまでの涼子先輩とのやり取りをもう話してるんだ。だから今日の事も、いいか?」

「うん、わたしはいいよ」

「森部先生、聞いてもらってもいいですか」

「えぇ、私なんかでよければ」


 沙耶ほど今の状況で頼れる存在はいなかった。

 翔桜は、一昨日見た掲示板の話しから、今日にいたるまでの話しをかいつまんで説明した。


「……とまぁ、こんな感じで。ここに来たわけです」

「なんて、ひどい」


 口元に手を当てて、沙耶がつぶやいた。


「ひどすぎる……」


 沙耶の頬に一筋の涙が伝った。


「せ、先生?」

「ご、ごめんなさいっ……あまりにもその……悲しくて……」


 ポケットからハンカチを取り出し、翔桜たちに背を向けて涙をふいた。


「相談を受けている側が感情を出してしまうなんて……だめですよね、本当に」

「そんなことないです!」


 滅多に言わない、強い言葉で美羽が答えた。


「わたしは、泣いたら負けだと思って、負けてたまるかって思って。変な意地はってました。結果として、泣くタイミング、逸しちゃって……だから今、代わりに先生が泣いてくれたみたいな気がして、嬉しかったです」


 確かに、美羽は泣かなかった。

 最初から今まで、心をえぐられるような体験はいくつもしたはずだ。控えめで、自己主張は少ない。それでも芯の強い彼女はとても負けず嫌いで。自分だけではなく、美羽も必死に戦っていたのだということに、改めて気づく。


「優しいんですね、春日井さんは」

「そんなこと、ないです」


 素直にほめられたのが嬉しいらしく、顔を赤くしてうつむく。そんな美羽の体を沙耶が優しく包んだ。


「あなたみたいな子をひどい目に合わせる人を、私は許さない。絶対に許さない。でも私は一応教師だし、あんまり表だって動くことはできないわ……だから、九条君」

「はい」

「何か手伝えることはないかしら」


 沙耶の言葉に、翔桜は強く頷く。


「あります」


 翔桜には一つ考えがあった。

 美羽の無罪を百パーセント証明できる証拠。その手がかりを、つかんだ気がした。



◇◇◇

「ほんとにいいの?」

「何を今更。中学の頃はよく来てたじゃねーか」

「あの時と今を一緒にしないでくれるかなぁ」

「いーからほら、入るぞ」


 いつもの通りドアノブをひねり、帰宅する。


「ただいまー」

「お、お邪魔します……」

「おかえりー、ってあら! 美羽ちゃんじゃない! やだ久しぶりねぇ、中学校三年生の冬以来じゃない? あらまぁ大きくなって美人になって翔桜あんた、美羽ちゃん来るなら来るって早く言いなさいよ家の中ぐちゃぐちゃじゃないの! お菓子も用意してないし、あ、夕飯は食べていく? もちろん食べていくわよね? あ、そしたらあれ、美羽ちゃんの大好きなハンバーグ、作ろうかしら」

「母さん、とりあえず中に入れてくれ」

「あら、ほんとだわ。やだもう私ったら嬉しくってごめんなさいねぇ」

「お、お久しぶりです。突然すいません……」

「いいのよいいのよ! なんなら毎日でも来てほしいくらいだもの」


 母、九条千恵くじょうちえの言葉に、美羽が目を泳がせる。


「あー、その……なんというか……」

「それなら丁度いいや。母さん」

「なに?」

「今日からしばらく、美羽泊めるから」


 たっぷり数十秒の間をおいて、千恵の嬉しそうな声が九条家に充満した。




 ありとあらゆる追及を逃れ、なんとか部屋に逃げ込んだ翔桜と美羽は、膝くらいの高さの丸テーブルを挟んで、そろって脱力し青色の絨毯に横になった。


「相変わらずパワフルなお母さんだねぇ」

「九条家を代表して謝る。ごめん」

「あ、そういう意味じゃないよ? わたしは寧ろ好きっていうか問題ないっていうか」

「心が広いんだな」


 中学校の頃はよく遊びに来ていた美羽が来なくなってからしばらくは、千恵に理由を問い詰められたものだ。

 理由はごくごく簡単で、互いに体と心が大人になり、こっぱずかしくなったからなのだが、「まぁ、もう高校生だし」という理由になっているような、なっていないような返答をしていたのだ。


「翔桜の部屋久しぶりー。あんまり変わってないね」

「ま、数年しか経ってないしな」

「あ、でもこの箱はなかったかも」

「そうだったか?」

「うん。だってこんな大きい箱あったらわたし絶対開けてるもん。なに入ってるの?」

「小さい頃のガラクタとか捨てきれないものかな」

「あー、分かる。なんか捨てられないよねー」

「そうなんだよ」


 今世紀一のファインプレー返答をし、翔桜はさりげなく箱を見えにくい位置にずらす。


「隠す場所変えたら?」

「はい?」


 足をぱたぱたとバタ足させながら、美羽がのんびりと言った。


「さすがに分かりやすすぎかも」

「はい」


 映像もいいが、紙媒体もたまには見たくなるのだ。そのあたりに理解があるのが怖いが、美羽はそれ以上箱の中身については触れなかった。


「わたし、どこで寝ればいいかな」

「あー」


 九条家は三人家族で、ベッドのあまりはない。そして翔桜の考えている案を実行するならば、選択肢は一つしかない。


「このベッドに二人かな」

「ほほう」


 ちらりとベッドを見て、美羽が目を細める。

「ダブルベッドにしてはいささか小さく見えるね」

「まぁ一人用だからな」

「翔桜ったら大胆なんだからー」


 軽く笑いながらそう言って立ち上がる――――と同時に、丸テーブルに膝をぶつけ


「わっ」


 テーブルの上に置いてあった本やらペンやらを全て絨毯の上に落とし


「ご、ごめ」


 それを拾おうとしてベッドに頭をぶつけた。


「いったぁあ……」

「なにやってんの?」

「う、うるさいなぁ……」


 一人で頭を抱えてうずくまる美羽を見て、翔桜は問いかける。


「なんかあった?」

「言いたくない」

「何を?」

「うぅぅ……だから」


 顔をそむけながら美羽が答えた。


「き、緊張してるんだってば……言わせないでよ……」

「――――っ! ……ごめん」


 飄々とした返答を返してきていたから、てっきりくつろいでいるかと思っていたのに。なんて可愛い事を言うんだこいつは。


「いいけど……」


 あまりにも初々しい反応に、翔桜の鼓動も否応なく高まる。

 状況的に仕方がないとはいえ、思春期の男女が一つ屋根の下、しばらく寝泊りするのだ。意識しない方が、不自然か。


「えーと……一緒に寝ても、大丈夫、か?」

「何回も、きくなっ!」


 

◇◇◇

 怒涛のような質問攻めの夕飯を終え、美羽は今風呂に入っていた。

 因みにお泊りの件は、両親が家に不在だと言うと一も二もなく承諾された。寧ろ、何故もっと早く呼ばなかったのかと怒られた。父、九条正春くじょうまさはるは現在出張で在宅していないが、もしいたとしても軽くオーケーがでただろう。美羽はそれほどに、九条家になじんでいる。


「でも長期滞在は、初めてか」


 クローゼットから目当ての物を取り出し、操作する。しばらく使っていなかったが問題なく動くようだ。


「やほー翔桜、お先でしたー」

「おう、思ったより早かったな」


 部屋の中にいい香りが充満する。自分と同じシャンプーやボディーソープのはずなのに、何故こんな魅力的な匂いがするのだろう。

 湯上りの、上気した肌が艶めかしい。これはまずい。色々とまずい。


「じゃ、じゃぁ始めるか」


 あらゆる煩悩を振り切るように、頭を必死に切り替える。


「あ、待って」


 そしてクローゼットの中から取り出したそれを動かそうとした時、美羽が翔桜の袖をつかんだ。


「それやる前に……話したいことがあるの」

「なにかな」


 近い。美羽の体温が伝わってくる。

「今更かもしれないけど……話しておきたいの。わたしがどうしてあの日メールを返せなかったのか。わたしがどうして、ラミネーターを買ったのか」


 浮かれていた心がすぅっと引いていく。美羽の方に向き直り、姿勢を正す。


「いいのか」

「うん、遅くなってごめん」


 どんな心境の変化があったのだろうか。いや、そもそも自分たちの間に隠し事などない。ただ聞くべき時が来ただけなのかもしれない。


「わたしね……お菓子作りが苦手でしょ」

「そう、かな」


 飾り付けがちょっと下手なだけで、味は特に問題ないように思う。


「だから練習してたんだよ」

「あの、返信が無かった日か?」

「うん。買い物は、ラミネーターと、その材料の調達」


 そうか、と疑問符を浮かべながら答える。その程度の内容なら、どうして翔桜に隠したのだろうか。


「分かってないでしょ翔桜」

「さっぱりだ」

「鈍感だねー」


 そういえば紗英にもそんなことを言われた気がする。もしかしてあいつは、あの段階で美羽が何をしていたか分かっていたのか。


「涼子先輩が作った、二度目のバレンタイン企画、覚えてる?」

「あったなそんな、の」


 バレンタインと聞き、チョコレートが連想され、気分が少し悪くなった。


「翔桜?」

「あぁ、大丈夫……」


 完全にトラウマになってるな、と苦笑いがこぼれる。今後バレンタインにチョコレートをもらうことがあったらどうすれば…………


「……なぁ、すごい自意識過剰な事聞くけど」

「別に何言われても驚かないよ?」

「それって、二度目のバレンタインで俺に送るためのチョコレート作り、練習してたのか?」

「あ、ようやく気付いた」


 涼子があの時、翔桜にチョコレートを食べさせたのはこれが原因か。


 校内にはかぼちゃパーティや文化祭、そして二度目のバレンタインについての話があふれていた。美羽が事件のあった日の夜、チョコレートを作っていたという可能性に翔桜が至らないために。ただそれだけの為に涼子は翔桜にチョコのトラウマを植え付けた。

 

 確かに美羽にアリバイが無いこと、美羽があの夜何をしていたのか教えてくれなかったことは、翔桜が涼子と戦うきっかけになっていた。

 

 ただ、涼子はメールの事は知らなかった。

 つまり、一回目の論争の時、翔桜がまず美羽に夜何をしていたか聞くこと、それを美羽が答えないであろうこと、そこを諦め、SSR解析に関してのみ焦点を当ててくるであろうことを予測していたということだ。

 そうなれば確実に涼子はドローに持ち込み、勝負を続けさせることができるのだから。


「そういうことか……」

「多分だけど、わたしが思ってるのとは違うところで納得してるよね」


 梅雨の空気のようなじっとりとした目線を感じ、慌てて思考を戻す。


「ごめんちょっと色々あって……。で、美羽はバレンタインで俺に送るチョコレート作りの練習をしていて、それを隠、して……て」


 そこまで言って、違う事実に気付く。

 それは、何故美羽がわざわざ隠していたのかの理由だ。

 美羽からチョコレートをもらったことはある。だが今までは確か、手作りの物はなかったはずだ。他の人にあげているのを見たことはないが、別段特別な感じでもない市販のチョコを、毎年もらっていた。それが、今回はちがうとなると。


「えーっと」

「なによ……」

「こ、これは俺の口から言ってもいいのか?」

「だめ」


 まだ、話したいことがあるから。自分の膝を抱え込み、顔をうずめて美羽は続ける。


「ラミネーターの話し。するね」


 そうだ、それも残っていた。月曜日にチョコの材料と一緒に買ったというラミネーター。一体何に使うつもりだったのだろうか。


「あれはね、園芸部で使うプレートタグを作るために買ったんだ。この植物はこんな名前ですよーっていう、あれ」

「いいな、それ」

「うん、でもそれは建前なの。ほんとは……写真を保護したかった」

「写真?」

「そうだよ」


 鞄の中から綺麗にラミネート加工された写真を取り出し、翔桜に渡す。


「あの時翔桜が、破ったやつだよ」

「今日は見てもいいのか?」

「いいよ」


 写真を受け取り、裏返す。

 それは初めて二人で、近くのテーマパークに遊びに行ったときの写真だった。

 中学校二年生の夏の事だ。


「懐かしいな」

「でしょ」


 よく見るとわずかに破れた跡がある。丁度翔桜と美羽の間に亀裂が入るような破れ方だ。


「楽しかったんだよ、あの日」

「俺もだよ」

「わたし、運命とかあんまり信じないけど、あぁこれならそう名付けてもいいかな、なんて思えるくらい、楽しかったの」


 美羽の指が、写真をなでる。


「だからこの写真が破れた時、とっても悲しかった。まぁ学生手帳なんかに入れて持ち歩いてたわたしが悪いと言えば悪いんだけど……それでもまた撮ればいいだろ、なんて翔桜に言われてかっとなっちゃって。あの時間は、あの時でしか味わえないと思ったから」

「ごめん」

「いいの、こうやって、ちゃーんと治ったし。今は二枚あるし」


 ほら、と鞄からもう一枚取り出す。おそらく、後で複製したものだろう。二枚目にも綺麗にラミネート加工がしてあった。


「これは翔桜の分。こっちは、わたしの」

「お揃いだな」

「へへ、そうだよ。……で、ね。これとチョコレートをセットにして渡して、その時に――――」


 美羽の小さな手が、寝間着の裾を握りしめる。


「告白しようと、思ってた」


 翔桜と美羽の二人の関係は、出会ってからずっと足踏みしていた。


「それを、よく分からないごたごたで無理やり言わなきゃいけないのが、嫌で。絶対この気持ちは、きちんとした形で伝えたくて。だから意地はって言えなかった」


 どうすれば前に進めるのか、お互いに分からないでいた。


「でも、今日森部先生と話して、泣いてるの見て、そんなのはもうやめようって思ったの」


 最初から距離が近すぎた故に、その次へ行くことができない。


「翔桜」

「うん」

「好き」


 そう、好きだ。大好きだ。

 だけど、それはあまりにも当然すぎて。改めて口にするには、何か違う気がして。そこで翔桜は右往左往していた。


「だから」


 けれど美羽は、翔桜が破れない壁をあっさりと壊してみせる。

 翔桜のできない部分を補ってくれる。


「わたしと、今以上の関係になってください」


 好きです、では足りない。付き合ってください、でも足りない。美羽の口にした言葉はまさに、自分たちにぴったりだと思った。


「美羽」

「はい」

「俺も好きだ」

「うん」

「すごく、好きだ」

「う、うん」

「誰よりも好きだ」

「わ、分かったってば」

「だからこそ」


 美羽の目をしっかりと見据え、言う。


「すべてが終わった後に、返答したい」


 やっと、次へ行く。

 前に進める。

 そんな、尊い記憶が。

 こんな訳の分からない状況下で、異常な環境下で成立するのは、おかしい。


「これは、意地、なのかな」


 美羽が意地を捨ててまで伝えてくれた想いに、自分はちゃんと答えられているのだろうか。そんな不安を、当たり前のように美羽は拭い去る。


「違うよ翔桜。きっとそれは、けじめ、だよ」

「……ありがとう」


 柔らかな髪をなでる。


「じゃぁ、待ってるね」

「あぁ、必ず伝える」


 美羽が顔を動かし、手が頬にあたる。

 

 きめ細やかな肌の感触が艶めかしい。

 

 少し指を動かすと、顎に手を添えるような形になった。



「…………ちょっとなら……いいよ?」



 囁くような美羽の言葉に、翔桜は


「俺」

「ん?」

「しゃ、シャワー浴びなきゃゆえにいかねばならぬ」

「左様であるか」

「う、うむ。いざ参る」


 美羽の意地の悪い表情まで、何故かとても魅力的に、蠱惑的に思えて、翔桜は逃げるように自分の寝間着をかき集めた。


「ふふっ、翔桜」

「なにかな」

「よく、頑張りました」


 小さい子にするように頭をなでられる。

 

 今これ以上進めば、自分は止まらなくなる。そう思って身を引いたのに。


「人の心で遊びやがって」


 お返しに美羽の頭を乱暴にかき回し、部屋の外に出る。「本気、だったよ?」という美羽の言葉は聞こえないふりをした。

 自分の理性はあとどのくらいもつのだろうか。


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