圧倒的敗北を前に、散れ
「終わりですか?」
美しい彼女は、冷たい声音でそう言った。艶やかな光彩を放つ瞳が蔑むような視線を送る。
「ならこのゲーム、私の勝ちですね」
――――ちくしょう
「可哀想に。あの子は貴方を信じていたのに」
――――ちくしょう……
「まぁ、仕方がありませんね。彼女も今のその姿を見れば、きっと納得してくれるのではないですか……? 豚箱の中で、ね」
――――ちくしょう……っ!
「くっ……ぁああっ……!」
悔しくて、悔しくて。
喉の奥から獣の様な声がひねり出される。
一体いつ以来だろう。
何かに負けて、奥歯を割れるほど食いしばり、視界がにじむほど涙を流すのは。
――――ちくしょう……っ!
「あぁああああああ!」
――――ちくしょう……っ!
「ああぁあああああ!」
――――ちくしょう……っ!
「その程度?」
彼女は、依然冷やかに言った。
「意志は殺がれ、剣は折られ、最早逆転の手立ても無い、ただ絶望だけが目の前に広がっていて。それで捻じり出された慟哭が」
言葉はまるで冷や水で、心まで凍ってしまいそうだ。
「その程度、ですか」
何一つ言い返す事が出来ず、ただ、心の中で叫ぶ。
「ならばあえて言いましょう」
――――やめろ
「九条翔桜。貴方はこのゲームだけではなく、頭脳も、論理も、行動も、人脈も、運も、希望も、願望も、そして」
――――やめてくれ
「慟哭すらも、私に負けている」
その日、九条翔桜は、絶対的に、圧倒的に、完膚なきまでに――――敗北した。