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SGO+  作者: 大仏さん
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SecundEpisode.怯える忍者

 武器屋と防具屋の二つを合わせて経営されている、〝K&M〟と言うお店。

 わたしは今そこにいる。

 レッドオーガと、龍街道でドラゴンがドロップした〝赤鬼の角〟〝赤鬼の皮膚〟〝龍鱗〟〝龍牙〟を周防さんもとい〝ケン〟さんとマリアちゃんもとい〝マリー〟ちゃんと言う、錬金術士をしている二人に渡す為だけど、


〝ケン! 貴方浮気したでしょ! 昨日知らない女の人と歩いてる所見たんだから!〟

〝違うんだマリー! あの人には単に道案内を頼まれただけなんだ! 信じてくれ!〟

  

 ただいま絶賛夫婦喧嘩中で、気付いてもらえてないので待ち惚けの状態。

 とりあえずマリアちゃんのことに付いて話しておこうと思う。

 彼女は、アメリカでお父さんとお母さんがホームステイしている錦戸家の娘で、静香ちゃんと同じ日 に転校してきた女の子。

 コッチではケンさんと結婚していて、その仲の良さは今やウェルニアの名物として有名になっている。

 この光景を見ていると、ログアウト不能が嘘なんじゃないかと思うけど、ウィンドウの一番下にある筈のログアウトボタンは、やっぱりない。

 ちょっとネガティブになってしまい、ソレを合掌することで払う。

 まだ二人は喧嘩中だから、少し店の中をみてそれでも終わっていなかったら散歩でもしてこようと決め、適当に店の中を見て回る。

 それからマリーちゃんがケンさんのマウント取ってじゃれ合っていることを確認し、お店を出て初心者の平原に続く西門へ向かった。

 と、そこには蒼髪の小さな、今のわたし同様初期装備の女の子がいた。門から外を見ては顔を引っ込めて、また窺って、引っ込めて……その動作をずっと繰り返してる。

 気になって声を掛けてみると周りに全く意識が行ってなかったのか跳ね上がって驚かれた。

そのまま女の子は門から走って出て行き、平原を歩いていたガルムにぶつかって転けてしまった。

 まずいと思い駆け出す。

 咆えるガルムに、女の子は恐怖のあまり震えるだけで全く身動き取れない状態になっている。

 伏せる様に声を掛け、確認した所で衝脚を発動、軽く跳び烈風脚を放つ。

 赤いエフェクトを纏いながら左足から放たれたソレは、空気を切り裂きながら進み、喰らったガルムは地面と水平に吹っ飛び、そのまま砕け散った。


〝あれ?〟

〝え?〟


 そのあまりの呆気なさに、わたしは疑問の声を上げ、女の子は多分状況が呑み込めず疑問の声を漏らし、暫し無言で蒼い瞳と見つめ合うことになった。


 それから数分後、先に気を取り直したわたしは、驚かせてしまったことを謝り、とりあえず女の子、〝リリカ〟ちゃんをホーム(自分専用の宿みたいな物)に招待した。

 今は、ソファに座って紅茶を飲みながら話をしている。

 何でもリリカちゃんは、初めてこのSGO+を始めた日に、このログアウト不能に巻き込まれたらしい。

 とは言っても、現実世界ではまだ一日所か三十分も経ってない。

 三年を、日数に変換して1095日。

 つまりあっちで、ログアウト不能になってから流れた時間は1095秒――たったの18分。

 そう考えると、470年は本当に永い。

 それで、リリカちゃんは訳も分からないままフラフラと歩いていると、いつの間にかフィールド、しかも南の方に出てしまった様で、〝ブラッドイーグル〟に首を突かれて死んでしまったとのこと。

 ブラッドイーグルは、真っ黒な体に翼と、六つの赤い眼を持っている大きな鳥型の魔物。敏捷値が異様に高くて、現在トッププレイヤーとして知られる〝舞姫〟でも、その速さにはついて行けないらしい。

 プレイヤー中、最速と言われているらしい舞姫がついて行けないんだから、初心者で、しかも初期装備じゃ耐えられる訳も無く瞬殺。その痛みが、この三年間ずっと忘れられず、碌にフィールドに出ていなかったそうだ。

 幸いこの街には、無料で宿泊出来る所があるから、そこで何とか過ごしていたらしいけど……食料は、最近まで心優しいプレイヤーが渡してくれていたみたいだけど、パッタリ連絡が着かなくなったらしい。 だから自分で手に入れる為、出て行こうか行くまいか悩んでいた所、わたしが後ろから声を掛けてしまい、驚いて走って行ってしまったと。

 話を纏めるとこんな感じ。

 その後、これから先どうするのか聞くと、彼女は暫くわたしとパーティを組んで欲しいと言ってきた。

 話に出て来た心優しいプレイヤーは、現在連絡が付かないそうで、その人を除いて今更Lv3の自分と一緒にいてくれるプレイヤーもいる筈が無く、ましてやギルドに入ることなんて出来ないから、同じ初期装備のわたしなら大丈夫と思ったらしい。

 でも、今のわたしは、さっきのガルムの経験値しか入っていないLv1の雑魚プレイヤー。そのことを言っても、Lv1のプレイヤーがガルムを一撃で倒すことは出来ないと言うので、ステータスウィンドウを、職業とDSの所意外を可視モードにして見せた。

 SLが上がっていること以外は、何も変わっていない。

 これを見て、リリカちゃんはどうしてスキルだけがこんなに高いのか聞いてきたけど、鍛えたとだけ言って、それ以外は出来れば聞かないで欲しいと言うと、

 

〝……分かりました。ゲームの中とは言え、詮索はよくありませんから〟


 そう言ってくれた。

 でも、やっぱりパーティは組んで欲しいと言われたので、無茶をしないと約束してくれうなら、と条件を付けると、ソレを呑んでくれた。


〝では、改めて。わたしは忍者のリリカです。よろしくお願いします、シオンさん〟

〝よろしく、リリカちゃん〟


 互いの拳を合わせる。

 こうしてわたしはSGO+の中で初めて、おねえちゃん達以外の人とパーティを組むことになった。

 

 ――現状だけで言えば、彼女とパーティと組んだことは間違いだった。

 初心者の平原の魔物でも、見れば殺された恐怖を思い出して足が竦んで身動きが取れなくなり、直ぐに危険な状態になってしまう。

 初めて会った時のアレは、あくまで驚いてしまった弾みが原因であって、彼女の意思で出て行った訳じゃない。

 だから、まずはその恐怖を克服する為に荒療治を行うことにした。

 彼女、リリカちゃんは小柄だからなのか、身体能力が高いのか、忍者補正なのかは分からないけど、回避力がレベル5の割には高い。

 ちなみに2レベル上がったのは、パーティを組んだことで経験値が共有されたから。

 四人までなら経験値は共有される。それ以上は分散。

 とにかく、その彼女の恐怖を克服する方法、ソレはブラッドイーグルを倒すこと。


〝で、俺が呼ばれた訳か〟


 そう言ったのはカインくん。

 今回のことに協力を頼んだら直ぐに来てくれた。

 おねえちゃん達にも頼んだけど、おねえちゃんは〝ユシュリア大陸〟にいて、セキちゃん(夕ちゃん)とスズちゃん(鈴ちゃん)は天界攻略、シィカ(静香ちゃん)とクロナちゃん(紗奈ちゃん)は魔界を攻略していて、来られなかった。

 マリーちゃんとケンさんはいつも通り円満夫婦だから頼んでない。

 そういう訳で、結局頼むことができたのはカインくんだけとなった。

 カインくんにリリカちゃん、リリカちゃんにカインくんを紹介し、暫く三人パーティを組み、嫌がるリリカちゃんを引き摺って南最初のフィールド〝黒き荒野〟へ出た。

 他のプレイヤーがいる中、わたし達三人は門の所で立ち、克服作戦の復習をする。

 わたしが滅破をブラッドイーグルに当てて注意を引き付け、飛んできた所をカインくんが首切り包丁で防ぎ首を掴んで叩きつけ、リリカちゃんが短刀で首を落として倒す。

 成功すれば、克服出来なかったとしてもリリカちゃんのレベルは一気に上がる。

 と言っても5か6くらいだけど。

 確認し終えた所で、ブラッドイーグルの甲高い鳴き声が響いた。

 カインくんとアイコンタクトを取り一歩踏み出てフィールドに出る。

 上空に向けて放った滅破は命中。

 こちらに気付いたブラッドイーグルは弾丸の様な速さで突っこんできた。

 すかさずわたしの前に出ていたカインくんが包丁でその攻撃を受け止め、首を掴んで叩きつける。

 ブラッドイーグルは素早さがどの魔物と比べても桁違いに高いけど、それ以外はレベルが20もあれば十分倒せる程しかない。

 今のリリカちゃんでも、無理をすれば出来ないことはない。

 怖がらなければ、と言う前置きが付くけど。

 後ろを見れば、リリカちゃんは体を抱き締めてガクガクと震えていて、仕切りに死にたくない、怖いと呟いている。

 抑えているカインくんを一度見て、頷いたことを確認し彼女に近付く。

 俯いていた顔を上げさせ、下げられないようにしっかり抑える。

 目を見開いているリリカちゃんに頭突きを一発。

 ゴツンと言う音が響く。


〝痛! な、なにするんですか!〟


 抗議の声を上げるリリカちゃんに、震えてる暇があるなら早く殺ってと言うと、彼女は一瞬目を丸くして、やがて後ろに抑えられてギャーギャーと鳴き声を上げているブラッドイーグルを見た。

 そしてまた恐怖を思い出したのか、小さく震え出す。

 キリが無いと思い、また引き摺ってブラッドイーグルの前に突き出す。


〝早くして。今の貴女といても、足手まといにしかならないから〟


 この時気付いたけど、わたしはおねえちゃん達以外の人に対しては結構冷たくなれるらしい。

 カインくんは既に気付いていたのか、困った様な笑みを浮かべながら溜息を付いている。

 リリカちゃんは、突然振り返り口を開いた。


〝わたしはシオンさんとは違うんです!〟

〝自分が出来るからと言って誰にでも出来ると思わないで下さい!〟

〝死んだことの無いシオンさんにはわたしの怖さなんて分かりません!〟


 と、今のこの状況と全く関係の無いことばかり叫んだ。

 このままだと何を言っても無駄だと思い、リリカちゃんをブラッドイーグルの前に跪かせる。

 腰に差されている短刀を抜いて右手に握らせ、その上から自分の手を重ねて握り、放せない様にする。

 まだ何か叫んでいる彼女を無視して右手を振り上げ、鳴き喚いているブラッドイーグルの脳天に短刀を突き刺す。

 瞬間リリカちゃんが、その感触にビクッと震えたけど、ソレは慣れていくしかない。

 ブラッドイーグルが砕けた瞬間、頭の中にレベルアップを告げるシステムアナウンスが聞こえ、リリカちゃんは腰が抜けたのかわたしの方に寄り掛かってきた。


〝わたしが貴女と違うのは当たり前だし、わたしが出来ることが誰にでも出来るなんて思ってないし、わたしは九回死んでるから、怖さに関しては貴女より知ってる〟


 リリカちゃんとカインくんは同時に疑問の声を上げてわたしを見た。

 そう言えば死んだことは誰にも言ってなかった。

 街に戻った途端、カインくんにはそのことに付いて叱られてしまい、その後今度からはちゃんと言うんだぞ、と言ってわたしの頭を撫でて北に向かって行った。

 リリカちゃんとホームに戻り、ベッドに座って紅茶を飲みながら休憩していると、彼女はさっきのこと、死んだことを聞いてきた。

 ボスに負けたことを言うと、今度はどこのボスか聞かれたけど、ソレには答えなかった。

 また何か聞かれる前にステータスを確認するように言うと、慌ててウィンドウを開いた。

 わたしも同様に確認すると、レベルは8に上がっていた。

 とりあえず、さっきの作戦はわたしとリリカちゃんだけじゃ出来ないから、この先は順に進んでいくしかない。

 リリカちゃんは11まで上がっていたそうだ。

 そこから今後の話に移る前に、もう震えずに戦えるかどうかを聞くと、まだ怖いけどやれるだけやると、幾分か前向きなことを言える様になっていた。

 改めてお互いよろしくと言って、これからのことを話し、西を初心者の平原、鳥の巣、小鬼の洞窟、昆虫地獄の順で進んでいくことになった。

 装備については、弱いに強い武器に頼っているとソレが癖になってしまうことがあるので、ある程度強くなってから変える様に言った。

 防具も然り。


〝それじゃ、早速行くよ〟

〝あ、はい! よろしくお願いします!〟


 元気な返事と共に立ち上がったリリカちゃんの頭をポンと撫でて、出発。

 早速初心者の平原へ向かった。




 ――――それから半年。




〝ヤアッ!〟


 蒼い髪を靡かせながら放たれた彼女のAS・発破掌ハッパショウが極まり、昆虫地獄最奥に陣取るボス、ファラオインセクトを倒した。

 名前で想像できると思うけど、包帯に包まれているカブト虫だと思ってくれれば良い。

 ファラオだから、体は腐っていて飛ぶことすら出来ないけど、何分体がでかくて硬いから単なる体当たりでも厄介……だった。

 少し前の彼女なら。

 ボスが砕けて完全にその場から姿を消すまで油断無く短刀を構え、正面を向いたまま下がってきた彼女――リリカちゃん。

 この娘は、半年で化けた。

 最初の数週間こそ、彼女はやっぱり恐怖を完全に払拭することが出来ずに危ない場面に遭遇することが多々あったけど、二度目の死を迎えそうになった際にソレを完全に振り切り、今では視界の端に動くモノを捉えた時点で抜刀する位になった。

 加えて、わたしとの連携もスムーズに取れる様になり、戦闘がサクサク進む。

 と言っても、ファラオインセクトはリリカちゃんが一人で倒したけど。

 ホント……なんて言うか、


〝意外と雑魚でしたね〟


 逞しくなったよね。

 笑顔で言う彼女を見て、そう思った。


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