FirstEpisode.龍闘士として
首切り包丁を振り回しながら突進してきた〝レッドオーガ〟の攻撃を、白刃取りをすることで防御する。引き抜いて懐に潜り込み、蹴撃系AS・衝脚を発動しながら同系スキル〝昇竜脚〟を放つ。
〝ガッ!〟
一㍍程浮き上がったレッドオーガを追って跳躍し、上を取った所で拳撃系AS・衝拳を発動し、そのまま同系スキル〝十破〟を発動。衝拳で威力の上がった10発の拳を衝撃と共に撃ち込むと、レッドオーガは地上に突っこんで行き砕け散った。
着地して〝索敵〟を使い他に魔物がいないことを確認した所でホッと息を吐く。
あ、どもこんにちは。
清川朱音もとい〝シオン〟です。
いきなりで訳の分からない方もいらっしゃるかも知れませんが、わたし達は今大変な状況になっています。
なんと、172800日。
年換算すると約473年。
その長い時間をこの〝VRMMORPG・Sevens Ground Online+〟の中で過ごさなければならなくなったのです。
――事の始まりは、あの時掛かってきた電話でした。
その相手は、河原でゲーム作りに悩んでいた銛之真さんからだったんです。
内容は完成したゲームのテストプレイをして欲しいと言うこと。
そのゲームが、先程言ったSevens Ground Online+です。
〝地上界〟〝魔界〟〝天界〟と言う三つの仮想世界を舞台に、プレイヤーは各々職業を選び、自由なスタイルで行動する。
選ぶことの出来る職業は、〝格闘家〟〝剣士〟〝魔術師〟〝戦士〟〝召喚士〟〝忍者〟〝錬金術士〟〝スナイパー〟の八種類。
戦闘を重ねていくと、別の職業に変化させることが出来る様になるけど、どんな職業に変わるかは、その時になるまで分からないらしい。一月半テストをしたわたし達は、そのお礼としてバイザーの様なゲーム機とキャラデータを保存したUSBを貰った。そして、春休み中の四月一日から正式サービスが始まり、夏休みに突入して一週間が経ったある日――ログアウトが出来なくなってしまった。
原因は、システムの暴走。
ログアウトが出来なくなったその日。
七月三十日。
ログインしていたプレイヤーは、わたし達含め全員が〝始まりの街・ウェルニア〟に強制転移させられた。
約十五万人が一堂に会していたのは、圧巻だった。
ログアウトが出来ないと叫んでいる人も大勢いたから余計に。
何が起こったのか分からないでいると、突如上空に巨大なウィンドウが出現し、真さんの顔が映し出され、そして、言った。
〝473年〟
と。
尚更訳が分からなかったけど、なぜだかわたし達は他のプレイヤーとは違い、酷く冷静でした。
それから真さんは、SGO+のシステムが原因不明の暴走を起こしたこと。
それに伴い痛覚と三大欲求があっちと同様に働く様になったこと。
未解放エリアが解放され、又追加されること。
暴走の影響で、あっちでの一秒がこっちでの一日になること。
最低でも48時間、秒換算すると172800秒、つまり473年の永い時を、わたし達プレイヤーは、この世界で過ごさなければならないこと。
ログアウト可能状態にするには、地上界、天界、魔界のボスを全て倒されなければならないことを話した。
真さんの表情が、とても真剣だったからかも知れない。
騒いでいたプレイヤー達は、誰一人として言葉を発さなくなっていた。
わたし達が出来たのは、何もせず永い時を待つか、普段通りプレイするかのどちらかだった。
ログアウト不能になってから、コッチでは三年が経った。
プレイヤー達も殆どは落ち着いて来て普通にプレイをしている。
中には、死の危険性を極力減らす為に、ずっと街に籠もってる人もいるけど、それは仕方ないことだと思う。
死ぬのは、誰でも怖いから。
ステータスウィンドウを開き、レベルを見ると、68と表示されていた。
今いる〝悪鬼の平原〟では、丁度良い位のレベルと言える。
プレイヤーの身体能力がダイレクトに反映されるこのSGO+では、限度はあれど、実力差はカバーできる。
KN:Shion
CL:格闘家――魔拳士・聖拳士にクラスチェンジ可能。
Lv:68
HP:12500/12500
STR:8700
DEF:5800
AGI:6240
DEX:3400
LUC:2300
ULUC:1760
装備品・頭――なし
胸――ダリングプレート
腕――ダリングガントレット
脚――ダリングレギンス
スキル一覧
AS
正拳Lv90……ガードを無視してダメージを与える。
滅破Lv87……衝撃破を撃ち出す。拳の向きによって方向を変えることが出来る。
十破Lv85……衝撃破を伴う拳を連続で十発繰り出す。
連脚Lv93……連続蹴り。プレイヤーの身体能力によってヒット数は変わる。
昇竜脚Lv86……敵を下から蹴り上げる。上空の敵でも僅かにダメージを与える。
十五破Lv60……衝撃破を伴う拳を十五発繰り出す。
二十破Lv56……衝撃破を伴う拳を二十発繰り出す。
鎧通しLv38……防具を無視してダメージを与える。
滅破・剛Lv53……貫通力のある衝撃破を放つ。滅破同様、向きを変えることが出来る。
昇竜脚・連Lv76……昇竜脚を連続で繰り出す。プレイヤーの身体能力によって最大六発まで繰り出すことが出来る。
奈落落としLv97……上空の敵を地上に蹴り落とす。
ボディブロウLv82……防具損傷と共にダメージを与え、一定時間行動不能状態にする。
コークスクリュウブロウLv69……防具破壊と共にダメージを与え、気絶状態にする。
SS
衝拳・Lv184……拳の通常攻撃に衝撃破を追加する。ASと併用可能。
衝脚・Lv184……脚の通常攻撃に衝撃破を追加する。ASと併用可能。
気功・Lv190……両手脚の強度を上げる。
見切り・Lv140……攻撃を躱す。連続三回まで使用可能。
受け流し・Lv103……攻撃を無効化する。連続三回まで使用可能。
体力変換・Lv95……体力三分の二を攻撃力に変換する。
魔力変換・Lv100……全魔力を攻撃力に変換する。
闘気集中・Lv132……30秒攻撃力を倍にする。
フェイント・Lv99……行動をキャンセルし別の行動を取ることが出来る。
以上が、現在の全ステータス。
AS、アクションスキルは、戦闘で使う技で、SS、スイッチスキルはON/OFFを自分で決めるスキルのこと。
スキルはレベルが上がっていくと、説明が変わる。例えば、闘気集中は、最初5秒という短い時間だったけど、成長すると今の様に30秒まで保つようになった。
さて、さっきの戦いで何か手に入っか気になり、そのままアイテム欄を見る。
そこには〝赤鬼の角〟〝赤鬼の皮膚〟がそれぞれ二個と三個手に入っていて、更に武器欄には〝首切り包丁〟と言うのがあった。
多分白刃取りをして引き抜いたから、ドロップと言うより盗品って感じがする。
フレンドリストからカインくんを選んでCallすると、目の前に薄い青のウィンドウが出て、そこに赤髪赤目の彼が出て来た。
渡したい物があることを伝え、この平原を抜けた先にある鬼の里で待ち合わせをする。
鬼と言っても、単に角の生えた人がNPCをしているってだけで、暗い所などはなく寧ろ明るくて賑やかな所。
その後、更にレッドオーガを三体程倒して鬼の里に着いた。
それから、その三体も首切り包丁を白刃取りで抜き取って倒したけど、アイテムウィンドウには入っていなかったから、もしかしたら貴重なのかも知れない。
大きな声で名前を呼ばれ、そちらを見ると大剣を背負った、カインくんがいた。
同じ装備をしている彼に近付き、声を掛け、ここで渡すには少し目立つから宿に行こうと言うと、彼が最近買ったというホームに招待された。
そこで首切り包丁を渡すと、一度トライパニッシュと言う、敵を三回連続で斬り付ける技を発動させた彼は、貰っていいのか聞いてきた。
頷きながら、貰ってくれるのか尋ねると、彼は笑顔で言った。
〝今までで一番馴染むよ。ありがとな? シオン〟
と。
それからお暇しようとすると、お茶くらいは出せると言われたので、ついでに何かごはんを作ることにして、冷蔵庫を開けたけど、ソコにはガルムの肉とスライムゼリーした入っていなかった。
ソレを見て少しフリーズしていると、カインくんが気まずそうに謝った。
まあ、この二つは意外と合うから、わたしは気に入っている。
真さんの意向なのか、調味料には苦労することが無い為、この家にもマヨネーズや醤油など沢山の調味料があった。
油を引いて温めたフライパンに肉を投入し、焼けて来た所で胡椒を振ると、
〝くちゅん!〟
鼻に入ってくしゃみが出てしまったけど、なんとかフライパンから顔を逸らすことは出来た。
何かカインくんが顔を右手で押さえて呻いていて、どうしたのか聞いた所、なんでもないと返ってきたから、気にせず料理を続ける。
数分後、出来上がった料理を皿に移してテーブルに運び、カインくんと一緒に食べて、その後片付けをして里の入り口まで送ってもらい、わたしは龍街道へ出発した。
元気かな、龍のおじさん。
太陽の光を受けて煌めく銀の鱗。
二本の大きな角と、どこか知性を感じさせるような深い紫の双眸。
その腕を一振りするだけで地は抉れ、大気は荒れ狂う。
翼の羽ばたきによって起こる風は、竜巻にも匹敵する威力を内包した無数の刃。
その咆吼はどんな魔術をも無効化する絶壁となり決して破ることは叶わず、強靱な顎に捕まれば逃れることは叶わない。
地上界、天界、魔界。
三界全てに存在する龍の頂点に立つ存在と言われる永久滅龍。
適正レベルが80であるこのフィールドのボスであるおじさんのレベルは120。
目の前にいるおじさんは、わたしを見ると呆れた様に言った。
〝性懲りも無くまた来おったのか? 小娘〟
と。
九回負けているおじさんに、成長した今のわたしがどこまで戦えるのか試したいと言えば、おじさんは、暇潰しにはなると言って起き上がり、初撃は受けてやると言って両腕を広げた。
ならば遠慮無く、今できる最大の一撃を喰らわせようと、衝脚・体力変換・魔力変換・闘気集中を発動し、駆け出す。
身構えるおじさん。
高く跳躍し、その脳天に、
〝ハァッ!〟
奈落落としを極める。
――その後のことは、覚えていない。
頬を突いている何かの、そのチクチクとした感覚で目が覚め、まず視界に入ったのはおじさん。
その上に、晴れ渡った青空と、燦々と輝く太陽。
暫し呆けていると、おじさんに少し強く突かれ、ソレで完全に意識が戻ってきた。
それから、あの後のことを聞くと、わたしはおじさんの攻撃の余波で頭をぶつけ気絶してしまったらしい。
納得しているとおじさんはいきなり言った。
〝小娘、お主〝龍闘士〟になるつもりは無いか?〟
と。
聞いたことも無い名前を疑問に思っているとおじさんは、龍闘士について説明してくれた。
通常の転職とは違い、レベルだけでなく、AS・SSのレベルも初期値に戻るけど、効果は引き継がれること。
けれど、使い込むことで更に上の段階へと進化すること。
スキルじゃないけど、常時全ステータスが1.5倍になること。
DSという新しい能力を得ること。
そして、自分に少しでも傷を付けた初めての者だから、と。
再度同じ質問をされ、転移の羽を持っていることを確認したわたしは頷いた。
目を閉じろと言われて閉じると、体の中に何かが入ってきた様な感覚がわたしを襲う。
ソレが終わった後に目を開けると、さっきまで感じられなかったあらゆることが感じられる様になっていた。
風の音や匂い、川のせせらぎ、生命の息吹。
一度に、あまりにも多くそれらを感じてしまったわたしは、気付けば涙を流してしまっていて、おじさんの大きな腕に包まれて眠った。
また目を覚ますと陽は完全に傾き、辺りはオレンジ色に染まっていた。
それからおじさんに謝罪兼お礼をして、ステータスを見るように言われ確認する。
KN:Shion
CL:龍闘士
Lv:1
HP:300/300
STR:500
DEF:250
AGI:400
DEX:180
LUC:120
ULUC:100
装備品・頭――なし
胸――レザープレート
腕――レザートレット
脚――レザーブーツ
スキル一覧
AS
正拳・Lv1……ガードを無視してダメージを与える。
滅破・Lv1……衝撃破を撃ち出す。拳の向きによって方向を変えることが出来る。
十破・Lv1……衝撃破を伴う拳を連続で十発繰り出す。
連脚・Lv1……連続蹴り。プレイヤーの身体能力によってヒット数は変わる。
昇竜脚・Lv1……敵を下から蹴り上げる。上空の敵でも僅かにダメージを与える。
十五破・Lv1……衝撃破を伴う拳を十五発繰り出す。
二十破・Lv1……衝撃破を伴う拳を二十発繰り出す。
鎧通し・Lv1……防具を無視してダメージを与える。
滅破・剛・Lv1……貫通力のある衝撃破を放つ。滅破同様、向きを変えることが出来る。
凶叉・烈・Lv1……敵の内部で衝撃をぶつけ炸裂させる。防具・防御を貫通。
昇竜脚・連・Lv1……昇竜脚を連続で繰り出す。プレイヤーの身体能力によって最大六発まで繰り出すことが出来る。
ボディブロウ・Lv1……防具損傷と共にダメージを与え、一定時間行動不能状態にする。
コークスクリュウブロウ・Lv1……防具破壊と共にダメージを与え、気絶状態にする。
SS
衝拳・Lv1……拳の通常攻撃に衝撃破を追加する。ASと併用可能。
衝脚・Lv1……脚の通常攻撃に衝撃破を追加する。ASと併用可能。
気功・Lv1……両手脚の強度を上げる。
見切り・Lv1……攻撃を躱す。連続三回まで使用可能。
受け流しLv1……攻撃を無効化する。連続三回まで使用可能。
体力変換Lv1……体力三分の二を攻撃力に変換する。
魔力変換Lv1……全魔力を攻撃力に変換する。
闘気集中Lv1……30秒攻撃力を倍にする。
フェイントLv1……行動をキャンセルし別の行動を取ることが出来る。
レベルは初期値に戻っていたけど、ステータスは確かに1.5倍になっていて、スキル効果もそのままだった。
次に、DSを見るように言われて見ると、殆どにコレがあれば十分なんじゃ……と思えるスキルばかりがあって、結構驚いた。
――龍闘士になって三ヶ月。
この期間は、DSの龍化をずっと使った状態でスキルを成長させる為、おじさんにひたすら攻撃を受けて貰い、新たに習得したスキル意外のレベルは全部50以上にした。
龍化は皮膚が鱗に変化して全ステータスが強化され、腕と脚は完全に鱗に覆われて、胴体は背中と側面だけが覆われる。
顔は、外側から内側にかけて変化して、頬に三角形の模様が浮かぶ、みたいな感じになった。見慣れてからは、格好良よくて気に入っている。そして、耳の上辺りには後ろ向きの角が、背中には翼が生える。
今日は、暫しおじさんとお別れをする日。
今度こそおじさんを倒すと決意して拳を突き上げると、おじさんは笑い、つられてわたしも笑った。
この世界でこんなに笑ったのは、今日が初めてだなぁ、と思いながら。
その後、短く言葉を交わして、アイテムウィンドウから転移の羽を取り出し空へと放る。
〝――転移・ウェルニア〟
そう唱えた瞬間、体が白い光に包まれていき、視界が完全に白に覆われると同時に、おじさんの声が聞こえた。
でも、返す前に転移は終わってしまって、次に目を開いた時写ったのは、賑やかな喧騒に包まれた〝始まりの街・ウェルニア〟だった。
さあ、またここから始めよう。
〝龍闘士・シオン〟として――。