04/牛柄パジャマ
僕は仕方なく、ご飯を自分で片づけた。捨てるなんて罰当たりなこと出来ないからね。
その後は、ピカピカにしたお風呂に入ったよ。大理石の広い浴室はプールみたいだった。
あ、もちろん《極楽極楽♪》と言ったさ。
僕の世界では、形無き精神体だから当然お風呂なんて無い。
こっちへ仕事のために呼び出された時とかは、こっそり天然温泉に入ったりするけど、そんなにゆっくり出来ないし。
だから、思わず。
「幸せ〜」
なんて言葉が出てしまう。
僕は牛の着ぐるみ風のパジャマに着替えると、満足げにふかふかのベットへダイブした。
クリスってば、意外にマメだよ。
お風呂から出たら、パジャマが脱衣場に置いてあって、これ着なさいってメモが添えられてた。
「何してるのよ」
ダイブしたベットで羽毛の掛け布団が、もぞもぞと迷惑そうに動いた。
ベットはすごく広い。キングサイズとかのレベルじゃないよ。
僕はクリスに笑顔を向けた。
「僕も寝ようと思って」
「ベットならリビングにあるでしょう」
僕は口を尖らせる。
「クリスずるい。ベットを置いてる部屋はたくさんあるのに、僕にはソファーで毛布を掛けて寝ろって言うの?」
「全部、私の部屋だもの。何で貸さなきゃならないの?」
「制約以外は《自由》にして良いって言ったじやないか」
「…」
急にクリスは黙り込んで、不機嫌そうにベットを出た。
「だったらこのベットをあげる。一番お気に入りだったけれど、ジルの《自由》にしたらいいわ」
自分の枕を持ってクリスは部屋を出ていってしまった。
ぽつんと、僕一人が広いベットに残された。
しんと静まり返ったベットの上は、広い分だけ薄ら寒い。
…って言うか、部屋中に人形やらヌイグルミのたぐいが至る所に転がっていて、かなり不気味なんだ。
悪魔の僕の言う事じゃないけど…一人で居るとかなり怖い。
「…待ってよ!」
僕は少し慌てながら後を追った。
廊下に出ると、備え付けられたランタンの明かりがオレンジ色の光を放っていた。
夜を間近いにした夕闇みたいな中で、銀の髪を揺らす小柄な少女を追いかけた。
「ついて来ないで」
「だって僕の《自由》じゃないか」
…口が裂けても、怖いからヤだなんて言えない。
ピタ。
唐突にクリスは足を止めた。
「《自由》…ね」
意味ありげに呟くと、何を思ったか今来た廊下を戻っていく。
さっきの部屋にたどり着くと、戸惑う僕を余所に、自分はさっさとベットに潜ってしまった。
「えーと…」
困惑して入り口で多々ずんていたら、クリスは面倒くさそうにベットの端っこを指差した。
「そっちの端に頭をやりなさい。…私に指一本触れたら《雷の罰》を与えるわよ?それでも良いなら勝手になさい」
彼女の言う《罰》とは、つまり言う事を聞かない悪魔に、魔女が与える制裁の事だ。
呼び出された悪魔は名前を知られてるから、度を超せば苦痛を通り越して消滅する事もある。
「じゃあ、一緒に居て良いんだ?」
「勝手になさい」
「やった!」
僕は喜々としてベットに潜り込んだ。ふかふかと柔らかくて気持ちいい〜。
一人きりだと薄ら寒くすら感じたのに、やっぱり話し相手が居るだけでずいぶん違う。
軽いまどろみを感じながら僕は暖かい羽毛布団の中に深く身を沈めた。