03/お帰りなさい
限られた条件の中で僕は好きな事をすることにした。
クリスが何を考えてるか懸念して怯えたって仕方ないし。
それに、結構自由が利くから良い仕事だと思う。
少なくとも相手を呪えとか、食事にコッソリ毒を盛れとかよりずっとマシだ。
「…♪」
「ただいま」
しばらくしてクリスが帰って来た。
「お帰りなさい。クリス」
僕はエプロンで濡れた手を拭いながら、小走りに窓に向かった。強い魔力を感じたから、きっとクリスだと思ったよ。
「…ただいま」
もう一度言って、クリスは不思議そうに僕を見上げてきた。
このエプロンのせいかな?
「あのね、自由にして良いって言うから、ご飯を作ってみたんだ。こっちー」
クリスの背を押して僕は食事堂に案内した。
あ、部屋は全て回って覚えたよ。数が多くて大変だった。
食事堂のテーブルには所狭しとご馳走が並んでる。もちろん人間の食べ物で見た目に美しく美味しそうなやつ。
今時の悪魔は、このくらい出来なきゃね。
フィっとクリスは面倒臭さそうに目を逸らした。
「魔女はご飯なんて食べなくても生きていけるわ」
「悪魔だってそうだよ。これは僕の趣味。クリス、食べない?」
「いらない」
興味なさそうに言い切り、クリスは部屋を出てしまおうとする。
「このご飯どうしよう…」
「捨てれば?」
「え゛。ひどい…せっかく作ったのにな」
「じゃあ、食べれば?私はいらないから」
しくしく。めげてたまるか。
「待って。じゃあ、お風呂は?ほこり被ってたから、力入れて掃除しておいたよ」
「そんなの」
クリスはパチンと指を鳴らした。
一瞬クリスの髪が濡れたような気がしたかと思うと、服の汚れも肌のアカも全て払われた。
むむ。やるなぁ。
「それで、お風呂場がほこり被ってたんだね。でも、残念だなぁ…あの湯船に浸かったときの《極楽極楽》って言うのが気持ち良いのに。それじゃあ味も素っ気もない」
「どうでも良いわよ。そんなに入りたければ勝手にすればいいじやない」
うぅ。頑張って掃除したのに。
クリスはきびすを返した。
「疲れたから、もう寝るわ。お休み」
そう言ってクリスは本当に寝室に向かってしまった。
ひどいよぅ、嘘でも一口くらい…せめてお風呂場を覗いて、あんなに頑張ってピカピカになったのを一瞬見るくらい、良いじゃないって思わない?
――僕は何のために召還されたんだ?
召使いにするわけでもなく、ただ家に居ろって言うし。
かと言って、何かしても見向きもされないし。
…何か虚しい。