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マギ・ラック  作者: ラララ~モ
2/2

May 13

〇二話

May 13 In the morning.





「あーはい、もしもし?」


喧噪飛び交うデスクの最奥、野良魔法少女を専門とするそこの部長室で、一人の細目の男が受話器を取った。


「うんうん、あーそう。秋山君のGPS途絶えちゃったかー。彼には期待してたのになー」


飄々とした声で返事をしながら頷く。


「じゃあさ~多分一般人送り込んでも無理なのは分かったよね?え?もう一回?ならそっちの部署がやらかした例の件上に間違えて伝えちゃうかもだけどいい?……うんうん、それでいいんだ」


男が窓越しの街並みを眺めながら、デスクの引き出しから名簿を取り出す。


「じゃあよろしくね、魔法少女の派遣」


名簿には、魔法少女の名前が書き連ねられていた。


「うん、別に強くなくてもいいよ。そうそう、どうせ交渉が目的だし、今そっちも余裕ないでしょ?最近島根陥落したって聞いたし。うん、じゃそういう感じで~」


電話相手の安堵の溜息を聞き愉快な気分になりながら男は受話器を置いた。


「さてさて、秋山君生きてるかな?心配だなぁ。うん、一応帰ったら仏壇に彼の写真増やしておこう。南無南無ナムル」




★     ★     ★




「さて、秋山は今日どうするつもりかな?」


俺が渡された朝食を食べ終えた頃、傍で茶を啜っていた夏樹が問いかけてくる。


「この山は君が仕切っているのか?」

「仕切っているかどうかでいうとそうだね」

「じゃあここを案内してもらうことはできるのか?」

「いいよ。どうせ見せても困らないし」


飲み終えた夏樹は眼帯を片手で器用に付けて立ち上がり、引き戸をガラガラと開けた。


「でもこの山にも雑魚だけど怪人は発生するから気を付けて行こうか」


どこにでも出るな……怪人。

やつらは自然発生が主で、人間を殺すほどに強くなる。

最近では怪人同士の殺し合いも確認されている。蟲毒みたいなもんだろう。


俺はこの世界に密かなやるせなさを感じながら布団から二日ぶりに立ち上がった。

死ぬような怪我をしたのにもう立てるようになっている。魔法は実に不思議だ。

ここに住んでいる野良の魔法少女はどんな生活をしているのだろう?

少しのワクワク感と共に引き戸をくぐると、周りは文明のある世界―――などということはなく、森、森、森……森。


「ここは皆の所からは少し離れているからね」

「何でわざわざ離れて?」

「立地が良かったから」


変わった子だ……立場といい言動といい。

少女の後ろを付いていくが、未舗装の獣道みたいなレベルの道を通るのでキツイ。

ずっとデスクワークだった俺には結構キツイ。


一方で少女は平気な様子でグングン進んでいく。どうなってんだ体力。

暫く歩いていると、前で少女が止まった。


「?どうしたんだ」

「うん、怪人がいるね」

「!」


道先を見る。

何もいない、そう思った矢先、ガサガサという音が耳に入る。

やがてそれは姿を現した。


「グルルル……」


一言で言うなら巨大な漆黒の犬。

それが人間の上半身はあろうかというほどの牙を剥きだしながら唸る。


怪人だな……


だがこいつはマジの怪人じゃない。一度だけ上位の怪人を見たことがあるが、プレッシャーのレベルが月とすっぽんどころか月と上司だ。


「怪人ってレベルでもない、ただの雑魚だね」


夏樹が何でもないことのように言っているのが何よりの証拠だろう。


だが魔法を使えないただの一般ピープルである俺にとっては舐める舐めない以前に普通に死ねる相手であり、あの牙で噛まれるだけで俺はぽっくり死ぬ自信がある。


まぁ今回は俺一人ではない。


「僕はね、変身しなくても多少は能力が使えるんだ」


夏樹が懐から何かを取り出す。俺は我が目を疑った。

彼女の手に収まっていたのは一本の注射器だった、それも人間用の。


「お、おい、それは何なんだ?」

「これ?僕が生み出した物質だよ」


言われて見ると、注射器の中で不気味に輝く液体が揺らめている。


「さて、おいでわんこ」


夏樹が煽るように言うと、巨大な怪物は勢いよく飛び掛かった。

開いた口は、人間の半身は一気に嚙み千切ることができるほどで、夏樹の後ろに立っていても思わず足が竦む。

彼女とデカい犬は大きさが全然違う。

何なら注射器なんて犬に取っちゃただの蚊の針みたいなものだろう。


……一体どうするんだ?!


俺が動揺している間に、夏樹はスッとロデオボーイのようにデカ犬を避け、その懐に注射器を突き立てた。

すると、デカ犬が苦しそうに突然唸り始め、やがて異常なほどのたうち回ってからピタリと動きを止めた。

舞った砂埃が地面へと落ち、視界がクリアになる。


「し、死んだのか?」

「うん。もう死んだよ。それにしても中々美味しそうだね……後で皆と食べようかな」

「た、食べれるのか怪人?」

「まぁいけるのといけないのとがある。食べれない怪人は食べたら死ぬから気を付けてね」


キノコ並みの物騒な発言はさて置き、俺は動かなくなったデカ犬を見つめる。

怪人にも魔法少女と同じくピンからキリまであり、ランクが存在する。


一般人でも殺せるほどの(ウーヌス)からどんな魔法少女だろうと撃破が困難な(デケム)の10段階。

ローマなのに読みがラテンというよく分からない表記なのだが、怪人の分類方法としては優秀だ。因みに(ウーヌス)は上司に命令されて必死に戦ったことがある。あの時はマジで上司を殴る寸前までいった。

……このデカ犬はそれに当てはめると、ランク(ドゥオ)。強く見積もっても(トレース)だろう。


「雑魚……ってほどじゃないだろ」

「うん?まぁ(ドゥオ)くらいじゃないかい?」

「なんだ、ウチの分類知ってるんだな」

「まぁ魔法省とは切っても切れない関係だったからね」


?妙に煙に巻いた発言だな。

夏樹の発言に俺が引っかかる一方で、彼女は魔法でデカ犬を異空間になおしていた。

収納魔法も変身せずに使えんのか……ウチの上位連中と同じか。


「さて、じゃあ行こうか」


いつも通りです、みたいに夏樹が平然と歩きだす。

慌てて追いかけ、道というのもおこがましいような道擬きを歩くこと10分程度。


「着いたよ。ここがこの山の居住スペース」


開けた視界に、少し大きめの洋館が飛び込んできた。


「こんな建物があったのか……」


俺が感心すると、夏樹はニッと笑った。


「そりゃ魔法で隠しているからね。ここは魔法少女以外も住んでるから」

「……?魔法少女以外も?」

「うん。捨てられた子供とかを保護しているんだ」


入口の大きな扉を開くと、暖かな空気と共に声が聞こえてきた。


「あ!そこの物は取っちゃダメっす!!」


昨日の赤ドレスの少女の声。

今はどこかの学校の制服を纏っているが、昨日の今日で忘れることはない。殺害宣告まで受けていたのだ。

どうやらやらかした子供を叱っているらしい。凄く親近感が湧いた。


「おはよう。今日も元気そうだね」

「リーダー!聞いてくださいっす!あいつウチのヘアピン勝手に盗っていったんすよ!」


そこで漸く俺と目が合った。


「げっ」


どこか楽しそうに叫んでいた様子から一変、嫌いな物を見つけてしまったような表情で俺を見てきた。


「何でここに連れてきたんすか……」

「別にいいじゃないか。どうせ暫くここに滞在することになるだろうし」

「……えぇ。ウチは反対なんすけど」

「僕の決定だよ。はい自己紹介して握手ね」


夏樹が楽しそうに言うと、赤ドレスの少女は非常に嫌そうな顔をしながら渋々俺に手を差し出してきた。明らか握手するときの態度ではない。


「ウチは有栖川瀬奈……良かったっすね生きてて。短い間だけど精々必死に生きるっす」

「ああ……よろしく」


俺が恐る恐る握り返すと、一瞬だけ握手した後すぐに手を離された。

俺そこまで嫌われているのか?


「じゃ学校行ってくるっす。リーダー、気を付けてっす」

「?それ僕が言う側じゃないかな。あとヘアピンはもういいの?」

「あいつ一回盗ったら中々返さないんで。じゃ失礼するっす」


夏樹が不思議な表情をする間に有栖川さん?……一応俺が年上だし何かむずがゆいのでさんを外し、有栖川は突然消えた。


「?!消えたぞ?!」

「瀬奈達の学校はここからちょっと離れているからね。瞬間移動の魔法を込めた腕輪をあげているんだ」

「……それうん千万する魔具じゃなかったか?」

「道中で言った通りだよ」


疑問が絶えない俺を置いて夏樹は靴を脱ぎ、廊下を歩きだす。


「さ、取り敢えず上がりなよ。上の部屋で話そう」


促され、俺も靴を脱ぐ。

上への階段を上っていると、上から降りてくるランドセルを背負った少年少女達とすれ違った。

どうやら俺は知らない存在として扱われ、一切目を合わせてくれなかったが。

やがて夏樹に一つの部屋に通された。

中央にポツンとテーブルが置かれ、両側に一組の椅子が置かれている質素な部屋。


「二日ぶりですね」

「……!」


その一つの椅子に、ここに車で来た時に出会った白のドレスの少女が座っていた。




★     ★     ★




「じゃ、説明は任せた」


と言い残して俺を置いて部屋を出て行った夏樹のことを無責任じゃないかと思いながら、俺はテーブルを隔てて座っている少女へと視線を向けた。


有栖川とは違い、魔法少女のままだ。巧妙な警戒が伺える。

魔法少女の姿とそうでないときではそれが同一人物だと特定することはできない。


「改めてご挨拶を、私は立花と言います。ここの室長のような役割をしています」

「あ、ああ。俺は秋山奏斗と言う。一応下っ端だが魔法省の職員をやらせてもらってる」


自己紹介が終わったことで、特に接点も何もない、何なら敵に近い関係だった俺達はシンと静まり返った。


「……説明していいですか?」


立花が耐えきれなくなったと言わんばかりに強い口調で聞いてくる。


「あ、ああ」

「まずここは簡単に言えばただの保護管理施設です。あぶれている魔法少女だけでなく、身寄りのない子供だったりも保護して育てています。そしてここの原型を作ったのが夏樹さんです」

「?彼女はそこまで年を重ねているようには見えないが」

「あれでも20代だそうで、肉体的には17歳程度で止まっているそうです」


そんなビックリ箱みたいなのがあるんだな……

あ、でも確か魔法省にも似たような状態になっている魔法少女がいた気がする。


「資金はどうしてるんだ?」

「基本投資です。ここの一人にそういうのが非常に得意な方がいるので」

「あれ。株って未成年でできたか?」

「知りません」

「え」

「知りません」


俺は黙る。ここすれ違った小学生の子達とかを考えると結構な人数がいると思うのだが、ほとんどを投資で賄えるって凄くねえか?

投資歴5年はある俺でもまだゲーム機買えるね程度だっていうのに……

ひそかな敗北感を感じながら、俺は別の質問をすることにした。


「じゃあここってどれくらいの人数がいるんだ?」

「未就学児が5人、小学生が10人、中学生が4人、高校生が3人です」

「合わせて22人もいるのか……多いな」

「どれもこれも魔法省がちゃんと保護できていないからですよ」


言葉の槍がドスッと俺の心臓を貫く。即死級だ。返す言葉がない。

実際、魔法省は最近怪人の活性化への対応で忙しく、生まれた魔法少女に集中できていたかった。


「……それは下っ端の俺でもよく分かってる。だが魔法少女は突発的にその能力を得る。

だから全てを把握するのはできない。どうしても関知しえないものが出てきてしまう」

「そうですね。だから私は別に魔法省を責める気はありません。味方する気もありませんが」


シンと空気が凍り付く。

少し呼吸がしずらい。

結局、彼女達には彼女らなりの思想があった。

説得とか以前の問題では、と考え始めるのも無理はないのではないだろうか。


「……魔法少女は何人なんだ?」

「中学生二人と高校生二人の合計4人です。私も夏樹さんと同じ特別なので高校ではありません」

「それに夏樹を合わせて6人か……割合高いんだな」


魔法少女は突発的な上、母数が少ない。日本だけで言うと一万人いるかいないか程度。


「全てはここを守るためです。暴力こそが世界で不動の地位を築いていますから」


少女がそれを呟くのはどこか切なかった。

言葉に詰まる俺に、立花が提案する。


「では中を案内しましょう。そしてここにいる私と夏樹さん以外の魔法少女を説得できたなら前向きにあなたの誘いを検討しましょう」


無理難題では、と喉まで来たのを貯めていた唾でゴクリと飲み込む。

ここでそれを言えば俺は黙らせられるだけだ。立花から滲み出ている魔力はかなりのものだからな。


「今は学校の時間なので二人いませんが、残りの二人は部屋に籠っています。どうでしょう?この案はあなたにとって大変良いものだと思うのですが」

「……妥協はしてくれるんだな」

「夏樹さんからの要望です。最低限の機会は与えるべきだというのが夏樹さんの考え方ですから」


立花が返事を待つように俺を見る。

願ってもない話だ。難しいが不可能ではない、と思う。そう思いたい。


「わかった。会わせてくれないか?」

「分かりました。部屋にしかいないのですぐ会えますよ」

「……学業はしてないのか?」

「いえ、既に学校に行かなくでいいくらいの学力があるので。それと本人達の希望です」

「そうなのか……」

「因みに失敗した場合は私としては魔法省に情報が渡る前に消すのが妥当と考えています。夏樹さんが許すかは分かりませんが」


今のは聞かなかった。そう考える方がいい。

立ち上がった立花の後ろを静かに付いて行く。

廊下が結構長く、この建物の広さがよく分かる。

静かだが窓越しに森の音が聞こえとても穏やかな気分になれた。

……魔法省よりいいかも、そう思ってしまった。

ま、だが俺が帰らなければ、やつらは事の次第では優先的に破壊しに来るだろう。

忘れたいが。


だがある所からそれは搔き消えた。

意味の分からないような大きさのケーブルが所せましと廊下を占拠し、ファンの音を鳴り響かせているのである。

風情などなんのその。牧場から急に都会の中心にワープした気分だった。


「ちょっと散らかってますが……」


前を歩く立花が呆れたような表情をしながらケーブルを跨いで進んでいく。

俺も足がつらないか慎重になりながら跨いでいく。

やがて一つの扉が現れた。


「ここです。色々機械いじりが好きでして、投資もこの子がしているんですが……」


立花がコンコンとドアをノックする。

すると返事が返ってきた。


「なに~?ナウちょっとアセンブリ言語開発でビジーなのじゃが~」


じゃが……?のじゃ系の学生とかいるのか?

俺は今日まで会ったことはなかった。すでに変人臭が漂っている。


「遥、会わせたい人がいるんです。開けてください」

「ビジーと言ったじゃろうが。後にしてくれ~」


返事が終わると同時に中から五月蠅い機械音が聞こえる。

一体何の機械を動かしたらこんな音が出るんだ……?!

絶対アセンブリ言語……プログラム開発では出ない音だろ。フレンズkemonoみたいなものでも開発してんのか?


「……ちょっと面倒くさいですね」


扉の前に立つ立花が一切表情を変えないまま呟く。

すると突然俺の腕をがしりと掴んだ。

え?と立花を見ると、何やらする気の顔をしていた。


「初めてなら少し酔うかもしれませんが耐えてください」

「え?」


俺が続けて言う前に、突然視界がぐにゃりと曲がった。

まるで3Dの映像を見ながら回転し続けるような感覚に本気で吐きそうになる。

上下感覚もない。まるで水中にいるようで、どこか身の毛がよだつような感覚に襲われる。


だが次の瞬間俺は部屋の中に立っていた。

おえっと咳をしながら見渡すと、奥に一人の少女が座っていた。


「なんじゃ、わざわざテレポートしたのか」


それは、扉越しに聞いた声だった。

そしてその背後には、大量のパソコンの画面が煌々と光り、文字やグラフを表示していた。


「今日は忙しいと言ったのに、全く……暇じゃないのじゃぞ?」

















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