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マギ・ラック  作者: ラララ~モ
1/1

May 12

〇一話

May 12 After noon






「大丈夫かい?」


全身火傷を負い歩くこともままならない俺。


視線の前には山奥にいるはずのない、鋭い視線で俺を見る一人の片腕のない眼帯少女の姿があった。





時は少し遡る。




「はぁ、何故俺がこんな役割を……」


俺は今、自動車のエンジンを吹かせ、ある場所へと向かっていた。


「ったく、上の連中も何でまたこんな時に」


ハンドルを切り、ある一本道に入ると先に見えるのはポツンと鎮座する山。


だが、そこは禁足地となった場所。


もう4年程前のことだ。


野良の魔法少女達があの山に居つくようになったのだ。


上の連中が幾度も追い出そうとしたが、その魔法少女達はあまりにも強かった。


幸い味方でもなく敵でもなかったので、上の連中は不可侵ということで決着した。


では何故俺はそんな山に向かわされているのか?


事実最近魔法少女の死亡ケースが増えており、どうやら俺らが敵と呼ぶ存在、怪人は上積みが極端に強くなっているらしい。


結果味方に取り込もう案が飛び出た。


で俺に白羽の矢が立った。意味が分からない。


俺はただの平凡な職員だ。


「何が魔法少女の傍で正義の応援が出来ますよ、だコラキャッチ―め」


それにまんまとハマって魔法省に入った俺は今傍にいないじゃないか。


部長が言うには、“え?いやね、君が偶々視界に入ったから。もしかしたらやりたいのかなって思ってね”だそう。


先生か?生徒を当てる時の。


クソっ。帰ったら特別手当でバカンスに行ってやる。


もしこれが成功したなら俺はあの上司より出世できる。


まず無理だろうがな!


俺が車内に流れる音楽に乗って愚痴をこぼしていると、山が視界一杯に広がって来る。


一息付いてペダルを踏もうとした


――――――その時だった。


「……すみません、ここで何をしているんでしょうか?」


「―――ッ何だ?!」


驚いて振り返ると、何と後部座席に色彩に富むドレスを着た少女が二人。


いつの間に?!


魔法少女……


白を基調としたシンプルなドレスの少女。


もう一人は、いかにも炎タイプですみたいな、燃えるようなドレスの少女。


魔法で一瞬にして乗り込んだのか。瞬間移動の類か……


可愛さとは裏腹に恐ろしいほどのプレッシャーを感じる。


俺は背筋が凍る思いをしながらも、何とか平静を取り繕う。


「俺は魔法省の者だ」


「魔法省?国の連中が何の用っすか?」


強い口調で言ったのは赤い方の魔法少女。


既に俺を攻撃する気満々の様子で、冷や汗が更に背筋を流れる。


「……ここの、纏め役に、会わせて欲しい」


肺の冷えた空気を何とか吐く。


「そうですか……」


白ドレスの魔法少女の方が悩むように手を顎に当てる。


どうやら纏め役がいるのは確定のようだ。


「残念ながら、それは無理ですね」


まぁそうだろうな。今までずっと第三陣営みたいなものだったからな。


「どうにか、頼めないか?部長が、うるさいんだ」


「無理ですね。私達は国のために力を貸す気など更々ありません」


「そこを何とか……」


「無理なものは無理です。今なら回れ右をすればおうちに帰れますよ」


「たのむか――」


二人のプレッシャーが増し、俺は黙る。


俺も帰りたい。帰りたいわ。


けどな、魔法省なめんなよ。はい断られましたが通じる場所じゃない。


「頼む」


「……これ以上は待ちませんよ、隣が」


そう言われ隣を見ると、赤ドレスの魔法少女が殺さんばかりの視線を向けてきている。


「うちらは中立で平和を保っているんす。事情も知らない田舎者がでしゃばるな」


「……忠告はしましたからね。これ以上進む場合は覚悟してください」


俺が返事する間もなく、二人の姿がぱっと消える。


一気に緊張感が消え、俺は思わず深い安堵の溜息をついた。


やはり魔法だったのか。いきなり後部座席に人がいるのはホラー映画でしか見たことがない。


だが言われた通り進めばファイアーされるだろう。上司より死ぬほうがよっぽど最悪である。


震える手で車をバックにする。


ハンドルを切り方向を変え、俺はペダルを踏みぬき元来た道を戻っていく。


心臓が未だにバクバクと動き、思わずペダルを踏む力を強めてしまう。


車体を風がヒューと切り裂きながら突き進む。


俺はその勢いのままカーブに入ってしまった。


キキキとタイヤが擦れる音が響く。


「―――ッ!しまった!」


焦った所為か、俺はハンドルを切り切れずに崖沿いのガードレールに突っ込んだ。


身構える暇もなく、気づけば車はガードレールを突き破り宙を舞っていた。


世界がゆっくりと動いているように見える。思わず、見惚れてしまう。


だがそれはパキンと崩れ去った。


ガシャン!


流れていた音楽が雑音を残して切れる。


そして中に乗っていた俺も上下感覚を失うほど激しく叩きつけられた。


「あ、が……」


意識は残っていた。


だがその所為でじわじわと激痛が脳を支配する。


霞んだ視界に入るだけでも腕はひどい火傷を負い、あらぬ方向に曲がっている。


どうにか動かなければ……きっと車は燃え始める。


幸いシートベルトは外れており、何とか身を捩り車から這い出る。


外は鬱蒼と生い茂る森に囲まれ森閑としていた。


折れた腕を必死に動かし、ゆっくりと這いずっていく。


行く当てもない。だが、必死だった。


ふと背後から車の炎上音がはっきりと聞こえた。


あのままいたら、きっと死んでいた。


だが俺の意識は段々と薄くなっている。


どっちみち死ぬのだろうか。


最後に上司のあの妙に苛立つ面、殴ってやりたかった。


考えるのも嫌になってきた俺は、委ねるように目を瞑る。


その時だった。


「大丈夫かい?」


前から少し低めの声がかかり見上げる。


こんな森しかない所。人などいるはずもない。


だのに、そこに立っていた。


一人の少女が。


眼帯を右目に付けたカッコ可愛い雰囲気のある顔つきをしており、ショートヘアーで、ラフな灰色のシャツを身にまとっている。


だが何よりも目立つのは服の膨らみが感じられない右腕だった。


「だず……で……」


掠れ声で必死に助けを呼ぶ。


伝わったのか分からない。


だが少女が頷いて何かを呟くのを見て安心した俺は意識を手放した。




◆     ◆




「ん……ここ、は」


視界が開けると最初に飛び込んできたのは見知らぬ天井。


天国……?


「目覚めたかい?」


隣から声が聞こえた。


どうやら生きているらしい。あ、死んだわと思っていたが、この世界はワンダフルだ。


今の俺は布団に横たわっているようだ。


痛まないかと心配しながらゆっくり首だけを動かし、声のした方を見る。


そこには畳の上に座る先ほどの眼帯を付けた少女の姿があった。


「ここは……」


「僕の仮住まいみたいなもの。ただの小さな庵」


言われて辺りを見回すと、確かに6畳ほどしかなかった。


小庵というやつだろうか。


「俺は……どうなったんだ?」


「僕が治した。めちゃくちゃ死にかけだったからね」


少女が何でもないことのように言う。


この少女も魔法少女なのか……魔法少女になれる存在は多くはないはずなんだがな。


それに加え回復魔法……魔法省では使い手が少なく稀有な存在だ。


「大分治したけど、完治したわけじゃないから暫く安静にしておくことだね」


軽く微笑んだ少女が真ん中の炉で心地よい音を出す鉄瓶を手に取る。


その動作には既に右腕の存在は考慮されていないようだった。


「お茶飲むかい?」


「じゃあ少し……」


少女が畳に置いた湯冷ましに湯を注ぐ。


水蒸気の暖かさがモウと立ち込める。


少し経ってから少女は片手で湯冷ましを持ち、急須に注いだ。


二つ用意された湯呑にそれを注ぐと透明感のある緑色の液体が流れ落ちると同時に部屋を香ばしい香りが漂う。


「はい、熱いから気を付けて」


差し出された湯気の立ち上る湯呑を、俺は上半身を起こして受け取る。


体は包帯が巻かれていたが、気絶する前と違って痛みはほとんど引いていた。


ズズ、と一口飲むと体が心から温まる感覚がした。


「それにしても、何故こんな山に?」


少女が片手で器用に茶を啜りながら俺に問いかけてくる。


命の恩人だ。隠す理由などない。


「俺は魔法省の職員で秋山っていうんだが」


「ふむ」


「それで上司からこの山に住み着く野良の魔法少女を味方に付けてこいって言われてな」


「ふむふむ」


「逆らえなかった俺はここのいるであろう纏め役に会いに来た結果こうなった」


「なるほどね……」


説明の終わった俺に対して、少女は考えるように手を顎に当てた。


「でもまぁ暫くは安静だから、交渉頑張れ」


「いやだから、肝心の纏め役が誰か分からないんだ」


「なら僕を説得しなきゃね」


「?……待て。まさか……」


俺が最近で一番の驚きをする一方で、少女は少しだけ微笑んだ。


すると突然、庵の引き戸がガラガラと開けられる音がした。


「偵察から帰ってきたっすよ~……てなんでお前がここにいるんすか?車ごと燃えたと思ってたのに」


入ってきたのは先ほど後部座席に現れた赤ドレスの少女。


柔らかな視線から一変、俺を睨みつけてくる。


即殺されてないだけ幸いというほど。


「僕が連れてきた」


「……どうするんすか、そいつ」


「治してしまったのだから、暫く僕が預かるよ」


「……そうっすか。リーダーがそう言うならいいっす」


一瞬だけ不満気な表情をした赤ドレスの少女は引き戸を勢いよく閉めた。


「さて、改めて僕の名前は夏樹。苗字は忘れた。少しの間だけどよろしく」


少女――夏樹が左手を差し出してくる。


俺は未だ理解が追い付かないまま、ぎこちない動きで握り返した。




◆     ◆




日が暮れ、えげつないほど睨みつけてくる赤ドレスの少女からトレーに乗った食事を貰い、食べ終わった俺は布団に横になっていた。


今自分がどこにいてどういう状況なのか容量を得ない。


ただ畳のイグサの香りの所為か、心地よくて焦りなどは一切生まれていなかった。


小さな明かりだけが俺を照らしている。


……どうせ魔法省は俺がいなくともいたって平常に動いているだろう。


何だかやるせなさがこみあげてくる。


こういう時、寝た方がいいのかもしれん。


時刻はイマイチ分らんが、外は真っ暗だ。


寝ようか、と思っていると引き戸が開けられる音。


「そろそろ消灯してもいいかな」


入ってきたのは甚兵衛を身に纏い布団を担ぐ夏樹だった。


なんで布団を持っている。


そう問いかける前に、引き戸が再びバンと開かれた。


「リーダー!何故ここで寝るんすか?!」


赤ドレスではなくオレンジ色のパジャマを纏った少女が飛び込んでくる。


「いいじゃないか。ここは僕のお気に入りだからね」


「そうじゃなくて、こんな怪しい男がいるんすよ?!」


「僕は一般人には負けるほど弱くないよ」


「だからそういうことではないっす!」


「はいはい。もう寝るから君も寝なさい」


未だ叫ぶ少女を夏樹が押し出し引き戸を閉めた。


外から「あいつ明日燃やしてやるッ!!」と聞こえた。


明日が怖い。


「じゃ、消灯するね」


夏樹がそう言いながら寝るためか眼帯を外す。


「……酷い怪我だな」


露になったのは、十文字の切り跡が深く残る白濁の目だった。


魔法省でさんざん魔法少女が怪我しているのを見た俺でも少し気が遠くなりそうだった。


「まぁね、昔ちょっとした時に切られてね」


夏樹はあまり気にしていないように苦笑するだけだった。


「右腕もそいつに切られたのさ」


「そうか……すまんな」


「気にする必要はない。それに、説得する相手の情報は大事じゃないかな?」


「そういうつもりじゃ……」


「僕はさ、あの子達には魔法少女としての義務とかあまり気にせず生きてもらいたいんだ」


「……」


「幸運な君ならできるかもしれない。できないときは上司に手ぶらで帰ることだね。じゃお休み」


フッと明かりが消え、部屋の中は一瞬にして真っ暗になる。


俺は釈然としない気持ちのまま布団を被った。




◆     ◆




まだ朝日が昇らないうちに僕は布団から出る。


重症だった客を起こさないように引き戸を閉める。


僕は前世の頃から朝はラジオ体操が日課だ。


ラジオ体操第一の妙に頭に残るリズムの乗って体を動かす。


一介の男だった前と違い、今は女となり体は小さくなったものの柔らかくなった。


視界は右半分が消えているし、右腕も失った。時折痛くなる。


幻肢痛。昔ネットで知った知識が役に立つとは思わなかった。


軽く体操を終えた僕は小庵に戻り、中央の小さな炉に水を入れた鉄瓶を置く。


暫く待つと鉄瓶から沸騰した合図のポーという音が鳴る。


イグサの自然の香と相まって、とても心地が良い。


湯冷ましにそれを注ぐ。支える手がなくなったため、慎重に注がないといけない。


少しだけ待ってからそれを急須に注ぐと、イグサの香を上書きするようにお茶の香りが立ち込める。


「んあ……」


匂いに釣られて、客が起きたみたい。


布団がもぞもぞと動く。


「おはよう秋山さん。今日から説得、頑張れ」


僕は湯呑にお茶を注ぎながら、目をしょぼしょぼしているアラサーくらいの男に言った。









































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