青きもの
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
お、これはこれは……つぶらやくん、ちょっとこっちを見てみてよ。
ほら、アスファルトの上に真っ青な斑点ができているでしょ。しかも、だいぶ時間が経っているとみえて、すっかり乾いているようだ。枝でつっついてみても、みじんも汚れがくっつかない。
――単に、何かの塗料がこぼれただけじゃないかって?
いや~、どうやらそれとは違うみたいだよ?
かいでみなよ。なんだか懐かしい香りがしないか? ずっと昔に家の近くにあったパン屋のかもしていた匂いにさ。
やっぱりこいつはレアケースだね。つぶらやくん、これからちょっと時間あるかい?
ちょっと、探し物をしようよ。この青いフンをもたらす、青い鳥を探しにさ。
――ん? あの幸せの青い鳥の話と関係があるのか?
ああ、あるよねえ。古い童話劇だろ? 知ってる知ってる。最終的なオチの取り方は、人によって少し分かれるって聞いたな。
いろいろな体験をしたのちに、自分たちの手元に青い鳥を見出したことから、幸せは身近にあるのだよっていうこと。
はたまた、鳥が逃げ出しちゃったけれど、また探せばいいというところから、幸せは強い気持ちを抱き続けて手にするものだ、とスピリッツを刺激するようなこと。
まあ、僕はどちらもいいと思うけどね。最終的に青い鳥かどうかを判断するのは、僕たちの目と心だ。
相手が変わったように思えるのは、本当に相手が変身したのではなく、自分の受け取り方が変わったためかもしれない。チルチルとミチルだって、以前より森や家の中が幸せそうに見えるようになっていただろ?
内にある青い鳥は、きっといつでも見出せるってのが僕の持論だ。どうせなら機会の限られるであろう外にある青い鳥、探してみないかい? 無駄とか効率とか、うっちゃってさ。
おっとっと、どうやら鳥さん特有の障害物越えだねえ。
どうやらトンネルの上を通っていったらしい。あの斑点が残っている。
つぶらやくん、身体は動かせるかい? わきの斜面から小山のぼりといこう。トンネルを通っていたら、軌跡がわからなくなるからね。
このトンネルって、ほんの数年前に通れるようになったんだっけ。いやあ、いまだに慣れないね。これまでは遠回りしていくのが常だったからさ。
この小山を無理矢理乗り越えていくこと。それが僕たちの子供時代の常識だったっけね。
――ん、つぶらやくん、青いのを見つけたかい? ここを下りたところのあぜ道の入り口?
でかした! ここを下りたらさっさとそちらへ向かおうか。
あぜ道を抜けると、脇へそれてホームセンタ―の駐車場か……打って変わって、ここは昔と変わらないな。
僕たちが子供のときにできてから、多少は看板とか内装を変えながらも商売を続けられている。もう、何千日商売をしていることか。
どんどん毎日が変わっていく中、変わらずにいてくれるものがあるっていうのは、どこか安心するもの。願わくは我々が生きている間は無事でいてくれるといいけどね。
――ん? 青い斑点がまだあちらに続いている?
ああ、わかっているさ。
そして、この先にあるのは……。
公民館としてのたたずまいも、板についてきたかな。とはいえ、今日は賑やかなほどには利用者はいないみたいだが。
忘れもしないだろう? 僕たちの母校、その現代の姿がこうなったわけだ。
卒業しちゃってから、めったに足を運ぶことはなかった。その最期を知ったのは、この姿になってから何年も経ってからのことだったな。
これも不孝というのかな? いや、卒業しちゃったなら、もう赤の他人だし大した問題もないのかな。
少なくとも、ここはいま幸せなのかもね。こうも青色に満ちているんだから……。
――え? 僕自身も身体が真っ青になっているって?
ああ、もうそんな時間か……うちにかえらないとね。
分かっているんだろ? 僕は君だって。
いや……厳密には「つぶらやこーら」を離れた、素の個人としての僕、か。この散歩中は何もかも放り出して、独りに戻りたかったんだろ? 一番、幸せを感じていた、あのころに。
一人が行ける世界なんてちっこいものだけど、その中にも新しいものが来て、長く続くものがいて、そして見送るものがある。すべてがすべて、同じであり続けることはできない。
個人もそうだ。いつまでも同じやつではいられず、そのときどきで手を変え、品を変え、姿さえも変えて生きていく。それでも根っこの……深い根っこのところはずっと変わらずにいるもんさ。
ゆえにかえるよ。君のうちに。君が君でいられるように。
だからさ。変わっていく世界のほうは、任せたぜ。
こんなにも近くて遠い、「つぶらやこーら」に。




