冒険の始まりは若い男女から
これは現実でいつか起こそうと思っている事業計画書であり、
その実行の予想図だ。
日本という小さな国で、主と認められるまでの物語。
だから、魔法も剣もバトルも派手な恋愛もない。
いや、派手な恋愛はあるかもしれない。
柳京介のモテ期が来るかもしれないから。
これは現実でいつか起こそうと思っている事業計画書であり、その実行の予想図だ。
日本という小さな国で、主と認められるまでの物語。
だから、魔法も剣もバトルも派手な恋愛もない。
いや、派手な恋愛はあるかもしれない。
柳京介のモテ期が来るかもしれないから。
柳京介は向上心の高い男だった。
ゆえによくこう考える
「お金を稼ぐために重要なことは何か。」
それは社会の役に立つかである。
バイトしか経験のない京介はYoutubeで誰かが言っていたことをあたかも
自分の考えたかのように一人つぶやいた。
社会の役に立つことをし、それでお金を稼ぎたい。
特別頭はよくないが、悪くはない頭で、そんな方法をふと思いついた。
「リアル無職転生だ」
俺は、東京にしては、栄えていないが、コンビニも徒歩で行けるくらいには栄ええている町のそこそこ大きいマンションの一室で思った。今時、都内に実家があれば、親離れする人は多くはないだろう。もちろん俺もその一人だ。
俺が無職だからそんなことを思ったわけではない。
ただ一度きりの人生、堕落して生きるくらいなら、大きなことを成して失敗しようが、成功しようが、世に名前を刻みたかった。
よく永遠の命を欲しがる悪役が創作の世界には出てくるが、笑えるだろ。
永遠の命を手にした時に、死が確定するわけじゃないか。
無限の時間があれば、人生の密度はゼロになる。それは死んでいるのと同義だ。
だから京介にとって、何かを成すということで、思い立ったのが、
リアル無職転生だった。
1人心の中で、京介は宣言した。
「無職転生を実現したい。死んだ後、人生がうまくいったって、今の俺には関係ない。俺は現世で成り上がりたい。」
でも京介は無職ではない。ただのいまだ実家に住む大学生だ。じゃあ何をもって
「無職転生」と呼んでいるのか。
答えは簡単。
やる気のある無職をあつめてビジネスをやらせ、その成功までの案内を京介がする。
現実で無職転生をするのは俺ではなく、正真正銘の無職たちだ。考えたら自分で抱え込めない性質の京介は、当たり前のように誰かに話したくなった。大抵その誰かは母だった。
隣にある、母の部屋に勢いよくドアを開けて、計画の話をした。そしたら、
「あなたがリーダーになっても信用されないでしょ?
たとえ無職であっても、あなたについていく人はいないわ。」
「俺一人でやるわけじゃない。協力者をまずは探すさ。」
「京ちゃん友達の数なんて片手で数えられるくらいじゃない。それにその友達も今は就活しているんだから忙しいでしょ。」
「男には頼まない。冒険はいつだって知らない若い二人の男女から始まるだろ」
「ちょっと何を言っているのかわからないけど、私の職場に一度来てみたらいいじゃない」
母は、都内の起業サポートに関する仕事に就いていたので、そのような申し出を言ったのだろう。
京介は自分の部屋に戻り、くるくる回転する椅子に座り、その前にある勉強机に脚の乗せながら、先の母との問答を振り返っていた。
京介は計画のやる気をより出していた。
母は今は50代半ばの堀の深い、イギリスのハーフとよく間違われるような顔立ちだが、その顔立ちのせいか、日本人とは思えぬ、言いたいことを隠さず言うタイプである。性格は顔に出るというのは本当なのかもしれない。そんな母からの、協力者なんて見つからないという話に対して、京介は一つ解決策を持っていた。
だが、この解決策を以前、京介の彼女作る計画の案として、母に話したときは、反対された。しかし、この解決策は京介の頭の中には最善の策としか思えなかった。
思い立ったが吉日。すぐ行動できるのが京介の長所であった。
明日にでも、新宿に行こう。
そう思って、3月なのにいまだに冷える部屋で毛布と布団の引いてあるベッドの中で、期待感とともに、眠りについた。
翌朝、お気に入りの青のネルシャツを羽織り、所持している中で一番高いジーンズをはき、いつもの眼鏡ではなく、コンタクトをして新宿に向かった。
なんでおしゃれをしてるかだって?
そんなの、新宿で逆ナンされに行くためさ。冒険の始まりは若い二人の男女から、そしてその男女の出会いはロマンティックでなくてはいけない。
つまり人の多い新宿ほど運命が転がっている場所が日本にあるだろうか?
そんなことを考えながら、11時というサラリーマンも学生も少ない空いた電車に大きな一歩で乗り込んだ。
京介は自己肯定感が人より高いと自覚している。それはあらゆる場面で発揮される。
電車とて例外ではない。
電車では空いている椅子に座らず、わざと立ち、胸を張って身長約180cmを強調し、理系クラスなら上から3番目、文系クラスなら上から6番目、芸能人学校だったら、下から3番目くらいの顔が、電車の窓に映る顔をみて、
「上から数えたほうが早い」
と、一人そんなことをつぶやいて、一人で失笑するのであった。
失笑しているのを、気の強そうな肩幅の広い電車内なのにサングラスをしているチンピラ男がにらんできた。それにひるんだわけではないが、わざと電話がかかってきたフリをしながら新宿より前の駅で降りて、別の号車に乗り移った。
別の号車では、リアル無職転生の細かい案を詰めていた。無職はどうやって集めるのか、彼らになにをビジネスさせるのか。
一番肝心なところを考えていたが、思いつかなかった。まあいい。
まずは仲間探しだ。そのために今電車に揺られている。
さあ、新宿よ、俺の運命よ、待っておけ。
今度は、チンピラはいなかったが、一応声には出さず、心の中でつぶやき、失笑もしないように、
心の中でそんなことをつぶやいた。
次回、文学はエロスだ。性描写は文学の必需品。