30
別荘に戻り、亮介の腕の止血をした。
「翔・・・俺たち、助かったのか?」
「多分。」
2人は床を見つめたまま、しばらくの間黙っていた。
「俺が・・・あの時の事を正直にみんなに言ってたら、こんな事にはならなかったのか? 俺のせいなのか?」
亮介は今になって、強い罪悪感に駆られ始めていた。ずっと目を背けて来たが、これだけの事があり、やっと向き合う気になったのだ。
その様子を見て翔は首を振った。
「お前だけじゃない。俺たちがいけなかったんだ。ずっと間違ってると思ってた。俺は毎年、あの日が来るのが怖かった・・・まさか、『飛び降りろ』の一言で、本当にひなこが自殺するなんて思わなかったし、こんな事まで起きるなんて思わなかったんだ・・・・・・」
翔はカレンダーを見た。
「明日があの日だ。」
亮介も顔を上げてカレンダーを見た。
「過去は変えられないけど、だからこそ、俺達はひなこの事を忘れないようにしよう。もう、それしかできない・・・そうだよな、亮介。」
「・・・分かったよ。」
外からサイレンの音が聞こえた。
通報から随分時間が経っていた。
2人は外に出ると、川の向こうから朝日が昇るのを見つめた。
俺は忘れない。
自分達のした事を。
この一晩で起こった事を。
これから先、あの日の事、この別荘で起きた事を思い出しては、ひどく後悔するだろう。
それは死ぬまで続く。
それでも生きていかなければいけない。
後悔しながら生きる事が償いになるはずだ。
俺は、そう自分に言い聞かせた。
森の中からやって来た警察官が2人を見つけた。事情を説明すると、パトカーに乗った。
翔は山を下りるまで、ずっと窓の外の朝日を眺めていた。
TRUE END
暗い川の水面に、うさぎの仮面が浮いていた。その近くを泳いでいた水鳥が突然大きな鳴き声をあげて消えた。
水面から伸びた手が、暴れる水鳥を冷たい水面下に引き摺り込んだのだ。
後に残った水鳥の羽が、幾つも広がって行く波紋の間をゆらゆらと漂っていた。その中からもう一度手が伸びると・・・・・
その手は、うさぎの仮面を掴んだ。