25
「お邪魔します。」
翔が中に入ると、部屋の中は綺麗に整頓されていた。
「そこの椅子に掛けてください。」
ベッドの前にテーブルと椅子があり、言われた通りに腰を掛けた。
周りを見回し、落ち着かないと感じる。見ず知らずの他人の家なのだからしょうがないが、何かがおかしい。
そこで翔は気がついた。この部屋には窓が無かった。
「どうぞ。飲むと落ち着きますよ。」
いつの間にか男性が飲み物を持って傍に立っていた。受け取ると、一口飲んだ。
ホットココアだ。
普段なら冷たい飲み物しか飲まないが・・・喉を通ると胃の中が温かくなるのを感じた。
安心すると、急に涙が出て来た。
「ううっ・・・」
翔は涙を拭いながら飲んだ。一晩中怖い思いをし、人が死ぬのを目撃してしまったせいだろうか・・・勝手に涙があふれてしまう。
男性が何も言わずにティッシュを持って来てくれた。翔は受け取ると涙を拭いた。
匿ってくれた事と親切な振る舞いに心から感謝した。そして飲み終わる頃には、だんだん眠くなり始めた。
男性は翔の事を見守っていたが、うとうとしている様子を見ると奥の部屋に行くように促した。
言われるがままに案内されドアを開けると、地下に続く階段があった。
「足元に気をつけてください。」
照明のスイッチを点け翔を先に行かせると、ポケットから鍵を取り出しドアを施錠した。
階段を降りるとコンクリート作りの部屋に着いた。
奥の壁には棚が幾つか並べてあり、そこには動物の顔や白い細かいものが詰められている瓶がたくさん並べられている。
左の壁には不気味な仮面が4つ飾られており、右端にはフックがある。もうひとつ仮面が飾られていたのだろうか。
その中の一つに見覚えのあるものがあった。
それは先程殴ったうさぎ男の仮面だった。
背筋が凍りついた。
男性は近くにあった椅子に翔を座らせると、笑いながら話し始めた。
「これ、俺のお気に入りだったんです。でも壊れちゃった。」
ひびの入ったうさぎの仮面を手に取ると、指で割れた箇所をなぞり床に投げ捨てた。
翔は逃げ出そうと思い立ちあがろうとした。が、うまく体が動かず椅子から転がり落ちてしまった。
おかしい。
動くのが苦になる程の強い眠気が翔を襲っている。先ほど出された飲み物に何か混ぜられていたのだろうか。
笑顔だった男の表情が一変し、嘲るような顔で翔を見下ろした。
「夜遅くに森の中を歩いてる・・・それだけでも怪しいのに、初対面の人間を簡単に信用するなんてね。間抜け過ぎて笑っちゃうよ。俺ならそんな事はしない。」
男は壁に立てかけてあった斧を手に取った。
「ここに来た事、後悔してる? ・・・でも、もう遅いよ。ここには誰も来ないし、助けも来ない。」
翔はケタケタと笑う男の声を聞きながら、必死に床を這って階段の前まで逃げた。
カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・
男が斧で床を叩いている。金属とコンクリートのぶつかり合う音を聞く度にびくっと体が震えた。それでもなんとか階段を登り切りドアノブに手を掛けた・・・
開かない。鍵が掛けられている。
翔はガチャガチャと何度もドアノブを動かしたが、後ろに気配を感じ振り返ると、男の顔を見た。
「バイバイ、翔くん。」
BAD END