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 気がつくと逃げていた。無我夢中で走り、それから昇降口まで下りると外にできている人だかりと悲鳴を無視し、3人で近所のコンビニの駐車場まで走った。


 誰もいない駐車場に着くと膝に手をついて荒い息を整えていたが、暫くすると亮介が口火を切った。



「いいか、誰にも言うなよ。」



 一瞬、時が止まった気がした。



「あれは俺たちのせいじゃない。ひなこが勝手にやったんだ。俺たちのせいじゃない。」



 青ざめた顔をした海斗が頷くのを見て、俺も頷いた。



「さっきあったことは、俺たちだけの秘密だ。いいか、誰にも言うなよ。誰に何を聞かれても、さっきの事は絶対に誰にも言うなよ。」



 俺達は、お互いの目を見つめ、頷き合った。




* * *




 また「あの夢」を見た。

 こんな夢を見たのは、「あの日」が近いからに違いない。



 6月のじめじめとした湿気を感じながら、翔は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出し、口をつけた。

 するとスマホが鳴った。応答ボタンを押し、耳に当てる。


「迎えにきたぜ。今外に居るから、早く来いよ!」

「やべっ、もうそんな時間!?」


 前日に荷物を詰め込んだ旅行バッグを手に取り玄関のドアを開けた。


 今日はひと月前から計画していた旅行の初日だった。




 空は晴れていた。階下を見るとマンションの前に車が一台停まっていた。階段を駆け降りると助手席にいる海斗と目が合い中指を立てられた。後部座席のドアを開けると、亮介が奥に座っていた。


「今まで寝てただろ。」

「起きてたよ。」


 車の中には陽気な音楽が流れていた。口笛が特徴的だ。


「これ何の歌? 聴いた事ある。」

「『The Lazy Song』だよ。ブルーノ・マーズって知ってる?」

「いえ・・・」


 翔が運転手の方を見ると、こちらを振り返っていて目が合った。初めて会うので少し緊張しながら話し掛けた。


「俺は岩崎翔っていいます。今日は林さんの別荘に泊らせて貰えるんですよね。ありがとうございます。」

「翔、よろしく。俺の事は智也って呼んで。あとタメ口でいいから。」

「そっすか・・・。」


 海斗と亮介が笑った。それから亮介が笑顔で翔を小突いた。翔も自然に口角があがる。


「海斗が智也と仲が良くてラッキーだよなぁ。そのおかげで俺たち別荘に行けるんだぜ!目の前に川があるっていうから、釣りして、バーベキューして、花火して・・・まじですごく楽しみなんだけど! あぁ〜、これでかわいい女の子が居りゃ最高なんだけどなぁ。」

「だな。じゃあそろそろ出発しようぜ。」


 智也がアクセルを踏み、車が動き出した。BGMに合わせて皆んなで口笛を吹きながら一般道を走り、やがて高速道路に乗った。




 翔と亮介、海斗は小学校以来からの友人だった。高校、大学はそれぞれ別の場所に通っていたが、時々こうして会う仲の良い3人だった。

 そして智也は海斗と同じ大学に通っている。同じ授業を受ける事が多かった2人は自然と仲良くなり、ひと月前に智也の家の別荘に遊びに来ないかと誘われ、友達を呼んでもいいと言われた海斗は喜んで翔と亮介を呼んだのだ。


 一行は2時間ほど高速道路を走り、山と田んぼだらけの場所で降りた。それからどんどん車を走らせると、スーパーで必要な物を買い、再び車を走らせた。


 更に1時間ほど走ると山道が見えてきた。

 時間をかけていろは坂をくねくねと進むが、なかなかたどり着かない。


「本当にこの道で合ってるのか? この先、獣道っぽいんだけど。」

「だよね。ごめん、久々に来るから迷ったかも。少し戻って地元の人に道を聞こうかな。」


 元来た道を走っていると、道路を歩く老婆がいた。減速し、窓を開けて老婆に道を尋ねた。


「それなら、そっちの山だよ。そこの道を右に曲がればいい。」


 どうやら分かれ道を一本間違えてしまったようだ。智也がお礼を言おうとすると・・・



 突然老婆が車の中に手を伸ばし、ハンドルを握る智也の腕を強く掴んだ。



「な、何するんですか!?」


「あの山には近づかない方がいい。昔、犬や猫の首のない死骸をよく見かける場所だったが・・・最近また同じようなものを見た人が増えてるんだ。滅多な事は言わない、近づかない方がいい。近づかない方が・・・」



 智也は老婆の手を払うと、笑顔を取り繕ってお礼を言い、車を急発進させた。


 助手席の海斗が口を開いた。


「さっきのばあちゃん、気味悪い事言ってたな。首がない犬と猫がよく見つかるって・・・」


 翔と亮介も老婆の話が気になり、口数が減った。

 重苦しい空気を振り払うかのように、智也が大声でみんなに声を掛けた。


「変な婆ちゃんだったな! 今まで何回かここに来てるけど、首のない動物の死体なんて一回も見た事ない。大丈夫だよ、せっかくここまで来たんだし、楽しもう!! なっ!?」


 智也の明るい声を聞いて、3人は「それもそうだな」「噂話だろ」と笑顔を取り戻した。




 老婆の言った通りに道を進むと、無事に別荘まで辿り着いた。


 トランクから荷物を下ろすと、翔は森の中にそびえ立つ一軒家を見上げた。



 ここで楽しい思い出を作る。

 そう思うと胸が躍った。


 【2へ進む】


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