第4章 第9話 ユーラビスタ帝国へ
渡し舟は【水流操作】の使える先頭が対応してくれて、思っていたより短い時間で渡河できた。東グレーデンの街は西グレーデンと比べてみて特に何か違う印象はなかった。屋台や食料品店で大量買いしながら街を北上し、北門から出ると街道に沿って北東へと進んでいく。
「聖ペテログリフはご飯が美味しかったですね」
ラクスレーヴェが寄って来た街の感想を一言で纏めた。
「そうだねぇ。ちょっと平和過ぎた気もするけど、ご飯は美味しかったかな」
マツリの同意に、アーシェスも首を縦に振る。
「このまま街道沿いに行くと次の国?」
マツリが御者席裏の窓越しに聞いてくる。
「そうだね。次の国の東部辺りからが、迷宮都市群に入って来る感じ」
エイルがマツリに答える。
「迷宮都市群って、迷宮都市群という国かと思ってた。違うんだ?」
マツリが怪訝そうな顔をする。
「国ではないよ。規模の大きい特殊な迷宮を抱えた城塞都市が沢山ある地域を、ひっくるめて迷宮都市群という呼び方がされている。国の数でいえば四ヶ国くらいに渡って広がっているんじゃないかな?」
エイルの解説にへー。という顔をしながらマツリが首を捻る。
「特殊なの?ダンジョンってどこも変わっていたというか、特殊だった気がするけど?」
マツリの疑問にエイルは答える。
「特殊さ。転移魔法陣がかなり古代の遺物らしくて、ダンジョンの入口にある転移魔法陣から自分が攻略済みになった階層に転移出来るんだ。六十階層まで攻略して帰ったら、次も六十階層から続きに潜れるってこと」
マツリが目を見開いた。今までのダンジョンでは毎回一階層から潜り直しだった。
「え、なにそれホント?そんなにユーザーフレンドリーなの?」
「ユーザー?まぁ、探索者にフレンドリーな親切設計だというのは俺も思う。稀に一時的に使えない期間があるらしいが、日を改めれば使えたりするからね。毎回一階層から潜り直すのはメンドクサイよな」
マツリは今までの苦労は何だったのか、という気分に陥る。
「まぁ、転移可能な場所を記録する専用のプレートが必要で、それは迷宮内で見付けるかギルドで買うかしないと駄目なんだけど。今回は購入してしまおうと思ってる」
エイルの言葉にマツリが頷く。
「無制限に転移は出来ないってことだね。わかった」
エイルが思い出した事を伝える。
「あと、そういう古い迷宮達はたまに【宝箱】が湧く」
マツリが再び目を見開き喰いつく。
「宝箱?!なにそれどうして!?」
あまりの勢いにエイルが引き気味になりつつ答える。
「ダンジョンが用意した餌らしいよ?宝箱目当てに探索者がダンジョンに入っては死ぬ。死んだら迷宮の養分になる。死ななくてもダンジョン内の魔素を入って行った探索者が攪拌するから、ダンジョンにとっては有益だとかなんとか。学者先生の言ってた事の受け売りですまんが、このくらいしか覚えてないわ」
マツリは話を聞いて海鮮料理の時並にテンションが上っている。
「階層スキップできるダンジョン!更に宝箱まである!これは高まるわ!」
マツリは上機嫌で馬車の中に戻って行った。残されたエイルはマツリの興奮ポイントがイマイチ分からず肩を竦めた。
◆◆◆◆
東グレーデンを出発してから一週間程で国境に着いた。聖ペトログリフ王国の東側、【ユーラビスタ帝国】である。ユーラビスタは覇権主義で侵略戦争を続ける国であったが、聖ペトログリフ王国にだけは侵攻せず長く友好を保ってきた歴史がある。聖ペトログリフ王国の民は冗談で「うちはメシが美味いからセーフ」などと言っていたが、実はそれがあながち間違いではなかった。
ユーラビスタ帝国は食文化の発達が遅く、長らく焼くか煮るか程度の雑な料理しかなかった。帝国上層部は聖ペトログリフ王国出身のシェフを抱えられるようになってからが一人前という風潮があるほど、聖ペトログリフ王国の食文化に敬意を払って来たのだ。
ユーラビスタ帝国の皇帝が現在の皇帝に変わってから、この国の侵略主義は成りを潜めている。それが功を奏し、ユーラビスタにやってくる他国からの料理人が増え、結果、ユーラビスタ帝国の雑だった食文化が改善されつつある。そのため、「今の皇帝は弱腰だが食生活では救世主」として敬われていた。人間、美味しい物をお腹一杯食べれるのが一番幸せなのである。
国境を越えてユーラビスタ帝国に入ると、関所街の大通りには何件もの「聖ペトログリフ料理」を掲げる店が軒を連ねていた。思っていた以上に食文化の侵略は深刻なようだ。
関所街を抜けると街道沿いに東へ向かう。迷宮都市群に含まれるのはユーラビスタの東部にある城塞都市だ。そのため、北部寄りにある帝都はスルーして、なるべく近道になる経路を進んだ。
道中何度か補給に街には寄ったが、滞在は殆どしなかった。どこも味付けと調理法が雑だったのだ。これなら食材を買ってマツリに作ってもらった方が断然美味かった。
≪黒絹≫一行はユーラビスタ帝国の食文化レベルを知ったことで、マツリへの敬意が増した。「胃袋を制するものが家庭を制する」とはマツリの談だった。
◆◆◆◆
ユーラビスタに入国してから一週間程経過した頃、ようやく東の城塞都市【ヴァルナガルナ】に到着した。
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