第4章 第6話 迷宮都市群のクラン≪武器庫≫
エイル失踪当時のお話と、彼を待つクランの話です。
遡る事四年前。
迷宮都市群を拠点に活動する探索者クラン≪武器庫≫は特級難易度のダンジョン【百竜百魔の岩戸】の探索中に、クラン・リーダーのエイル・カンナギを失った。
炎の老竜との戦闘直後に現れた魔将級悪魔族の襲撃により、戦線は崩れた。エイルは近場に解明済の転移トラップが在ったのを思い出し、そちらへ魔将級悪魔族を誘引して一緒に転移した。
転移陣は強制力の高い物と低い物がある。
強制力の弱い物だと、転移発動時点で魔法陣に入りかけていた者は丸々残される安全設計だ。
一方、強制力の高い物だと、転移発動時点で魔法陣に入りかけていた者は、空間ごと切断されて魔法陣内に入っていた部分だけが強制的に飛ばされる。
安全への配慮が足りないのは、それを仕込むだけの余力がない程、密度の濃い転移陣が書き込まれているためだ。より古代の物に見られる乱暴な仕掛けだった。
この時、エイルが飛んだ魔法陣は強制力の弱い物で、魔将級悪魔族を転移陣内部に縛り付けるため、エイル自身も一緒に転移した。
転移した先の迷宮内構造物での戦闘中、エイルが吹き飛ばされてぶつかった壁が崩れ、その向こう側に書き込みの細かい転移陣があった。強制力の強い転移魔法陣特有の情報量に、エイルは賭けた。
魔法陣内部に飛び込んで魔法陣の中心に傷口から滴る血液を押し付ける。エイルを逃すまいとする魔将級悪魔族が魔法陣の境を跨いでエイルに迫る。エイルは魔法陣を強制起動しながら魔将級悪魔族を押さえに掛かったが、そう簡単な敵ではなかった。転移陣発動までの攻防で片腕を千切り取られ、転移陣の発動で片脚から脇腹にかけても欠損するダメージを受けた。対して魔将級悪魔族も片腕から頭に掛けての部位が強制転移に巻き込まれた。
転移先で魔将級悪魔族の死を確認し、満足げに笑った。急速に明度の落ちていく視界と遠のく意識の中、自分の死を確信する。「魂の離散とはこういう感覚なのか」というのが、エイルの最後の思考だった。
≪武器庫≫がエイルが利用した転移トラップを使って後を追うと、強制転移により切断された魔将級悪魔族の死骸と、エイルの肉体の一部が見付かった。
未確認の強制転移陣は危険過ぎて普通は使用しない。エイルが使ったのはそれだけ追い込まれていたからだ。「転移先で生きているかも」とは皆が抱いた希望であり、同時に欠損した肉体で転移してその後が無事だとも思えなかった。
≪武器庫≫は、探索者ギルドに新たに見付かった強制転移陣と、それを使用したリーダーの失踪を伝えた。
後日、ギルドの調査が入った時には強制転移陣は稼働を停止していて、リーダーの転移先につながる情報は途絶えた。
それから半年程経った頃に、探索者ギルドにエイル・カンナギの生存報告がされた。「とりあえず大丈夫、迷宮都市群に帰る」との伝言が伝えられた。
生きていて、戻ってくるというのなら戻って来るのだろう。サブ・リーダーのトーコ・アマツハラはエイル不在の間のリーダー代行としてクランの皆に、活動は続けながらリーダーの帰りを待つ事を宣言した。
それから三年半が経過した現在、未だにリーダーは帰ってこない。
≪武器庫≫はエイルをはじめ古参幹部が長命種のクランだ。長命種にとってはまだ三年半でしょ?くらいの感覚だが、汎人種の感覚では帰りが遅すぎて怒りが湧いてくる。「迎えに行くべき派」と「待っていれば良い派」に分かれ、意見が対立する。
迷宮都市群の≪武器庫≫のクラン・ハウスでは今日もエイルの不在を肴に宴会が行われていた。
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