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【完結】方舟の子 ~神代の遺産は今世を謳歌する~  作者: 篠見 雨
第4章 聖ペトログリフ王国とユーラビスタ帝国
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第4章 第4話 見えざる一撃

 瞑想睡眠の使い手が四人もいると不寝番が捗る。

 アーシェスが寝ている時間に、五十五階層に居た別のパーティがボス部屋の前まで近寄って来たのを感知したが、結局ボス部屋の手前で野営に入ったようだった。

 こちら側に別パーティが居ることに気付いて、気遣ってくれたのだろう。ありがたいことだ。


 四人とも瞑想睡眠で回復が終わると、買い込んである屋台メシで食事を摂った。ボス部屋前のパーティはまだ動いていない様子だった。なので遠慮なく先に五十六階層に降りていく。



迷宮五十六階層。


 久しぶりに陸亀をみた。フォルム自体は前にみた陸亀と殆ど一緒なのだが、甲羅から生えていた鉱物はなく、身体も前の陸亀よりも倍ほどに大きかった。


「出た。私トラウマなんだよね、陸亀」

 マツリがげんなりと肩を落とす。

「強かったのですか?」

 ラクスレーヴェがマツリに訊く。

「いや、なんかすごい無抵抗でさ……。甲羅に閉じこもっても槍なら中身に攻撃出来ちゃってたし、無抵抗な生き物を殺してる感じがしてすごい後味悪かったんだよね」

 アーシェスもその様子が想像できたようで、通路の奥にみえる陸亀をみやる。


「襲ってこないなら横を通り抜けても良いんじゃないか?特別こいつの素材が必要って訳でもないだろうし」

 エイルが三人に言うと、みな頷いた。とりあえず脇を通り過ぎるような感じで近付いていくと、陸亀が首を伸ばしてこちらを見て来た。


「Vooooeeeee?」

 目が合うと一声鳴いた。声?息を吐き出した音だろうか?陸亀がのしッとした動作で身体の向きを変えると、猛烈な勢いで突進してきた。


「ぇ、速ッ?!」

 スタートダッシュから最高速度というような勢いに目を瞠るが、驚いている場合ではない。重量のありそうな巨体が突進してくるのだ。慌てて回避するが、行き過ぎた先でまた方向転換をしてすごい勢いで戻って来る。

「好戦的ぃぃ!?性格違いすぎない?!」

 横に回避は出来るが、回避してもまた戻って来る。さて、どう対応するか。


「土魔法で段差作ってみようか」

 エイルが土魔法で段差を作り始めると他三人も協力して一気に仕上げる。二メル程の段差を作ると、陸亀は段差にぶつかり登ってこれなくなっている。血走った目で一生懸命首を伸ばして齧り付こうとしてくるが、質量と勢いのコンボが止まれば難しくはなかった。

 皆で首に斧を叩き付け、断頭を完了した。

「心が痛まなくて良かったね?」

 五十六階層の強襲型陸亀の攻略方法を理解すると、次の遭遇からは段差ハメで簡単に終わっていった。



迷宮五十七階層。


 先行していたパーティに追いついた。蜘蛛型の魔物と戦闘中だったので、挨拶だけして通り抜けて来た。


「すみません、ちょっと端っこ通りますね」


 通路の端を縦列でそっと通り抜けようとして挨拶したのだが、蜘蛛の巣に掛かって転んだ。恥ずかしい。そのパーティはしばらく蜘蛛狩りをするそうで、通り抜けは快く送り出してくれた。蜘蛛の素材が売れ線なのだろうか。糸かな?


 正規ルート上に避けられない蜘蛛が一匹だけいたので、それは駆除する。素材の回収を考えず炎魔法で巣ごと焼き討ちにした。




迷宮五十八階層。


 森林のネイチャーフロアだった。何時もの樹魔法で高所を作って眺める。遠くに塔状の構造物が見えたため、そちらへと向かうことにする。


 しばらく駆け足で進んでいると、エイルの生体感知に気配が引っ掛かった。駆ける速度を緩めて辺りを窺う。

「んん?気配があるのに何もいない」

 マツリも周囲を見回す。樹上だろうか?上を見てみてもそれっぽい物がいない

「あれ?魔力反応は全然してないのに、生体感知は掛かるんですね」

 魔力感知と霊力感知を交互に繰り返していたラクスレーヴェが首を捻る。

「うーん……?」

 アーシェスも霊力感知に集中して辺りを窺う。


 気配があっても害がないなら走り抜ければ良いか、と思い直して再び駆け始めた瞬間、エイルを横殴りの打撃が襲った。

「ッ?!」

 左脇腹に一撃をくらい、今度は打撃が来た方向に身体が引き摺られていく。

 マツリが目の前でエイルが引き摺られていくのをみて、その行先を目視する。

「光学迷彩!?何かいる!」

 空間が若干歪んで見える場所を目指して【石礫】を飛ばす。【石礫】が当たった場所は一瞬透明化が解け、黄緑色の皮膚か鱗かが見えた。透明になれて魔力の隠蔽に長けた魔物だと皆が理解し、魔物が居るであろう場所への集中攻撃が始まる。当たった場所は一瞬黄緑の地の色が見える。出血したところに関しては血は透明にならないようで、輪郭を浮かび上がらせていた。

 エイルは両腕ごと縛られるように引っ張られており、刀を抜くことも出来ずにいた。

 マツリが駆けてきて、エイルと魔物の間の空間を何度か斬りつけると、エイルを引っ張っていた力が抜けた。

 透明化が解けてみれば、長い舌で巻かれて引っ張られていた事が理解できた。

 エイルの救出後は、マツリも広範囲魔法で雑に攻撃をしかける。

 やがて透明化が維持できなくなった魔物が完全に姿を表す。トカゲと蛙の中間の様な、微妙な生き物だった。アーシェスが満身創痍になっていたその魔物の首を落とし、一匹目の撃退が完了した。


「透明なままでの不意打ちさえ耐えるか凌げれば、難しくはなさそうでしたね」

 ラクスレーヴェに同意しつつ、全く活躍する機会がなかったエイルが肩を落とす。

「つまり餌として先行しろと」

 ラクスレーヴェがにこやかに微笑んで黙った。

 女子に餌役やらせるのもどうかと思い、結局は引き受けるエイルだった。

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