第4章 第2話 グリフローゼのダンジョンへ
到着初日の夕方、散策を兼ねてダンジョンの入口に行ってみることになった。新市街区から旧市街区に入るのには特に制限はなく、平時は自由に行き来できるようだ。
旧市街区側の広場に面する形で、要塞の様な質実剛健の無骨な建屋があった。広場側に面した入口は広く、落とし戸が四枚分程巻き上げられて開放されている。
物々しい落とし戸を潜ると出入り口の内側に通行管理所があり、そこでダンジョンの入場と退出の記録を付けるようになっていた。吹き抜けの天井の高い屋内には石造りの大きな構造物があって、その構造物がダンジョンの出入り口の様だった。
「今日は場所の確認だけだからね」
エイルが仲間達に声を掛け、マテをしておく。出入口を眺めている間にも入場者と退場者が行きかっており、盛況な様子が窺えた。
「ギルドから近いですね。新市街側のギルドの傍の宿がとれたのは幸運でした」
ラクスレーヴェが呟き、その意見にエイルも同意する。
「だな。こんなに近いなら、あのお高めなお値段の価値はあったな」
入口の確認も済んだので、旧市街側の屋台を見て回り、美味しそうな匂いにつられてふらふらと大量に買い込んでから宿に戻って行った。
買い込んできた屋台料理を色々試したい気持ちはあったが、夕食は宿屋の食堂で食べてみた。肉がスプーンで切り分けられる程トロトロに煮込まれたブラウンシチューが絶品であった。是非また食べたい。
宿の自室に戻ると、それぞれに就寝前のルーティーンを熟し、シャワーを浴びて瞑想睡眠をとる。アーシェスに続いてラクスレーヴェも瞑想睡眠を習得したので、浮いた睡眠時間は各自訓練に当てている。お陰で不寝番も回しやすくなった。
聖ペトログリフ王国に入ってから気付いたのだが、四人部屋だと相互監視状態が発生し、エイルの安眠に優しい仕様になった。
また、最近は魂魄の修復も調子が良くなってきた気がする。魔力を作り出す量と魂魄の修復に使用される量のバランスが改善され、前ほどカツカツではなくなったなと体感的に感じる。調子に乗って魔力を使いすぎるとまた魔力枯渇で倒れかねないため、無茶は出来ないのだが。
ベッドに横になり、寝る体勢を作ると寝落ちするまで錬気を練り続けた。
◆◆◆◆
朝起きるとルーティーンを熟して他が目覚めるまで繰り返す。より早く、反射の域で行えるように。身体の細胞一つ一つに覚えさせるように繰り返す。深く集中し過ぎていたようで、気がついたら三人が起きて身だしなみも整え、いつでも食事に出られる準備が出来ていた。
「すまん、待たせた」
エイルは手早く身だしなみを整えて皆と一階へ降りていく。朝のメニューはやたらとみっちりしたパンで合い挽きと思われるパティや野菜を挟んだものだった。パンの密度が高く、見た目よりも満足感が得られた。
一旦部屋に戻ると武装を整えて偽装用の背嚢を背負い、ダンジョンへと向かう。
「ここのダンジョンはどんな感じか聞いてますか?」
アーシェスがエイルに向かって訊ねたが、エイルは首を横に振る。
「昨日はマップを購入しただけで資料室の方には行かなかったから、正直分からないな。でも何か特徴があればギルドで先に言われてそうな気がするし、スタンダードな感じじゃないかね?」
エイルはそう予想し、マツリは指を立てて首を傾げながら予想を口にする。
「昨日ちょっと見てただけでも、結構人の出入りあったじゃない?浅い階層は他の探索者だらけで、あんまり魔物が残っていないかも?」
マツリの予想に納得する。
「ローエンベルグの迷宮でも浅い階層の敵が殆どいなかった時があったな。常にあんな感じなんだろうか」
エイルがありえそうだなーと思いつつ歩いているとすぐに迷宮の要塞のような管理施設が見えて来た。
「敵がいなかったらまた駆け足ね」
エイルがそういうと、マツリが口を尖らせる。
「アーシェとラクスは装備に【疲労回復】ついてるから良いよね。私も何かちょい足ししようかな」
その話にエイルが喰いつき、マツリを振り返る。
「え、あるの?【疲労回復】効果のちょい足しできるものが?俺も欲しいんですけど」
「ラムザちゃん甲冑衣装着る?似合うと思うよ?」
マツリの意地の悪い回答に思わず肩を落とした。
グリフローゼの迷宮、浅層。
グリフローゼの迷宮は、ローエンベルグの東迷宮と西迷宮の間のような敵の構成だった。ローエンベルグの東迷宮ほど個体が強い訳でもなく、西迷宮ほど数で押して来る訳でもない。そしてマツリの予想通り、他の探索者達と良く擦れ違うし敵もあまり見かけなかった。
「……これは深いとこまで走ろうか。マップを買っておいてよかったよ」
エイルが先頭に立って地図を見ながら駆け足になっていく。稀に魔物を見かけるが、走る勢いはそのままで女子三人が速攻で排除していく。
そうやって走り続ける事数時間。途中で道を間違えたりもしたが、五十階層付近からは探索者より魔物が多くなっていた。他の探索者がいるならもっと深い階層に行こうという事になり、最低限の戦闘で先を急ぐ。
五十階層の下り階段部屋まで来たところで昼休憩にした。
「五十階層のボスが居なかったということは、先行しているパーティが近いのかな?」
マツリがエイルに意見を求めると、エイルは頷いて返す。
「休憩終わったら追い抜いてもっと先に行こう」
エイル達は無限の如き異空間収納が悪目立ちするので、出来れば人がいない階層で狩りをしたいと考えていた。
食後にすぐに走ることになるので、食事は程々にして移動を再開した。五十二階層で先行していたパーティを抜かし、更に走る。魔物の気配は徐々に増えているが、次の階層への正規ルート上には魔物の気配が少ない。
まだ先行パーティがあると思われた。
五十五階層で先行していたとパーティを追い越して進み、ボス部屋に着くと今回の潜入でははじめてのボス戦が待っていた。
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