第3章 第40話 迷宮は実戦形式の修練場
迷宮七十五階層の下り階段部屋。
【コンテナ・ハウス】で快適な夜を過ごした翌朝。朝のルーティーンを熟して朝食を済ませると、いよいよ攻略再開である。
「ラクスレーヴェお嬢様、アーシェスお嬢様なにか使ってみたい武器はございますか?」
エイルが二人に訊いてみる。
「先生みたいに色々使ってみたいとは思っていますが、未経験の武器種で実戦はちょっと怖いです」
ラクスレーヴェが少しだけ考えて答えると、アーシェスも同意見の様で首肯していた。
「では、使ってみたくなったらまた声を掛けてください」
迷宮七十六階層。
攻略のフォーメーションは昨日までと同じで、斥候兼罠対策がエイル、マッパーがマツリ、戦闘はラクスレーヴェとアーシェスがメインである。
長槍の石突で床を叩き、怪しい箇所を確かめつつ進む。これまでに多かったのは矢が飛んでくる系、落とし穴、天井からの落下物系である。
今のところは致命的な罠には掛かっていない。とはいえ、唐突に転移トラップを踏む可能性だってあるのだ。用心には用心を重ねて進むのが正解だった。
慎重に進んでいると、エイルの気配探知に生体反応が感じ取れた。
「お嬢様方、生体反応が近付いていますが、分かりますか?」
エイルは後ろを振り返り二人の反応を窺う。二人は少し立ち止まって気配感知に集中するが、感じ取れるものは無かった。
「分からないですね」
育成が戦闘に寄り過ぎたせいで、こういった身に着けておくべき技能が備わっていない。
「気配感知とか気配隠蔽とか、魔力と錬気の訓練にもなるので、今度覚えましょうね」
エイルが今後の指導計画に新しい項目を追加すると、気配の出所に向かって道を変えて歩く。暫く進むと、異様に腕の長い巨大な大猩々が歩いていた。その大猩々は空気中の臭いを嗅ぐような仕草をみせると、エイル達に振り向いた。
知性を感じさせない濁った瞳、開きっぱなしで唾液を垂れ流す口、鼻を頻りに動かしている。
「うわー、生理的に無理。ぞわってする」
マツリがどん引き声をあげる。エイルとしても嫌だ。近付いて欲しくない。
「ささ、お嬢様方、出番ですよ」
通路の端に寄って道をあけてみせた。
「ひっ……。無心、無心、無心になれ……」
顔を嫌そうに歪めながらラクスレーヴェが突き掛かり、アーシェスが後を追って波状攻撃を掛ける。大猩々は長剣のリーチより遥かに長い右腕を横薙ぎに振るい迎え撃つが、ラクスレーヴェは地を這うかのようにして掻い潜り、アーシェスは重心を後ろにずらす歩法で、半瞬勢いを殺して腕が眼前を通過するのを確認、一気に距離を詰める。
「Uvooaa」
表情のない大猩々が空振りした腕を引き戻す間に、距離を殺したラクスレーヴェが脇腹から刃を刺し込み、一拍遅れて飛び込んだアーシェスが右脇の下、腕側の腱を裂く。大猩々はそれを嫌がり左手で振り払おうとするが、ラクスレーヴェとアーシェスはそれを回避しつつ、側面に張りつき続け、右脚や右腕へと裂傷を刻む。
「UGooooooo!」
やがて右膝をついてバランスを崩すと、今度は降りて来た首を狙う。二人の刺突が大猩々の首筋にスッと刃が通り、捩じり込んでから引き抜く事で傷口を更に広げる。
一瞬持ちこたえようとした大猩々だったが、噴き出す血液とともに活動量が減り、俯せに倒れて動かなくなった。
「うん、初見で落ち着いて対処できたね。最後の首への刺し込み、スッと入ったね。錬気意識した?」
エイルが頷きながら褒めて、二人に【清浄】を掛けてやる。マツリも満足そうな顔をしているので、評価としては似たような意見なのだろう。
「はい、足元を崩して降りてきたら首、練習通りいけました」
アーシェスもラクスレーヴェもやり切った感のある良い顔をしていた。
その後、再び出てきた大猩々には樹魔法で足場を作ってやると、ラクスレーヴェがサクッと首を落としていた。足場作りの重要性を今ので感じただろうから、ラクスレーヴェならそのうちマスターすると思われる。
迷宮七十七階層。
明度の低い青の骨格の骸骨兵がいた。鉱山迷宮で戦った神鉄鋼製の骨ゴーレムに類似している。手に持っているのが王錫ではなく両手剣である。物理防御の障壁を使うかまでは分からない。
「前に似た奴と戦いました。そいつは物理攻撃を障壁で止めてましたよ」
とりあえずラクスレーヴェとアーシェスに任せてみる。二人は左右からの挟撃で攻めたてるが、障壁に遮られる感触はなかったが、ただただ硬い。
「障壁はなさそうですが、めちゃくちゃ硬いです」
殴れど通じていなさそうな手応えに困惑気味のアーシェスの声。
「神鉄鋼殴ってるようなものだよ。錬気を刃筋に沿って細く薄く纏わせて」
マツリも応援はするが観戦モードだ。
錬気に関してはラクスレーヴェよりアーシェスの方が先んじている。よりイメージに近い形に近付いていく。青骸骨の胸部は装甲に覆われているが、そこに弱点があることは分かる。であれば装甲の隙間から刃先を捻じ込んで核を壊せばいい。とはいえ、その隙間を狙うのが難しい状況なのだが。アーシェスは長剣の先端にエイルの槍をイメージした錬気を形成し、刺突する。胸部装甲に傷が入った。ラクスレーヴェもその傷に気が付き、攻撃場所を胸部装甲に集中させる。
倒し方をイメージ出来た事で集中力が増し、その傷は徐々に深く大きく広がっていく。ラクスレーヴェが左薙ぎで胸部に錬気の刃を叩き付け、傷が装甲を抜ける。アーシェスが渾身の刺突で開いた傷に刃先を捻じ込み、錬気を放出させると、パキッと乾いた音が鳴り、青骸骨は動きを止めて崩れ落ちた。
「お疲れ様です。一時間くらいかな?集中力が良く持ちましたね」
エイルが二人を労う。二人はそんなに時間が掛かっていたとは思っていなかったようで、申し訳なさそうな顔をしていた。
「自分達でやれたって実績が大事なんだって。次出てきたら私とエイルも戦うから大丈夫」
マツリが座り込んでいた二人に手を貸し、起き上がらせた。
なお、次の青骸骨は鈍器で胸部装甲をベッコリとやられてすぐに沈んだ。
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