第3章 第39話 ≪黒絹≫の秘密
士官学校代表戦の時期がきた。今年は特別試合にも出ず平和に逃げ延びた。そして今は何時もの四人でダンジョンの中にいる。流石に公爵や辺境伯の手のモノでもここまでは追ってこれまい。
ちなみに現在位置は、東迷宮の七十五階層である。既に≪緋の戦乙女≫の探索階層より深くに潜っているため、不意の遭遇はない。よって自重せず全武装フルに使用だ。ラクスレーヴェとアーシェスにも甲冑衣装を着せて良く斬れる剣も渡してある。実戦の中で錬気を鍛えに鍛えて一皮剥けてもらおう。
「がんばれー!」
「魔法にも気を付けてねー?」
マツリと共にお嬢様方を応援する。
「ちょッ!とォ!死ぬぅ!」
「手伝えェェ!」
お二人が戦っておられるのは悪魔族である。あの合金で出来たような体躯に性格が悪いと言わざるをえない自己治癒力、武器を使い、魔法まで操るナチュラルボーン強者の一角だ。
「Wryyyyyyyyyy!」
その悪魔族に追いかけまわされている状態だろうか?とても必死な顔をなさっておられる。お二人がデーモンを引き連れて観客席にお越しになるようだ。
「魔物の押し付け行為はマナー違反ですよ?」
「あぁ、もう!こっちにまで攻撃してくるようになった!」
仕方ないので応戦する。悪魔族が片手で振り回す巨剣をコンパクトな前転避けて足元に転がり込み、足首裏の靭帯に刃を奔らせる。切断と同時に異空間収納に仕舞ってやる事で怪我の治癒から欠損部位の修復に難易度が上り、回復速度の鈍化と消費魔力量の増加を押し付けることが出来る。踏ん張りが利かなくなってバランスを崩したデーモンに、マツリが次々と槍を刺していく。刺さった槍はそのまま手放し、次の槍を取り出してはまた刺す。体内に突き刺さった槍をそのまま残すことで、回復を阻害する。動きが鈍って頭が下がって来た悪魔族の首へ、大太刀に錬気を込めて振り抜く。マツリが首の逆側から打刀を振り抜き、左右から交差した刃で悪魔族の首が刎ね飛んだ。すかさずマツリが頭を収納して再生を防止する。悪魔族が前のめりに倒れるが、身体中に刺された槍がつっかえ棒となって立往生のようになっている。
「さすがに、死ぬかと、おもいました」
ラクスレーヴェが途絶え途絶え息を吐く。
「ほんとに、かんべん、して、くださ……い」
アーシェスも虫の息のようだった。
「寝ている人にセクハラ三昧の悪行三昧。マツリが許しても私は許しませんよ?」
エイルは厳しく叱りつけつつも、果実水の水筒を手渡していく。
人のいないダンジョンの奥深くに行くほど、彼女達の理性が柔らかく溶けて煩悩丸出しになっていく。
「全く、どういう淑女教育を受けて来たんですか」
「ラムザ。憚られるけど言うね?この二人はもう令嬢として終わってると思うの」
「え?」
「普通の貴族令嬢は、悪魔族とガチでやり合って、生き残ったりできないの」
「え?」
「こんなに逞しく育てておいてなんだけど、政略結婚とかさせられそうになったら迷宮都市まで付いてくるとおもうの」
「え?」
二人の強くなりたいという思いは、もっと綺麗な想いだと思っていた。エイルは崩れ落ちた。
◆◆◆◆
「ねぇ、ラムザせんせ?そろそろ機嫌直して?」
アーシェスが上目遣いで覗き込んで来る。エイルが顔の向きを変えると、ラクスレーヴェが上目遣いで回り込んでいた。
「そうですよ、何事も諦めと切り替えが大事で、考えるべきは次善の策ですよ?」
諭される理不尽に半眼になる。
「私たちのことを可愛いと思ってくれていることはバレバレなんですから」
「そんなことはない」
「はいダウト~!審理の魔眼は嘘をつきませぇん!」
イラッとしてデコピンした。反省はしていない。
「置いて行かれても自力で付いて行けちゃう行動力と戦闘力を身に着けちゃったんだから、詰みだよ詰み」
マツリがそう言いつつエイルの肩を叩く。
「とりあえず下り階段部屋で【コンテナ・ハウス】出してご飯たべよう?」
◆◆◆◆
マツリが作ってくれた夕食を食べつつ考えることを放棄していると、マツリが話題を振って来た。
「ねぇラムザ?今後どうなるのかは帰ってから考えれば良いとして、とりあえず話しちゃったら?」
エイルは何の事かと首を捻ると、マツリが四角い形をジェスチャーで伝えてきた。
「あぁ、あれか。そうだな、二人には先に話しとこうか」
「≪黒絹≫の秘密の話ね」
エイルがラクスレーヴェとアーシェスに向き直り、話始める。
「絶対秘密ってことですね」
アーシェスが分かってますとばかりに返事して頷く。
「分かってると思うけど、ラムザ・クロガネは偽名です」
「え?」
アーシェスが聞き返す。
「え?」
エイルは分かってなかったことに「マジで?」のニュアンスで聞き返す。
「あー、ラムザがその名前を受け入れてたから、審理の魔眼が嘘扱いしてなかったんだ」
マツリが指を立てて振りつつ推論を述べる。
「あぁ、なるほど……」
「では、本名を教えてくれると?」
ラクスレーヴェが察して訊くと、エイルは異空間収納から一枚の探索者プレートを取り出して見せた。
「日緋色金級のプレート?」
取り出したプレートの意味を計りかね、書かれた情報に目を通す。
「えっ?エイル・カンナギのプレート?」
エイルは頷き、プレートに魔力認証を通して紋章を光らせた。
「「えぇぇぇ!!」」
その意味に気がついた二人が目を丸くして語彙力がなくなった。
「ちょ、ちょっとまってください?」
ラクスレーヴェは今の情報を整理しようとして「あ、整理むり」となる。
「エイル、イヤーカフス外しなって」
マツリに指摘され、そういえばとサイアリスに貰ったイヤーカフスを外してみせる。
「耳長族になった」
アーシェスとラクスレーヴェが呆然とする
「黒髪の耳長族で、日緋色金のプレートを光らせて、本物なんだ」
エイルが頷いて返す。
「うん。外見が若返ってるのはマツリに命を助けられた時にこうなった。魂魄が傷付いてその修復に魔力が使われていて、まともに魔力を使えなくなってね。だから偽名を使ってる」
「……審理の魔眼が全部ホントだって言ってます」
アーシェスがラクスレーヴェに頷いて言う
「確かに重要情報ですね。口外禁止です」
ラクスレーヴェがしみじみと言う。
「でも今くらいよくありませんか?ねぇ、エイルせんせ?」
アーシェスは呼び方が変わる程度という受け止め方だった。
「そうですね、有名人でも先生は先生ですし。エイル先生。ふふ」
ラクスレーヴェもそれに乗っかり、呼び方が変わる事が可笑しいのか笑っている。
「変なところでポロッとエイル呼びしないでくれよ?」
エイルは苦笑しつつもそれを受け入れた。
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