第3章 第36話 倉庫街調査
マツリのアドバイスにより調査の場所と方法を考え直したエイルは、商業区の倉庫街へと向かった。自分に使えるだけの高出力で、生体感知の範囲を広げて行く。その状態を維持しつつ、倉庫街の端から端を練り歩いて行くと、一つの倉庫に生体反応が不自然に大量に見付かった。
「(これは……当たりか?)」
エイルは対象の倉庫に静かに忍び寄り、中の様子を窺う。壁に耳を近付けて音を確認するが、中に人がいるにしては無音過ぎた。
「(音の遮蔽結界?)」
エイルは自身に遮音しながら樹魔法で足場を作って屋上に上ると、天井付近にある換気口から中を確認する。
「(檻?牢か?何かいるな。人か?)」
檻と思われる箱状の中に、気配が集中している。檻に密着するように顔を寄せた獣人が見えた。何か声を上げているようだが、遮音結界で声は外まで届かない。見張りと思われる男が牢に近付き、鉄格子を派手に蹴りつけるが、やはり音は聞こえてこなかった。
「(黒、だな。合法な奴隷だったら御免だけど、これだけ怪しかったら踏み込まれても仕方ないよね!)」
エイルは倉庫の表に回ると、扉に手を掛ける。さすがに鍵は掛かっているようで、扉は開かない。
「(鉄の枠組と鉄扉か。鍵も頑丈そうだな。斬れるかな……)」
エイルは大太刀を出して錬気を高め、刃先に錬気を纏わせていく。細く、薄く、鉄を断つ錬気の刃を固めていく。
「ッ!」
ウルズ・ゴーガンの断岩が如き振り下ろしは、鉄枠と鉄扉の隙間を削り、裂き、鍵を断った。
大太刀を収納すると腰の脇差に手を当てつつ、扉を蹴り破った。
「なんだ?鍵閉め忘れたのか?」
中に居た男達が一斉に振り向く。数は四人。侵入者と見て既に臨戦態勢に入っている。
「公務による調査だ。大人しくしろ」
エイルは男達に混じりっ気なしの殺気を当て、動きを止める。牢の方に目をやると士官学校の学生ほどの年齢の者もいるが、子供の方が多い。こちらを見て一生懸命に何か叫んでいるようにみえる。
エイルは男達に振り向くと、峰打ちで一刀一殺が如くその意識を刈り取った。
意識を失っている男達を数珠つなぎに縛り上げると。エイルが牢に近付いていく。ようやく遮音結界の中に入ったようで、声が聞こえてきた。
「遮音結界で外に声が届いていませんでした。皆さんは誘拐されて閉じ込められていた。違いますか?」
エイルが念のため訊くと、首肯して自分達の姓名や立場などの声を挙げていく。さすがに覚えきれないエイルは皆を一旦落ち着かせるために「助けに来たから大丈夫」と伝え、格子から下がってもらう。
手にしていた脇差で格子を数本、根本と上の方で切断し、人が通れる幅を確保する。
「皆さん大丈夫です、先ずは衛兵の詰め所まで一緒に来てください。ここの事を伝えて、ご家族を呼んでもらいますから」
エイルは牢から出て来る皆に【清浄】魔法を掛けてやり全員が出てくるのを待つと、彼ら彼女らと四人の捕虜を引き連れて、商業区の衛兵詰め所に向かった。
◆◆◆◆
衛兵の詰め所では失踪事件の事は大々的に対応中だったようで、助け出して来た人達をリストと比較して確認している。四人の捕虜は逃がさないように念を押し、朝になったらベルレイユ家とフェリオール家に連絡を頼むと、ベルレイユ家に戻った。
ようやくの進展である。気ばかりが急いていたところに人質の救出と関係者の捕縛が出来た事ですっかり弛緩してしまい、自室に戻ると泥のように眠りについた。
◆◆◆◆
翌朝、珍しく寝過ごしたエイルは、部屋に入って来た三人によって起こされた。
「私は頑張ったんです。今日くらい寝て過ごしても良いと思いませんか?」
布団を被りなおして寝に戻ろうとすると、ベッドの両サイドが沈み込む揺れを感じた。
「では一緒に寝ましょうか」
「いいですね、たまには」
自分をはさみ込むように柔らかくて温かいモノが接触してくる。
「あっ」
「ちょ、まって……勘弁してください、おきます。おきますから。未婚の乙女が男の布団に入り込むのははしたないですよ?」
エイルは抵抗をやめ、起きることにした。朝の生理現象に接触、感知したアーシェスが顔を真っ赤にするが自爆である。それ以上口を開いてはいけない。
「起きて朝食に伺いますから、先に行っててください」
なんとか部屋から出て行ってもらうと、起き出して身だしなみを整えてから朝食に向かった。
朝食の席にベルレイユ公爵がいたので、昨夜の事を話しておく。暫くすると衛兵からの使いが来て対応しに行った。
「今夜か明日か、アーシェスお嬢様も忙しくなりそうですね」
おそらく審理の魔眼に協力依頼が来るであろうことを察して頷き合った。
想定通り、夕方にはベルレイユ公爵がお迎えにやってきた。安全確保のためにエイルが同行する。マツリはラクスレーヴェと一緒にお留守番となる。
移動の馬車の中で公爵が口を開く。
「王都の闇ギルドが貴族派に雇われてやらかしているらしい。拠点や依頼者などの詳細な情報を確認中だが、アーシェス嬢にも真偽を確認してもらいたい。前みたいに覗き穴のある部屋で取り調べしてるからさ」
フードを目深に被って馬車から降り、連れられるままに付いていく。小部屋が開かれて中に入ると、隣室を覗き見られる穴が空いていた。遮音結界でこちらの声は向こうに聞こえないらしい。
聴取の内容を見てアーシェスが判断した内容を答え、その結果を担当の衛兵がメモに取る。もう一名の衛兵が隣室の尋問官にメモをみせに行って、指示を与えている。
なるほど、この方法ならアーシェスの身バレは大分防げそうだ。ある程度の審問が終わると、公爵が礼を述べて先に家に戻る事になった。この分だと公爵は詰め所で夜を明かしそうだと感じた。
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