第3章 第35話 王都騒乱
第二学年に進級して半年が経った頃。士官学校で生徒が次々と失踪する事件が起きた。士官学校の関連だけかと思われたが、士官学校に通っていない貴族の子女まで行方不明になっている事が判った。
「つまり、中立派と王族派の子供達が攫われている、と」
《黒絹》の二人はベルレイユ公爵とフェリオール辺境伯に呼ばれ、話を聞いていた。お仕事モードである。
「うむ、派閥の末端から広がるように被害が増えている。直に我々の家族も狙われるだろう」
アーシェスとラクスレーヴェだけに限れば、《黒絹》二人が常に傍にいるような物だし、腕前も上がった。しかし家族はその二人以外にも沢山いるのだ。その全てを《黒絹》二人で守り切れる訳がなかった。
「守りに徹するのはあまりに分が悪い。既に攫われている者達の救出も必要だ」
「貴族派の犯行だと?」
エイルが公爵達に訊く。
「尻尾が掴めていないので断言は出来ないが、そうだと睨んでいる」
「我々が貴族派の不正を次々に摘発し、処分しているからな。手を引けという無言の脅迫だと考えるのが筋だろう」
貴族の闇は深い。やはり貴族になどなる物ではないと改めて感じる。
「……誰が何処で何時、消えたのか?なるべく詳しい情報を集めて頂いても?」
エイルが公爵達に情報提供を求め、マツリが対策案を追加する。
「ラクスレーヴェ様とアーシェス様は、しばらくどちらかのお屋敷におまとめになられた方が良いかと」
「屋敷の手勢で言えばベルレイユ家の方が守り易いのではないかな。フェリオール辺境伯は領地にも向かわねばなるまい?」
「公爵、ご配慮感謝いたします」
フェリオール辺境伯がベルレイユ公爵に礼をする。
「うむ、ではアーシェス嬢と《黒絹》二人はしばらく我が家に滞在なさい」
「はっ」
◆◆◆◆
「という訳で、本日より暫くの間、お世話になります」
アーシェスと一緒に《黒絹》も挨拶し、頭を下げる。
ラクスレーヴェとアーシェスが同室に寝泊りし、寝室前のリビングのソファでマツリが眠る。エイルはその隣室である。最初、侍女達が四人を同室にしようとしていた。
「お嬢様がお慕いしていて見た目美少女なのですから、もはや実質同性では?」
何故理解されないのかが理解できない、という顔で見られた。
破綻した理論に正義を感じている侍女ーズの説得は無理だと感じ、せめてもの抵抗で隣室を勝ち取った。
お守りすべきお嬢様をハニートラップに使おうとか、この家の侍女は頭がおかしい。
ベルレイユ家からの送迎で学校に通う。学生達の間の噂話集めからの着手だ。【風操作】で噂話の盗み聞きをし、関連しそうな情報を探す。失踪した生徒の噂話は、やはり攫われたのでは?という見方が多かった。
攫われた女学生達の末路を下品に熱く語りあう男子学生達には、不幸が訪れますようにと何かに祈っておく。
日中は学校で噂話を集め、夕方にベルレイユ家で情報共有と整理を行い、夜間にはエイルが一人で夜の街に出掛けて行く。現行犯を捕まえられれば状況が進みそうだし、攫われる前に助けられる事もあるかもしれない。建物の屋根伝いに街を回っていると、遠くで火事が見えた。現場まで駆け付けてみると、フェリオール家に出入りしている商人の店舗か倉庫だったようだ。本人達に手が出せないならその周囲を崩す。やり方が徹底していて悪辣だ。犯人は捕まえられなかったが、消火活動には協力しておいた。
明け方にベルレイユ家に戻り、二時間程の瞑想睡眠を済ませて朝のルーティーンを熟す。この生活リズムで一週間が過ぎた頃、今度はベルレイユ家に縁のある商人の店が焼き討ちにあっていた。
最初の失踪から既に二週間以上が経過している。捉えられている被害者達の救助も急ぎたい。手が足りないし情報も足りない。手詰まりな状況に焦燥感が募る一方だった。
「ラムザ、今日も見回りにいくの?」
マツリが声を掛けてきた。
「あぁ、そのつもりだよ」
エイルは疲れた顔でそう応える。肉体的疲労は瞑想睡眠で回復できるが、精神的な疲労感はそうもいかない。その様子を見て、マツリは遠慮がちに言う。
「たまには休んだ方が良いんじゃない?」
エイルは頬を緩ませ、マツリの頭を軽く撫でる。
「ありがとう。でも、動かないのもそれはそれでキツいんだわ」
マツリは唇を尖らせてみせる。
「じゃー、何か考え方とかアプローチを変えてみようよ?」
マツリの意見に耳を傾ける。
「今までは犯行の起きそうな所を回って、現行犯を押さえようとしていたんだよね?」
エイルは頷く。
「そうだな。犯行現場周辺での聞き込みと、起こりそうな場所の見回りかな」
マツリはその言葉に頷き、続きを話す。
「じゃあさ、攫われた人が何処に居るのかを考えてみよう」
マツリの意見に耳を傾ける。
「既に何十人?いっぱい攫われてるんだよね?貴族の直接の子供とか、使用人の子供とか」
エイルは頷く。
「あぁ、他に縁のある商人が焼き討ちされたりだな」
「焼き討ちは置いといて、攫われた人の方。結構人数いるのにバレずに隠せてるって事だよね?」
エイルは少し考えてから頷く。
「……バラバラに隠されている可能性もあるが、纏めて捕らえてある方が敵も楽で良いか」
「そう。それで、王都でそんなに沢山の人を隠して置けそうなところは?」
マツリが指を立てて言う。
「それなりに大きくて、監視の目を掻い潜って運び入れたりが自然に出来て、関係者以外が寄り付かない。そんな場所とかない?」
エイルは考え込む。
「……農業区の畜産農家の建物か、商業区の倉庫街とか……あるいは地下水道?」
マツリは立てた指を口元に持って行って考える。
「んー……。農業区は広いし人口も少ないけど、結構ザルだよね?逃げにくい、あるいは逃がさずに捕らえておける方で考えれば、倉庫街か地下水道?」
確かに、一考の余地がある。地下水道は広すぎるから、衛兵隊など公的な人海戦術に頼るしかない。しかし、倉庫街なら?
「倉庫街で生体感知を試してみるよ。ありがとう、マツリ」
建物の外から生体感知で気配を探り、大勢の人気が不自然にある場所を探す。
エイルはマツリに礼を言い、倉庫街に向かって行った。
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