第3章 第34話 弟子の成長
第二学年に進級してから三ヶ月が経った。真夏だった。ローエンベルグ士官学校の制服であるローブは【温度調整】や【湿度調整】が付与されており、真夏だろうが真冬だろうが羽織っていられるのだが、絵面は間違いなく暑苦しい。
エイルは陽射し避けにフードを目深に被り、士官学校の構内を歩いていた。
特別試合以降、貴族派からの露骨な嫌がらせは減った。A組の貴族派の馬鹿二人も、何か言いたそうにしても特に絡んで来る事がなくなっている。
代わりに、スカウトやら縁談やらを持ち込んできて、何とか取り込もうという動きが増えている。
中立派(ベルレイユ公爵とか)と王族派(フェリオール辺境伯とか)については露骨な勧誘は不興を買うとして周知済みらしいのだが、家からの指示に関係なく自分の手柄にしたい学生の暴走は後を絶たない。そういう暴走をする中立派と王族派の子弟は様式美なのか、どいつもこいつも上から目線で「さぁ餌に喰いつけッ!」と言わんばかりである。中立派と王族派ですらそうなのだ。
貴族派の馬鹿息子がマツリに「俺の妾にしてやろう、喜べ平民!」と言って来た時には、周囲の時が凍ったね。マツリが嫌々ながら会話でお断りしても一向に通じず、マツリの身体を触ろうと手を伸ばした瞬間、キレたマツリが、衆人環視の中で取り巻き諸共ボコボコにしていた。更には上から目線で命乞いなどという器用な真似をしていたが、マツリの怒りを煽るだけだった。入念に手足を砕かれベルレイユ公爵経由で産地に送られて行った。もう二度と登校して来ないと思われる。
その一件以来、貴族派はエイルとマツリから目を逸らすようになった。貴族のコネと権威が通じず、下手すると実家にまでベルレイユ家の手が伸びて擦り潰されるのだ。アンタッチャブル的な扱いとして、目を合わせてはならないというルールでも出来たのだろうか。流石に目が合っただけでボコったりはしないのだが。……しないよね?たぶん。
呼び出しを受けたエイルが渡り廊下を通って錬武場に向かう。呼び出しはマツリ、アーシェス、ラクスレーヴェの三人からだ。
錬武場に着くと奥に三人が立っていた。
「何故ここに呼ばれたか判りますね?」
「いえ、まったく」
何か約束していただろうか?そんな覚えはないのだが。
「貴方は今、どこに行っていましたか?」
「中庭です」
「それで何をしていましたか?」
「……呼び出されて少し話をしてきただけですが?」
やましい事はない。誓ってないのだが。
「先生は隙が多すぎます!だからポッと出の小娘に告白などされるのです!」
アーシェスが両拳を上下に振りながら叫んだ。
「そうです、呼び出しの段階で断るべきです!」
ラクスレーヴェも大仰な身振りを入れながら叫んだ。
「えぇぇ」
あんまりな言い草にげんなりとする。
告白される前提で先に断るって、どれだけナルシストなんだって思うんだが。かなり気持ち悪いのではないだろうか。
「ラムザ、上着預かる」
「なんで?まぁいいけど」
なんだか分からないがローブとジャケットをマツリに預ける。マツリはそれを受け取ると異空間収納にしまい、背もたれのない椅子を出してエイルを座らせる。エイルの前に立ったマツリがエイルの額に指を当て、立ち上がれないようにする。
「?」
エイルが意味が分からずきょとんとしていると、「失礼します」とラクスレーヴェの声が聞こえ、背中に密着された。
「ッ?!」
エイルが慌てて立とうとするが、マツリの指先による制圧で立ち上がれない。
「弟子の育成をずっと私に押し付けていたんだから、たまには確認くらいしてあげるべき」
「どうですか?先生。私、育ってますか?」
耳元にラクスレーヴェが囁く。
「ふぁっ!?れんき?れんきのはなしだよね?!」
「ちゃんと確認してくださいね?」
ラクスレーヴェがますます身体を押し付ける。
「まってまって、れんき集中できない」
あたたかいやわらかいいいにおいこえもかわいい
「む、むりぃぃ」
錬気の練度が上ってる事を確認しきるまで、散々玩具にされた。
◆◆◆◆
漸く顔の熱が引いてきた頃、拙いながらも錬気をまとっているラクスレーヴェに祝辞を述べる。
「ラクスレーヴェお嬢様、錬気の成長おめでとうございます。とてもご立派でしたよ」
「ご立派でしたか?」
ラクスレーヴェが胸を寄せてあげてみせる。
「そっちじゃねぇよ!」
思わず言葉遣いが荒くなる。勘弁して欲しい。両手で顔を隠して熱が冷めるまで蹲る。そこに更なる追撃が入る。
「次は私ですよ?せ・ん・せ」
アーシェスの艶のある囁き声と吐息を耳元に受け、声にならない悲鳴があがる。
弟子達の成長を実感するとともに、若返った身体の衝動に理性の危機を感じるエイルだった。
◆◆◆◆
目を覚ましたエイルは、自分が何処にいるのか分からなかった。簡易な造りのベッドにいる。ベッドを囲うようにパーティションが建てられていて、外側の様子が分からない。マツリと弟子達に揶揄われまくり、理性の危機を感じたところまでは覚えているのだが。その後に一体何があったのか、何故自分はこのような場所で寝かされているのか。
「う、駄目だ。頭が割れるように痛い」
鈍痛が思考力を奪う。ベッド脇の小机に上着が畳まれて置かれている。そちら側に床を見ると靴も置いてあった。エイルはベッドから抜け出して靴を履くと、パーティションの外側に出る。
パーティションの向こう側には同じようなパーティションとベッドが並んでいる。
「救護室?」
頭部の鈍痛と合わせて考えると、倒れて運び込まれたのだろうか。救護室から出ると既に夕刻である事が分かった。治癒魔法を頭部に掛けつつ、フェリオール家の屋敷に向かう。フェリオール家に着くと、侍女からアーシェスとマツリがラクスレーヴェの部屋にお泊り会に行っている事を教えて貰った。女子会にまで敢えて踏み込むつもりはない。夕食を頂き割り当てられた自室に帰ると、また死んだように眠りについた。
◆◆◆◆
ラクスレーヴェの部屋
「いやー、びっくりしたね。床に思い切り頭打ち付けるんだもん」
マツリがお菓子を片手に言う。ラクスレーヴェもお茶を飲みつつ同意する。
「血塗れで気絶してましたからね。ちゃんと痕跡は消して治癒もしておきましたが……」
アーシェスが虚空を見つめ当時の状況を思い出していう。
「残った理性での最後の抵抗、という感じでした」
マツリとラクスレーヴェも頷く。
「ラムザを揶揄い過ぎたかな?」
「もうちょっとこう、ハグとかキスとか、上手に理性に負けてくれればよかったのですが」
「オフィーリアさんのやらかしの埋め合わせをして貰いたかっただけですのに」
女子三人の反省会は遅くまで続くのだった。
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