第3章 第31話 緊急指名依頼
「さて。判っているかと思いますが、ここからは時間との戦いです。幸い私は≪緋の戦乙女≫から譲って頂いたマップを持っています。最短を走っていきます」
殆ど走っていて、戦いも足を止めずに瞬殺で進めていく。幸いな事に敵の殆どは先行しているパーティが倒したばかりの様で、戦いの回数自体も少なかった。昼までに十階層をクリアし、小休止で昼食を食べ、午後からも走る。攻略というより走り込みの様相を呈していた。
時間感覚が早々になくなってしまった。三十階層までをクリアして食事と仮眠を取った。アーシェは瞑想睡眠を覚えたので回復が早い。ラクスレーヴェはまだ一人では出来ないが補助付きなら何とかといった所だろうか。
交代で仮眠を取り終わったら再度走る。五十階層までクリアすると、【コンテナ・ハウス】を出して休む。食事を取って睡眠を取り、姫君達には例の甲冑衣装を着てもらい、疲労回復効果で頑張って貰う。エイルとマツリは混合錬気を走りながら維持して走る。
罠の位置まで細かく記載された地図のお陰でガンガン進められた。
迷宮六十階層の麒麟擬きを倒したところで再び休憩をとる。以前はここで引き上げた。
そのため、六十一階層からは地図がない。当然、罠の情報もない。
迷宮六十一階層。
エイルが慎重に槍の石突で怪しいところを突きながら進んでいく。マツリには小まめに人や魔物の気配を探ってくれている。
マッピング作業はアーシェスとラクスレーヴェに託されたが、不安しかない。しかし集中してマップに掛かりきりになれそうなのがこの二人しかいないので仕方がなかった。
「ラムザ、左に曲がると魔物の気配。右だと暫く敵が出ない」
「魔物の気配の向こう側に人の気配は?」
「感じられる範囲にはいない。それより遠いところだとちょっと分からない」
エイルは一瞬考えたものの、マツリのナビに従って右の道を進んでいくと下り階段の部屋が見付かった。
迷宮六十二階層。
東迷宮では初のネイチャーフロアだった。そこには広大な樹海が広がっている。
「え、すごッ!」
アーシェスが驚き、ラクスレーヴェもわくわくした顔をしていた。
「こうも樹海だと見つかるかあやしいな」
エイルが眉間に皺を寄せる。
「それは迷路フロアでも一緒だよ」
マツリがそう言い、樹魔法で足場を作り高所から見渡す。レーヴィアが一緒なら鉱山迷宮の時みたいにこの手法で塔状の構築物を探したはずだ。そして見つかればそこを目指したはずだ。そう考えての行動であったが、見える範囲ではそれらしきモノが見つからない。
「下り階段の構造物は見当たらない」
マツリが下を向いてエイルに声を掛けた。
「代わりに変な樹があるね。一本だけ大きくて紅葉してる」
マツリの報告に眉根を寄せる。
「他に目立つものがないなら、そこにいってみるんじゃないかな?」
一行はマツリが見つけた目立つ紅葉樹を目指す。道中、体高二メルありそうな狼型の魔物と戦闘になったが、先を急ぐマツリ達に容赦は無く、即座にやられていた。
紅葉樹が見えて来ると、その根元に人が倒れているのが見えた。
「結構倒れてるね?」
「待て、不用意に近づくなよ」
エイルが、助けに行こうとする仲間を止める。
「倒れてるって事は理由があるはずだ」
エイルは自分の腰に縄を縛り付け、縄の長い方の端をマツリに手渡した。
「俺が倒れたら、縄を引いて助けてくれ」
マツリが頷いたのを確認して、倒れている人間に近づいてみる。一人目、見覚えのある荷運び人だった。
そのまま抱き抱えて後ろに下り、マツリ達のところまで連れて行く。この作業をしばらく続けていると、カナリエとレーヴィアを見つけて運ぶ。
続いてオフィーリアやカイエ達も見つけて全員を樹から遠ざける事に成功した。
「とりあえず無事……なのかな?」
「大きな怪我は無さそうだけど」
とりあえず目を覚ますか確認が必要か。
「オフィーリアさん!」
耳元で呼びかけつつ肩を叩き、刺激を与える。すると瞼がピクつき、手応えを感じた。
「オフィーリアさん、起きてください!」
オフィーリアの瞼が薄らと開き、エイルをぼーっと眺めると、その首元に手を回してエイルの唇を奪った。
「「「「!?」」」」
余りにも唐突かつ敵意を感じなかったため、避けるという発想がなかった。
「お、オフィーリアさん!?」
エイルが慌てて引き剥がすと、目の焦点が合ってきた。
「あれ……?」
オフィーリアが首を傾げ、周りを見渡して状況を把握した。
「あっえっラ、ラムザさん?!本物?!」
「そうです、助けに来ました」
「ご、ごめんなさい!夢の続きかと!!」
しばらくして漸く落ち着きはじめたオフィーリアが語る。
「不審な樹を見つけたので近寄ってみたんですが、急にメンバーが倒れ始めて……。どうも長い事眠らされていた様です。面目ない」
近づいた生き物を眠らせ、養分にする樹魔のようだ。
「それでその……。ラムザさんとのいやらしい夢をずっと見てて……」
顔を覆って蹲ってしまった。
「は、はずかしすぎる。しぬ」
「ラムザには離れて貰って、私たちが起こしていこう」
「それが良いですね」
「そうですね」
全員起こすまでしばらくかかった。
どうやら精神異常系の催眠にやられていたらしい。精神魔法耐性の指輪がなかったら、助けに行ったラムザも眠り込んでいたのだろう。
そしてラムザをみると顔を真っ赤にする者が続出し、皆が「あっ(察し)」となっていた。
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