第3章 第29話 特別試合
士官学校代表戦まで後一週間という頃、マテの出来ない駄目なワンコのような代表戦参加者達から襲撃を受けた。襲撃、と言っても腕試しとか噂の確認が主要目的の様子だった。
馬鹿が一人アーシェスにいきなり求婚しだしてイラッときて、思わず混合錬気した木刀でそいつの木剣を切断してやった。反省はしていない。切断された木剣の柄を持って呆然としていたが、詳しく説明してやる義理もない。
もう一人、決闘剣術の構えで刺突主体の攻めを連想させる者も挑んできたので、こちらも木剣を切断してご退場頂いた。
一応女子にもやりたいのかと訊いたが、何故か求婚されたので怖くてお断りした。流行り病だろうか。
その後、ベルレイユ公爵とフェリオール辺境伯のタッグに呼び出されて特別試合について話し合いが行われた。貴族派の騎士団構成員の中で、そこそこ腕が立ってプライドの高い者達をターゲットにし、生贄として特別試合に参加させるのはどうかという話で盛り上がった。
二人は派閥は違えど貴族派が嫌いな事は一致しているため、実に悪い顔で計画を詰めて行く。貴族社会の闇を見た。アーシェスとラクスレーヴェは染まらないでいて欲しい。
貴族派を追い詰めるための本筋たる手は二人に任せて良いらしいので安心した。何か無茶振りされないか心配だったのだ。何しろこの大人達は味方だが信用できない。
◆◆◆◆
士官学校代表戦当日。悪い大人達との悪巧みの収穫祭の始まりである。先ずは普通に代表戦が行われ、ローエンベルグ士官学校は惜しくも優勝を逃した。
これでプログラムが終わりかと言うところで、サプライズ企画が発表された。現役騎士の実力者達に学生が挑む特別試合である。
「騎士は学生相手に胸を貸し、学生は先輩方の大きさを知る」という建前で口上が述べられた。
会場入りする四人の騎士と四人の学生。四対四ではなく、一対一を四回行う事が告げられる。
武舞台の中央でお互い礼をし、皆が下がっていく中、二名だけが武舞台の上に残った。
「第一試合、第三騎士団所属、ミレーネ・ガベージ副隊長!立ち向かうはベルレイユ公爵家の姫君、ラクスレーヴェ・ベルレイユ!
ミレーネ嬢は武闘派で知られるガベージ家の次女です。その実力はガベージ家の最高傑作と囁かれる程の魔法剣士!
対するラクスレーヴェ嬢も、何と一年生ながら剣術と魔法の一学年課程を実技講師から免除の認可を勝ち取った才媛です!
これは魔法剣士対魔法剣士の高レベルな戦いを予感させますね?グラナダさん?」
司会者が隣に座る解説者に話を向ける。
「えー、解説のグラナダです。剣術で戦いながら魔法を行使するのは非常に難しい技術です。現役騎士と学生では、やはり場数も経験値も違いますからねぇ。ラクスレーヴェ嬢は戦い難いのではないでしょうか?」
「解説のグラナダさんありがとうございます!さぁ試合開始の銅鑼が今鳴らされる!」
ガシャ—ンッ!
◆◆◆◆
ミレーネは小手調べとばかりに氷弾と岩弾を飛ばし牽制をかける。対してラクスレーヴェはそれを体捌きで躱しながら距離を詰めて行く。
ミレーネは魔力による身体強化を伴った決闘剣術と共に、射出系の攻撃魔術を併用して制圧戦を仕掛けるが、ラクスレーヴェはその悉くを躱し、弾き、受け流す。
「ミレーネ選手の圧倒的な手数!しかしそれを躱し続けるラクスレーヴェ選手!ミレーネ選手の顔に余裕がないように見えますが、いかがですかグラナダさん?」
「確かに良く避けますね。しかし攻撃出来ていない。攻めなければ判定でも勝てませんよ?」
「確かに!」
ラクスレーヴェは静かにミレーネを観察する。ミレーネは焦れているのを隠しもせず、明らかに力んで来ている。現役騎士と言えどこんな物か、と内心肩透かしを喰らった気分だった。
ラクスレーヴェは間合いを詰めつつ、自分の背後から【岩槍】を用意してミレーネの真正面から横へとステップして回り込んでいた。
ミレーネは反射的にラクスレーヴェを目で追ったが、視界の隅に【岩槍】が迫るのに気付き、慌てて後方に回避する。ラクスレーヴェはミレーネが回避した先に【液状化】を仕掛けており、ミレーネの足が取られ態勢を大きく崩した。足元に気を取られた瞬間に、ラクスレーヴェの剣がその喉元に添えられる。
「勝負あり!そこまで!」
審判に試合終了が宣言された。
「なんとなんと、ラクスレーヴェ選手が勝ってしまいました!これはなんという大物殺し!いかがでしたか、グラナダさん!」
「いや驚きました。経験の差を覆す戦術的な魔法の行使、お見事でした。さすがベルレイユ公爵家の姫君ですな」
◆◆◆◆
「第二試合、第三騎士団所属、メンフィス・バエナ隊長!立ち向かうはフェリオール辺境伯家の姫君、アーシェス・フェリオール選手!
メンフィス嬢は若くして隊長職に抜擢された実力者です。バエナ家といえば中央で要職を代々務める事務畑の名門一家ですね。そこから生まれた突然変異、剛腕のメンフィス!
対するアーシェス嬢ですが、ローエンディア有数の武門の名家ですね。何と、ラクスレーヴェ選手と同じく一年生ながら剣術と魔法の一学年課程を実技講師から免除の認可を勝ち取っています。今年の一年生は粒ぞろいですね?
これは長年の研鑽に裏付けられた高レベルな近接戦を予感させますね、グラナダさん?」
司会者が隣に座る解説者に話を向ける。
「剛腕メンフィスと言えば男性騎士顔負けの怪力無双で有名ですよ?それにみてください。先程彼女の副官ミレーネ嬢が負けてしまったため、あの気合の入り様……。やる気に満ち満ちています。加減を誤らないように願いたいですな」
「解説のグラナダさんありがとうございます!さぁ試合開始の銅鑼が今鳴らされる!」
ガシャ—ンッ!
◆◆◆◆
剛腕メンフィスは怒り狂っていた。第一試合で副官のミレーネが学生如きに負けたからだ。そしてアーシェスは若く、美しく、ハーフエルフ故にその容姿は今後長きに渡り最盛期を維持する。怒りと共にどす黒い嫉妬が湧きあがり、止まらない。
銅鑼がなった瞬間、メンフィスは駆けた。黒い感情の赴くまま、目の前の美少女をぐちゃぐちゃにしてやるのだと喜悦に歪めた顔で剣を振るう。
アーシェスは唐竹に斬り下ろされた一撃の軌道に剣を沿わせ、半身を捻って完璧に躱してみせた。その静謐な瞳に苛立ちが募る。訓練ならやらないような大振りの重たさ重視の攻撃を繰り返し、それを躱され続ける。メンフィスが体重を乗せた刺突をアーシェスの顔面に目掛けて突き出した瞬間、アーシェスが動いた。刺突の手元に向かって擦れ違うように一歩踏み込み、右薙ぎをメンフィスの鼻面に突き込んだ。
メンフィスは鼻血を噴出させながら後ろに倒れ、起き上がれない。
「勝負あり!そこまで!」
審判に試合終了が宣言された。
◆◆◆◆
「これは凄まじい一撃でした……。現役騎士を完全に気絶させていますね」
「そうですね。相手の攻撃に向かい一歩踏み込む。とんでもない胆力ですよ?フェリオール家の血筋とはここまでかと魅入ってしまいました」
アーシェスは倒れたメンフィスに立礼を払い、武舞台を下りていく。大げさに喜んでみせたりせず、あくまで相手を尊重するような振る舞いが人々にフェリオール辺境伯家の威厳と高貴さを見せつけていた。
◆◆◆◆
「第三試合、近衛騎士団所属、マリージア・カレイゼン!言わずと知れた東の辺境伯家の英才です!マリージア嬢は剣術馬鹿を地で行くという生粋の武人肌で有名ですね。結婚相手も自分より強い者しか認めないと豪語している話は有名です。
対するはフェリオール家の後見で入学した平民出身のマツリ・サクラダ嬢となります。失礼ですがわたくし、マツリ・サクラダ嬢の事を全く知りませんでした。何か情報はありますか?グラナダさん」
司会者が隣に座る解説者に話を向ける。
「えー、これは私も今朝知ったのですが、探索者ギルドに所属していると聞いています。何でも一学年の若さで既に黄金級という驚異的な情報でした。これが真実であればマリージア選手も苦戦間違いなしだと思いますね」
「解説のグラナダさんありがとうございます!さぁ試合開始の銅鑼が今鳴らされる!」
ガシャ—ンッ!
◆◆◆◆
マリージアは狂喜した。対峙しただけで判る。こいつは強い。己の全霊を賭けて戦う意味がある。その価値がある。銅鑼の音と共に突貫し、小技で揺すって隙を作らせようと誘導していく。対してマツリは体捌きで悉く凌ぎ、逆に回避を誘う一撃には受け流してみせた。
「(強い。組み立てを完全に読まれているッ!)」
マリージアは一旦距離を置いて舌で唇を湿らせた。呼吸を整え、隙を探っていると、マツリが左手を前に翳してクイクイと指を曲げて挑発してみせると、木刀を上段に構えた。
「(小細工なしの上段の撃ち合い。強く早い方が勝つ。シンプルで良い)」
マリージアは獰猛に笑うと、マツリと同様に木剣を上段に構えた。摺り足で間合いを詰め合い、一瞬の交差に全てを賭ける。
「参るッ!」
マリージアが叫んで突貫する。確実に相手より速く撃ったと思った。打ち付ける感触が手に響くと思った。
カッ、と打ち付け合う音がした瞬間、木剣が斬られた。
全身の毛穴が開き、嫌な汗が吹き出るのを感じた。
木剣を切断した斬撃は濃厚な死の気配を瞬間的に霧散させたが、余りにも重たい一撃が小手を撃つ。手元に残ったはずの柄すら取り落として膝をついた。小手は拉げており、確実に骨が折れている。
「そ、そこまで。勝負あり!」
◆◆◆◆
「……これは何と言いますか……。木刀で木剣が斬れるんですね」
「木剣は綺麗に切断されていますが、マリージア選手の小手を見てください。打撃痕です。つまり、斬り落せるが打撃で見逃した、という事です……」
マツリはマリージアに手を貸して立たせると、礼をして武舞台を下りていった。
◆◆◆◆
「第四試合、南方辺境伯家最強の騎士、ウルズ・ゴーガン!言わずと知れた南方辺境伯家の寵児です。ガーラッド・フォン・フェリオールと並び王国最強の一角としてその名は余りにも大きい!鋼の剣で岩を断った岩断の逸話は余りにも有名だぁ!対戦するはなんとマツリ・サクラダ嬢の相棒であるラムザ・クロガネ選手です!グラナダさん、ラムザ選手について何か掴んでいますか?」
司会者が隣に座る解説者に話を向ける。
「マツリ・サクラダ嬢の相棒で、同じく平民ですね。それ以上のことは私も詳しく知らないのですが、木剣斬りと岩断の勝負となると目が離せませんね」
「解説のグラナダさんありがとうございます!さぁ試合開始の銅鑼が今鳴らされる!」
ガシャ—ンッ!
◆◆◆◆
ウルズ・ゴーガンは天然物の混合錬気を纏っていた。その濃厚さと感じられる圧は確かにガーラッドを彷彿とさせる。
ウルズもまた、ガーラッドを思い出させる圧をエイルに感じていた。ウルズはガーラッド以外にここまで圧を受けた経験がなかったが、エイルは日々マツリから圧を受けている。
「(マツリよりこわくねぇ)」
エイルはふっと口元が綻んだ。肩からもすっと力が抜ける。
ウルズは木剣を上段で構え、どっしりと根がはったように動かない。間合いに入った瞬間に一撃で斬り捨てる構えだ。
ウルズが待ちに徹するなら、攻めるしかあるまい。エイルは構えを解き、ただ悠然と歩み寄る。その歩みが余りにも自然過ぎて、ウルズは眉根を寄せた。
「(何を考えている?)」
裏の意図を読もうにも相手は近付いてくるのみ。余計な事は考えないで、間合いに入った瞬間に斬り捨てる。それでいい。
気を落ち着けると間合いに入るのを待つ。そして、気が付いた時には間合いの内側に入られていた。
「ッ!??」
一歩下がりつつ、岩断と呼ばれる程の斬り落しを放とうとするが、エイルの右薙ぎがウルズの右脇腹を砕き、吹き飛ばしていた。
「……しょ、勝負あり」
◆◆◆◆
「……。これは、何が起こったのでしょうか?グラナダさん」
「判りません……。瞬きの瞬間に踏み込んだのかと思いましたが、会場の皆さんの顔をみるに同じでしょう?全員が同時に瞬きしたなんてありえません。何を言っているのか分からないと思いますが、見ていても分からなかった。それだけです……」
サプライズで始まった「現役騎士対学生」は、誰もが予想もしなかった結果で終わりを迎えた。そして、この場には王国の重鎮達が来賓として招かれており、会場にいる全ての人間が証人となった。
校長が憤死するのでは無いかという程に顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
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