第3章 第26話 西迷宮体験ツアー(3)
翌朝、気持ちよく目覚めたアーシェスとラクスレーヴェは前日の疲れなど微塵もなく、朝から元気にルーティーンを熟して朝食も平らげた。
「こんなダンジョン攻略を覚えてしまっては、普通の攻略になんて戻れないのではないでしょうか?」
「本当です。ダンジョン内のおトイレ事情だけでも相当な覚悟の上で臨んだというのに」
文句を言っているようだが喜んでいるのは判るので良しとする。
「今日は、二人に装備の貸し出しをしようかと思うんだ」
エイルがアーシェスとラクスレーヴェに話をする。マツリも頷くので賛成してくれるようだ。
「《黒絹》特製の防具と武器を貸すから、それに着替えて貰えるかな?マツリ、手伝ってあげて」
マツリはキリッとした顔で二人を見やり、
「かわよかっこいいお嬢様を爆誕させてみせるわ!」
方向性が若干意図とズレた気がするが、性能に関しては折り紙付きだろうから良しとする。マツリがお嬢様二人を引き連れて寝室に行く。そこでお着替えをするようだ。
エイルは先に【コンテナ・ハウス】を出て、三人が出て来るのを待つ間、薬草茶を淹れて嗜むのであった。
「おまたせ!」
マツリがやり切った顔で出てきた。後ろからアーシェスとラクスレーヴェがついてくる。
二人はお揃いの甲冑衣装を着込み、凛々しさと可愛らしさを両立させた姿で現れた。腰にはそれぞれ特製の長剣も携えている。
「おぉ、これは確かに。マツリいい仕事だね。お二人ともとても似合っていますよ」
エイルは二人を見て笑顔になる。この姿で街に行くと非常に目立つだろうが、ダンジョン攻略中だけなら大丈夫。観客はエイルとマツリだけだ。
二人とも恥ずかしそうにしているが、似合っている物は似合っているのだ。
「槍や斧、楯とか、なにか希望があれば用意しますので仰ってくださいね」
「その時はお願いします」
とりあえず使い慣れた種類の長剣が良いらしい。
斬れ味も頑丈さも段違いのはずなので、昨日より攻撃力と防御力が共に向上したはずだ。
「さて、片付けたら下に進みましょう」
マツリに目で合図するとコンテナ・ハウスは収納され、いつでも出発できる状態となった。
迷宮三十一階層から三十五階層。
無数の骸骨と戦ったり、用兵してくる豚鬼の軍団と戦ったりしつつ、進撃は進む。
甲冑衣装に【疲労回復】などが付与されているようで、二人も無数に出て来る敵を無心で倒し続けていた。
「いくら戦っても疲れないって気持ち悪いですね。危険薬物でも摂取したかのようで後が怖いです……」
ラクスレーヴェが不安を訴えるが、黙殺される。反動についてはエイルは知らないし、たぶんマツリも詳しくない。大変そうだったら何とかしてあげよう。
迷宮三十五階層ボス戦。
延々と増え続ける小鬼集団との戦闘。ボスを倒せば増えることはなくなりそうだが、ボスがどこにいるのか分からない。その小鬼の人海戦術は、邪魔な死骸を異空間収納にしまっていなければ小山のように積み重なって床を埋め尽くしていたであろう。
延々と倒し続けているウチにいつの間にかボスを倒していたらしく、増殖が止まっていた。
迷宮三十六階層から四十階層。
食人鬼の軍隊と戦い続ける事数時間、漸くボス部屋の扉に辿り着いた。ボス戦前に休憩を求めるのは仕方がない。身体の疲労は無理矢理回復されていったが、心の疲労は溜まっていたのだ。食事をしてトイレ休憩を挟んでようやくやる気が戻って来たところでボス部屋の扉を開いた。
迷宮四十階層ボス部屋
小悪魔の群れが現れた。小鬼のように小柄で力は弱いながら魔法で遠隔攻撃を使う上、【精神阻害】魔法でこちらの集中を乱してくる。しかしエイルが皆にプレゼントしていた【精神魔法耐性】の指輪が効果を発揮し、終始落ち着いて対応する事に成功する。精神攻撃さえ受けなければ意外と大したことのない敵だった。
迷宮四十一階層への階段の前で一行は休憩を取り、そろそろ帰るか相談する。肉体的にはまだまだ行けそうなのだが、やはり初ダンジョンの体験ツアーで四十階層を超えるような攻略で、精神的に疲れ切っていたようだった。
「仕方ないですね、帰りますか。その前に着替えますよ」
マツリがそういい、更衣室の代わりに【コンテナ・ハウス】を出して三人で中に入って行った。
暫く後、元の格好に戻った二人とマツリが現れ、帰還用転移陣で入口に戻って小屋の帳簿に帰還の報告を書いてアーシェスの屋敷に帰宅する。屋敷の使用人に無事帰って来た事を伝えて欲しいとお願いし、馬車でラクスレーヴェを送り届けてからまた帰宅した。
今回の獲物は大量すぎるので、解体所に出して良いものか悩む。どうせ小銭にしかならない小鬼の死骸などは、どこかで捨ててしまった方が良いのかもしれない。こんな事で処理に困る位なら、東迷宮に行けばよかったと後悔した。
成果は兎も角、ダンジョン体験としては上々の結果だったはずだ。人型の魔物を倒す経験も感覚が麻痺するくらい積めたのだから良しとしよう。
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