第3章 第25話 西迷宮体験ツアー(2)
迷宮二十六階層から三十階層までは食人鬼の他に蟻の集団や小鬼の集団にも遭遇した。小鬼集団は上位の指揮官個体が低位の指揮官個体を率いて集団戦闘の用兵をしてきた。
三十階層ボス戦。
大食鬼の集団が待っていた。多分奥に指揮官個体がいるのだろう。
「これはちょっと多いかな?お嬢様方は少し後ろで待っていて下さい。行こうマツリ」
二人は左右に展開しつつ大食鬼の集団に襲い掛かった。
大身槍の長槍二本を携え突貫し、一本一殺とばかりに心臓を潰して即死させていく。すると死骸になった大食鬼を楯代わりに使いだす。死骸の楯を持った個体が前に出てきて圧をかけ、その後ろから別の大食鬼が攻撃をしては楯持ちの裏に隠れるという連携だった。
「やりにくいね!」
マツリが文句をいう。ちょっと知恵を付けたくらいで負けてやるつもりはないが、決定打が打ちにくくなったのは事実だった。
「マツリ、【閃光】を頼む」
エイルの短い指示で意図を把握すると、マツリがタイミングを見計らって【閃光】を使う。
閃光により視界を焼かれた大食鬼の動きが乱れる。その隙に駆け寄り楯持ち達の心臓を貫き、首を斬り落していく。
【閃光】の目眩ましから回復してきた頃には、大食鬼は指揮官個体と後ろにいた二体だけになっていた。
「お嬢様方は左側の普通の奴をやってみますか?右の普通のはマツリで、死骸の片付けも頼む。奥の指揮官個体は俺が」
マツリが頷き、アーシェスとラクスレーヴェが元気に応えた。
「はい!」
「是非!」
大食鬼は基本的に動きがトロい。二人掛かりなら問題なく倒せるはずだ。後ろの二人が動き出したのを感じて、エイルも奥の指揮官個体に向かって駆ける。
指揮官個体に大身槍を突き出すと左手の掌を翳して穂先に貫かれながらも止め、握って手放さない。左手を槍ごと振り回され、エイルは大身槍を手放し間合いを詰める。指揮官個体が右腕を振り上げ、拳を振り下ろす。自身の拳すら砕ける勢いだ。エイルは右拳を半身捻って躱し、拳と共に下がって来た首筋を狙って打刀の抜き打ちを放つ。打刀の刃先に糸の様に纏わせた錬気の一撃が、抵抗感なく首を刎ね落とした。
後ろを振り返ると、マツリも担当の大食鬼を倒し終えている。アーシェスとラクスレーヴェは戦闘中だ。
大食鬼は再生力が高く、与えた傷はどんどん回復してしまう。生命活動を停止する程の傷を与える事が必要だ。エイルとマツリが二人の戦いをじっと見守る。
ラクスレーヴェが【岩槍】をアレンジした【岩柱】を建て、アーシェスが岩柱を踏み台として使って高く飛び上がると、がら空きだった首筋に錬気の籠った長剣が走った。長剣は頸動脈と気管を大きく断っており、傷口が再生される前にその生命活動を停止させる事に成功した。
地面に着地してすぐに大食鬼に振り向いたアーシェスが残心しつつ様子を伺い、大食鬼が身体から力を失って倒れ込むのを確認し、構えを解く。アーシェスがラクスレーヴェに駆け寄り抱き付き、お互いの健闘を讃え合っている。その喜び様が、カナリエとレーヴィアが大食鬼に勝利した時とよく似ていると感じた。銀級探索者の壁として有名でもあるため、喜びは一入だろう。
二人に拍手を送り、祝福する。
「おめでとう、二人とも!」
二人はマツリとエイルに振り返ると、満面の笑顔の華を咲かせてみせた。
「「ありがとうございます!」」
迷宮三十階層の下り階段の部屋。
マツリに頼んで、【コンテナ・ハウス】を出してもらう。お嬢様方は現れた構造物に目を瞠る。エイルは悪戯が成功したかのような笑顔をみせつつ、二人を中へと案内した。
【コンテナ・ハウス】の中は快適居住空間である。ダンジョン内にあるまじき光景に呆然とし、マツリに振り返る。
「《黒絹》のヒミツだよ?」
マツリが茶目っ気を出して笑う。その後はトイレや風呂、寝室などを案内してリビングに戻って来た。
「今日はここに泊まるからね。ゆっくり休みなさい」
エイルが二人に宣言した。
安全で快適な空間で食事をし、お風呂を使い、気分をすっきりさせて柔らかいベッドに潜り込む。不便な迷宮空間を予想し覚悟してやってきたというのに、こうも予想もしない甘やかし方をされてしまえば、張っていた精神も緩んであっという間に眠りに落ちていく二人であった。
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