第3章 第21話 ラクスレーヴェからのお誘い
士官学校に入学して七ヵ月が経った頃。
未だに同クラスの馬鹿二名が絡んで来るが、実害はない。学内にはもはや実力行使を行おうという気概のある者はいなくなっている。強硬派であればあるほど物理的に。
平和になった学内ではアーシェスとラクスレーヴェの趣味により、エイルは執事プレイを要求されていた。マツリはそれに合わせてメイドプレイに興じている。これが優雅な貴族の遊びか。
エイルとマツリは剣術と魔法の実技が免除になっているが、アーシェスは剣術の実技だけ免除で、ラクスレーヴェは魔法の実技だけ免除となっている。結果、結局全員が剣術と魔法の実技に出席している。
「アーシェさん、魔法の実技の免除はいつなのかしら?」
「ラクス様。剣術の免除を目指されては?」
お互いの得意分野が逆なので、授業免除という自由を掴み取るための戦いはいつも同じ展開になっている。そうするとエイルとマツリに飛び火し、ラクスレーヴェに剣術を、アーシェスに魔法を教えるべきとなる。そしてエイルとマツリはフェリオール家に雇われの身なので、ラクスレーヴェに剣術を教える義理がない。
「ラクスレーヴェお嬢様。私達はフェリオール家に雇われている身です。ラクスレーヴェお嬢様に指導など、許可されておりません」
丁寧に義理がない事を伝えると、
「ならば次の休日に我が家にいらっしゃい。お父様に話をして許可を頂くわ」
と爆弾をぶっこんできた。
「だ、駄目です!ラムザ先生は私の執事ですからあげません!」
アーシェスが必死に阻止しようとするが、そもそも執事ではない。
「あら、取り上げるのではなくて共有よ?問題ないわ。アーシェスも一緒に遊びにいらっしゃい」
と、断り難い提案の仕方をしてくる。主人がお呼ばれするなら着いて行かざるを得ない。
学園内は平和になった一方、学園外での襲撃率は上がっている。朝は馬車での登校だが、帰りは徒歩で帰っているため下校時を狙ってやってくる事が多い。小さな事からコツコツと嫌がらせを続ける根気は見事だが、嬉しくはない。さっさと尻尾を出せば良いのにと思う。
「そういえば。私もうそろそろ十六歳になりますの」
ラクスレーヴェが誕生日のアピールをする。それならば何か用意してやらねばなるまい。誕生日と言えば二ヵ月後にアーシェスの誕生日もある。そちらも何か考えておいた方が良さそうだ。
「でしたら、お伺いする時に何か手土産を持参させて頂きますね」
「(そういえば、マツリの誕生日とかも聞いてなかったな……後で確認しとこう)」
◆◆◆◆
アーシェスを家に送り届けると、マツリを護衛に残してエイルは探索者ギルドに出掛けた。正面入り口から入るとユーフェミアの列に並ぶ。
周囲からヒソヒソ声で《黒絹》という単語が聞こえて来る。列に並んでしばらく後、順番が回って来ると要件を切り出す前に応接間に通された。
ユーフェミアと応接室で向かい合う。
「で、今度は何をやらかしたんでしょうか?」
初手やらかし冤罪である。
「待て、誤解だ。今日は情報収集に来ただけだよ。あとユーフェミアの顔を見に来た」
最近、あまり探索者ギルドに顔を出せていない。≪緋の戦乙女≫の皆は元気か、カナリエとレーヴィアは巧くやれているかなど、関係のある者達の様子を聞かせてもらう。
「カナリエ様とレーヴィア様は正式に≪緋の戦乙女≫に入られましたよ。
クラン名簿の更新にオフィーリアさんと一緒に来ましたから」
なるほど。巧くやれてそうで一安心といったところか。
次に、最近の依頼の傾向や不審な事件が起こっていないか、怪しい探索者や傭兵が流れてきてないかなど、受付嬢だからこそ気付ける変化という物がないか訊いておく。
「確かに流れ者の数は増えてきてますね。その割にパーティに潜り込むとかはあまりしていなくて、依頼も積極的にガツガツこなす訳でもなく、ですね。ギルドでも何かありそうだと目を付けている感じです」
エイルは天井を見上げて溜息を吐く。
「はぁ……。きな臭いなぁ面倒ごとの予感がするなぁ。何か掴めたらまた教えてくれ」
エイルは立ち上がり応接室を後にしようとしてふっと振り返り、
「今日のまとめ髪も似合ってるよ。項って色っぽいよね」
と一言残して出て行った。
ユーフェミアはエイルが出て行った扉を見つつ、呟く。
「そういうところだぞー?まったくもう」
◆◆◆◆
エイルはギルドを出て魔道具屋に向かう。ラクスレーヴェとアーシェスへのプレゼントを検討する。
アクセサリー型のコーナーを見て回っていると、細工は質素だが天銀素材が高級感を醸し出す良い指輪を見付けた。【サイズ自動調整】付きで、指のサイズを知らなくても購入し易い。そして効果は【精神魔法耐性】が付与されている。洗脳や記憶改竄といった精神操作の魔法から身を護る効果があるとの事。
これはエイル自身も欲しいし、マツリにも買ってあげたい。四個まとめ買いで少し値引きしてもらった。
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