第3章 第13話 東迷宮の合同遠征(3)
三十一階層目から三十五階層目。
カイエが地図を片手に持ちつつ進む。何度も潜って作り込んで行ったのだろう、努力の結晶だ。
エイルとマツリは興味深くカイエの動きを眺めていた。エイルでは見落としかねない罠の起動装置なども、目敏く見付けては解除していく。
「カイエさんマジ有能」
「それな」
マツリも同感のようだった。専門職がいるとやはり違う。
罠や地図に強い反面、気配探知はエイル達の方に分があった。そのため、危なそうなところでは何度かフォローを入れている。
三十一階層から三十五階層にかけては獣型の敵が多く出現していた。エイルは武装の錬気にアレンジを加えようと四苦八苦している。
「ラムザは先に錬気の濃度あげたらー?」
基礎を飛ばして応用に走るようなやり方に、マツリから苦言が飛んできた。日頃から基礎が大事とアーシェスなどにも説いているというのに、何をやってるんだかと呆れられてしまう。
「う……。面目ない。ちょっと試してみたくなったんだ」
その後はちゃんと真面目に首を刈っていった。
三十五階層ボス戦。
グレイ・ゴアベルグだった。普通のやつらしく、目が黄色いし大きさも前みた個体より随分小柄だ。
「懐かしいね。近いうちにランスとアクスも狩りに連れて行ってあげよう」
と、そんな世間話をしながらグレイ・ゴアベルグの攻撃を捌く。マツリの一閃が左前足を斬り落し、エイルの追撃が喉に深く突き刺さってグレイ・ゴアベルグが血を吐き出した。刃を捩じって傷を広げつつ打刀を抜き取ると、とめどなく血が流れ出していき、痙攣の後に絶命した。
今回の迷宮探索は《緋の戦乙女》が主催で取り分も全て譲っているため、死体の処理も向こうにお任せしている。友好的なクランなので問題はないが、必要性がなければ無限のごとき異空間収納をみせる気はなかった。
三十六階層から四十階層。
単眼鬼や大食鬼など、大型の人型モンスターが徘徊していた。
大食鬼などは動きも特に鈍いため、殴りつけてきた腕を足場にして飛んで首を刎ねるような真似もできたが、単眼鬼は大食鬼より動きも速く、若干の知性を感じさせる佇まいであった。視力がよく視界に頼った認知機能のくせに目玉が一つしかないのは合理性に欠けると思う。などと喋りつつ、投擲した棒手裏剣が目玉に刺さり、視界を奪う事に成功した。あとは踵の腱を断ったりしていると屈みこんで防御姿勢をみせるので、腕から肩にと渡って行き、首を刎ねようとする。一撃で半ばまでは行ったが切断は出来ず悔しい思いをする。
ちなみにその次の単眼鬼は、マツリが首を一刀で刎ね飛ばしてエイルに鼻で笑って自慢してきた。
「(殴りたい、その笑顔)」
四十階層ボス戦。
東方諸島群にみられる赤絲威鎧に似た具足で身を固めた、身長三メルに届く程の大武者だった。刃渡り百八十セル程の長巻きを携え、その眼窩に青白い炎を灯らせている。
それを見たマツリがラムザの故郷の様式なのかな?と益体もない事を考える。大武者が長巻きを下段斜めに構えて間合いを詰めて来る。全身から「寄らば斬る」という威圧を感じる。
「おお……。すげぇ。東方諸島群っぽい大鎧に殺意しか感じないこの威圧感。最高だ。一人でやらせてくれ」
エイルがワクワク感丸出しでマツリにオネダリしてきた。マツリは肩を竦めて、後ろに下がって行った。
「さて、殺りあおうや!」
テンションの上ったエイルが獰猛に吠え、異空間収納から抜き身の刃渡り百二十セルの大太刀を取り出す。
大武者の下段の構えに対し、中段に構えたまま間合いを潰し合っていく。
エイルが摺り足で半歩身を進めた瞬間、大武者が一歩踏み込み、斜め下から左斬上げを放ってくる。
エイルは重心を後ろ足に逃がし、刃先をから沿わすようにして軌道を逸らしてみせ、左斬上げを頭上へと見送る。
大武者は軌道を逃がされた先で刃を戻し、逆袈裟斬りとなって再度襲いくる。
それに対し、エイルは後ろ足に逃がしていた重心を前へと揺り戻して加速し、瞬時に逆袈裟の間を潰してみせ、大武者の懐まで入り込んだ。
エイルは大武者の胴丸の脇の下、防具の隙間を狙って突き上げ、刃先に手応えを感じると刃を捩じりつつ引き抜く。そのまま背後に張り付くように回り込んでいく。
右脇の下に刺突を貰い、右手の踏ん張りが利きにくくなった大武者は、左腕の膂力でそれを補い自身の軸足を中心に左薙ぎを大きく半円を描くようにして振り抜く。片手、それも長柄の端側を握った左手で振るわれる刃は広範囲を薙いで斬り伏せんとするが、エイルは既にその間合いの内に居た。
体重移動からの刺突を大武者の軸足に刺し込み、そのまま大腿部裏側の肉を真下へと斬り下ろした。
大武者は無事な方の足を軸に変え、一歩下がるようにして長巻きを引き戻し、エイルの身体を擦り斬ろうとする。
だがエイルは間合いを開けようとするその動きを許さず、膝を踏み台にして駆け上り、首に一閃を届かせた。
エイルは大武者の左肩を足場にして勢いを止め、戻す左薙ぎを更に項へと見舞う。ぐらりと肩が揺れ、それを察して肩を蹴って離れ残心する。
大武者は後ろ倒しに倒れると、その首がごろりと落ち、転がった。
眼窩に灯っていた青い炎は、既にない。
エイルは呼吸を整えながら大太刀を一薙ぎして逆手に持ち、首に礼をとる。剥き身の大太刀を異空間に収納すると、皆に振り返りからりと笑った。
「すまん、一人で楽しみ過ぎたな?」
呆れ顔のマツリをみて、とりあえず謝っておく。
一人でやったのは悪いと思うし呆れられても仕方がないとは思うが、反省はしないし治らない。エイル・カンナギの生き方とは、ずっとそうで変わらない。
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