第3章 第9話 西方辺境の護国の英雄
「では早速、実力をみせて貰おう!」
西方辺境の護国の英雄【ガーラッド・フォン・フェリオール】辺境伯がその覇気を発した。
「(お~。魔力も凄いがこれは天然物の混合錬気か?)」
エイルの頬が緩む。
「良いですね。では、私から行かせてもらいますよ」
エイルが前に進み出ると、マツリはひらひらと手を振って送り出した。
「(魔力を励起し、体内に巡らせる。霊気を熾し、魔力に溶かし込んで行く。身体の隅々まで行き渡らせ、武器へと流し込み纏わせていく……)」
エイルが今自分にできる最大限の錬気を身に宿し、目を開く。
エイルの纏う空気感が変わった事にガーラッドはニヤリと獰猛に笑う。
「いつでも来い!先手は譲ってやる!」
エイルは静かに頷くと、歩くように間合いを詰めて行く。緩急を付け重心をズラして、瞬間の加速を偽装する。
踏み込んだ勢いを脚から腰、腰から背を伝わらせて肩へと至り、身体全体の捩じりが腕へと至り、その加速が乗った横薙ぎの一撃となる。
ガーラッドはその横薙ぎに木剣を合わせ、研鑽された確かな技術で受け流し軌道をずらしてみせた。
「(天然物の錬気任せじゃないッ)」
ガーラッドは受け流す木刀の下にその身体を潜り込ませ、流れる動作のまま柄頭での当身を放つ。エイルは半歩更に踏み込んで当身の軌道から身を逃す。間合いの潰し合いはお互いが交差するように位置を入れ替えて、剣先を向けあう。
ガーラッドがその顔を喜悦に歪め、突きから手首のスナップによって剣先だけを細かに振り、エイルの手首を落とそうとする。長剣や細剣を使った貴族らしい流麗な決闘剣術だ。
エイルは狙われた右手を咄嗟に木刀から離して躱してみせ、同時に柄頭を握った左手一本でガーラッドの前に出た左大腿部に突きを見舞う。ガーラッドは刃先のコントロールでエイルの刃の軌道を逸らし、首を刈ろうと刃先を滑らせてくる。
エイルは重心を後ろ脚に移して半歩身を引く事で、その刃先の妙技を躱す。木刀を滑らせ絡め取るように巻き上げると刃部分が一瞬噛み合い、拮抗する。その機を逃さずエイルは前蹴りで距離をとり、上段に構えた。
対してガーラッドが中段に刃を構えると、手首を用いて中段から下段をゆらゆらと揺らす事で、狙いを悟らせない。
一瞬の静寂の後、ガーラッドが下段から上段を掬い上げるように刃先を流し、エイルが斬り降ろしでその木剣を打ち払う。
今度はガーラッドがエイルの木刀を巻き上げてバインドからの鍔競り合いに持ち込む。
「技良し、度胸良し、膂力良し」
ガーラッドがそう評すると、纏う気配がガラリと切り替わる。
「では、これはどうだね?」
鍔迫り合いからの前蹴りでエイルを蹴り飛ばすと、電光石火で追い付き、上段から烈火の如く苛烈な剣を斬り下ろす。
「(一撃が重いッ!)」
マツリ程じゃないが、かなり強力な錬気を纏っている。戦場で使うための一撃で屠るための剣だ。
ガードの上から体力を削り、バランスを崩し、殺しのため攻め手を詰めていく。後手に回っては押し切られる。縦の斬り下ろしに木刀を沿わせて打点をズラし、体捌きで躱した。
振り切られた剣の上を押さえるようにして木刀を滑らせ、剣を握る持ち手を襲う。ガーラッドはそれを後退して間合いを外し、軸足を狙って突きを見舞う。エイルは重心を逸らして木剣の腹に木刀を叩き込み、軌道を逸らして側面へと身体を運びつつ胴へと薙ぎ払いを打ち込む。
「くっ!一本だな、負けだ」
ガーラッドは打たれた横腹を摩りつつ、滾った覇気を霧散させるてエイルに握手を求めた。エイルは立ち合いが終わったことを理解し、その握手に応じる。
「ご満足頂けたようで。合格だと思っても?」
「あぁ、合格だ。こんだけやれるなら娘の相手も十分出来るだろう。任せたぞ」
妙に機嫌の良い辺境伯の様子にどう反応していいか思わず苦笑いが出る。辺境伯はあくまで将の筈なのだが、ただの武芸者のような振る舞いにエイルは同類の匂いを感じていた。
「そっちの嬢ちゃんは?ラムザより強そうだが?」
「ふっ……。溢れるオーラで判っちゃいますか。ラムザより強いですよ?」
胸を張って木刀を握った腕をグルグル回す。
「じゃ、合格でいいや」
「ちょっとぉ?!やらないのぉ?!」
やる気満々だったのに興を削がれ、マツリが悲鳴を上げる。
「余韻が大事なんだよ余韻が」
ガーラッドはまくっていた袖を元に戻すと上着を気直した。
「ローラン、俺は執務に戻る。そこの二名は合格だ。手続きを進めておいてくれ」
ローランは短く「ハッ」と答えて主人を見送ると、エイルとマツリに振り返る。
「それでは、応接室に参りましょう」
◆◆◆◆
応接に通されると、すかさず侍女がお茶を淹れてくれた。ローランは噂のお嬢様を呼びに行っている。ほっとする味と温かさだ。
「ガーラッド様強かったねぇ。対人戦だと今までで一番じゃない?」
マツリがエイルに訊く。
「そうだな。マツリ以外だと一番強かったかも。あの練度の錬気が天然物で出て来るとはなぁ」
エイルが遠い目をする。
「でもラムザもちょっとずつ器が回復して来てるし、混合率も上ってるでしょ?」
エイルが頷く。伸びてはいるけど、状況に甘んじる訳にもいかない。
「そうなんだけどね。娘さんの錬気が俺以上だったら教えることなくない?」
まずは会ってから考えるって事だな。
「その時は兄弟子の立場で頑張り給え」
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