第3章 第8話 家庭教師面談
ダンジョン帰りの報告をしにギルドに行き、ユーフェミアの列に並ぶ。人の少ない列にならんでいるとジト目を送られてしまうのだ。
「こんにちは、ラムザさん。本日もダンジョン帰りの買取でしょうか?」
ユーフェミアに訊かれて頷く。
「えぇ、今日は三十五階層まで攻略してきました。解体所に持って行くので査定をお願いします」
「畏まりました。査定用紙をお渡ししますね」
ここのギルドは職員の数も多いが客も多い。解体所に行って査定してもらうのに、いちいち受付嬢が席を外したりできないのだ。そこでユーフェミアの署名の入った査定用紙を渡され、それを持って解体所のスタッフにお願いして査定用紙に結果を記入してもらう。それを持ってカウンターの受付嬢に渡せば、晴れて報酬が貰えるようになる。
「それと、例のお客様が本日ご到着されたそうなので、今日か明日にでも呼び出しがあるかもしれません。ラムザ様の宿と部屋番号を、お伝えしても?」
「はい、答えてもらって大丈夫です。なるべく宿に居るようにしますので」
エイルは解体所に行き、そこで本日の戦果を査定してもらう。解体所のスタッフ達にはすっかり顔と名前を覚えられた。場所の指定をしてもらうと、そこにマツリが獲物を取り出していく。
「はぁ~、なんど見てもすげーもんだな。ダンジョンに行って丸ごと持って帰って来るなんて、お前たちくらいのもんだぞ」
子供が手品を喜んで見る時の目で中年オヤジ達の顔が緩んでいる。
「凄いですよね。俺も少しは出来るんですけど、彼女程大量には入らないんですよ。魔力を鍛えてもっと入るようにしたいと、常々努力の日々です」
エイルが苦笑しながら世間話をしていると、マツリの方の作業も終わったらしい。
「もう三十五階層に辿り着いたのか。これはこの街のトップランナーが変わるのも、時間の問題かもしれんね」
◆◆◆◆
探索者ギルドでの換金と分配が終わると、宿に戻った。今回は迷宮内に宿泊もしてきたので、マツリと交代でシャワーを浴びて気分をスッキリさせ、柔らかいベッドに倒れ込む。
「来客があるかも知れないから、交代で仮眠とろう」
「ほい。エイルから先どうぞ?」
マツリに先手を譲られたので、ありがたく瞑想睡眠に入っていった。
瞑想睡眠に入って二時間程で目が覚めた。実時間としては仮眠だが、その効果はガチ寝である。もうこの技術を覚えていなかった頃には戻れない。
「おはよう、マツリ」
ソファで瞑想をしていたマツリに声を掛けると、目をパチッと開けて挨拶を返す。
「おはよ、ラムザ。それじゃ次は私が寝るよ」
と言い、ラムザの使っていたベッドに潜り込んでいく。
「何故そっちを使う」
「あたたかいから」
「猫か」
自分が使っていたベッドに入られるのはもにょっとする。生後半年にも満たない歳とは判っているが、身体は立派に成人したて程の女子なのだ。
ラムザは頭を振って思考を切り替え、ソファで瞑想をする。朝方にやっているルーティーンと同じやつだ。最近では、即座に錬気する訓練もルーティーンに追加している。身体に錬気を流す瞬発力は上って来たが、手に持った武器にまで一瞬で錬気を纏わせるのが、なかなか難しい。ゆっくりで良いなら確実に纏わせられるようにはなったのだが。
一通りやり終わってもまだ時間が余っていたので、再度魔力に霊力を溶かし込む混合錬気を行う。魔力に霊気を馴染ませ、魂魄の破損を修復する。身体の隅々にまで行き渡らせると、ゆっくりと霊気の濃度を上げていく。適性の問題なのかセンスの問題なのか、マツリは一瞬で綺麗に纏いきってしまう。
ますます差が付けられた気がするのだが、だからと言って焦ってもどうにもならない。日々の積み重ねが己を磨くのだ。
瞑想を続けていると、いつの間にかマツリが起きてきていた。もう二時間経ったのだろうか。
「おはようマツリ。十分寝れたか?」
「ぐっすりとね。まだ呼びに来ないんだ?明日になりそう?」
もう夕食の頃合いになっている。
「そうだな。初対面の面談だし、流石に夜更けに急な呼び出しはないだろう」
「そろそろご飯食べに行く?」
「そうだな。カナリエ達に声掛けといて。俺はテーブル席を押さえに行くわ」
◆◆◆◆
翌朝、朝食後のタイミングで宿屋の従業員が部屋にやってきて、来客を告げた。
「来たかな?マツリも顔出しとくか」
「私も?まぁいいよ。一人で留守番してても楽しくはないしね」
一階に下りてエントランスのスタッフに声を掛けると、お客様を教えてくれた。執事らしい服装をした年嵩の男性だった。
「はじめまして。ラムザ・クロガネです」
「マツリ・サクラダです」
初手で挨拶と名乗りをキメると、男性は温厚そうに微笑んで同じく名乗りをしてくれた。
「はじめまして。フェリオール辺境伯の遣いでお迎えにまいりました、ローランと申します」
お迎えということは、屋敷に連れて行かれてそこで面談、という事だろう。
「ご丁寧にありがとうございます。探索者ゆえ無作法もあるかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします」
エイルが畏まって頭を下げると、マツリもそれに習うように頭を下げた。
それから表に停まっていた箱馬車に乗ると、空間安定化が付与された快適な乗り心地だった。市街区から商業区、商業区から貴族区へと次々に壁を越え進んでいく。
貴族区の環状通りを進んでいき、大きな屋敷の正門から中へと進んでいく。
玄関前に着くとローランが箱馬車の扉を開けて到着した旨を伝え、下車を示唆した。
エイルとマツリが下車すると、玄関の中に案内される。ローランから馬車を引き継いだ使用人が馬車を厩舎に移動させていくようだ。
玄関から屋敷に入ると、吹き抜けのエントランスホールが広がっていた。黙ってローランに連れて行かれていると、応接間に通された。
「こちらでしばらくお待ちください」
そういってローランが礼をし、退室していく。入れ替わりで侍女が来てお茶を入れてくれた。
「ありがとう、いただきます」
礼を述べて一口頂く。口の中に湿り気を得た事で緊張感が少し薄れた気がする。もしかしたらリラックス効果のある薬草茶なのかもしれない。
暫く待つと扉がノックされた。エイルとマツリは立ち上がり、入室者を見届ける。
入って来たのはローランともう一人、鍛えられた体躯を持った男性だった。おそらくこの人がフェリオール辺境伯なのだろう。
「はじめまして、私がフェリオール辺境伯だ。今日はよろしく頼む」
フェリオール辺境伯が前に進み出て来て、挨拶を交わした。
「はじめまして。私がラムザ・クロガネです」
「はじめまして。マツリ・サクラダです」
フェリオール辺境伯が大きく頷いてみせる。
「ユーフェミア殿から話は伺っている。若いが腕の良い探索者だとな。座ってくれ」
フェリオール辺境伯が先に座り、エイル達へも座ることを促されたので、エイルとマツリも腰を下ろした。
「ラムザ・クロガネ殿はユーフェミア殿から男性だと聞いていたのだが」
「男性であっています」
フェリオール辺境伯が娘の家庭教師に男を追い出しまくっている噂があるので、後からバレるよりは最初にはっきりと男だと告げておく。
「そうなのか?うちの娘といい勝負の美少女二人に見えたよ」
フェリオール辺境伯が驚いた顔をしつつも、さらっと娘自慢を入れて来る。
「(噂通り娘溺愛馬鹿オヤジか……?)」
若干失礼な事を考えつつ。「恐縮です」とだけ述べて頭を下げた。
「さて、早速で悪いが、庭に出て私と模擬戦をやってもらいたい。我が家は辺境伯、つまり護国貴族なのだ。まずはユーフェミア殿が推薦する実力を確認させて欲しい」
そういうと自分の前に置かれた茶を飲み干し、辺境伯が立ち上がる。ローランに困った顔を向けるが「当然です」という顔を返されただけだった。
仕方がないので、二人して立ち上がり、その後に着いていく。
剝き出しの地面がある一画に着くと、辺境伯は上着をベンチに置き、腕まくりをはじめた。完全にやる気らしい。使用人達が、木製の訓練用武器が何本もささった箱ごと持ってきた。
伯爵は直剣型の武器を手にする。エイルとマツリはどれを使うか悩みつつも、無難に伯爵と同じ直剣型を選んだ。
「では早速、実力をみせて貰おう!」
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